これで戦争前は終わり、
では、どうぞ。
Side 零
─────幻想郷の要塞を嘗めるなよ、月の能無し共─────
小さく念じ、宣戦布告をした翌日、妖怪の超パワーであっという間に要塞は外装は完成し、後は内装や攻撃面を考えるのだが、大規模なものは要らない。敵の侵攻を遅らせ、一点に集中する形の物さえあればいい。
何せ今回の戦いの基本戦略は『火力集中』なのだから。
地底は鬼を始めとする高火力、重装甲な妖怪が多い。この世界では高火力や重装甲は機動力にも直結する。そして敵も、あのような条件を叩き付けてくるならばこちらの制圧が目的の筈、もしそうでなくて戦略兵器を使用するとしても、地底には届かない。
ここは地下100mより深い、それが俺達の最大の利点。あらゆる進軍方向は一定になり、地面そのものを消し飛ばしてくるとしても察知出来る。
大軍が移動出来るのは地獄街大通りのみ、他は精々一個中隊が詰まりながら通れる程度。となると後は要塞の人員配置や情報伝達だけなのだが……………
「さて、どうする?」
「いやノープランかよ!」
「先行き不安だねぇ。」
なんかあっという間に造られた十畳程もある指揮所の椅子に腰かけ、苦笑する。
「いや、要塞そのものというより人員配置とかの方。そっちがどうにかならないとただの建物だからさ。」
軽く説明しながら思考の海に自分を沈める。
道幅を狭くする?否、こちらの攻勢にも支障をきたす。
ならば反対に広くして厚みを減らす?否、敵に大規模攻勢の地盤を与えるだけだ。
要塞内部に引き摺り込んで殲滅?否、制圧された区画が拠点になる可能性がある。
ブツブツ呟く中、勇義が提案をしてくれた。
「なぁ、考えるより演習しないか?欠点探しはそれからでいいだろ?」
言われてみれば、と思い、とりあえず演習をすることにした。
外では作業を終えた妖怪達が談笑しながら花札やら何やらをやっていた。
「おい、お前達。」
「なんです?姉御。」
「戦闘訓練だ。二つに分かれてくれ。」
へい!と威勢の良い声で勇義を姉御と呼んだ鬼は周囲の妖怪を統率しててきぱきと分けていく。
「勇義、ルールは残機五、スペカ無制限で、勝利条件は殲滅、これで頼む。翔弥はそっちで。」
「わかったよ、でもいいのかい?翔弥は戦力だろう?」
「……………大事なのは、地底戦力だけで戦えることだ。」
少々冷たい言葉を言った後、指揮所に戻ると、先程の鬼が待っていた。
「どうも、零さん。」
「はじめまして、名前は?」
「狼鬼っていう。よろしくな。」
参加人数は勇義側と俺の側で五百人ずつ、途轍もなく大規模な演習になるだろう。そこで五人一小隊、二十人一個中隊と編成し、隊長となる二十五人に集合してもらい、会議となった。
「あー、で、問題点はさ、連絡手段だよな?」
誰かが発言する。
「そうだね、誰か即時通信出来る方法知ってる人いる?」
そう聞くと、うーん、と全員が首を捻る。当たり前だ、この幻想郷にそんな物がある訳ないし、あったとしても紫さん謹製だろうから入手不可となるのがオチだ。
「あっ!そういやあれがあった!」
全員の視線が集中する。いきなりで驚いた様子の彼はしどろもどろになりつつも教えてくれた。
「あれだよあれ!声のする札だ!」
ああっ、と共感の声がそこらから上がる。聞けば前回の異変の時に博麗の巫女こと霊夢が持っていて、それで紫さんと遣り取りしていたらしい。
急いで付与の得意な妖怪に頼み込んで百枚程作成してもらい、全ての小隊に配備する。
そして部隊編成の時間が終わると同時に
「総員、攻撃!」
翔弥の声で訓練が始まった。
一回目
「第29及び、56小隊連絡途絶!」
「援護に向かえ!」
「ダメです!うわぁーー!!」
四回目
「相互連絡を密にしました!」
「よし、これで無駄な投入を避けられる!」
「なっ!我軍の通信機を奪取されました?!」
「んなバカな!グァーー!」
七回目
「誰だ!?勇義に戦力全部くれてやった奴は!?」
「突破されます!」
十回目
「敵味方識別のため妖力感知を重視させました!」
「敵の空挺部隊です!」
「50、51、52小隊で対空迎撃!」
「おい!攻撃が重複してるぞ!指揮をくれ!」
「そんな、小隊長がやっ───あべしっ?!」
十一回目
「誰か、指揮の補助を!」
「お前の指揮スピードに着いて行けるかぁ!」
「ウソだ!」ピチューン
……………と、防衛側は一度も勝利することなく、この日は訓練を終えた。しかし誰も俺に文句を言うことなく、最後の会議では
「いや、これはあんたのミスと俺らのミスの両方の結果だし、あんたの指揮は局地的だけど成果はあった。」
そう評価してくれる人もいた。
今日はこれくらいで終わりにして、明日またやろう、そう言って会議は終わり、めいめいが自分の家へ帰って行った。俺も帰ろうとすると、狼鬼に呼び止められた。
「狼鬼、どうした?」
「いや、明日、来るかもしれないぞ。」
一瞬背筋の凍る思いがしたが、平静を装い笑ってみせる。
「そうなっては困るね、まだ完成してないんだから。」
「誤魔化すな。」
ハハッと笑うのを狼鬼が止める。容易く見抜かれていたらしい。
「俺は明日から要塞を改造し、作戦も建てていく。よく聞け、俺の能力は『予知』、発動は不任意だがほぼ当たる。明日だ、明日来る。だからお前は前線で舞ってろ、準備はしてやる。
最後に─────
良い指揮だ。本番も頼むぜ。」
明日、ほぼ確定で襲来する。
その現実は俺を恐怖させるに事足りた。だが、狼鬼の確たる物言いに当てられ、寧ろどっしりと構えるようになっていった。
そして何より最後の『良い指揮』という言葉で、とても有難い気分になれた。
「ありがとう、狼鬼。そしてこっちから頼み事だ。『地底防衛軍副司令官』の任に就かせる、副官が欲しいんだ。」
目をぱちくりさせて放心した狼鬼、急に微笑を浮かべて
「あいよ、頼むぜ?『黑剣士』。」
「お前の二つ名は知ってるよ、頼んだよ『事象の俯瞰者』。」
互いに二つ名を呼び合い、背を向けて歩き出す。どちらもきっと
良い笑顔の筈だ。
心と足が軽いまま地霊殿に到着した俺は、今晩の夕食は何にしようかと意気揚々としながら台所の扉を開ける。すると
「確か零さんは、ここをこうして────」
さとりが料理をしていた。
またやってるよ、今度教えるって言ったのにさぁ
「さとり、」
「ひゃあ?!れ、零さん!驚か」
「っ危ねぇ!」
取り乱したさとりがふらつき、肘が手持ち鍋にぶつかった。危険を察知した俺は鍋の持ち手をひっくり返る前に空中で掴んで少々乱暴に置く、一安心、と思った矢先─────
体勢を崩したさとりが俺の腕を引いて、重力に従い倒れる。
「あっ─────」
かなりまずい、不可抗力だがどう見ても俺が押し倒した様にしか見えない。しかも何故かさとりは上気してる上、俺は恥ずかしさのせいだが頬が赤い。これはあれと間違われては─────
「……………い、」
「ん?」
「変態!」
ブンっと腕が一閃され、俺は体術スキルでもこうはならんだろと言う勢いで殴り飛ばされた。
「あ、あの、ご免なさい……………」
あれから少しして、何事もなかった様に夕食を済ませた後、二人切りになってからさとりに謝られた。
「いや、こっちもごめん。気を付ければ良かったな。」
尚も謝ろうとするさとりを止め、今日の話をする。これが俺が仕事や外出をした時の決まり事、そこで明日襲来するということを伝えると、
「とうとう、来るんですね。」
悲しげな表情をするさとり。
「解っている、解っているんです。でも、どうしても────怖いです。」
蹂躙される側だったから、恐怖する。
何もしてあげられない自分が、憎い。
震える身体を抱く勇気の無い自分が憎い。
理解してあげられない、肩代わりしてあげられない、その事実が憎い。
こんな風にした奴等が、憎い。
「大丈夫、守るから。」
肩に手を置いて言う。
これが、俺の今出来る方法。
こんなことでしか感情を示せない自分が憎い。けれど、この感情は偽物じゃない。
「ありがとうございます。ちょっとだけ、良くなった気がします。」
「なら、良かった。明日は早いから寝るよ。おやすみ。」
「ええ、おやすみなさい。」
真っ直ぐ寝室へ向かい、室内の壁に立て掛けた二刀を抜き放つ。
漆黒の刀身を持つエリュシデータ
氷を思わせる蒼のダークリパルサー
「イレ、頼むぞ。」
「ああ、」
ほんの短い会話だが、俺達にはそれで十分だった。
目を閉じ、立ち尽くす。
俺は、守りたい、この考えは偽物でも、想いは偽物じゃないから、じいさんのくれた剣伎は、飾りじゃないから、こう思う勇気は、間違ってないから。
その勇気を示す権利を、僕に下さい。
はい、終了です。
これで次回から戦争ですね。長かった……………
次回の「東方黑剣士」は~?
「総員、弾幕張れ!」「撃って撃って撃ちまくれ!」
「敵を降りる前に落とせ!」
死力を尽くす緒戦、結末は?
次回第十三話「高高度迎撃戦」
お楽しみに!また次回の前書きにてお会いしましょう!