お話するのは少し先になりますが、嬉しいニュースが二つ舞い込んで来ました。そして、色々と張ったのでもう逃げられません。このシリーズ完結から逃げる事はもう不可能になりました。頑張ります。
では、どうぞ!
Side 零
煽るだけ煽ってほったらかし。流石にまずいかとは思ったが、一応憎しみを敵に向けれたから良しとしよう。そして次にやるべき事が、人間達への対応だろう。あれだけの事を言って感情を煽ったんだ、何人かがポロリと口を滑らせかねない。滑らせてもまるで痛くも痒くもない訳だが、さとりが心を読む覚り妖怪と情報がリークされて、尾ひれの付く方が問題だ。ここには自分の片想いの相手が悪く言われたくないというエゴが入っているのだけど。それなら、街頭演説の真似でもして、さとりが悪くなくてただ悲しい道を歩いていた女の子だと知らしめていよう。そう思って、人間の居住区へ出向いて話し出した。最初は誰も見向きもしてくれなかったが、次第に寄って来てくれた。
「卑しき覚りの味方めが!」
と思っていた時期がありました。うーんこの具合、こいつあれか、最初に潰した人間の、えーとたしか
「覚り妖怪撲滅団、だったか」
良い思い出なんぞこいつらとは無縁な訳で、人間の居住区でもなんか嫌われてるようだな。だがここで下手に返すと心象が怖いし、
あ、良いこと思いついた。こういうのは自分の立場が誰による物かを知ると良い。それを知らずに勝手に自分の正義を押し付けて、あぁ苛つく。まぁ俺もこれから同じ事をする訳だが。
「さて、其方がここで生きている事は不思議ではないのかな?」
「何?」
「知る筈はないのは承知だが、さとりの許可があってこそ人間が入れば生きて出られぬここ旧地獄に人間を避難させたのだ」
「何だと?!」
「嘘っぱちだ!」
信じられないだろう、当然の反応だ。だが事実に相違なく、ここを統治していたのは紛れもなく古明地さとりだったんだ。どうか知っていて欲しい、どうか許して欲しい。彼女の先祖がした事は到底許容されないが、意図せずに心が視えてしまう力を彼女が嫌っていた事を。
「彼女は自分の力を嫌っていた」
「どういうことだ?」
「彼女は、覚りの力が忌むべき力だと理解していて、だからここに来た。ボロボロだったよ、俺が出逢った時は」
「………」
「喧嘩腰だったのは謝罪する。だから、どうか彼女があの力を嫌っていて、故に彼女の屋敷には動物が多い、その事を理解してくれ」
何度だって頭を下げてやる、何度だって謝ってやる。だから、心が読めるが故に触れられなかった彼女の心に、近づいてくれ。声を聞いてくれ、言葉を交わしてくれ、共感しなくても、理解だけは、してくれ。
「………お前からではない。覚りからの謝罪を希望しよう」
「───感謝する」
「それと、最近若いのが何人かお前の軍に居たな?」
「あぁ、それが?」
「死なせてくれるなよ。人伝に聞いたが、あの天野の家の娘と恋仲だった妖怪が死んだのだろう?
死んでは、恋は愛にならん」
それだけ言って男が手下を連れて帰ると、集まっていた人々も散っていった。おおよそ、あいつさえ攻略すればなんとかなるってとこか。さとりには悪いけど、それはやらないとな。
「って言っても、まだ取り返してすらいないんだが」
そう言って、また自分の胸が痛くなった。
Side out
地霊殿に帰った零は、半分軟禁状態だったさとりの妹のこいし、ペットにして右腕の燐を食堂へ呼んだ。空は燐から話して貰うことにして、今は仕事に専念して貰うことにした。
「で、なんだい?」
「お兄ちゃんどうしたの?難しい顔して?」
「めちゃくちゃ悪い報告が一つあるんだ。
さとりが誘拐された、月の奴らにな」
「えぇっ?!大事じゃないか!どうすんのさ!」
「え?何?誘拐って?」
「こいし様、敵に無理やり連れて行かれたってことです!」
「ええ!?大変だよお兄ちゃん!」
「落ち着いて」
二人しか居ないのにこの具合。こいしには姉として、燐には慕う上司として、さとりが愛されていたのが理由であろう。
「大変だよ、大変だってば!」
「あぁ分かってる。だから早めに取り返す策を用意した」
「零さんにしては早いね?いつもならもっと慎重なのにさ」
指摘を受けた零は苦い顔をする。こいし達には言っていないが、万一捕まった場合のあの劣悪妄想ファイル。あのような思想が末端まで行き渡った軍とは思いたくもないが、敵司令官である綿月依姫が見捨てた程度ということは、練度を抜きにしても大概だということであろう。
「燐、良い勘だ。後で話す」
「なーに?」
「こいしにはまだ早い、大人の話だ」
未成年者が何百歳の妖怪に何を言うかと言われかねないが、女性に年齢の話は頭をぶち抜かれなねないので不問とする。
「二週間、それだけ待ってくれれば、また会える。約束するよ」
「むー、分かった。わたしまってる、だから約束ね!」
不満顔だが、零の腕が立つことは分かっているこいしは、約束ならばと了承した。そして無意識の能力で途端に消えてしまったのを横目に、燐と話をする。
「で、早めとは言っても二週間後かい。どんな理由が?」
「兵の士気と武器の用意次第じゃ明日もあり得たが、そうじゃない場合を考慮して。そして元々二週間後には地上を奪還する作戦があったんだ。それに合わせてって格好だ。まぁあの様子なら遅くても一週間後には再会出来るさ」
そう言って零な苦笑いをする。煽りはしたが、あそこまで巨大な敵意となるとは思いもするまい。良い方向に誤算だったことを喜びつつも、それが原因で空回りすることのないように手綱を握ることを決心した。
「じゃ、即断の理由は?」
「言いたかないが、月の使者が山に来た時に紙を緒として行ってな」
「へぇ、それと関係があったのかい?」
「下衆な妄想さ。だがあれが下まで行ってるとすると───会えても無事は期待するな」
「どうせそんな所だろうと思ったさ。あたしゃ無事を期待するがね」
そう言って去る燐に、零はかける言葉を持ち合わせていなかった。
それから四日の零の心中は大荒れだった。好きな少女一人救えぬ自分への情けなさ。準備が整わぬ軍への苛立ち。誘拐し、下衆な遊びに興じているであろう敵への怒り。そしてふとさとりの部屋を訪れては、あの報告がただの幻であることを願っていた。
零は存外一途である。どれ程かと言えば、この世界に来る前は振られた女へ未だに想いを向けていた程である。そして表に出ないがネガティヴな思考回路をしている。何処かにも記述した臆病者が当てはまる。誰より臆病で、誰よりも失敗を恐れ、誰よりも考えるが故に、彼の策は必中かの如く当たる。最良、最善、まし、悪い、最悪、どれになるか視ることが出来れば良いのにと、有り得ぬことを夢想した。だがそんなことはない、だから何十もの手で迫る敵を絡め取った。
自分をさとりは許すことはない。そんな思考の出来る者が居る筈がない。ならば彼女に穢らわしい手で触れた者を、穢らわしい目を向けた者を悉く殺す。零はこの瞬間、非情となる覚悟を決めた。
そして五日目、ふと手元に渡された書類を何気なく見ると
「これは……?」
『地上奪還作戦改』
それを持って来た者を見ると、狼鬼がくくくと笑っていた。
「酷い顔だったからな。持って来てやったぞ。兵の士気は天元突破、武器は潤沢過ぎるくらいだ。後はお前次第だ」
そう言って去った狼鬼には目もくれず、零はその作戦を見直しながら、作戦をシュミレーションするために使っている将棋駒と盤を取り出して、駒を置いて動かしていった。
概要はこうだ。元より零は防衛戦から二週間後に速攻の形で用意を整えて、妖怪の山、特に捕虜と宇宙船ドックを優先的に解放。そして敵の発進前に上から山全体の制空権を確保するといったものだった。これを元に、速攻性は落ちるが山の司令部全体の解放を優先とし、捕虜確保から後に状況次第でプランAとBに分けていた。プランAは原案通り、準備の整わぬ内に制空権を確保する方針。しかし敵の艦隊が出て来るのは目に見えているため、即時迎撃体制をとり撃滅する作戦。プランBは敵の迎撃が速かった事を想定しての、妖怪の山でのゲリラ戦。一目見ただけで零はプランBを除外した。自分ならば上から無差別攻撃で地上を更地にするし、有利を捨てるのは愚策と判断した。プランAにも穴がある。相手は確認した中では二個艦隊。しかし大きく損失したため本来の艦数ではない。それでも数的不利は避けられない。おまけにあの絶対防御のような能力を持つ指揮官が居ては打つ手なし、詰みである。
「まぁ、それは地上戦でも同じか。それより、地上はあの綿月が居る限り勝ち目が見えない………」
頭を抱えた時、ふと思い出したことがあった。初めての宇宙戦争、正式名称は『光明作戦』だが、あの最後に防御能力者と偶然戦ったとき、苦し紛れの砲撃が敵の内部で反射したことがあった。あれが能力のデメリットと仮定するなら、比較的密集を余儀なくされる大気圏下では、集中砲火の得意な自分達にわざわざ的となりに来るだろうか、否だ。
「ふむ、取り敢えず艦隊だけでも引いてくれたらそれでおしまいか。食糧も………人里があったな。どうするか」
構築を済ませた零は、プランAの改良作戦を作ると、作戦名を付けて幹部達を召集した。
召集された幹部達は、憑き物の取れたような零に安堵しつつも、何処か疲れた様子に心配した。
「あの、司令……お顔が優れないようですが……」
「あぁこれか。ちょいと無理しただけだ。仮眠は取った、気にするな。
さて、皆に集まって貰ったのにはわけがある。地上奪還作戦が完成した。これを見てくれ」
「ふむふむ───って、これは博打ですよ!」
「そうだって、流石にここまではまずいと思うぜ」
「博打は最低限だ。ここまで深く読める程敵が出来るとは思い難い」
失礼極まりない発言であるが、これまでの暴れっぷりから月軍は幾らか慎重になっている筈であり、そして侵攻方面軍は綿月依姫が指揮官と考えると、個人としては戦略級であるが、あの場面で取った行動が数での正攻法でしかなかったこと、あの能力を使って前線を纏めて消し飛ばさなかったことから、『読み』のレベルは大きく見て同格程度と判断した。
「決行は明日ないし明後日。準備の整い次第教えろ。この作戦の成果で、一人の少女の痛みの量が決まる」
「ですが、この精鋭には司令も参加するので?」
「悪いが、そうさせてくれ」
「何の為だ?」
狼鬼の言葉に動きが止まる。目が泳ぎ、どうやって嘘をつこうかと頭が回転する。しかし、嘘を嫌う鬼が、それを見逃す筈もない。
「嘘は結構、俺達は嘘が嫌いだ。──なに安心しろ、秘密は守る」
「………詰みだ、白状する。まぁ楽にしてくれ
さとりに惚れただけだ」
『はぁっ?!』
零が異空間で指揮を執っていた間にも、さとりの手足となって手伝い、一部の者は相談にも乗っていた面々は、おもいっきりずっこけた。恋愛相談なぞされてもなぁと困っていたら、その相手から惚れたなんて聞いた日には、驚かない方が無理であろう。
「どうした、俺だってそういうのはあるさ。なんだ、俺が鉄血だとでも思ってたのか?」
「いやその、俺らだってびっくりするわ。そんな素振りもないんだから」
ふふふ、零は俯き加減に笑う。その様子が、零とお似合いだとからかわれたさとりと重なり、やはりお似合いだと思う一同。何人かの両片想いという沼に居る者は『尊い』と思考停止していたが。
「さて、この作戦の名前を発表する。
『
ソラから奴等に鉄槌を下せ」
『了解!』
彼が再びソラを舞うとき、その下には何が立つことを許されるだろうか。
はい、終了です!
ここから地上へ、そして一気に完結へ向けて走ります!どうぞお願いします。
最近感想がない、欲しいからちょうだい?(感想乞食)
次回の「東方黑剣士」は、
第二十三話「超越の欠片 前編」
お楽しみに!また次回の前書きにてお会いしましょう!