サンジたちと別れを済ませて一ヶ月と少し。
当然と言えば当然だけれど、海の上を巡っているのは海賊だけじゃあない。
今まで遭遇しなかったのが奇跡のようなもので、この日初めて海軍に出会した。
幸運と言うか、出会したのが街の中だったので特に何かことが起こったと言うわけじゃあない。
海軍は新兵の訓練を兼ねた巡回パトロール中だったようで、アタシたちを一目で海賊だと見抜く眼力は持っていなかった。
この島に海軍支部はないし、偶々立ち寄っただけだろうね。
彼らがやって来た方向はアタシたちの船を停めた場所から離れている。
なのでこの島に海賊が潜伏しているとは思っていないみたいだ。
ちなみにだけれど、アタシはまだ賞金首にはなっていない。
堅気の連中にはまだ手を出していないので、一般人から見た"危険度"は殆どないんじゃあないのだろうか。
時折襲撃に来る小物海賊たちから"貢ぎ物"をいただいてはいるが、アタシ自身戦うことにも敵を潰すことにも、そこまで拘りを持っていないので、貰うものだけ貰ったら基本的に放置している。
するとその海賊たちは失った財宝を補填しようとして活発に動き出すので、結果としてそれが隠れ蓑となりアタシたちは目立たなくなる。
そもそも海軍には認識されていないんじゃあないか?
たった二人の海賊団だしね。
うーん……と言うかあれだね。
無自覚なマッチポンプになってた!!
アタシに貢ぐ→補填に動く→略奪する→アタシに貢ぐ。
この無限ループ!
確かにアタシは堅気には手を出していないけれど、
いつかバレたらとんでもないことになりそうだ。
ごめんよ堅気の皆さん……
まあ、止めないけれどね。
今の状態はアタシにとって非常に動きやすいし、海軍の目がないだけでスベスベの実の捜索はし易くなっている。
これだけで捜索難度はかなり下がるはずだ。
見つかる気配は全然ないけれど。
まあ
でもそれは今じゃあないって話だね。
と言うわけで、火元にはあまり近付きたくないので、そそくさとこの島から退散することにした。
次の島は恐らく無人島になるだろう。
道中でゼフ直伝のピラフをボガードくんが作ってくれたのだが、これがまた美味い美味い。
「ボガード。料理の腕を上げたみたいだねえ」
「ヘイ、ですがゼフの旦那には『これじゃ、まだまだ
こ、これで半人前なのか……(驚愕)
まあなんにせよ、何かを磨くっていうのは良いことだ。
是非とも頑張ってもらいたいところだねえ。
さて。数日の航海を終え、次の島の島影が見えた。
今度こそ見つかると良いなあ、なんて考えていると、その島には既に大きめの船が停船していた。
帆には黒地にドクローー
「先客みたいだねえ。ボガード、あの旗に見覚えは?」
「すいやせん。あっしの記憶が正しければ、
「そうかい、なら無名の海賊かねえ……。それにしちゃあそこそこ立派な船に乗ってるようだけれどね」
「ヘイ、なにかちぐはぐに思えやす。どうしやすか、姐さん?」
「ふん。そんなもん決まってるだろう? 行くよボガード!」
「ヘイ、姐さん!」
まだこの島は未捜索。
あの海賊共がスベスベの実を先に手に入れる可能性だってあるのだ。
そう考えたら行かないわけにはいかないじゃあないか。
早速
かなり近付いたのだが砲撃や銃撃が飛んでこない。
見聞色の覇気で確認してみたところ、今船には五人しか乗っていないようだった。
恐らく船番に残されただけだろうねえ。
本陣は島の中に入って行ったというところだろう。
都合が良いのでそのまま船の甲板へと降りることにした。
「うおっ!? 空からいきなり美女ォ!?」
「そう、世界を揺るがす美女がやって来たよ! アンタたち! アタシは美しいかい?」
「おっ、おう!! そりゃもちろん!」
「その通りだ! 見たことねぇぜ、あんたほどの美人は!」
「当然じゃあないか! まあ、それは置いといて……アンタたち、縛られるのはお好きかい?」
「「「「「………………え?」」」」」
船員全員を
そうしている間にボガードくんが上陸。
二人で手分けして船内を物色したが、目ぼしいものは見つからなかった。
財宝ですら殆ど積んでないような状態だったしね。
物色を終えたところで甲板に出る。
すると、この海賊団の本陣が丁度帰還していて、アタシたちの船と甲板にいるアタシたちを見て目を丸くしていた。
あちらさんの人数はざっと五十人弱と言ったところかな?
頭数だけならば今までアタシが出会った海賊たちの中で一番多い。
あ、シャンクスたちがいたか。まあ、あれは例外だね。
さて、アタシが貢がせた今までの海賊の中には賞金首もいた。
精々が懸賞金二~三百万ベリーの
そんな、一応は賞金首になった彼らでも多くて三十人ほどの海賊団だったのだ。
頭数だけ揃えても……と思うけれど、逆に言えばそれだけの数を揃えることが出来ると言う証左にもなる。
約五十人。
なのに
どうにもちぐはぐだねえ。
まあ理由の内の一つとして考えられるのが
「アンタたち。
これだ。
まあ他の海の可能性もあったけれど、これが一番高い可能性だと思う。
何故ならアタシの知らない気配と言うか、異質な存在がその中に紛れていたから。
見聞色に初めて引っ掛かる異質な存在のパターン。
シャンクスの場合は存在感がデカすぎただけなのだが、今回は違う。
生命力はそれほどでもないのに、他と全く異なる違和感。
まあこれはほぼ間違いないだろうが、それは悪魔の実の能力者である証明だ。
頭数を集める期間があったのにも関わらず、ここでは無名。
しかも海の秘宝、悪魔の実の能力者。
そしてやっぱりと言うべきか、アタシの考えは正しかった。
「よくわかったわね。ま、わかったところで全く無意味なんだよねぇー」
集団の中から一人の女が出てきた。
茶髪をショートボブにして、服装は短いスカートとキャミソールという海賊と言うには不釣り合いな格好の女。
背はアタシよりも少し低いくらいで童顔。
舌を出しながらさっきの台詞を吐いている、所謂"ぶりっ子"ってやつだね。
んで、こいつがその違和感の正体。悪魔の実の能力者だ。
「無意味? わからないねえ、何が無意味なのか」
「あれぇー? 私たちが
「どうせ悪魔の実だろう? それがどうかしたのかい?」
「あっはー! それも知ってたんだ! じゃあもうわかるでしょ? 私たちは力を蓄えるためにわざわざ最弱の海までやって来たの! で、おブスさんはその最弱の海のザコ! 私は
おブスって…………
まあ、この女はそこそこ男受けしそうな顔はしてるけれど、所詮その程度。
アタシは男は当然のことながら、同性の女すら虜にする究極の美貌の持ち主!
アタシがブス? 結構結構。妬み僻み大いに結構だよ。
誰だってーー特に女であれば、アタシの美貌には憧憬と同時に嫉妬を抱いてしまうのは仕方がない。
生物学でもその研究結果は出てる(はず)!
そのくらい大目に見てやろうじゃあないか。
まあ、それに付け加えて言うと。
「アタシは他人を貶す必要すらないからねえ」
「は? なに言ってんの、おブスさん」
「アタシは美しい。世界でもダントツでだ。だから他人の評価を下げる必要すらなく、アタシの美しさに勝てる人間は存在しないのさ! アタシと美貌で競いあおうってんなら、審査員でも何でも買収しな! 忖度も贔屓も票操作ですらも、総てを動員したところでアタシには及ばないからさあ!! そうだろう、ボガード!?」
「ヘイ、姐さん!!」
これが真実! 絶対不変の真理なのさ!!
「バッカみたい。それにあんたブスの癖にムカつくなぁー。ブッ殺そう。ちょっとそこのお前、あれを見せてやるわ。やりなさい」
「はい船長」
あの女、船長だったんだ。
手近にいた
すると
が、刃はその身に食い込まず。
まるで……そう、まるで皮膚の上を
その光景を見た瞬間、アタシは目を見開いた。
まるでずっと会えなかった想い人が急に目の前に現れたかのような、そんな眼差し。
「キャハハハハ! 驚いてる驚いてる! わかる? 私には今見てもらった通り斬撃は勿論、打撃も銃弾も効かないの。全ては私の肌を滑ってしまう。悪魔の実シリーズでも防御に関しては最強の能力! 私の"スベスベの実"の力の前では誰も私を傷付けることは出来ないっ!!」
……ああ、ごめんよぶりっ子だなんだの言って。
この娘、とても良い娘だ。
だってアタシの前に大きすぎる手懸かりを持ってきてくれたんだからねえ。
同じ悪魔の実と、その能力者は同時期に一人しか存在しない。
能力者が死ねば、その能力の悪魔の実は世界のどこかで成る。
……うん、良いぞ。すごく良い流れがアタシに来ている。
この娘が死んでくれれば、どこかでスベスベの実が発生する。
そして発生場所は原作を鑑みるに、この
まあ何れにせよ、スベスベの
「ボガード、周りのザコは任せるよ」
「ヘ、ヘイ姐さん…………姐さん、目が据わってやすよ?」
即座に空を駆け、まだ自慢話をしていた女船長の目の前に着地する。
彼女は驚愕を見せたが、能力を過信してすぐさま余裕の表情を作った。
「すごく速くて驚いたけどぉー、私に攻撃は効かないし? なぶり殺しにしちゃうよ?」
「まあ、あれだよ。……ありがとう」
「はあ? おブスさん話通じてるの? 何が『ありがとう』なのかーーーー………………がっはっ!?」
会話の途中で鳩尾に膝を突き入れ、肺の空気を全て出させる。
そして間髪入れずに左手で首を握りしめた。
苦しさと、恐らく初めての出来事で混乱しているのだろう。
彼女はスベスベの能力を手に入れてから、傷が付いたことがないんじゃあないのだろうか?
本来だったら、蹴られても肌を滑ってダメージにならず、今こうして首を絞めることもあり得ない。
スベスベの能力で自身に掛かる摩擦がなくなるのだから、彼女にとってはそれが当然だった。
ただまあ、武装色の覇気を纏っただけさ。
それで全てはこともなし。
原作でもルフィはゴムゴムの能力である"打撃無効"を貫通されてダメージを受けていた。
ゴムだから打撃が効かない、摩擦が無いから大体の物理は効かない。
同じ悪魔の実なのだから、耐性を貫通して当たり前だろう。
まあ、覇気で負けていたらどうなったのかはわからないけれどね。
「くっ……は、はな…………して…………っ!」
気道を絞められ、掠れる声をあげる彼女。
苦し紛れに拳や脚を振り回すが、そんなやけくそじゃあ武装色を纏ったアタシの体は傷一つ付かない。
ただまあ、苦しそうなので離してあげようかい。
彼女を左手にぶら下げたまま、
アタシが何をしようとしているのか理解して顔をブンブン振りながら、色を真っ青にした彼女。
「お互い
「おね……が…………い。し、しにたく……ないです」
「ダメだね。アタシは欲しいものがあって、それはアンタを殺さないと手に入らないのさ。ただそれだけの話さ、これは」
最後に唇だけ"さよなら"と動かして、海へと放り投げた。
悪魔の実の能力者は海に呪われる。
海水に浸かるだけでも力が入らなくなるほどだ。
ここは沖合い。能力者が溺れたら致命的な位置。
確実に、彼女が助かることはないだろうね。
あるとすれば手下たちが助けに来るってところだが……
ボガードくんが千切っては投げ千切っては投げの大活躍。
発動中は動けないと言う欠点はあるものの、補って余りある硬度。
銃弾は弾くし、そこまで質の良くないカトラスは刃がポッキリと逝っていた。
なし崩し的に肉弾戦になっていたが、
うんうん。強くなったねえ。
頼りになる。
さて、なんと言うか初めての海賊らしい野蛮な戦闘は終わった。
十分過ぎる戦果だろうね。
何よりスベスベの能力者がこの世から消えたと言う事実が、とても嬉しく思う。
必ずどこかに実の状態であることが確定したのだ。
彼女に対してはまあ……そんなものだろう。
海賊やってりゃあ、求めるものの前に壁があった時どうするかって、そりゃあ障害になるようなら排除するに決まってるさ。
逆にアタシが誰かの障害になることだってあるけれどね。
その時は甘んじて受け入れよう。
ただ最後の最後まで足掻き続けるがね。
その後、ボガードくんにやられた下っ端たちは彼らの船に縛って乗せて、そのまま漂流させておいた。
その内海軍が見つけてくれるだろう。
スベスベの実の捜索はまた一からだ。
だけれどもアタシの心は晴れやか。
やっぱり在るのがわかってるのとわかってないのじゃあ、モチベーションには影響が出るねえ。
今度はこの島を捜索の第一歩としよう。
さて、それじゃあいつも通りいこうかね。
「行くよボガード!」
「ヘイ、姐さん!」
アルビダ「よこせやおらぁ!!」
スベスベの娘「きゃあーっ!」
あと私事なのですが、毎日投稿がきつくなってきました。
なのでこれからはクオリティ維持のために、隔日、もしくは二日おきの投稿にしようかと思っています。
待っていてくださる皆様にはほんと申し訳ないです。