東方黑剣士   作:鋏人

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お待たせしました。黑剣士最新話です。
お久しぶり、鋏人です。言い訳とかもなくごめんなさい。モチベーションが死んでました。

どうか見捨てずによろしくお願いします。

では、どうぞ。






第二十九話 苦しくて

───意味を失くした

───心を殺した

───だが、未だ憎悪は身を焦がす

 

 心義 零にとって、この月の都との戦争は本来ならば何ももたらさないものであった。地底で過ごし、諍いを調停し、さとりの右腕となって生きる道があった。けれど、彼はそれを拒み、紫にある頼みをした。

 

『地底の助けになりたい』

 

尊大で、無謀なそれを、しかし賢者は承諾した。すぐにでも終わるであろうと予想しながら、その抗う様がどうしても見たかった。

あるいは、紫は賭けていたのかもしれない。幻想入りからほんの一週間で同族を数十人も殺せる程の精神に。

斯くして彼はこの戦禍に自ら首を突っ込んで、どうなったかは万人の知る所であった。

それを後悔している訳ではない。寧ろ彼の行動によって救われた命も多い。それを理解していない訳ではない。だが、何処まで行っても、彼は一人の高校生でしかなかった。

無理矢理にも強くあるように振る舞い、そして自分の立つ意味を無くした。

争い事なぞ一生涯御免こうむる等と言いたくても、彼の望んだ『地底の助け』になるには、戦禍の中を駆け抜ける他なくなり、その結果として心を殺した。

そうして幻想郷の中で戦略的価値を高め、自身の庇護する対象を戦禍から遠ざけようとして、失敗した。

彼は一重に、傑物過ぎた。しかし、傑物はたった一人で世界を変える力など持たない。それを理解していない彼は、自身の力に溺れていると言っていいだろう。

 

 

 第二次迎撃戦翌日、零は訓練所に一人でいた。

 

「黒よ」

 

両の腕からあらゆるエネルギーを消滅させる霧が湧く。そして腕を指揮者のように振るうと、それに合わせて霧が形を変えていく。それが巨大な渦を巻いたとき───

 

「零」

「なんだ、天魔」

 

声を掛けられて霧を霧散させてしまった零は、憎々しげに天魔を見やった。

 

「訓練か?」

「あぁ、奴らを殺す手は多いに越したことはない」

「───ならば、私とやるか?」

 

天魔の誘いは零にとって魅力的な話であった。以前敗北した天魔に対し、二刀を失ってどれほど相手になるかは、綿月との戦いに向けた試金石となる。

 

「頼む、ここでやろう」

 

訓練所と銘打つだけあって、ここは鬼の一撃すらも容易に耐える強靭さを誇っている。全力でも問題ないと零は判断していた。

 

「では、やるぞ───むぅっ!」

 

たったの一呼吸で、堅牢な風の鎧が天魔の周りに形成される。

 

「……心に残る憎悪と絶望は、あらゆる想いを消し去った。ルールブレイカー、始動(アクティベーション)

 

それを真似するように、零も霧を纏う。

どちらが言うともなく、同時に二人は床を蹴った。

 

「成る程、速い!」

 

そう言いつつもそれを上回る速さで刀を振り、風の斬撃を目の前へ『配置』する。風を起こし、妖気でその形を維持させることでのみ成せる技、それを

 

「………」

 

零は腕を無造作に振るい、見えない刃を固定する妖気だけを消した。そのまま手の中で軽くこねるようにして形を変え、

 

「ソードスキル『バーチカル・スクエア』」

 

鈍い光を纏った霧が固まって剣に変え、ルールブレイカーによって強化された身体能力でそれを振るう。天魔は一撃目、二撃目をいなすと、突然目を見開いて回避を行った。

 

「零っ!」

「気を抜くと死ぬぞ?」

「(これは不味いの)」

 

訓練では有り得ないほどの妖力を解放した零は、全身からそれを槍のように噴射して天魔に迫っていた。明らかに天魔を殺すつもりでいた零へ向けて一言何か言おうとして、殺気立つ零を見て彼が普通の状態でないことを理解した。

残った四撃目を天魔に向けて真っ向から振り下ろす。天魔の風の鎧がその勢いを削いで更に刃の行き先をずらす。ならばとタックルを仕掛け、同時に霧によるファランクス戦法を取った。しかし二度連続で同じ手に足を取られる程天魔は雑魚ではない。距離を取ってから弾幕を大量に展開し、零へ向けて一斉に撃ち放った。

 

「『始原の波動』」

 

それを霧を含んだ弾幕で相殺するが

 

「もう遅い」

「な────?」

 

後ろからした声に引かれて後ろを向くと、天魔が妖力刃で零を強かに打つ。

 

「いっつ!」

 

反射的に飛びずさった零は、後手に回ったのを感じていた。しかし打開の一手を探し出した瞬間にひたりと冷たい感覚がする。

 

「お主の負けだ。」

「……そうくさいな。」

 

剣を収めた零に対して、少し警戒を見せた天魔だったが、先ほどのような危うさを見ることはなく、同じく剣を収めた。

 

「零──」

「なんだ?」

「いきなりどうした?」

「何が。」

「(こやつ、無自覚にここまで?)まさか分からんとは言うまい。」

「態度か?ここに慣れて素が出始めただけだろう。」

 

そんなことがある筈もない、そうは思っても天魔は零のことをよく知っているわけでもないために口に出せずにいた。

一方の零も、自分が明らかにおかしくなっていることは承知していた。これほど口が悪いわけがない上、周りの──特に地霊殿の──人にここまで無関心なことはなかった。さとりが居ることを思えば間違いなく地霊殿を嫌いになることはないと確信していた。

 

「そうか、無理しているのがはっきり分かる。休めよ。」

「多少の無理は承知の上さ。自分一人の無理でマシになる部分があるかもし───」

「──小僧、自惚れるな。」

「何が……」

「流石にそれは見過ごさんぞ。貴様のような小僧一匹で、戦の趨勢が変えられると思ったか?」

 

本気の声音で天魔が言うと、零もその先を飲み込んだ。

 

「……分かった。少々考えておくよ。それと、あの三人の天狗は今どこに?」

「あやつらか?この前の襲撃が終わった後に探したが、あやつらの血痕しか残っておらんかった。大方死んだのであろう。」

「寝返りの可能性もある。気を付けてくれ。」

「そんなことあるまい。いくら屑とて天狗は天狗。里のためを思って行動する程度の良心は皆持ち合わせておるわ。」

 

それもそうかと首肯した零だが、三人への疑惑は晴れることはなく、寧ろ増していった。

 

「零、あの三人は死んでおるし、お主をまた艦隊司令に戻しておく。」

「了解した。正式な指示は何時頃になる?」

「次なる目標、人里解放のための戦までには。」

「分かった。それまでは山に居るから、連絡を頼む。」

 

そう言ってその場を後にして少し歩くと、凄まじい頭痛に襲われた。両の目を開けることもままならず、金槌で直接殴られたような衝撃が絶え間なく襲ってくる。

 

「づっあ”……」

 

堪らず廊下に座り込むと、そのまま視界が赤く染まって、

 

その後の記憶はなかった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

Side 零

 

「あ?」

 

 未だ止まぬ頭痛で目を覚ますと、静かに零は身を起こした。そして痛みで揺れる視界をなんとかして定まらせた所で、妖怪が一人視界に入ってきた。

 

「あ!お目覚めになられましたか!すぐに水か何かお持ちしますね!」

 

それはいいと手を動かそうとして、四肢がピクリとも動かないことを自覚した。あまりの自己管理のなさに自分を殴りたくなったが、それすらもできずに痙攣するだけだった。

 

「零!急に倒れたって?何があった!」

「………る……い……く」

 

しかもろくに声も出ない。これじゃ死にかけの重病人みたいだ。

 

「喋れるか?そもそも聞こえてるか?」

「………」

 

やっべ。マジの駄目なやつだこれ。何もかもが億劫になってやがる。

 

「あのー、零さん?お水持ってきたので、これを飲んで一旦落ち着いてください。」

「…か……る。」

 

助かる、すら言えないのは心苦しいものがあるな。けど後でもう一度感謝の言葉を言っておこうか。

それでなんとかして痙攣したような腕を奮い立たせてコップを持つと、大分喉が乾いていたようで一気に煽ってしまった。あまりよろしくはないが、身体は人間よりも頑丈だから大丈夫だろう。

 

「──っ、くはー──。ありがとう、本当に助かった。」

「いえ、これが仕事ですから。」

「それでも、感謝してもしきれなさそうだ。」

「ありがとうございます。それでは私はこれで。翔弥さん。お願いします。」

「ありがとな。ちゃんと看ておくよ。」

 

医師、らしき妖怪が『翔弥』と呼んでようやく声を掛けてきた人物の輪郭がはっきりとしてきた。

 

「お前、何があった?暗殺か?疲労か?」

「分からん。ルールブレイカーを使ったせいかもしれない。強力な力だ、デメリットの一つや二つ、なんら珍しくもなさそうだし。」

「とは言えどな、余裕で二日は予断を許さないとかって言われて、山中大騒ぎだったぞ?」

 

最低二日以上か。大分寝過ぎたな。これなら当分睡眠は要らなさそうだ。

 

「悪かった、次からは気を付ける。

 

で、ここ数日で変わったことは?」

「一応威力偵察が少々。適当に追い払っておいた。あとは人里で防壁が強化されていたくらいか。空から一発で済む程度だが、白兵戦は若干不利かもしれないらしい。」

 

話を聞く中ですっかりと治ったので、翔弥の言葉を一つ一つ噛み砕いて飲み込んでいく。大きな動きは人里の要塞化くらいのようだが、また降下して来ないとも限らないし注意は怠らないようにしなければ。

 

「ん、理解した。それとお前さ──」

「何か俺悪いことしたか?」

 

問い詰める予定はなかったが、自分の家族も同然の人と恋仲なんだから言うことの一つや二つあるよなぁ?

 

「こいしとの交際関係についての話、何か言うことあるよな?正直お前のような口の軽くて女遊びのすごそうな奴の所には妹を間違えても遣らないつもりなんだけども。」

「俺の扱いどうなってんだよ!俺は女遊びしてないっての!」

 

どうもこうも、男は皆狼だと言うし、こいつもご多分に漏れずそうなんだと思っていたが。

 

「百年前はしていやがったな?」

「してないし!」

「生前に───」

「ろくに理性もない犬の頃はノーカンだろ!」

「じゃあ女の子の心の闇に付け込む奴はアウト。」

「じゃあってなんだ!ちゃんと確認取ったわ!!」

「おかしなタイミングでルールブレイカーを使うやつは駄目だ。」

「それは!……なんで知ってる?」

「こっちがルールブレイカーって言って何も聞いてこなかっただろ。それにルールブレイカー同士はお互いに判るんだよ。

 

 

さて、お前のルールブレイカーはどんな力だ?」

 

頭痛もすっかり消えて大分楽になったし、さっきの冗談で頭も口も回り出した。実際翔弥がルールブレイカーを発現するのは予想出来なかったけど、発現したならしたなりに情報は共有しないと。

 

「俺は言うなれば『変革』。感情とかの精神面に干渉するみたいだ。」

「俺は上書きした先をゼロにして消せるし、記憶を消したりも出来るようだ。便宜上『消滅』と呼称しよう。それで、変革の入手経路は?」

「零に指摘されたが、こいしと話してひと悶着あったときに。そっちは?」

「山の解放時に。」

 

大体は理解したけれど、この力がどこから湧いてきたのかも分からん内は変に使わない方がいいが、正直言えば無理だな。

 

「零、俺はこの力、隠さずに使うべきだと思う。」

「同意する、ただ出所不明は流石に怖いものがあるな。」

「山の上の方に神社がある。そこで少しは手掛かりが見つかるかもな。ただ少し前にお前がぶっ飛ばした緑の方の巫女がいるんだが。」

「…………それは水に流して頂こう。」

「……意外と荒いんだよ神様の方が。」

 

うーん嫌だ。そんな荒い神様と会うなんて全力で逃げたい。けど逃げてはいられないし、怒ってたら怒ってたでどうにか済ますしかない。

 

「ただ、零。お前はさとりと一緒に居る時間を増やすこと!これは命令な?」

「翔弥に命令されるほど悪い関係でもないんだが……」

「幻想郷軍の事実上のトップは俺だぞ、地底軍総司令さん?」

 

あー、そういう?職権乱用しちゃいますか?いやでも全然、無理だって言って断ればいいし、ほら、火急速やかに対応しますってやつだ。

そう思って軽口を心の内で叩く。

 

「……善処しますー。」

「善処は受け付けてないんだよなぁ。」

「逃げ道どっかない?」

「作った覚えはないね。てなわけでお前は療養って名目で次の作戦まで自宅でさとりと『仲良く』してこい、な?」

 

軽く笑って首肯すると、翔弥は出ていった。翔弥もルールブレイカーとなった今なら、これまで以上に俺も戦線に出る必要があるだろうな。もう唯一のジョーカーじゃなくなったし。

 

たとえ力に溺れていると言われようと、やるしか道が残ってないならその深みに嵌まるしかない。

 

まだ翔弥とは軽口が言い合える程度に起伏があったが、あと二月したら大分危なそうだ。もう大分意識しないと()()()()()()()()()状態になってる。

 

感情が消えるとかってよくあるやつじゃなくて、表現出来ない、どんな顔をしたらいいか分からない。

 

告白するなら今のうちなんだろうけど、正直今の俺じゃさとりも愛想尽かすだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

てか、さとりとかもうどうでも────

 

 







はい、終了です!

これなー本来の予定ならもうほぼ戦争終わってたのになーなんだろうねー?>>もしかして:ガバ

次回の『東方黑剣士』は~?

心を壊されたさとり。

彼女の封じられた記憶の蓋は、既に弾け飛んでいた。

自分の最悪の記憶と出会ってしまったさとり。何が虫食いの心を動かすのか。


次回第三十話『Why am I think that ?』

また次回の前書きにてお会いしましょう。
それではまた。
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