東方黑剣士   作:鋏人

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はい、ではやって行きましょう!
私事でありますが、私のリア友、ユーザーネーム『鮭猫』が初めての投稿してるので、是非見てあげてください。
あと、本作品は7月中旬を以て一周年です!数々のお気に入り、感想ありがとうございます!感謝申し上げます!

では、どうぞ!


第二十五話 泣いて

 切り裂かれたダツの遺体を確認した零は、ルールブレイカーの反動で朦朧とする意識を鞭打って起こし、戦闘の経過について直属の部下の俊博へ問うた。

 

「おい、どこまで戦闘は経過した?」

「何を言ってるんですか隊長、後はあなたの戦いだけたったんですよ?」

「そうか………迷惑掛けたな」

「いえお気にならさず。寧ろそっちに夢中でハラハラしっぱなしでしたがね」

 

それは問題じゃないか、と笑うことも出来ず、苦笑で返す。そして、詳細な結果を確認した。

 

「それで、損失、捕虜の状態、敵の撃破量は?」

「はっ、我々の被害は大きくなく、死亡は全軍の七分程度。負傷は重軽傷含め三割九分です。捕虜は、負傷こそあれ精神的に大きな問題はなく、治療さえ完了すれば戦線復帰も可能です。敵は今確認出来る所死亡が3164人、重軽傷6381人、残りは行方不明です」

「捕虜には図に乗らない程度に丁重に扱え。交渉のカードだ。それと───」

「さとり様でしたら、お怪我の具合と精神状態を考慮して即刻地霊殿へ搬送しました」

 

有能な部下を持った、そう心の中で言った零は、先の戦闘の事は一応箝口令を敷くことを指示すると、気だるそうに伸びをした。

 

「かなり疲れた」

「でしょうね。あんな無茶すれば当然です」

「今は先勝ムード高めておこう。次は人里の防衛隊を狙うし、士気は高い方が良い」

「何か策がおありで?」

「とっておきだ」

 

黒い笑みを浮かべた零は、俊博へ「全軍地底へ撤収」と伝えさせると、自身はその明るい雰囲気の中で一人暗い目をして、医師の治療を受けつつ地底へ帰還した。

 帰還するや否や、即刻戦闘レポートを作成し出す零。本音としては一刻も早くさとりの下へ走りたいが、末端ならいざ知らず、彼は地底軍の司令官である。そんなことは許されない。簡易で済ませる手も考えたが、事務処理のまともな部下の人数を数えて絶望し、即日で必要なものを纏めることとした。

 

「(今回は奇襲が上手くいったが、次が問題だ。あいつらのこと、すぐ気付いて艦隊を差し向けてくる。ならば上は俺が戒めるとして、下はどうしようか。やはり地上軍か、再編を数日以内に済ませて貰うように掛け合うか)……さとり、大丈夫──じゃないよな。早く帰りたいけど、この量はなぁ。あーもう!」

 

一応これ、司令部での発言であり、最後の言葉は見事に全員に聞かれていた。幹部陣は本人からカミングアウトを喰らってまだマシであるが、目の前の司令官に惚気られて通常の精神状態で居られるほどではないのである。

 

「あのー、司令」

「ん?どうした?」

「差し出がましいですが、さとり様の下へ帰られては?てかそれ、こっちでやる筈の書類なんですが」

 

ここで零、勝手に仕事を増やしていたことが見事にバレた。それを聞いた狼鬼と天が手元を覗こうとする。

 

「狼鬼、天、何してる?」

「お前台所(経理)の仕事パクってただろ。俺らの分も───」

「そんなこと────あっ!」

「あるじゃねぇか!」

 

即バレである。狼鬼らの仕事の部隊単位の被害、天ら担当の砲の消費までもして、仕事を増やしていたのだ。ここまで仕事熱心であることは称賛に値するが、想い人が精神的に悪い状態で近くに居ないのは屑であると持論のある鬼、横の繋がりが強い天狗と、これでは逃げ場などないに等しい。

 

「さぁ、隊長の仕事は終わりましたから帰って下さい。じゃないとさとりさん、心配しますよ」

 

天に言われた零は、司令部内を見渡して了承を貰うと、

 

「恩に着る。頼んだ!」

 

脱兎の如く出ていってしまった。そして数十分後、零が意図して量の多いものを取っていたことが分かり、有り難みをひしひしと感じることとなる一同であった。

 地霊殿へ帰った零は、門番を蹴飛ばして扉を体当たりで開けてさとりの部屋へ一直線に走った。

 

「さとり!」

「ひぃっ!?」

 

部屋の扉を乱暴に開けると、桃色のベッドに座り、身体を起こしていたさとりと目が合う。

 

「痛いの………もう……止めて下さい」

 

憔悴し切った様子を見て、やはり月の奴等は滅ぼすと決意すると同時に、その姿に胸が痛む。

 可愛らしい両手の指が第二関節から切り落とされ、白かった肌には様々な形の傷が踊り、瞳は光がなかった。かつて地霊殿へ零が来たときよりも遥かにやつれた姿を見せるさとりに、せめてもの慰めをと思って近寄った零は

 

「来ないで!」

 

涙目のままおもいっきり突き飛ばされた。しかも手には妖力が纏わせてあり、自分へ敵意を向けていることを嫌でも理解した。

 

「さとり、何があった?」

「零さんが言ったんでしょう!『お前が憎い』って!」

 

ダツの使用したスペルカード『未来の傷』は、自身が最も恐れる結末を、覚りの能力で構築させるもの。一度捕らわれれば最後、そのまま廃人へ一直線である。しかも、それは心が折れても繰り返し繰り返し再生され、しかし前のパターンにはなかった様々な罵倒が浴びせられる。さとりにとって唯一の血の繋がりを持つこいしに否定され、慕っていた相手に殺された。そして再生させる度に新たな傷を作っていった。

 

「俺は、そんなこと────」

「言いました!間違いなく「お姉ちゃん!」」

 

こいしが扉を開けて入ってくる。しかし、それすらも

 

「出て行ってこいし!貴女は私が嫌いなんでしょ!」

 

心無い言葉がこいしを抉る。

 

「そんなこと言うお姉ちゃんなんか嫌い!」

 

開口一番あまりに強烈な一言を浴びせられたこいしは、一気に泣き出すとほんの数秒で踵を返して出て行った。

錯乱状態でダツに見せられた幻覚と現実の区別が付かなくなり、今にも暴れだそうとするさとりの様子を見かねた零は

 

「ごめんな、さとり」

「あっ………」

 

霧を使って意識を奪う。大まかにさとりの掛けられた幻術の当たりを付けると、今可能性のある対抗法を幾つかリストアップ。そして何もなかったように部屋を出ると、真っ先に世話係に声を掛けた。

 

「なぁ、ちょっといいか」

「あ、零さん。どうしたんです?」

 

誘拐前から警備に就いていた天狗は、零を見ると顔を綻ばせる。

 

「さとり様に良いご兆候でもありましたか?」

「いや真逆」

 

それで綻んだ顔が一気に冷める。近い者だから期待されたのだろうと思いながらも、どだい無理な話だと嘲笑した。

 

「どうやら親しい人物に傷つけられるタイプの幻術を掛けられたようだ。食事は毎食運んでくれ、出来るだけ他人と顔を合わせないようにしろ」

「事実上の軟禁ですか」

「そうだ、精神が安定するまでは出すな」

 

苦い顔をした天狗は、「零さんならと思ったんですけど」と言い残して行ってしまった。その言葉の真意は終に分かることなく、零はこいしを追った。

 こいしを追っていた最中、見慣れた筈が懐かしい矛盾した背中を見つけた。

 

「おーい、翔弥ー!」

「おっ、零!一月くらいか?」

「あぁ、そんなもんかな?戦闘し過ぎて覚えてないね」

「それはそうだな。それで、何してる?」

「こいしを探してる」

 

翔弥の途端に表情が険しくなる。何かあったのか、何故地霊殿に居ないのかと推測を巡らせ、意味がないことを少し遅れて察し、当事者に聞いた。

 

「何があった?」

「……さとりを誘拐された。後方からの裏切り者だ。既に裏切り者は処刑、さとりも取り返したがさとりは敵に幻術を見せられて錯乱状態だ」

 

苦虫を噛み潰したような表情をした零は、何への苛立ちかも自分すら分からないままに声の調子が低くなった。

 

「こいしは無事なのか?」

「あぁ、だが錯乱したさとりの言葉で泣き出してしまって、出て行った」

「丁度いい、俺が探す」

「頼んだぜ」

 

その語尾に少しの違和感を感じる翔弥。

 

「お前、話し方変えたか?」

「いや、そんなことはしてねぇけど」

 

明らかに変わっているが、そこに追及するのも野暮な話であるので放っておいて、感知の能力を使いこいしを探し出した。

 一方残った零は、いきなり出て来た普段と違う口調に少々驚いていた。

 

「イレ、勝手に出てくんな!」

(悪い、少しおかしかったみてぇだ)

「どうしたんだよ一体」

(そろそろ()()んじゃねぇの?)

「何がだよ」

(お前と俺が一つに)

 

思えば最初のように零のときは物静かかつ優しげ、イレのときは積極的で攻撃的と正反対ではなくなっていたので、徐々に戻りつつあるのかもしれないと思ったが、6年もの時を過ごした人(?)との別れかもしれないのは残念な思いがあった。

 

「ルールブレイカーが引き金か」

(多分な、お前は仕事あるんじゃね?)

「地霊殿に戻る。仕事は任せて来たし、そうだ、脳内チェスやるか?」

(お互いの点が筒抜けなのは戦略性ないぜ)

 

乗りの悪い奴、とぼやいた零は、イレからの反撃を喰らうこととなった。

 感知の能力で地底を虱潰しに探索していた翔弥は、大通りからかなり離れた位置に感じ慣れた妖力を見つけた。しかし周りに何体かの低級妖怪、つまり思考能力すら持たない獣のような妖怪が居るようである。こいしに密かに想い寄せる翔弥としては、同じ妖怪であっても少女に血を見せることは本意ではない、よって空からこいしが気付く前に仕留めることにした

 

「薄く、鋭く……」

 

風を絹のように薄く、槍のように長く変形させる。その風を腰から抜いた風斬剣に纏わせて、翔弥は空の魔王もかくやと言わんばかりの降下角度で突撃する。

 

「あっ!翔弥ー!」

 

そんなこととは露知らず、さとりの言葉に少なからず傷ついていたこいしはよく知る気配に感づいて無理に笑顔を作る。しかし翔弥の鬼気迫る様子からさとりへの暴言がバレたのかと思った瞬間

 

「こいし!伏せろ!」

 

半ば強引に押し倒され、頭がフリーズした。言われたことの内容もよく理解せず、恋する乙女の桃色思考回路を展開しかけた時

 

「『音無弐式 無痛』」

 

視界に現れた低級妖怪の全てを、翔弥が切り捨てた──筈が、未だに動き続ける。

 

「いやぁぁぁぁ!」

 

そのおぞましさに悲鳴を上げた直後、低級妖怪達が一斉に崩れ落ちた。しかしこいしがそれを見ることはなく、翔弥に抱き抱えられた。

 

「えっ、ふぇ、その、あの───」

 

突然出て来た翔弥とその行動に驚きのあまり言葉にならない声が口から漏れる。

 

「零から聞いてな、地霊殿出たんだって?」

「………うん」

 

しかし翔弥の言葉で現実へ引き戻され、それでも翔弥には泣き顔を見せまいとする。こいしは翔弥のことが、有り体に言えば好きなのである。その当人の前ではせめて笑っていたい。心を閉じて逃げた自分は、未だに翔弥へ素直になれずにいた。

 

「なんでだ?よく聞かなかったんでな」

「私……ちょっと散歩したくなって」

 

別段おかしくもない理由。無意識の能力を持つ自分として問題ない回答だったが、

 

「そんな顔で散歩するかっての。素直になれって」

 

こいしを下ろして、目の高さに視線を合わせる翔弥。嘘だ、そんなことは分かっている。だが本人から話を聞いてやりたい。

 

「私、お姉ちゃんに、酷いこと言っちゃって

苦しいのはお姉ちゃんなのに、辛いのはお姉ちゃんなのに、私、わたしっ………」

 

声が震え出す。頬を生温かい液体が伝う。視界がぼやける。泣くのは自分であってはならないのに、気丈に振る舞うべきは自分だと理解しているのに、涙が止まらない。

 小さな嗚咽を上げて泣き出してしまったこいし。それを見た翔弥は柔らかくこいしを抱き締める。壊れてしまわないように、何処かへ行ってしまわないように。

 

「違う、ちがうっ。これ、はわたしの、本心じゃっないからっ」

「泣いていい、泣いててくれ。じゃないと───

 

 

お前まで壊れちまうだろ」

「翔弥ぁ!」

 

優しく背中を撫でながら、翔弥は言い続けた。泣いていていい、君は何も悪くない───と。

 

 




はい、終了です!
うーむ、ここからの展開に悩みます。下手に進めると打ちきり漫画みたいになっちゃいますのでね。
まぁそこはここ一年で成長(笑)したので、なんとかやっていきます!
次回の「東方黑剣士」は
   第二十六話「君の味方に」
お楽しみに!また次回の前書きにてお会いしましょう!


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