では、どうぞ!
地を蹴り、ふわりと舞う零に対し、一歩の踏み込みで地を割り砕くイレ。起源を同じくして在り方の対極の二人は、文字通り完全な連携をこなしていた。
「イレ」
「おう!」
このやり取りだけでほぼ全ての意思を共有したイレは、零の着地を狙った妖怪をエリュシデータを使った豪快な叩きつけで始末し、そして両断した死体を投げつけて動きを阻害する。
「零!」
「了解した」
すると零は切り伏せた妖怪の肩を使って飛び、落下する寸前に妖力で浮遊。フィギュアスケーターも真っ青の空中回転で脚を削いでいく。
「アタシらもやるよ!」
鬼の四天王が一人、『力の勇義』も負けじと後を追う。幾人もの妖怪が妖力弾を向けるが
「その程度!」
僅か一閃の足払いで掻き消される。そのまま振り切った脚を地面に叩きつけて小さなクレーターが出来、衝撃波に多くがたたらを踏む。
『撃ち方始め!!』
指令室からの狼鬼の号令一下、最前線に向けて大量の砲弾が落ちていく。その全てが前線を張る敵の陣地へと迫り、
「さぁ撃ちまくれ!」
閃狗の分隊がΔ陣を成して四方へ弾幕を張りつつ無双して奥まで走り去ってはまた戻り、戦場を引っ掻き回す。散々好き勝手された腹いせも込めて、小規模な分隊行動をしていた敵を駆逐していった。
「イレ」
「分かってる、零」
「「剣伎 連理斬」」
零はダークリパルサー、イレはエリュシデータを持ちながら、互いを引き合うように突進していく。妖力で生成した糸で、引き、離れ、絡み合い、すれ違いざまに切り刻む。
「派生、『大河』!」
「派生、『輪廻』!」
一歩引くような動きから、大きく踏み込み、ひとつの巨大な刺突から四方に斬撃を広げ、またひとつに収束する。その様は正に大河の始まりから終わりまでを表したような『大河』。
対して、足払いから蹴り上げ、着地どころか受け身すら取らせず、延々と空中でお手玉のごとく弄ばれる。その軌跡が一定の円を描いていく『輪廻』。
そうしてしてやられた鬱憤を無関係かもしれない命で晴らした頃、攻撃が止んで相手方から一人の女性が歩み出た。
「イレ」
「ああ、どっちでやる?」
「俺疲れた、頼む」
そう言うと零はイレと融合してひとつに戻り、イレは二振りの剣を防御の姿勢にして構える。
「どちら様で?」
「この軍の司令官、綿月依姫」
「ほう、司令官自らお出ましとは随分───」
剣をきりりと引き絞る。
「──覚悟を決めて来たか?」
「………悪いですが、あなたでは話になりそうにはありませんね」
少しも話をする素振りのないイレに、依姫は腰の刀を悠然を抜き、静かに構えた。だが
「へぇ、面白そうじゃないか!」
勇義の力強い一撃が襲う。最右翼を任されていたが故の意識外からの剛拳を、
「んなっ?!」
「これだけですか」
片腕のみで受け止め、更に弾き返しもした。
───なぁ、誤解させてないか?
「へん、心配無用だ」
零と会話しつつも、流石に女性を切るのは少し躊躇いのある様子のイレ。
「名前を聞いておきましょう」
「幻想郷地底軍司令官、心義 零」
それを聞くと少し驚いた様子の依姫だが、
「あぁ、あの《心義》の家の。手を焼かされましたね、あなたの祖父には。それにしても────
ご両親は、残念でしたね」
ふわっと、辺りの空気が暖まった。誰もが始めそれをただの勘違いだと思ったが、それは誤りだった。
「なんて言った?」
それは、イレの熱さ。正確に言うならば、イレの妖力が起こした熱気であった。
そう、この話は彼らにとって最も触れて欲しいと思わぬ話題。それをどこの馬の骨とも分からぬ者が知っている。その事実は
────イレの地雷の中心を、誤ることなく撃ち抜いた。
「流石にキレるわこんなの。悪いが────」
「零、待て」
「うるせぇ」
防御の姿勢から攻撃に切り替え、ライトエフェクトが剣を覆う。
「死ね、綿月依姫」
仕留める。その意思の下同時に四方から襲った多重剣撃。
「なるほど」
依姫は、それを全ていなした。ならばと技を使わずに剣戟に持ち込む。零の剣が空気を切るのだとすれば、イレの剣は空気を割る。触れれば確実に命を散らす剣。
「
それでも依姫は焦ることなく、全てを捌ききっていた。
「この程度であれば、警戒の余地も」
依姫の切っ先がイレの右肩に触れ
「───無かったですね」
「づっあ”!?」
貫いた。
その痛みに声を上げるイレだが、咄嗟に引いて剣を無理矢理抜いた。
「まだ!」
浮遊城体術 閃打
体勢を整えて突撃。密着状態から高速の打撃を放つが、依姫の刀に阻まれて切られる。それでも反射的に手を引くので欠損だけは免れていた。
しかし完全に頭に血が昇ったイレは、力任せに剣を、手足を叩きつける。
「『地断烈波』!」
剣を足元に、その衝撃波を全方位へ無差別に広げた。それを見た依姫は空中へ躱わすが、
────今だ、イレ!
「おうよ!」
弾幕による追撃を加え、剣を所定の構えへ移行した。空中の今、弾幕は回避と迎撃の二択を迫っている。そこへどちらの選択も潰す攻撃。これならば、そう判断したのだ。
「スペルカード『スターバースト・ストリーム』!!」
彼の十八番たる大技を放った。回避、迎撃、相殺、どの選択肢もハズレとなる規格外の一手。斬撃を飛ばし、自身もまた斬るという魂魄妖夢に倣った技だ。
「─────」
その瞬間、依姫は何かを呟いた。そして眩い光が地底を包み込んだ。光が晴れたとき
「それは…………馬鹿にも程があるだろ、、」
全身を焼かれた
「まさかこれを防ぐとは」
初めてここで依姫に驚きが訪れた。舐めていた訳ではなくとも、この程度の戦力であれば全力を以てすれば簡単に打ち破れる。そう判断しての勝負、否、八百長のつもりだった。そして先程の攻撃でまとめて燃やすつもりではあったが、見事に打ち破れた。
「中々ですね、それでは──」
「零指令!!」
止めを指さんとする依姫へ、決起盛んな一人が飛び出した。意識の外からではあったが、拙く、あまり速くもないそれは
「汚いのはよろしくないのですが
『祇園様の力』」
地から伸びた無数の刃に斬られ、血を流して倒れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方その頃、自身の作業を終え、また見回りを終えた燐達から報告を聞いて労いを掛けた後、古明地さとりは地霊殿の中を歩いていた。
──あら?
彼女の視線の先には、一人の天狗。思う所があって寄って行った。そして
「あの───」
「はい、どうしました?」
良かった。悪い人ではなさそうだ。そう思い聞きたいことを口に出した。
「あの、前線は今、どうなっているのでしょうか」
「ああ、自分が戻った時は指令もかなりお疲れの様子でしたし、今は仮眠を取っているのでは?良ければお連れしましょうか」
「え?いいんですか」
零に会える、それに釣られたさとりは、彼について行くことにした。
はい、終了です。
色々とあって、苦戦中ですね。頑張って貰いたいのですが、そう頑張られても困る(どっちだよ)。
さて、次回の「東方黑剣士」は~?
「頑張って、頑張って、頑張って。それで君を守れたらな、なんて思うんだ」
この思いは、潰えてしまうのか。
次回第十九話 「ある天狗の物語」
お楽しみに!また次回の前書きにてお会いしましょう!