東方黑剣士   作:鋏人

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さて、そろそろ物語が動く頃です。今回は新情報の欠片が盛りだくさん、見所たくさんでお送りします。

では、どうぞ!


第二十話 ルールブレイカー

「ニクス!くそ、持てよ!」

 

痛みを訴える身体を無視して、精神だけで零は動く。それを感知した脳は、痛覚を麻痺させる脳内麻薬を分泌した。『祇園様の刃』を使用した依姫は、激しい消耗から即座に退くことを選択した。但し物騒な兵士達を置いて、である。今指示に従わないのなら、今後の指示にも従わない可能性がある。そう判断した彼女は、一部の手勢だけで撤退したのだ、速やかに、かつ隠密に。

それを知らない零は、感情に任せて動いていた。らしくない、と、彼をよく知らない者は言うだろう。しかし、彼の本質は臆病者であり、故に敵を殺し、味方を死なせることを何であろうと忌避する。それが、心義 零であった。

かなりの重傷のニクスだったが、妖力による治癒力活性化で、撤退は可能な程度には回復していた。

 

「総員、撤退せよ!!ニクス、お前も」

 

すると、ニクスはその手を払い退け、一人で動き出した。問題なく立てるという意思表示だと解釈した零は、自身も撤退をしつつ、指揮を開始した。

しかし、ニクスはそちらへ行くことはなかった。その代わり───

 

 

「ニクス!おい、何してる!?」

 

数百の敵と正対していたのだ。それを見て月からも味方からも止めろと声が飛ぶ。月側は嘲笑、地底側は危険と説く。それでもニクスは一歩たりとも動かず、更に月軍の方へ歩み出した。

それを止めようと何人かが動こうとする。

 

「な、何が!?」

「おい、脚が動かねぇぞ!?」

「なんだこりゃあ!」

 

口々にそう言い出した。それを聞いて零も自身の脚が全く動かないことを知覚した。よく見れば緑の糸が脚を縛っているではないか。

 

「ニクス、お前の仕業か!」

 

その糸がニクスへ収束しているのを確認した零は、ニクスがまさか内通者かと疑うも、

 

「みんな、黙って」

 

ニクスからの一言で口をつぐんだ。指示に従ったわけではなく、有無を言わせぬ圧力が、生物としての本能で発言を留めたのだ。そしてニクスは、語り出す。

 

「僕には恋人がいた、侑李という人間の女の子だ。彼女は、僕が妖怪であるにも関わらず、想ってくれた、僕も、侑李を想っていた。けどね、君達が奪ったんだよ、侑李を、僕の目の前で」

 

進むにつれて、語気が強く、怒りが滲み出でいく。

 

「君達は、今度は僕達の希望すらも奪おうとした。あぁ許さないさ、けど、聞きたいんだ、

 

 

なんで?ってね」

 

それに答えた声は、月軍から大きく響いた。

曰く、

地上民が生意気

穢れを祓ったのだ、感謝しろ

妖怪の分際で幸せを夢見るか

悠久を生きる妖怪が、一時の情に絆されたか

等々、散々な言い様であった。

 

「僕はもう間に合わない、だから言わせてもらう

 

 

だけどね、この繋いだ絆は離さない」

 

ニクスは後ろを向いて手を伸ばし、彼の今持ち得る全ての想いを、次の言葉に込めた。

 

「みんな、手を!」

 

それを聞いた零は、この場を愛する人を失った者の最期の場とすることを決めた。

 

「総員、手をニクスに向けろ!」

 

同時に、千何百という手がニクスへ向けられ、ニクスの手から緑の光で出来た『糸』が放たれる。

それは、絆の糸。

この時代、この世界にて発現するはずのなかった、第三の力の欠片。それが、この場所、この一瞬に於いて、願いを糧に力となる。

ニクスの全身を糸が覆い、球を成す。外から中は窺えずとも、そこに強い意思が宿っているのは明確だった。

 球が、動きだす。始めは遅く、後から加速して、三秒後には月軍の真正面へ現れていた。

 

「なぁ?!」

「ぐはっ!」

 

次々に轢殺されていく月軍の兵士達。仲間の無惨な姿に恐れを成した彼らは一目散にその場から逃げようとするが、ニクスは逃げようとする者を端から殺していった。

ニクスは球の中でとても焦っていた。あと少し、ほんの一欠片で敵を撃滅する力が入るというのに、その欠片が見えない。ニクスの頭を恋人の最期の言葉が走り回る。あの言葉はニクスを呪詛のように縛り、明るい思い出を思い出しては、また侑李が居ないことを自覚して殺意を募らせる。

(まだ、視えない。何かが、欠けていて、足りないんだ)

焦りは募る。つまる所、彼は誰も信用していない、否、侑李以外を根本から信用することはないのだ。故に、この絆の力は本来の力を発揮せず、不完全な形でしか発現しない。

その時、声が頭の中で響く。

───ねぇ、ニクス

(侑李?)

───無理しないで、怒らないで

 

───わたし達が生きてたのは、嘘じゃないよ。この想い(恋心)だけは、

 

 

わたしとニクスだけの、キズナだよ───

 

翳った心が晴れていく。燦々と輝く太陽が、雨で濡れた地面を乾かすように。濁った河が、大雨で洗い流されるように。

同時に糸に包まれた姿も消え、誰もが力尽きたかと思う中、その只中にいたニクスは、見えぬ天へ手を伸ばす。地底は文字通り地下にある。故に上を見上げても青空は見えることなく、ただ土があるだけ、そのはずだった。しかし、天に伸ばしたニクスの手と、天井から伸びた一本の亜麻色の糸が繋がる。

その様子は地上からも見えた。ある者はそれを蜘蛛の糸だと言い、ある者はそれを神の御業と言った。それらはどれもが的はずれであり、真実を知るのは地底に居た者のみだった。

 

満たされる。それがニクスの感想だった。幸せな思い出が心を満たし、それを侑李の魂と共有している。その事実が彼の焦りを消していった。

 

「あれは、、、何だ?」

「人や妖怪のやることじゃねぇぞ……」

「じゃあ、神だってんのか?」

 

地底軍は皆がそれに見惚れて、声援も何も忘れていた。

 

「お前ら、今のうちにあの妖怪以外を狙え!」

 

対して月軍は圧倒的な力を見せたニクス以外を狙う策に出た。

 

「総員、妖力防壁───!」

 

零はそれに気付くとすぐさま指示を飛ばし、防壁で被害軽減を図るも、見惚れている味方は対応が遅れ、全弾が命中した

 

「させない」

 

かに思われた。しかしニクスがそれを全て切り捨てて見せた。正に人外、神業としか形容しようのない技に、誰もが驚嘆の声を漏らす

。そして、謎の機械音声に似た声が、どこからともなく響く。

 

『ルールブレイカー

 

 

覚醒(アウェイクニング)!』

 

はっきりと、聞こえた声だが、あまりに現実離れした声に、彼以外は反応出来なかった。

 

「愛し、愛され、失って、終わりの言の葉は虚しく消える。互いに誓ったこの想いは、永久を生きる妖と、永久を創る人の交わり。故に───」

 

彼の脳裏に、最期の言葉が再生される。

───頑張って、わたしの一番(エース)

 

「───繋がりの顕現よ、我に宿れ!

()()()()()()!!」

 

安直極まる名付け。しかし、それは遥か遠い世界で、滅びからひとつの世界を救った英雄の力。それが、時を超え時代を超え、ただ一人の為に形となる。

 

 恋の糸がその姿を変えていく。細く、脆く、淡く、儚い。しかし、その全体が輝き、恋した日々の彩りの多彩さを示す。先のように全身を覆い、宙にふわりと舞ったニクスは、戦闘装束とはかけ離れた姿を以て地に降りた。亜麻と白と藍で彩られ、所々に赤と白の薔薇があしらわれて着物を着ていたのだ。そのような華やかさと反対に、背中には桃色の太刀が顕現していた。

 

「あれは?」

「格好が変わっただけだ!殺れ!」

 

困惑する地底軍に対し、容赦なく襲いかかる月軍。

 

「電光石火、一ノ型『疾風』!」

 

正しく電光石火、白の軌跡を残しながら敵へ迫る。それを見た敵は距離があったために迎撃の姿勢をとるが

 

「その程度で!」

 

認識どころか音すらをも置き去りにして放たれるは音速の蹴り。それだけで敵の一人は頸から上を()()()()()

 

「まだまだぁ!二ノ型『塵風』!」

 

その速さを保ったままに何人かの周りを走り、その風圧だけで風の刃を形成し、太刀の一振りで切り刻む。それの対応に追われながらも、ニクスは無視して次を狙い、また切り刻む。

 

「この、化け物がぁ!」

 

苦し紛れの一振りがニクスに当たったが、信じられないことが起きた。

 

「何か、当てた?」

「あ、うあ……」

 

刃を頭に受けながら、当てた刃が砕け散ったのだ。驚愕の声があちこちから漏れる。そしてその兵は返しの一太刀を浴びせられて両断される。

 

「三ノ型『神速』!」

 

最早目で追うなど不可能な域までに巡航速度が達したニクスは、太刀を摩擦だけで赤熱させていた。

 

「(イレ、見える?)」

「(馬鹿いうなよおい、見えたら大概だぞ?)」

 

そのときに切られた兵は、十分に幸運だろう。赤熱した太刀は被害部分を瞬時に焼き、神経が感覚を伝達する前に切断した。まぁ、頸や胴を両断された以外で腕や足を切断された場合は、痛みこそないがその部位がないことに発狂したほどではあったが。

 

「四ノ型───『幻想』」

 

薔薇が舞う。空中に突然現れる薔薇に困惑する中、張本人たるニクスだけは正常にそれを認識していた。

 

「綺麗な花には棘がある、ってね」

「んな?!」

 

途端に薔薇が針へ姿を変え、一斉に月軍を刺し貫いた。虐殺の様相を呈した戦場で、ニクスは静かに納刀し、居合いの構えをとる。

 

「終わりにしよう、全部全部」

「これが、君への弔いの血だ。君の命を奪った者達への裁きだ。」

 

桃色の波動と共に、敵へと突貫していく。先までのような速さはなく、故に月軍も守りを固めてしまう。それに気付きた零は、大音声で放棄していた指揮を再開する。

 

「全砲兵隊弾種そのまま!地点14以降へ全弾斉射!!白兵全隊に通達、スペルカード全投射!ニクスを支援せよ!!」

 

その言葉は、何よりも速く波及する。思いひとつに、ただニクスという一人の妖怪のために、この瞬間、地底軍はひとつになった。

色とりどりの光弾が舞い、ニクスだけを避けて防壁を崩していく。更に後方から甲高い音がして、無数に血飛沫が上がる。その、ほんの小さな綻びに、ニクスは刃を向ける。

 

「これしか、ないんだ。僕が、今君にあげられるのは!

 

 

電光石火、(つい)ノ型!

 

 

 

 

恩返し(おんがえし)ィィ─────!!」

 

抜刀、同時に波動が全方位に広がり、彼の記憶を伝えていった。

嬉しかった、楽しかった、恋していた、愛していた。誰よりも彼女を想っていたのは、自分だったのだと、人々を結ぶ力を持った者は言う。

だから、許せないのだ、『幸せ』を願った彼女から、命を奪い、『この時間の続き』を願った自分から全てとも言える彼女を奪ったお前らを。その声が、その想いが波及する。

 

「ああああああああ────!!!」

 

波動は刃を包み、巨大化させた。それは、彼が失ったモノの大きさを表すようで、あるいは、人間との儚い恋を謳ったようで、ただただ、虚しさを訴えていた。

 

「いけぇぇぇ!!」

「やっちまえ!」

「つらぬけぇぇぇぇ!」

 

声が、重なる。

 

「いけ!ニクス!」

「思う存分に!」

「ぶちかませ!」

 

心が重なる。

 

『ニクス!貫き通せ!!』

 

絆が、繋がった。

 

それを知覚したニクスは、更に力を込める。全てを出し尽くすかのように、これが終われば死ぬかのように。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

        一閃

 

それだけ、ただ、凄まじい速度の刀が、波動で巨大化した刃で月軍を()()()()()塵に変えた。

 

「お、おお」

「やったぞ、」

「ニクスが、あいつがやったんだ、」

「ニクス!!」

 

そして、ニクスは零達の方を向いて、侑李を堕とした時のように笑いかけようとして、倒れた。

 

「っつ!医療班呼べ!この戦いの英雄を死なせるな!」

 

そして、彼らは、戦友の下へ駆け寄っていった。零に背中を支えられた時、ニクスは笑っていた。

 

「どう、ですか、、僕は、」

「喋んな黙れ!この馬鹿、心配させやがって……!」

「隊長は、、厳しいで、、すね、次、、は、、、どこ、か、別の、せ、かいで、、『結い』の、、殺神者、、、に、なって……僕は、何を、、?」

「ちぃっ───」

 

最早助からない、それは誰の目にも明らかだった。追い付いた全員が、ニクスを円形に囲む。

 

「あ、、れぇ、?なん、で、みんな、が」

「お前のお陰だ。お前のお陰で、みんな生きてんだよ……」

「それは、、嬉し、、い話、です」

「ニクス、お前……」

「後は頼みます、、零隊長、

 

 

 

侑李、、君の、エース(一番)に、なれ、たかな、?」

───うん、しっかりね

 

彼女の言葉は、ニクスにしか聞こえなかった。しかしその表情から、きっと天の恋人からの答えがあったのだろうと思った彼らは、息を引き取るニクスを見ていた。

 

「総員、敬礼!!」

 

それが、零に出来る唯一のことだった。

 

 




はい、終了です!

まぁ、こんな所ですね。これからが本番、反撃なるか!乞うご期待と言った所でしょうか。

次回の「東方黑剣士」は~?

「さて、こんな時に舞い込んだ凶報、お前らはどうする?俺は決まってるが」

凶報とは?選択は?

次回第二十一話「second stage」
お楽しみに!また次回の前書きにてお会いしましょう!
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