東方黑剣士   作:鋏人

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どうも!鋏人です。
黑剣士、張り切っていきましょう!
最近気付いたんですよ、このままでは黑剣士と二刀装甲兵の完結が大幅にズレる!と。なので途中まではこっち優先にします。
では、どうぞ!


第十五話 漆黒の闇を貫いて

No Side

 つい先程までしていた轟音が宇宙に出たことで消え、九十八隻の戦闘艇が前進する。今は単に広がって前進しているが、手筈通りに紫が異空間へ飛ばす前には陣形を変えるつもりでいた。

 

『零、あいつら先に送ったわ。けど、かなり居たわよ。』

「情報ありがとうございます。予定通り五分後にお願いします。」

 

ちらりと私物の懐中時計で時刻を確認する。10時36分、あと五分で、宇宙戦争が始まるのだ。

 

「にしても、やり過ぎたかなぁ。」

 

 いくら最後かもしれないとはいえ、キスはやり過ぎ感があった。あとで謝っておかないと。

 本人の感情など何処吹く風な考えをしつつ、艦隊に指示を出す。

 

「戦艦八隻を前方に出して壁とし、その間に砲艦を。重巡は横を固めて紡錘陣形。」

 

冷めた声は緊張や興奮を鎮める。そして動き出したそれは、壮観の一言に尽きた。それを見ながら、零はオープンチャンネルで全ての人妖に語り掛ける。

 

「こちらは旗艦ペルセウス、司令の心義零だ。俺達はこれから艦隊決戦を行う。

敵は百を超え、俺達は百に充たない。

兵士の数も少なく、最小限しか居ない。

何の為に戦うか、疑問に思う者も多いだろう。

俺もそうだ、何故?と問う。しかし────答えはひとつしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守るべき存在が、俺達の後ろに居る。唯、それだけだ。」

 

零の『答え』に、小さく身を震わせる者が出てくる。零は一旦切って、また語る。転移が始まるが、誰も気に留めず、じっと零の言葉に耳を傾ける。

 

「皆、それぞれの想いがあるだろう。死にたくない者も居るだろう。だが────

 

 

 

俺達は戦える!戦える者がやらねばならないんだ!幻想郷(あそこ)から待っている全ての者の為に!覚悟を見せろ、ここを墓場だと思え!!」

 

その言葉で、全員の感情が大きく揺れる。そして様々な声がする。

 そうだ、俺達だけが戦えるんだ。

 ここまで来て、退くなどもっての他。

 お前ら聞いたな、叩きのめすぞ。

 了解です艦長。早く掃除に掛かりますかね。

 十人十色の言葉がオープンチャンネルを通し聞こえる。後ろに臨む艦隊が、熱気を帯びたように、零には見えた。

 何時ものように右腕を上げ、

 

「砲艦、5()1()c()m()()()()()()()()弾種()()()2()3()8()

 

────熱々の前菜で遠路を労ってやれ!撃て(Fire)!」

 

 大音声と共に、腕を振り下ろす。

 幻想郷軍、月軍双方唯一の物理攻撃艦である砲艦達が、電磁力によって爆発的に加速された砲弾を挨拶とばかりに投げつける。飛翔した砲弾は零の事前の指示通りにまとまって正面の戦艦五隻に誓いの接吻をする。愛などなく、ただ死を約束する接吻。

 船は一撃の下に爆散せしめ、勢いを失わなかった砲弾はその後ろの戦闘艇の装甲を貫いて止まった。

 砲弾の弾種はウラン238弾。言わずと知れた核物質である。飛翔しつつ核分裂を続けたウランは膨大な熱で船を巨大なオーブンとして乗員を焼く。

 密閉性に優れる宇宙船は、内部に異常のあったとき、それそのものが乗員達の棺となるのだ。

 その凄絶極まる砲弾の生贄となった船内は地獄と化した。

 ある者は生きながらにして全身を焼かれて絶叫しながら息絶え、ある者は逃げようとして真空に生きたまま放られ、ある者は目の前で自らの体が引きちぎられる様を見た。この際、即死した者がこの戦場で最も良い死に方であった。

 

「敵、反撃を開始!」

 

 しかし月軍も生贄の羊ではない。砲艦の仕返しとして妖力砲を斉射する。それは拡散こそしたものの、幾つかは目標が重複する。それに選ばれた船は容易く引き裂かれ、数十の命を三途の川へ送る。そして月軍は相対する幻想郷軍から見て天底方向へ艦首を向けて移動を始めた。その最中にも砲撃は繰り返される。

 砲撃の密度が予測以上であったことから、零は突撃を止めて陣形を変更した。

 

「陣形変更!フォーメーションγ及び同航戦!」

 

瞬間で紡錘陣から動きの遅い十数隻を残し凹陣へ変形した幻想郷軍は、月軍と同じ方向へ移動しながら砲戦を再開、そして零の得意技が放たれる。

 

「回避させるな!敵陣の中央に火力を集中せよ、主砲放て!」

『了解!砲塔旋回!仰角四上げ!斉射!』

 

光の槍が陣の中央へ叩き付けられ、月軍を前後に分断した。だが指揮官は練達の者らしく、それを利用して左右から凹陣の突出部分を喰らわんとする。

 しかし────

 

 

 

凹陣から取り残された十数隻が一斉に砲撃を開始、それの迎撃のために少し攻撃の手が緩む。それでも進撃は止まらず、凹陣の突出部分は切り取られ、数隻が沈む。

 

「………掛かった!フォーメーションβ!」

 

 それは、零の陽動に過ぎなかった。突撃の勢いを止めずに進んだ月軍は、当然だが一点で交差する。そこは()()()()()()()。左右から狭い場所へ誘い込み、挟撃を開始する。

 

「撃ち砕け!斉射二連!」

 

砲に負荷を掛け過ぎないように二連射。それだけで簡単に原子へと還す。

 

「無駄にするな!撃ち続けろ!」

 

その指示の直後、レーダーに新たに反応が現れ、それに動揺した数隻が攻撃を緩め、反撃で沈む。

 

「くそ!敵の増援です!」

「規模は!?」

「戦艦五隻、空母四隻、その他合計六十隻が三部隊!計百八十隻です!」

「陣形は?」

 

三部隊、という言葉に敵の作戦を読む可能性を賭け、頭を冷やしてオペレーターに問う。その回答は

 

「三方向から我々を包囲しています!」

「包囲は完成してるのか?」

「いえ!今のところは半包囲でかつ厚みも薄いです!どうやら正面の部隊と挟撃を図るつもりのようです!」

「予測でいい。どれだけ時間残ってる?」

「………………あと、四時間もないです。」

 

艦橋に沈黙が流れる。零も歯ぎしりしながら目を閉じ、数秒の後、指示を出す。

 

「ペルセウス、収束レーザー砲を発射。直後にミサイルと主砲で飽和攻撃。正面の敵を撃滅の後、迂回して横を突け。」

 

命令は正確かつ素早く実行された。旗艦ペルセウスの必殺兵器、収束レーザー砲で敵の防御や陣形に構わずズタズタにして、過剰過ぎる飽和攻撃で殲滅すると、最大戦速を以て迂回を図るが

 

「敵、、、艦隊…………!?更に増援です!」

「紫さんとの取り決めが裏目に………!」

 

 紫は零との取り決めで戦闘開始前、宙域に居る全ての艦艇を異空間に飛ばした。だが紫は範囲指定で転移させたが故に、最初から居た伏兵に気付かなかった。

 しかし幸運なことに零達が接敵したのは前回叩きのめした第五艦隊。故に再編されて数も少なく、慣熟航行も不十分な中の作戦だったことだけは零達の味方をした。

 零は射程距離に入る前に戦闘不能となった艦艇を紫に頼み撤退させ、残りの八十三隻で迎え撃つ。

 

「砲門開け!敵はこちらに側面を向けている、紡錘陣形を取り敵を貫け!」

 

紡錘陣で接近する幻想郷軍は、月軍の側面を突こうとする。月軍はそれに気付くと回頭を始めるが、速度が足らない。

 

「全門、凪ぎ払え!」

 

側面に喰らいつき、主砲と副砲を放ち続ける零の艦隊。回頭を待つ訳もなく、光を四方八方に投げかける。穿ち、引き裂き、火球に帰す。

 赤熱する船内で生きながら焼くウラン238弾。白く発光しながら宙を舞う妖力。標的にされた艦艇は最低四隻からの集中斉射を受けて無音の内に四散する。

 この時点で、既に戦闘開始から十一時間が経過していた。月軍の損耗率は約三割、対して幻想郷軍は二割と、割合の上では若干幻想郷軍が有利に見えるが、増援や後詰の数の有無を考慮に入れると、幻想郷軍のそれは皆無であり、月軍が有利というのが間違いない事実であった。

 

「敵包囲部隊が到着!単縦陣です!」

「我々がT字陣で有利だ!前と左右から撃ち砕け!」

 

陣形不利によって集中砲火を浴び、四散必至の月軍、

 

「命中!っ?!………損害ゼロ?!」

「んなバカげた話があるか!全門、同時斉射!」

 

今度は如何なる艦艇でも沈む筈の砲火を集中させるが、

 

「駄目です!損害軽微!」

 

ほんの少しの光点だけで、月軍は前進を続ける。本来ならば、前方が壊滅してもおかしくないというのに、である。

 そして零はその正体を看破する。

 

「……………っ!そういうか!敵の能力者だ!おそらく防御特化の!…………これじゃ全滅するぞ────陣形変更、凹陣で敵を半包囲しろ!」

 

 そう、月軍の能力者は艦砲射撃に耐える防壁を艦隊前方に張り、最小限の損害に留めていた。そのため、半包囲下に置いて密度を向上させて防壁ごと破壊するという策は、決して間違いではなかった。敵の明確な反撃がないことも、零に積極的攻勢を取らせるに至った。しかし、零は気付かなかった、敵が反撃しないというのが、何を指しているかを。

 艦隊運動としては最高の速度を以て月軍を半包囲下に置いた幻想郷軍は、一斉に光と熱の束を投げつけた。それでも耐える防壁に、全員が熱中し、がむしゃらに攻撃を叩き付けた。

 だが、それの防壁と敵の数を考慮することが出来なかったのは、失態以外の何物でもない。

 

「午前二時、十時の方向に敵!おそらく先ほどの後続です!」

 

防壁能力というイレギュラーと戦闘の興奮から正確な判断力が鈍った零は、後続の存在を失念していた。そのために幻想郷軍はそこから僅かに数十分にしてさらに四割の轟沈を出した。四方八方から投げられる光の束が、つい数時間前と敵味方を逆に再現された。月軍は同胞を失った怒りの矛先を、幻想郷軍に向け、殺戮をほしいままにした。

 

『零、撤退なさい。』

「ええ、すぐに離脱します。少し待ってください。」

 

そうとだけ言って零は戦力の状況を確認する。損耗率35%、小破以下の艦艇なし、航行に支障のある艦艇は残存戦力の15%、戦闘可能艦艇は40%、戦闘不能艦艇は10%。最悪だが、ここで零はもてあましてした駒を動かす。

 

「砲艦、右翼へ斉射三連。続いて高速巡洋艦を敵右翼へ叩き付けろ。」

 

砲艦のウラン238が灼熱オーブンを量産して、高速巡洋艦がその後ろを走る。人命を考えなければレールガンの弾頭とすら並走できる速度は、十一隻という少数ながら危険極まる艦艇達だった。それを零は今回突破口を作るための起爆剤としたのだ。

 

『了解!アンタッチャブル、突入!』

 

 高速巡洋艦の指揮官はアンタッチャブル隊長の閃狗。アンタッチャブルにとって、戦場が地上か空中か、はたまた水中かという違いはあってないようなものである。そんな高速巡洋艦達は他を圧倒する速度を以て月軍右翼に殺到した。そこから砲艦の空けた小さな穴を通り抜け、傷口を広げて中を引っ掻き回す。

 

「今だ!全門斉射三連!」

 

高速巡洋艦が戦場を引っ掻き回し、相互連絡や連携に支障が出始めた頃、零率いる部隊の十八番たる斉射三連が、撤退の時間を稼ぐ。容赦ない光の嵐は防壁の一部を貫通し、内部で暴れ回った。

 その様子を見た零はある違和感を感じる。しかしそれを確かめている余裕はなく、撤退していった。

 但し、敗北者ではないのではと後の月軍幹部がこぼす程、整然として、真っ直ぐに退いた。これは、この作戦を無理矢理だ云々と徹底的に批判する歴史家から見ても、唯一評価し得る点だろう。────勿論、上層部ではなく零への評価として。

 

 

 ペルセウスの艦橋から出た零は、兵士一人一人に用意されている部屋に飛び込み、力一杯に壁面を殴り付けた。

 

「くそがぁ!」

 

 完全に、俺の失態だ。必要の無い損害を出した。あれだけ会議で反対したのに、戦場に出た途端にこの様だ。結局、戦うのを楽しんでいたんだ。この前ので、浮かれていたんだ。

 無性に何かしたかった。何か、気を紛らわしたかった。夢中で引き出しを漁り、新品のカッターナイフを見つけ、全力で掌に突き立てた。鋭い痛みが全身を駆け抜け、大量の血が床を這うが、気にせずもう一度突き立てる。今度は少し逸れて、

 

 

 

 

小指を切り飛ばした。

 

「がぁぁ────っ、ハァッ」

 

 カッターナイフを抜き、中央に穴が空き、小指の消し飛んだ左手を凝視する。妖力が勝手に充満し、傷を消す。しかし、傷痕は消えず、歪な縫い目のような物が残った。

 これは、戒めだ。俺がまた、浮かれないように、これを楽しまないように、刻め。

 ドアの隙間から流れる血に、零を探しにきた兵士が気付いて大慌てでドアを開けるまで、零は傷痕を凝視していた。ドアを開けた兵士は、床一面に飛び散った血を見て更に慌てて零に問うた。なぜこのような真似を?と。それに対する零の声は、激情を押し殺したようなものだった。

 

「俺が再び、道を間違えないための戒めだ。」

 

左手を見遣りながら微笑を浮かべてすらいる零に、探しにきた兵士は戦慄した。勿論悪い意味ではなかった。少し前の艦橋での話し合いを思い出したのだ。

 

『零司令には、悪いことをしました。』

『全く馬鹿らしい。頼り切って、この様かよ。』

『だから、私達でも戦うんです!後ろではなく、隣、否彼より前で!』

『そう、だな。お前、ちょいと零司令を連れて来てくれ。謝罪会見としよう。』

 

 我々の司令官は、ここまで罪悪感を感じていたのか。これに比べれば、我々の感情など、小さくないか、と。

 

「それで、どうしたんだ?」

 

零に聞かれて改めて自分の与えられた指示を思い出した兵士は、簡潔に述べた。艦橋の皆さんが、司令に話があるらしい。と。すると零は軽く頷いて、足早に行ってしまった。

 

 零は急ぎ足で艦橋へ戻った。

 

「零司令、話が───」

「済まないが、先に言いたいことがある。」

 

副官の元の言葉を遮って、零は

 

「本当に、申し訳ない!」

 

土下座した。重厚な床が小さく震える。

 

「俺の失態だ。無用な犠牲は、俺の責任だ。償いなんて出来やしないが、次の戦場で最前線に飛び込んでやる。だから、本当に、ごめん………」

「ちょっと!司令、頭上げて下さい!」

「いや、こうでもしないと────」

「頭上げろっつってんだ!」

 

一人が無理矢理肩を掴み頭を上げさせる。

 

「何グダグダ言ってくれてるんだ!俺らに非があるんだよ!今回は!頼りっぱなしで、迷惑掛けたのはこっちだ!だから頭上げろ、次の戦場が待ってるぞ!」

「お前……………」

 

激情のままに言葉を吐き散らして、ふぅ、と一息つくと

 

「出過ぎた真似をしたな、済まない。」

「いや、こっちこそ、済まない。ところで、名前は?」

「俺は赤羽 大夏(あかば たいか)。さっきのは謝罪する。処罰なら如何様にも。」

「それは良いよ。気にしてない。役職は?」

「この艦隊の副司令と第十六中隊『ドラゴン』の部隊長だ。」

 

 零はその名前に聞き覚えがあった。幻想郷上空迎撃戦において空戦で生存率脅威の百パーセントを達成した部隊。その功績と名乗っていた名前の印象深さ故のものだったのだろう。

 

「大夏、今後ともよろしく。」

「赦してくれるってんなら、了解だ。司令官。」

 

 大敗を喫した第一次艦隊決戦は、その結果とは逆に強い絆を結ぶ切欠となった。この剣は、一度折られ、繋ぎ合わされたものだ。その切先は、再び敵へと向けられる────更なる鋭さを以て。

 

 




はい!終了です!
今回は敗北回でした。やっぱり負けて貰わないと色々とね、大変なのでね。
今回の艦隊戦の指揮は大変でした。自分なりの作戦やら描写やら、持ってる知識や記憶を総動員しました。その分上手く出来てると嬉しいです。
良ければ感想、評価等々、お願いします。

では、次回の「東方黑剣士」は~?
「おかえりなさい!」
「あぁ、ただいま。」
帰宅した零、物事の進捗は?
次回第十六話「進んだ地底」
お楽しみに!
また次回の前書きにてお会いしましょう!

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