いつも誤字報告してくれる晶彦さん、本当に毎回助かってます。本当にありがとうございます。
…………ちゃんとチェックしているつもりなんだけどなぁ。何で誤字脱字が治らないんだろ。
ピットの中に張り詰めた空気が満る。
「……何故渡さなければいけないのですか?」
「お前の機体はレギュレーションに違反している可能性がある」
「スペックは既に提出済みですが?」
「そんなものいくらでも書き換えられる」
「ならば他の方々の持つ専用機にも、提出されたスペックとの食い違いが出ている可能性がありますよ?
私も含めてこの学園にいる専用機持ち全員に、先生方の監視下でスペック調査を行うと言うのであれば構いませんよ。ああ、当然他の方々と同じ日に、複数人により複数回の調査をしてもらいますが」
すると千冬は苦虫を噛み潰したような顔をする。それもそのはず、千冬の言い分が通るならば、一夏の言うこともありえない訳では無い。
しかし千冬は束の言った真実を確かめたい。そして真実がわかれば、一夏が帰ってこない理由もわかるはずだと疑わない。
「………………それで、どうするんですか? 織斑先生?」
一夏と目が合った千冬は息を飲んだ。その瞳は、家族に向けるものではなく、敵に向けるものと変わらなかったのだから。
結局千冬は答えることはできず、一夏と夜架は時間の無駄としてその場を後にした。
「…………堕ちたものですね」
「元とはいえあなたの姉と聞いて期待していましたが、期待外れですわね」
「いつまで家族ごっこに耽っているのやら。やりたいのならご勝手に。大事な自慢の弟がいれば充分でしょうに」
ショックを受けた千冬を後に、2人は寮へ向かう。
一切の感慨も抱かず、一夏は久しぶりに会った本来の姉に評価を下す。
「意地悪も程々にすべきですわよ? 後で変に突っかかって来られては面倒でしょう?」
「そうですね。その内はっきりと突き付けてやりますよ」
「そうですか。さて、先ずは愛弟子の祝勝会でも開きましょうか?」
「いりませんよ。この程度のことでいちいち開いていてはお金が足りなくなりますよ」
「あなたが主様の従者になって以来、アイリ様に代わってあなたが財布を管理するようになりましたから説得力がありますわね。
クラス代表はどうするつもりで?」
「代表にはなりません。任務に支障をきたす可能性が大きいですからね。そもそもやる気ないですし」
その後一夏は職員室に向かい、千冬と真耶にクラス代表の辞退を告げた。元々一夏は代表になるつもりは無いと公言していたためだが、その際、千冬がなんとしても一夏に代表をやらせようと食い下がった以外は反対意見は出なかった。
翌日、クラス代表は秋一に決まった。セシリアは自分は代表になるには未熟と言って辞退し、クラスの全員に差別的発言について謝罪。一夏が奏に調べて貰ったところ、後日イギリス本国からの処分を受けることでIS学園への留学継続と代表候補生の続行を許される手筈であると知った。とはいえセシリアがイギリス代表になる道が遠ざかったことは間違いない。
その日の放課後、食堂で秋一の代表就任パーティーが行われた。
色とりどりの菓子がテーブルに並び、はしゃぐクラスメイトを眺めながら、一夏は部屋の隅でジュースを飲んでいた。
「混ざらないのですか?」
「今行っても欲しいものは取れなそうなので」
そんな一夏を目ざとく見つけ、セシリアが話しかける。一夏の返答に共感を示して、セシリアは先日の戦いの時から聞きたかった疑問を聞いた。
「……………御祓さん、どうしてわたくしが機体を信じてないと思ったのですか?」
昨日の代表決定戦で一夏に負けてからの疑問。自分が一夏に言われて漸く気がついたそれを、何故見抜いたのか。それだけが気がかりで仕方なかったのだ。
「同じ時期が私にもあったので」
それを聞いてセシリアは目を見張る。そんな事は無い様に見える一夏も、そんな時があったのかと。
「機体だけでなく、他人の全てを信じる事が出来ず、傷つけようとして、叱られて、漸く気づけました。それが無ければ、今頃私はどうしていたのでしょうね」
懐かしむように、ここでは無いどこかを見るような目をする一夏。それを見てセシリアは、その叱られた時が今の一夏を作っているとわかった。
「お強いのですね、御祓さんは。慢心し、機体を信じていなかったとはいえ、あそこまで手も足も出なかったのは、あなたに負けるまで忘れていた、初めて乗り始めたばかりの頃に行った同期との模擬戦以来ですわ」
1度負けたことがあると言うセシリア。セシリアの強さの原動力、その1つのきっかけはそこかと一夏は理解した。
「1度負けた事があるのは良かったですね。負けを知らなければわからないこともありますから。
それに私は強くありませんよ」
「謙遜しないでくださいまし。あなたが強く無ければ、代表候補生の立つ瀬がありませんわ」
「いえ、強くありません。私を鍛えてくれた方々に比べれば尚更に。それにもっと強くならなければ。この程度では、その方々の隣に立とうなど夢のまた夢です」
はっきりと、誓うように、言い聞かせるように一夏は言う。一夏が目指すのはルクスやリーシャ達など、自分を鍛えてくれた者達の隣。そして追いつき、安心して背中を任せてもらえる様になる事。
時折
そんな一夏を見て、セシリアは興味を持った。
「その鍛えてくれた方々は、どんな方達なのですか?」
「それは───」
その質問に答えようとした時、食堂の入り口から溌剌な声が響いた。
「はーいちょっとごめんねー。どうも新聞部でーす! 今回の代表を争った3人にインタビューしに来ましたー!」
渡された名刺には『新聞部部長 黛 薫子』と書いてある。
「先ずは全勝したえっと……みそ……ぎ? 一夏さんから!
ズバリ! 強さの秘訣とは!?」
「鍛えてくれた方々の教え方が良かったのかもしれません。ですがこの程度ではその方々に追いつくなど夢のまた夢。私の知る最弱にすら届かない。
なのでこれからも精進していきます」
自分が思っていることをそのまま答える。これ以上の質問には答えられませんと最後に言い、一夏はインタビューを終える。一夏の答えにおおー! と食堂にいる皆が沸き上がる中、薫子もこれ以上は無理だと思い、セシリアへと標的を変える。
「次にオルコットさん! 御祓さんに負けてしまいましたが心境は?」
「……そうですわね、悔しいのは間違いありませんが、油断、慢心、反省点を挙げればキリがありません。そう思うと、今回の敗北は良い経験になったと思っています」
「ほうほう……。では今後はどのようにするおつもりで?」
「今回の反省点をしっかりと振り返り、活かし、御祓さんに勝てるよう努力していくつもりですわ」
セシリアも前向きな答えを出し、再び沸き上がる。
「では最後に織斑君! 今回2戦とも負けてしまいましたが代表になりました。今後の意気込みを一言!」
「そうですね。今回は負けてしまいましたが、代表になった以上、負けるつもりはありませんよ」
キメ顔で答えた秋一に黄色い歓声があがる。それを一夏はどうでもいいと聞き流し、そんな一夏にセシリアは疑問を持つ。
「(そういえば、御祓さんは織斑さんに無反応ですがどうしたのでしょうか?)」
まるで無関心になっているような───。
そこまで思ったところで、またもや薫子によって中断させられる。
「では最後に3人で写真を撮りましょう!」
その一言に一夏は内心嫌だと思いながらも表に出さず、セシリアと共に秋一と繋ぐ。
3人で握手をしながらシャッターが切られると、その写真にはクラスメイト達が入り込み、集合写真となっていた。
皆に断りを入れ、一足先に自室へ帰る。
ふと、唐突に一夏は振り返る。視線の先は誰もいない物陰。しかし一夏はそこから突き刺ささるような視線を確かに感じ取っていた。
「(更識ですか。あの試合で本格的に警戒を露わにしてきたということでしょうか)」
その視線の主にあたりをつけ、再び寮へ向けて歩き出す。一夏の姿が見えなくなったところで、一夏が視線を向けていた物陰から人影が出てくる。
「まさか察知されちゃうなんてねー。気配を消せてる自負はあったんだけど」
外に跳ねた水色の髪の少女、更識 楯無は『驚愕』と書かれた扇子を開いて口元を隠す。軽口を言うように驚くも、その瞳には警戒が宿っている。
「国家代表候補生を倒せる、無名の専用機持ちの操縦者。怪しまれるのは想定済み、ってことか。筋書きに踊らされているみたいで気分が悪いわね」
しかし既に楯無は部下達に命令し、一夏達に関する調査はさせている。今頃は自分と同じ生徒会で会計をしている従者が報告書を用意しているだろうと生徒会室へ足を向ける。
「…………理由が何であれ、敵になるなら容赦はしないわ」
決意に満ちた表情で告げる。祖国を守る暗部の当主としての覚悟が、その言葉にあった。
その後ろ姿を見る異彩の瞳の蜘蛛には、終ぞ気付かずに。
一「本職仕込みの気配探知」
楯「あいつらヤバ………警戒しとこ」
夜「本職は伊達じゃありませんわ」
次回、幕間。
その次で彼女が来ます。