東方黑剣士   作:鋏人

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疲れたよ、パトラッシュ………

何やってるってツッコミは無視して、死にかけつつ投稿です。やっていきましょう。

では、どうぞ!





第十九話 とある天狗の物語

ふわり、と犬耳と尾を持つ青年は体を浮かせ、辺りを見渡していく。ここは妖怪の山、戦争が始まるより二年程前のことであった。

 

「今日も問題になりそうなのはないね」

 

白と藍の髪色、男性にしては白い肌、そして大きめの瞳を持つ青年は、そう一人ごちた。いつも平和、そう言って差し支えないほどに平穏な今日この頃、さて本日も何もないかと思ったとき

 

「前言撤回、かなり問題」

 

彼の視線の先には、一人の人間と妖怪がいた。しかも最近問題になっている重要排除対象の妖怪であった。殺人十三件、窃盗五件、誘拐殺人二件。さて問題にならぬ方がおかしいという位の暴れようであり、懐で暴れられて天狗としてもいい気はしないのである。

どうやら餌にしてしまおうという魂胆らしいが、そんな事をされた日には寝目覚めが悪くなるわ上司からの評価は下がるわ人里から討伐隊が来るわの三拍子。後ろ二つよりも前ひとつが大きい彼は、声をかけた。

 

「ちょっと君、何してる?」

「ああん?舐めてんのか。弱っちい天狗がいい気になりやがってよぉ?」

「こっちも仕事さ。その子を離せ、そしたら何も言わない」

「るっせぇ!」

 

迫る妖怪に対し、彼は直刀に手を掛け、

 

「───電光石火一ノ型『疾風』」

 

目にも止まらぬ速さで妖怪の横すり抜けた。そしてその軌道上にあった木々の枝が、一拍の間を置いて倒れていった。

 

「死ねぇ!」

 

だが、妖怪がその程度の傷で倒れはしない。妖力で強化した腕で殴りかかる。それを刀で受け止めると、返しとばかりに切り上げ、更に技を使う。

 

「二ノ型『塵風』」

 

風を凄まじい勢いで巻き上げ、刃を形成して切り裂く。鮮血が舞う中、彼の目に宿す光が冷たくなった。

 

「なに?くそっ!」

「させない」

 

少女を狙って妖力弾を放つが、『電光石火』で回り込んだ彼が全てを切り捨てる。そしてそのまま

 

「三ノ型

 

 

神速」

 

姿が掻き消え、次の瞬間妖怪の隣に、高速の数連撃で仕留めた。

 

「(仕事は終わった。後は)君、大丈夫?」

 

刀を納め、少女へ手を指し述べる。少女はおっかなびっくりといった様子で手を取って立った。

 

「あの、、ありがとうございました」

「いいよ、こっちもああいうのは気分がね。君、どこに住んでるの?送ろうか?」

 

流石に遠くということはないだろう。麓の人里ならば姿をみせても問題あるまい、そう思って聞いた。しかし少女としてはいきなり妖怪が出てきて喰われそうになった途端、彼が現れて目の前でそれを肉塊に変えたのだ。恐ろしくない訳がない。

 

「すぐそこの、人里で」

「それなら行ける。怪我は?」

 

───悪い妖怪さんじゃない?

応答からそう判断した彼女は、大人しく彼の世話になることにした。そして一応信用してくれたことに彼は感謝しつつ、人里まで送り届けたのだった。なお、少女の両親はいたく感謝し、礼をしようとしたが、彼は名前も言わずに立ち去った。

 

 

 それから1ヶ月ほど経ったとき、守矢神社の巫女、早苗が彼の下を訪ねた。曰く、彼に用事のある人物が来ているとのことだった。探し当てるのに苦労しましたよ、と拗ねる早苗を横目に、彼は神社へと赴いた。

 

「お邪魔します」

 

そう一言声を掛けると、中から「どうぞ」と高い声がした。中からする匂いは嗅いだことはあるがどうしても思い出せない。まぁいいか、と切り捨てて中へ入ると

 

「あ、あの、先日は、その、ありがとうございました」

 

あの時の少女が居た。

 

Side ??

 

わたしにとって、それはあり得ないことだった。妖怪の山にある薬草を取りに山へ入り、妖怪に見つかった。死を覚悟して声を出すのも止めた直後、妖怪、天狗の自分より少し年上のような容姿の青年がいた。そして戦って、妖怪を倒し、自分を送り届けてくれた。

始めは恐ろしかった。人里に着くまでに喰われてしまうのではと恐怖した。しかしそんなこともなく、彼は自分を丁寧に送り届けてくれた。両親はとても心配して、そして自分を助けた礼をしようとしたが、名前すらも教えてくれずに立ち去ってしまった。それが悔しくて、守矢神社へ赴いて、探してくれるように頼み込んだ。

そして今、自分と対面している。異性に正面からまじまじと見られたことなどなかったために、気恥ずかしさを感じてしまう。

 

「それで、何かな?」

「あの、これを!」

 

隣に下ろしていた包みを彼に指し出す。

 

「えっと、お礼は結構なんだけど」

「けど、受け取って欲しいです、駄目ですか?」

 

駄目じゃないよ、と言われて包みを持っていった。その瞬間に手が軽く触れて、また気になってしまう。

 

「ありがとうね、開けていい?」

「い、いいですよ」

 

中に入っていたのは、お菓子。家がお菓子屋だから、これなら自分でも出来ると思ったものを両親に手伝ってもらい作って、箱に詰めたのだった。

 

「わぁ、綺麗だね。一個もらうよ」

 

そう言って手に取ったのは、偶然にもわたしが作ったものだった。それを口に放り込むと

 

「美味しい、山じゃ綠な甘味もないから、本当に嬉しいな。君も食べなよ、僕ばっかりじゃ良くない」

 

本心からそう言っていると解る様子に安心して、わたしも「じゃあ、すみません」と言ってつまむ。やはり両親のものは自分とは比べ物にならない、そう感じてしまって、悔しさが滲む。それを隠して、話を振る。

 

「あの、この前聞きそびれてしまいましたが、お名前は?」

「ああ、言ってなかったね。僕はニクス、白狼天狗だよ」

「ニクス?」

 

聞き覚えのない言葉、外で流行りだと聞いたことのある「よこもじ」だろうか。

 

「外の世界の言葉だよ。妖怪になる前は外で飼い犬だったんだ。意味は『雪』、雪の日に生まれたから、らしいね。君の名前は?」

 

失敗したことに気づいた。相手に名前を聞いておきながら、自分は名乗っていなかった。慌て謝り、すぐに名乗る。

 

「あっ、すみません。わたし、天野 侑李(あまの ゆうり)といいます」

「ん、侑李ね。忘れないようにしないと、僕は名前覚えるの苦手だからさ」

 

その後はとりとめもない話をして、自分のの事を伝え、ニクスさんの事を知った。

 

「今日はありがとう、楽しかったよ」

「いえ、こちらこそ。お礼が遅れてしまって──」

「気にしないで。機会があれば、家にくるといい。それと────

 

 

 

またお菓子作ってくれると、嬉しいけどな」

 

帰り際にそう言い置かれ、ボッと赤くなった。ああもう、わたしってチョロいのかな、こんな風に

 

 

惚れてしまうなんて。

 

それから、何度もニクスさんの家を訪ねたり、ニクスさんがわたしの家に来たりした。

いつも彼は、気のせいかもしれないけど、わたしの方を見ていた。それに気付いて目を向ければ、彼は微笑んでくれて、その度にまた赤くなってしまう。

 そして、あの日から一年半、わたしは16歳になった。嫁になれる歳、お嫁に行ったらもう会えないかな、なんて思っていたけど、お父さんとお母さんは縁談を持って来ることはなかった。けれどニクスさんと会うことも減った。もういい加減こんな人間の女はどうでもいいよね、と思った。それが悲しくて仕方ない。

そんなある日、わたしはニクスさんを見つけて声を掛けた。偶然彼もそうだったらしく、彼はこう告げてくれた、「始まりの場所で」と。始まりの場所、守矢神社への道から少し奥に入った所。わたしとニクスさんが出会った場所。そして、そこにわたしが人生で初めて振られた場所、が追加されるのだろう。

 

それでも────諦めてしまいたくない。どうか、この想いだけでも、伝えさせてください。

 

 

Side ニクス

 

やってしまった。それが直後の感想だった。彼女、侑李もそろそろお嫁に行く頃、流石にこれ以上近づくのは良くないだろう。そう思って距離を取っていたものの、侑李が16歳になったと知り、向こうのご両親から「どうする?」なんて聞かれてしまった。どういうことですと平静を装い尋ねれば、そろそろ嫁にやる歳だから、あんたは伝えないのかね、とド直球に言われ、かなりこの時点で気のあった僕は「奪いましょうか」と冗談半分に言ってしまった。そこで

 

「なら、貰ってくれ」

 

と返され、玉砕上等で声をかけることにした。大体妖怪が人間に恋する、またはその逆なんてないに等しい。まさかそんなことが彼女に限ってある訳はないのだが、言うだけ言ってみるか、程度の感覚だった。

 

 約束の時間より半刻前、到着すると同時に彼女も着いていた。似た者同士ですね、と彼女は笑う。やっぱり僕は、この顔が好きだな。

 

「それで、どうしたんですか?」

「いや、話があるんだけど、まだ整理がついてなくてね。侑李は?」

「えっと、その………」

 

もじもじし出す侑李。気にはなるが、縁談が決まったとかだろうか。そこそこの付き合いもあるし、何せ男だ。言いにくいのは察する。

 

「わ、わたし、お嫁に行ける歳になったじゃないですか」

「うん」

「それで、言いたいことが、あって、

 

 

好きです!」

「うん、、、はい?」

「だから!ニクスさんのことが、大好きです!」

 

頭が働かない。えっと?僕は、侑李に、好きって言われて、それで、僕は侑李が好きで、えーと、それで

 

「ニクスさん?」

 

駄目だこんなの幻覚だ。落ち着いて、確か西洋では羊を数えるんだっけ?って違う違うそれは眠るためのやつで、えーと、えーと

 

「ニクスさん!どう思ってるんですか!」

「おわっ」

 

おもいっきり侑李に殴られた。人間の女性の力とはいえ、ここまで急だと流石によろめいてしまう。うーん、女性から言われるのはなぁ。自分から言いたかったんだけど。格好悪いことこの上ないってこの事かぁ。

 

「侑李、」

「───はい」

 

一秒だけ、目を閉じて、また開いて、侑李を見据えた。

 

「僕は妖怪だ。妖怪の山の兵士の一人だ。もしかしたら、人間て敵になるかもしれない。それでも、僕は絶対に、君の味方で居続けるから、どうか、付き合ってください」

 

最後の一言と同時に頭を下げた。

 

「頭を上げてください」

 

言われて通りに頭を上げると

 

「よろしくお願いします………!」

 

涙で頬を濡らして、それでも満面の笑顔の侑李がいた。

 

 

 晴れて僕と侑李が恋人になってから約半年。心義 零さんという人物がやって来て、僕達と同じ哨戒任務に就いたと、風の便りに聞いた。どうやら天魔様とほぼ互角の戦いの末、敗北したものの、天魔様が気に入って迎えたとか。何度か話したことはあるけど、悪い印象じゃなかった。寧ろ良いくらいだ。外来人とのことで変わった力を持っていて、少し、いや、大分何かを抱えているようだ。

 僕としてはほとんど代わり映えのない日々だったけど、ある日を境にそれは変わった。月と戦争になることが発覚したんだ。高高度迎撃戦、異空間戦の二つを通じて、僕は零さん、隊長のいる第十八中隊、通称絶対零度隊の一人として戦った。それで、零さんへの評価も結構変わった。始めは容赦のない人って感じだったのが、ペルセウスでの一件から抱え込みがちな人、人里避難の策から、よく見ている人────ではなく、怖がりに見えた。きっと零さんは、誰よりも失うことを恐れている。あんな風に敵を殺しながら、命が消える様を見て、怖いって思っている。何かが外であったのだろうと当たりをつけても、それ以上は地雷ではないかと思って意図して避けている。

 

 余計な事が頭に浮かぶほどの余裕ができた後、月による人里への一斉攻撃があった。怪我人の救助がある程度片付いた後、瓦礫の山と化した人里を駆けた。

 

侑李はどこだ?

 

ただそれだけを心に浮かべながら、目に入る全てが記憶と違って、胸が痛くなった。

 

───侑李の師だという人の家。初めて入った甘味処。子供達と遊んだ田畑。敬語を外して会話した最初の場所。接吻を初めて落とした所。全部が燃えて、崩れて、なくなっていた。

 

更に行って、侑李をようやく見つけた。そしてその直後、月の兵士が何人も飛び立っていった。

 

「侑李!」

「あ、ニクス……」

 

ふらりと此方を向いた侑李は、一目見て分かるくらいに、重傷だった。胸元が血で染まり、片肘から先が消えて傷口が焼けていた。

 

「大丈夫だ、しっかりして、ほら、僕が来たから………」

 

それは侑李よりも、自分に向けた言葉だったのだろう。妖力による治癒力活性化、僕ら(妖怪)僕ら(妖怪)で在れる理由のひとつ。妖力の切れぬ限りの無制限の回復。

 

「もう、いいよ、、ニクス」

「駄目だ、まだ君を幸せに出来てない。初めて幸せを、恋を教えてくれた君に報いたいんだ。まだ、まだ生きてよ!」

「ううん、、もう、無理っぽい、ね。だから、ニクス、、ひとつ、教えて欲しいな」

「何でもいいよ、くそ、早く傷を……」

「ねぇ、、なんで、あんなに、頑張ってた、の?付き合い出して、、から、すごく、頑張って訓練してたの、知ってる、よ?」

 

仕事を理由に彼女との逢瀬を疎かにした自分への叱責だろうか、でも、ごめんね。それの理由は

 

「僕、僕は、、」

「うん」

「頑張って、頑張って、頑張って。それで君を守れたらって、思ったんだ」

 

涙が頬を伝う。もう治癒も止めてしまった。侑李が助からないのは、もう分かっていたから。だから、少しでも話がしたい、そう思った。

 

「嬉しい、な、、そうだ、ニクスに、、、魔法、かけてあげよっか、、」

「魔法?」

「簡単だよ、、、

 

 

 

『頑張って、エース(わたしの一番)

 

ゴホッ、もう、、持たないかな、ねぇ、最後に、、キス、して──ゲホッ」

 

最期のお願い、叶えない訳には、いかなかった。ゆっくりと唇を寄せて、ふわりと重なった。最期のそれを味わうように長いキスを交わした。

 

「ああ、愛してるよ、侑李」

「わたし、も、、愛、してる……」

 

口を離して互いに微笑む。この頃に及んで侑李が死んでしまうのが怖くなった。それでも時は非情に進む。徐々に弱っていく恋人は、見ていられなかった。次第に声が細くなって、鼓動が止まったのが分かって、目の前が真っ暗になった。

 

 

それ以来、誰かを失うことが、怖くなった。誰かが倒れるのは、見たくなかった。それなのに、何もかもがどうでもよくなって、だからあそこで、隊長の前へ出た。

 

 

───死にたい(死なせたくない)

 

 

 




はい、終了です。
クソゴミな描写、けど分かってくれたら嬉しいです。ニクスとユウリ、二人は死に別れてしまいましたが、来世でまた、結ばれることを願っておきましょうか。

さて、次回の「東方黑剣士」は~?

瀕死のニクスを救う手だてはあるのか?手を尽くす零。そしてニクスは、月の声たちへ語る。

「そっか、けどね


この繋いだ絆は離さない」

次回第二十話「ルールブレイカー」
お楽しみに!
また次回の前書きにてお会いしましょう!
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