東方黑剣士   作:鋏人

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………前書きカットしようそうしよう。

では、どうぞ。



第二十七話 寄り添って

 さとりの錯乱が発覚して一日程後、地霊殿にて、心義零は自室の椅子に腰掛けていた。一見目を閉じて安らかに眠っているように見えるが、その頭の中では二つの思考が戦争を繰り広げていた。

 

 さとりの傍で彼女の心が治るまで支えたい───

 さとりを無視してでも、この戦争を終わらせるべき──

 

結局の所根底にあるのはさとりへの想い。しかしその心に寄り添うべきか、自身のやるべきことを為すべきなのか。その一点で揺れていた。

 

 頭が空回りし出した頃、零は立ち上がって

 

「なぁイレ、お前はどう思う?」

 

自分の半身に問い掛ける。

 

「おい?イレ、イレ?」

 

返事がないことを不審に思った零は、ベットに横になると、精神を集中させる。そして脳の創り出した精神空間に移動した。

 

「おい、イレ、どこだ?」

「おう、ここだここ!」

 

片手を上げてからりと笑うイレ。しかしその白と黒の反転した目では、裏に隠した表情は読み取れない。

 

「前に来たときより透けてるぞ」

「あぁ、お別れってやつか?」

 

イレに今まで助けられて様々な常軌を逸した行為をしてきた零にとって、イレの損失は大きいものとなるだろう。例を挙げるなら高速思考、これは思考の分担をしていたものである。更には二刀流も、片手をイレに任せて自由自在に動かしていた。

 なんでもありの精神世界で、特に二人は何もすることなく、足をつけている地に腰を下ろした。

 

「ほんと、助けられっぱなしだったな」

「んなことあらすか。本当だったら目覚める筈もねぇ俺を起こして、必要としてくれたのはそっちだぜ?」

「お前のおかげだよ。そうじゃなければ『ルールブレイカー』すら解放出来ずに終わってた」

 

向き合うでもなく、背を向けるでもなく、どこか遠い所を見るようにイレは首を回す。同じように零も首を回すが、見ていたのは地面だった。

 

「もう、終わりか?」

「約6年、副人格としちゃあ持った部類だろ」

「………ありがとう」

「自分に言われるのはこそばゆいねぇ」

 

両親の殺されたとき、突然出てきて思考を一気に冷静にさせてくれた。それのお陰で死なずに済んだ。

 

両親の死後、唯一の理解者として隣にいた。

 

良くあれ悪くあれ、積極性を教えてくれた。

 

戦争になると分かったとき、表に出て補佐してくれた。

 

要塞戦線で肩を並べて戦った。

 

「本当に、、、、ありがとう」

「止めろって、気持ちわりぃぞ?」

 

本心からの感謝に、苦笑しながら返すイレ。

 

「もうさ、持ちそうにねぇわ。だから聞いとくが

 

 

『勝てるか?』」

 

それは、戦争前夜にイレに問うた言葉。当時「分からない」と答えたイレに対して

 

「『勝たせる』」

 

零は、そう言った。勝つ、のでも勝てる、のでもなく、『勝たせる』。自分だけの力ではなく、皆の力を以て戦争を勝利に導く。その意思を示した。

 

「分かった。あ、最期に言っとくけどよ。─────ってことで『お前、選ばれたぞ』」

「……まだ戦えってか?」

「ルールブレイカーでなんとなく分かってたろ?」

「あぁ」

 

道は示された。逃げることは出来るが、その先には愛する全ての消失が確定していて、戦おうとも未熟なら全てを失う。

 

「それでも、俺らは戦う。そうだろ?」

「無論だ。『幻想郷宇宙軍』の司令官───いや『古明地さとり』を守るためにな」

 

戦い、勝利しても、何を失うかは分からない。

 

「勝てよ、心義零。てめぇに賭けてるんだ」

「賭けられなくても勝たせるさ。あの時決めたんだ

 

 

『彼女の笑顔のために』って」

「一言、惚気の加減間違えんな」

 

少しずつ、イレの身体が透明になり、光の粒子として消滅していく。それでも、互いに悲しさはない。

 

「一つに戻る、それだけなんだ」

「分かってるさ、戻ったらきっちり働いてもらうぞ」

 

消えるまで残り僅かになり、ハイタッチを交わそうとして腕を伸ばした。そして二人の腕が交差する寸前

 

 

──イレは、消滅した。

 

それと同時に精神世界も用がなくなり、零は自身の黑をもって空間を食い潰した。

 

「戻るか」

 

そして自室のベットで目を覚ました零は、鏡の前で崩れた髪を直そうとする。

 

「伸びたな、そろそろ切った方がいいな。またさとりにでも───」

 

あまり伸びるのが早くはないが、それでも三月四月となれば話は別である。そこでたまにはさとりに頼み髪を切ってもらっていた。

しかし今は頼むことは出来ない状況であることに気付いて、何気ない一幕が貴重であったことを思い知る。

 

「………衛生班のやつに頼むか」

 

呟きは急に吹いた風に掻き消された。

 

 その日の夜、零はさとりの部屋を訪れた。ドアを開ければさとりはまだ起きており、零を見て取り乱しかけたが、

 

「覆ってくれっ……」

 

霧が記憶を『心の奥底に封じる』。

 

「っ、あれ?零さん?」

「ごめん、さとり」

 

片目を閉じ、拳を握って立ち尽くす零に、しかしさとりは

 

「大丈夫ですよ、こんなの───

 

 

 

慣れっこです…から」

 

無理矢理に笑うが、それがひどく自虐的に見える。そして霧による記憶の蓋が、沸騰した薬缶の蓋のように激しく震え、少しだけ記憶が漏れ出す。

霧によりあのときの記憶を封じることで表面上は普段のさとりへと戻るが、身体に残る傷から、自身の状態は察してしまう。そしてそれにより記憶の蓋が外れれば、幻覚と現実の区別が付かなくなる。

 

「無理、するな。俺がいる」

「はい、零さん───」

 

「俺がいる」と言ったその言葉は、さとりより寧ろ自分へ向けた言葉だった。

 

  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「零さん、少し恥ずかしいです」

「俺も。だけど、前にもこんなことあったよな」

「あれは、びっくりしました」

「そうだな」

 

さとりの願いから同じベッドに入った零は、さとりと向き合う形で横になっていた。錯乱の原因となる記憶を塞いだだけで、これまでの扱いを封じた訳ではない。それ故に錯乱状態では憎しみに耽っていたことで過ごした時間も、孤独と捉えてしまった。

 あの時とは違う。それは既に二人の知る所だった。互いが互いを想い合う。そして零はさとりのために戦い、さとりは零の還る場所となるために力を尽くす。

 

「ごめんなさい、迷惑掛けて」

「大丈夫、死んだ訳じゃないから」

 

一々抱えるなと言う零は、さとりの手を取って自分の胸に当てた。

 

「ほら、動いてる。まだ生きてる、また戦え───っ!」

「そんなこと、言わないでくださいっ!」

 

生きていればまた会えるからと言う零に、もう片方の手で平手打ちを食らわせた。まだ戦うのかと、その瞳が問いかけ、口も同じことを問う。

 

「まだ、戦うんですか?もう、十分じゃないんですか?貴方は地底の妖怪なのに、なんで関係もない地上まで守らなくちゃいけないんですか?」

 

そう、本来ならば交わることなく世を終える筈だった地底と地上。その二つの間に入り戦へと赴いているのは、他でもないこの青年なのだ。

 

「まだ戦う。まだ不十分だ。俺は地底の妖怪だけど、俺ね部下は両方に居て、関係ないなんて言えないんだ。自惚れ抜きに、俺は幻想郷の最高戦力なんだ。力がある、戦う理由がある、部下がいる、護りたい人がいる。それで十二分だ」

 

それに───と零は続ける。

 

「君をまだ笑顔に出来てない」

 

零とさとりは、手を合わせる。そして指を絡めて握り合うと、どちらとも言わずに抱き合った。

 最後に零は小さく言った。

 

────さとりに寄り添って

 

と。

 

 




はい!終了です!二人の距離を間違えた、だが問題ない!(フラグ)
平和で戦い要素のないのは終わりです。もう一度戦場へ戻ってもらいましょう。
次回の東方黑剣士は
 第二十八話「第二次迎撃戦」
それでは、次回の前書きにてお会いしましょう!
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