ちょっと二月、三月と立て込んでました。ごめんなさい。
それでは本編、どうぞ!
Side さとり
私は他者を一人として信用していなかった。それは勿論この
先代の古明地家当主──私の両親──は極めて優秀であったと聞く。地上で起こった争い事に首を突っ込んで、その度に解決に導いてきたのだと。まだ幼かった私とこいしは、誇らしげに語る両親を、きっと尊敬の眼差しで見ていたことだろう。
けれどある日、両親は殺された。覚の力を恐れた人間によって。
それから私とこいしは、二人で地上を逃げ回った。博麗神社、紅魔館、白玉楼、西に東に逃げて逃げて逃げて、そうして辿り着いたのはここの管理者の八雲紫の下だった。
『貴女達のご両親には大変お世話になりました。辛かったですね。』
この世に神はいるのだと思った。地底の安寧を保つ役の代わりとして住居を与えてもらった。その頃にはもうこいしの瞳は閉じていた。
私は怖かった。また身近な人物がいなくなるのを怖れていた。だから、心を読まれても気にせず、承諾してくれる妖怪──特に動物型──だけを手元に置いた。他の妖怪から喧嘩を売られたことが一度あった。その頃はまるで力の制御の仕方も分からず、訓練もしていなかったから、全力を出してその妖怪を叩きのめしてしまった。
それ以来は『怨霊も恐れ怯む少女』の二つ名と共に、地霊殿に籠って生きていた。───いや、生きていたとかどうか、脱け殻のようになっていたことは間違いない。
───そこに、彼が現れた。
幻想郷などほんの数時間前まで知らずに生きてきたという彼は、そうとは思えないほどにこの環境に順応していった。三つ目の瞳があろうと、翼があろうと、二尾の化け猫がいようと、軽く驚きこそすれ、決して遠ざけようとしなかった。
眼前に蔓延る敵の悉くを粉砕して進む彼は、私にとって希望の象徴だった。彼無くしてはもう生きていけないのだと、千年を超える生の中で初めて恋を知って、けれど声を出せなくて。
『俺もこの感じは好きだな』
ぽろりと彼の口から零れた言葉は、無意識のものであっただろう。だから、それが真実なのだと実感した。
その言葉を聞いてから、恋心を胸の奥底へ沈ませて、殺そうとして、また恋情が募っていった。何時か、彼がここから私を拐ってはくれないかと思いながら。
────けれど、そんな記憶はない。
こんなのは私の記憶じゃない。私は、零に憎まれていたんだ。守られてばかりの私に嫌気が差していたんだ。だから、私はあの時────
あれ?あの時私は死んだはず。なんでじゃあ他の死に方を覚えているの?死んだのが夢だったから?でも両手の指を落とされているから実際にあったことに決まってる。もう私死んでるの?痛みがあるし三途の川は見えていない。
……もしかして、全部夢だったのかな。
ふと頭を過った妄想、けれど、情報過多な頭では思考を止める劇薬になってしまった。
そうだそうよ、そうに決まってる。私はあの日誰にも会っていなくて、零なんて人間はいなくて、私は地霊殿から出ずに引き籠って生きているんだ。絶対にそうだ。
《違うよ》
貴女は誰?
《私は貴女、貴女は私。私は全部覚えているよ。苦しい記憶も幸せな記憶も、全部全部覚えてるよ。》
あれは私の記憶じゃない!
《あれが貴女の記憶だよ。》
違う、違う、違う!
分かっている。全部夢だなんてことは、ある筈もないんだ。でも、この苦しい記憶から逃れたいのに、もう一人の私が逃がしてくれない。
気付けば、上も下もわからないような空間で、白と黒の空間同士の境界にいた。
《そうだよ。あれは全部夢だったんだ。》
黒の空間が押していたのを、白が押し返す。
《全部夢、全部妄想。だから幸せな記憶があったの。》
《違うよ!彼が来たのは本当だった!》
《だったら、最後の記憶は何なの?》
白が黒を食い潰していく。あの記憶は、痛みを伴った体験だった。だから、きっと真実なのだと感じた。
全身を貫かれるような痛みなんて、何時ぶりだっただろう。自分という人格を壊されたのは、一度や二度ではない。その度に、自分を繕い直してきた。最近は繕う必要もないほどに修復された。けど、また壊れてしまった。
自分に都合の良い白の私と、都合の悪い黒の私。どっちの手を取るかなんて、分かり切っていた。
《帰ろうよ…現実に帰ろうよ……》
《うるさいなぁ、私だってわからず屋じゃないんだ。》
黒が消えて、白の私が私の体に触れた。
──なにしたの?
《ちょっとしたプレゼントだよ。真実に辿り着けたら、全部解放する形だけどね?》
──そう……
《ねぇ、この世界はどう?面白い?》
──全然、なんとも思えない。
《へぇ、そうなんだ。
───じゃあ、壊しちゃおうか♪》
狂気の沙汰とも思える一言なのに、何故か私にはその提案が魅力的に映った。そして、首を縦に振ろうとして、
一瞬にして、
──今のは、一体……?
《思ったより頑丈だね。無理矢理動かすか。》
───え?
《すっかり騙されちゃってさぁ。すっごく面白かったよ♪だからお礼に特等席で見せておげるねー》
──イヤ!私は私のまま戻りたい!壊したくなんかない!まだ零さんに───い゛ぎぃ!?
《ごめんねー、あんまりうるさいから頭締め付けちゃった。死なないと思うからそのまま外を眺めつつ苦しんでねー。》
──一体、あなたは……誰なの?
《あたしー?あたしはね───
月から来たんだー、それじゃ、寝ててー。》
怪しく口元を歪めた影が、私を乗っ取った。
Side 零
「隊長!お体の方は──」
「大丈夫だ、帰るまではちゃんともつ。」
「しかし!警護の者を少しだけは!」
「いらないって。後ろよりも目の前の敵に注力しろ。」
心配してくれる下士官を適当に言い訳して一人で帰ろうとするも、全然離してくれやしない。これ振り切った方がいっそ……いやいや、止めておこう。
「なら、数人だけで地底の穴までにしてくれ。多いのは嫌なんだ。」
そう言うと下士官はほっとした表情で警護の人員を呼びに行った。高級士官だから心配なのは理解しているけど、ただの帰宅に少々大袈裟じゃないか?
それより、さっき起きたばかりだってのに大分体調がいいな。これは逆に良くないことが起こる予兆であったりするのだろうか。
「お待たせしました!」
そんなことを考えていると、さっきのやつが数人の男を連れて戻ってきた。
「全然待っていないよ。そこの四人だね?」
「はい!自己紹介の方は──」
「移動中にするよ。申し訳ないな、四人とも。わざわざ帰宅すらも警護して貰わないといけないなんて。少しの間だけお願いしたい。
それと何から何までありがとう。出発させてもらう。」
また倒れるといけないので飛行は最小限に。木々の間を駆け抜ける形で地底の穴まで一直線に進んだ。警戒していたような敵の姿はなく、順調に進み、地底の穴へ辿り着いた。
「警護感謝する。やはり申し訳ない気分だな、これは……」
「お気にならさず。我々が生きているのは、零殿、貴方のお陰なのですから。」
「ありがとう、それではまた会う日まで。」
「次なる戦場で。」
護衛と別れ、地底へ続く穴を高速で駆け抜ける。何を思ったのかはわからないのに、何故か急ぐべきだと考え始めていた。そうして地底の主要街道へ出ると、見慣れた街並みが目の前に広がっていく。
こうやって平和そうな様子を見れば、どれだけ心が荒んでいようと癒されていく。自分のしてきたことが間違いではなかったのだと肯定されている気分になる。
「零のあんちゃん!」
「やぁ、少しばかり暇をもらったんだ。店はどうだ?」
「最近は人間も出てきてくれてなぁ!楽しくやっとるわ!」
「そいつは良かった。」
この活気が地底を支えている。この喧騒は地底が地底である証明だ。そう俺は思っていて、だから他人のことを考えて動き出した。
「飲んでくかい?」
「遠慮しとく、さとりに後でどやされたら大変だ。」
「ひゅー、お熱いねぇ!」
「そんな関係じゃない」と否定しながらも、そうなった未来を少し思い描いただけで頬が緩んでしまうのは、きっと彼女が好き過ぎるからだろう。
でも、今彼女はとても辛い筈だから。楽はしていられなくて、誰よりも傍に居たい。
そうやって道すがらすれ違う妖怪と話をして、誘われる度に断って、そうやって地霊殿があと少しの所になったとき────
地霊殿の屋根が消し飛んだ。
「……は?」
頭の中で状況を整理しようとしたが、あまりに情報が少なすぎる。そして地霊殿に損傷があるということは、俺の一番大切な人が───
「───っ!さとりぃぃぃ!」
上から見れば爆弾で吹き飛ばされまかのような穴が空き、中心に誰かが立っている。
うずくまって、震えている?
けれど、あの服装と背格好は間違いなく、
「さとり、さとり?どうしたんだよ、何があった?」
震えている、余程怖かったのだろうか。頬が濡れているのも確認できた。
「さとり、ほら俺だ、零だよ。」
「うっ、零…さん……」
「何があった?誰がこんな真似を───」
手を伸ばしてさとりの腕を取る。そして、俯いていたから表情が見えず、俺は気付かなかった。
────さとりが、いやソイツが、嗤っていたことに。
「零さん………」
「どうした?」
「ケキャッ」
妖怪は妖怪でも理性のない低級妖怪の出すような、人間の容をしていれば決して出ることはない音が、さとりの口から漏れた。
「きさ──」
気付いた時には遅かった。さとりの身体を乗っ取ったのだろうか、身のこなしの癖は残っているがまるで別人のような速度で近付くと、妖力で強化したのだろう爪が挽き殺さんと迫り、
「ぬぅっ───」
咄嗟の判断で躱わすことには成功したものの、その爪はかなり硬度の高い板張りの床をなんなく引き裂いた。
「貴様、何者だ!」
「おかしなことを聞きますね?さとりですよ?」
「残念だが、それは肯定できん!」
頭を戦闘に向けて自分を変え、可能な限り傷を負わせないように、そう命じて黒い霧を放ち、鞭のようにして捕らえようとした。
「残念!」
けれど、ソイツは鞭を上から妖力の塊を当てることで消滅させた。
「嘘だろ……?」
通常、妖力は単体では大した火力は持たない。だからこそスペルカードのように技の形を固定してプログラミングしておくことで広い火力範囲と高い攻撃力を共存させていた。それに俺のルールブレイカーから生成した弾幕や武器はエネルギーを吸収、消滅させる性質をもつ。本来相性的には有利なはずが、それを消すということはつまり─────
「あなたより私の方が優れている証拠です。」
「彼女はそんな言葉は使わない!」
連続で振るわれる爪を、霧でなんとかいなしていく。だが、どうやって運動エネルギーを吸収し切っても最後まで爪が振りきられている。
「エネルギーがなくなっても動けるのか!?」
「お喋りは厳禁ですよ!」
明らかに単体の性能は俺を大きく上回っていた。だから、次の一手を開始する。自分より優れて相手に対しての有効な策。
正面から貫手が、同時に左右から弾幕を展開される。それに対してあえて前進、爪の先を軽く撫でた指で仕込み毒の有無を確認。どうやらしていないようだ。
「舐められたものだ!」
「舐めた覚えはないな!」
猛獣のように身体をしならせて飛びかかってくる。それに対抗して回転とうねりをつけた霧を鎧のように纏うことで威力を減衰させて流し────
「ガハァっ!?」
貫通してきた。火力が今までの敵とは段違いだ。
「これで終わりだぁぁぁ!!」
そう、お前は近接で仕留めにくる。膨大な妖力にモノを言わせて叩き潰す。その戦い方は単純故に対処が難しい。
「だから
さっきと同じ霧による防壁。けれどひとつ違うのは───
「自分ごと?!」
敵を巻き込んで圧殺しようとしてるってことだ。
「これで貴様は逃げられん!」
腕を振るって霧を引き寄せる。これで殺せる、そう思った次の瞬間、目の前の敵と目が合った。彼女の顔が、目に入った。それだけだったのに、霧を消してしまった。
まともに顔を認識していなかったのに、意識するだけでほぼすべての行為が億劫になる。
「甘なァ心義零!ご褒美に───一発くれてやる!」
巨大な妖力の塊、常軌を逸したまでの火力が迫る。回避しようとして、自分の居る場所が地霊殿の一角であることを思い出し、迎撃を試みる。
「はぁぁぁぁ──!!!」
霧の形を変え、盾にして防ぎきろうとする。
しかし、徐々にヒビが入って砕け始める。
「死ねるかぁぁ!!」
死んでたまるか、死んでなるものか!抑える腕に力が入って───
──自分の中で、
そして、巨大なまま迫っていた筈の妖力弾が、溶かされたように消えた。周りを見れば、もうアイツは居なくなっていた。
「零!何があったんだ!?」
「司令!」
鬼や常駐している天狗達が寄ってくる。けれど俺の頭はそれを認識するほどの余裕はなかった。
──また拐われた、また守れなかった、また、また、また!
「くそがぁ!!」
床が抜けるほどに強く踏みしめて、俺は絶叫した。
「ぶっ殺してやる!あいつも、あいつの仲間も!誰一人として!この地から逃がさない!」
守れなかったのなら、せめて奴等だけは殺さないと、殺して、さとりを助けるんだ。
はい、終了です!
……何故こんな展開になったや?これなんで寝取らゲフンゲフン乗っ取りが起こったの?こんな展開にした覚えないよ?
毎回なんも考えずに書いてるせいですねこれは。
基本的に整合性は取ってるつもりですが、ずれてたら教えてください、理由を説明するか修正するかします。
さて、次回の『東方黑剣士』は~?
「お前は一度冷静になれ。」
「黙れ!俺はまともだ!」
怒りに狂いだす零、歯止めは壊した。
「ソレは、まともな人間じゃあ扱えないよ。」
ついに明かされるルールブレイカーの真実
「お待ちしておりました、神殺しのお方。」
それを知った零と翔弥は、新しい力へ手を伸ばす。
次回第三十一話『型破りの真実』
次回の前書きにてお会いしましょう!