東方黑剣士   作:鋏人

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第二十八話 第二次迎撃戦

 さとりの部屋で目を覚ました零は、そっと布団を出て自室へ向かった。そして季節外れの黒いロングコートを着ると、地底軍司令部ではなく宇宙軍の司令部へと飛んだ。地底の穴を出る瞬間、地霊殿の方を軽く見遣ってにこりと笑った。

 宇宙軍司令部のドアをくぐって、真っ先に作戦会議室へと向かった零は、その道中で何やら異様に軽い足取りの人物を見付けた。

 

「あの、どうされました?」

「んん?おお零!聞いてくれよ!」

 

翔弥である。何やらとても良いことがあったようで、顔がさっきから緩みっぱなしだ。そして向かいには椛と俊博が苦笑していた。

 

「翔弥よ──ってお前ら、どうしたその顔」

「いやぁ、その、ですねー」

「正直に言ったら消されそうなんです」

 

正直者を消す趣味なんてないぞと困惑してみれば、翔弥が緩んだままの顔でこう報告してきた。

 

「聞いてくれよ!

 

 

 

こいしと恋人になれたんだぜ!」

 

直後、零の周りの空気が凍った。そして自分がとんでもない失敗をしたことに気付いた翔弥は青ざめるも、既に遅い。

 

「しょーうやー?」

「ヒッ!」

「てめぇぶちのめすぞ?」

 

そして片手が上がった瞬間、司令部全体に放送が入った。

 

『報告!敵が幻想郷北部に降下!数は130ほど!速やかに迎撃せよ!繰り返す!敵130が北部に降下!迎撃せよ!』

「ちぃっ!俊博!大夏は?!」

「おそらく───「すまん零!」来ました!」

「なんでもいい、とっとと格納庫へ!全力出撃だ!」

 

階段を駆け下りてきた大夏と並んで格納庫へ走る零。格納庫では慌ただしく準備が始まっていた。

 

「おい!ミサイルは戦艦と重巡だ!」

「主砲が撃てりゃいい!エネルギーだけ満載しとけ!」

「新造艦がありますけど乗員の練度が………」

「出せ!それで数は相子なんだぞ!」

 

そのいきなりの様子を横目に、零達は旗艦ペルセウスへと乗艦した。

 

「紅!出れるか!?」

「お任せあれ!」

「妖夢、三助!」

「副砲用意、あと少しかかるよ!」

「大夏!システム同期開始!」

「了解だ!」

「椛、レーダー展開!」

「はい!」

 

そして、ほんの数十秒の後には

 

「機関出力最大!」

「全砲門用意よし!いつでも撃てます!」

「全艦との同期よし!」

「レーダー展開!索敵開始!」

 

三度その艦がうなりを上げる。重厚な鋼鉄の塊が、動き出す。

ペルセウスの艦橋で、零が声を張り上げた。

 

「宇宙軍全艦、出撃せよ!!」

 

格納庫の扉が開き、眩しい光が差し込んでくる。その光に向かって、100を優に超える艦が飛び立った。

 

「全艦に通達、レーダーに映る影は全て報告せよ。それと今回は宇宙母艦と宙雷艇を出撃させている。軽巡、駆逐は寄ってくる間抜けを蹴散らせ」

 

そう、今回の戦闘には初参戦となる航空戦力を投入した。全長は300メートル程度の大型母艦、『ベンケイ級』七隻と全長90メートル程度の宇宙雷撃艦『クラーケン級』四十隻である。ベンケイ級は四十の戦闘機と三十の対艦攻撃機、十のマルチロール機を標準として搭載しており、装甲は薄いが破壊力の高い駆逐艦などを攻撃することを主眼に置いている。

ポセイドン級は無誘導ロケット弾を満載した艦艇で、誘導能力のない分爆薬を詰め込んである。その一撃は、戦艦すらも容易に撃破する。

 

 両艦隊が接敵したのは報告された地点からおよそ10kmの場所。数は報告より少ない。月の艦隊はそこにいた陸軍に補給を行っていたのだ。

 

「敵護衛艦隊発見!戦艦16、空母7保有!」

「目標を護衛艦隊へ!全艦戦闘態勢!」

 

その声と同時に全ての艦艇の砲門が開き、カタパルトから戦闘機が飛び立つ。ほんの1ヶ月そこら前に散々に叩きのめされたのが嘘のように、堂々たる姿を見せる。

 

『ウォーウルフ1より旗艦、戦闘許可を!』

「ウォーウルフ1、許可する」

『了解!全機エンゲージ!』

 

零からの言葉に弾かれたように四機編隊の戦闘機が矢のように突撃していった。そして直後、通信回線には空戦を告げる言葉が飛び交った。

 

『ファルコン3ヘッドオン!』

『ウォーウルフ2、ミサイルだ!ブレイク!』

『ホーネット28が殺られた!』

『全機散開!目を皿みたいにしろ!』

『兎に角避けろ!一瞬の隙が見えるまで撃つな!』

 

流石に練度差から制空権は奪われ、爆撃機が艦隊に飛来する。

 

「対空攻撃始め!」

 

零の号令一下、無数の光弾が爆撃機を撃ち落としにかかる。しかし爆撃機はその重厚な装甲とそれなりの機動力をもって弾幕を掻い潜る。そこには爆撃機の練度以上の問題が浮かんでいた。

 

「艦隊左舷投射量増加!モタモタすんな!」

「伝令!左舷の戦艦三隻に爆弾が直撃、被害甚大!」

「なんであれで───くそったれ!零、あいつら弾幕を知らんようだぞ!」

「そんなとこまで手が回るか!」

「個々の移動はお前らでやれ!俺ら(ペルセウス)はボーイスカウトじゃねぇんだ!」

 

圧倒的な乗員の練度不足から、数としては勝るであるにも関わらず劣勢を強いられていた。それも当然であり、光明作戦で戦力の約五割近くを失った幻想郷は大きく弱体化していた。それでもここまで人員を揃え、また教育も施せたのは紫の創った空間で、短時間なら回収可能だったことが大きいだろう。

 

「ふぅ……やるか」

 

そう言うと零は腕を目一杯引き絞り、伸ばすと同時に言い放った。

 

「ペルセウス、前へ出るぞ!全門薙ぎ払え!」

 

ペルセウスの機関が悲鳴を上げ前方へ飛び出した。そして砲塔が旋回しながら光を吐き出す。それで月軍が対応にほんの一瞬戸惑ったとき、

 

「今だ!主砲斉射三連!!」

 

止めようもない光の奔流が叩き付けられた。優勢になるかと思われたとき

 

「っ!本艦隊後方に敵影!!約四十!」

「やられた……!」

 

敵の正確な数を把握する前に攻撃してしまい、目の前のそれがほんの九十しかいないことに気付かなかった。しかし既に敵は砲門を開いており、待ったは利かない。判断に迷う零を置いて大夏が動いた。

 

「全艦最大出力!艦内重力オンライン!艦首を天頂に向けろぉ!!」

 

戦闘機の釣り上げのように全ての艦艇が空へと向かう。これによって全滅は免れた状態だが時間はまったくない。

 

「零!さっさとしてくれ!」

「……悪い!

 

 

 

全艦に通達!()()()()()()()()()()()!!」

 

一般的に宇宙戦闘艦は前後左右、上下に至るまで対称に造られている。しかし武装などは基本的に前方と上部に集中していることが多い。これは拠点防衛や艦隊戦で互いに向き合うことと、建造所が重力下であることが影響している。そこを考慮して最大火力が発揮出来る状態を零と大夏は選択していた。

しかし自らの指揮官を完全に信じられていない一部はその指示に従うか否かを迷い、そして次の瞬間轟音を立てて破壊された。それでも殆どの艦艇が背面飛行を行い、無慈悲な殺戮光線を投げ掛けた。

 

『やったぞ!』

『こちらスカウト(偵察)!敵の動きが鈍っています!』

「畳み掛けろ!大夏!」

「おうさ!艦対艦ミサイル放て!」

 

音もなく光が艦艇に殺到し、触れた所が轟音を上げて消滅する。中には艦橋を撃ち抜かれて指示が途絶え、動力を停止して降伏しようとした者も居たが、激しい戦闘で気付かれることなく消されていった。

偵察からの報告でそれなりに打撃を与えていることを把握すると、大夏の指示で白煙を吹き出す槍が艦艇の装甲を食い破って炸裂した。鋼鉄の城は火球へ帰し、乗員の命を燃料に大輪の華を咲かせていく。その華を見つめながら、零は静かに言った。

 

「堕ちたもんだな」

「それは、どっちに向けてだ?」

 

大夏が問う。

 

「どっちだと思う?」

 

そう返した零の眼は、大夏を見てはいなかった。

 




はい、終了です。

次回は第二十九話「苦しくて」
お楽しみに!また次回の前書きにてお会いしましょう!
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