今回は独自設定が多く出てきます。ご注意ください。
消灯時間の過ぎた生徒会室で、2人の少女が手元の資料に目を通していた。
彼女達は『更識』。日本政府直属の、対暗部用暗部。諜報任務を受け持つ他、各国からのスパイへのカウンターを担う者たちだ。
彼女達が見ているのは、部下達に調べさせた対象に関する報告書だ。
『御祓一夏と切姫夜架の所属企業『ドラグーン』に関する報告書
元は重工業をメインにした企業が合併し、これまでの社名を消し去り、新たに創業。ISの登場と女尊男卑の風潮の煽りを受け、不当に解雇された技術者たちを取り込み、御祓 一夏と切姫 夜架の使う専用機の規格『ドラグナイト』の開発に成功した。
その開発のバックアップにはファンブリーク商会なる産業複合体がついており、その傘下の1つとして名を連ねる。
合併と設立による創業者はルクス・アーカディア。護衛にはセリスティア・ラルグリスなる人物が常に控え、身辺の警護に当たっている。
創業者であるルクス・アーカディアは今の風潮を鑑みて経営の表舞台から姿を消し、後継者の若社長であるリーズシャルテ・アスティマータが表舞台に立っている。
とはいえ、事実上の経営者はルクス・アーカディアとされる。
創業者の婚約者にクルルシファー・エインフォルクなる人物がおり、両者の仲は良好。
御祓 一夏と切姫 夜架をはじめ、数人のテストドライバーが雇われている。
技術主任にはIS学園も使用している衛星発電・送電システムの開発者である、空亡 奏が就任し、日本政府が閉鎖・売却し、空亡 奏が買い取った研究所を日本での研究・開発拠点としている。御祓一夏と切姫夜架の両者はここを拠点としている模様。
御祓 一夏と切姫 夜架の使用する新型IS『ドラグナイト』の開発成功は、彼女の存在無くして不可能だったとの評価がある』
『『ドラグーン』のバックアップ企業『ファンブリーク商会』についての報告書
約2年前に創業したファンブリーク商会は、第1次産業をはじめ、幅広く事業を行っている。
創業者はマギアルカ・ゼン・ファンブリーク。テロリストや女性利権団体の過激派による攻撃があった痕跡があり、それが理由なのか、非常に強固なセキュリティが施されており、創業者の名前以外は判明せず。
ペーパーカンパニーの可能性を考慮したが、実在の証拠を手に入れた為、ペーパーカンパニーの線は無し。
合併と再創業によって傘下の企業となった『ドラグーン』が解雇された技術者たちを雇用、ISの開発を始めたことで開発資金の全面的なバックアップに入る。
女尊男卑の風潮の煽りを受けて倒産しかけた企業を複数支援し、傘下に収める。そのいずれもがドラグーンの開発した新型IS『ドラグナイト』に使用されている技術を生み出したと見られる。
女尊男卑の風潮により、過激派思想に傾倒した者達による、少年達の『売却』による人身売買を行う組織を私設武装部隊によって壊滅、『売却』された少年や少年兵達の受け皿にもなっていることを確認した』
『『ドラグーン』が開発した新型IS『ドラグナイト』についての報告書
開発コンセプトは不明。基礎に従来のIS技術を使いながらも、ハードウェアとソフトウェアを含めた、全体の約8割が独自開発された新技術で構築されている。
それらの技術は何重にもセキュリティがかけられており、情報入手の際にクラッキングを仕掛けたが、無量大数の単純なセキュリティが施され、セキュリティを突破する前に逆探知される可能性を考慮し、クラッキングは中止。直後、クラッキングに使用した拠点に対し報復と思しきクラッキングを確認したため、設備の破壊の後に破棄。
また、クラッキングを仕掛けた際に断片的に得られた情報から、御祓 一夏と切姫 夜架の使用する機体は拘束、或いは封印と呼んでも過言ではないレベルのリミッターがかけられている模様。この情報は意図的に手に入るようにしたものであると思われ、警告文が添付されていた。内容は別紙に記載する』
「…………恐ろしいわね」
「はい。拘束、或いは封印と呼べる程のリミッター。それを解除した際にはどうなるか、検討もつきません」
「そうよねぇ…………。でも1番の問題は、彼女達は敢えてその枷を着けてここに来た。その理由は何故なのかって所よね」
しかし彼女達が見ているのは奏が精巧に偽造した情報を元にしたもの。彼女達は奏の思うままに踊らされていた。
しかし彼女達は仮にも暗部。踊らされていることが分からない訳では無い。
しかし踊らされている1番の理由は、『ドラグーン』と『ファンブリーク商会』が
『ドラグーン』に関して行ったのは、合併の手助けと資金援助。そして不当解雇された技術者たちの受け入れだ。その結果、奏は自分の手で一夏達の隠れ蓑を作り上げると同時に、一夏達の任務が終わり、『
その上、受け入れた技術者たちが開発した未公表の新技術も改修された《インフィニット・ワイバーン》と《インフィニット・ドレイク》に使用されているため、虚偽では無い。
ファンブリーク商会に関しては、経歴偽造以外はマギアルカが直接出向いて設立し、事業を展開した程だ。それを知った一夏が頭痛を覚えた上に、思わず天を仰いだのは仕方の無いことだろう。
マギアルカの商魂の逞しさと強かさを見誤っていたと実感した一夏であった。
また、どちらも機竜世界から来た人間達や一夏達が二度とIS世界に来れなくなったとしても続いていけるようにしているのだから徹底的にも程がある。
「もう少し探りを入れますか?」
「いいえ、ここまでよ。あくまで勘だけど、この先は分の悪い大博打よ。諜報部隊には切り上げるように言って。
あくまで彼女達2人は経過観察、『処理』するかは私が直接判断するわ」
「かしこまりました」
「…………貴女達は何が目的なの?」
対暗部用暗部『更識』の若き当主、更識楯無は、報告書と共に送られてきた警告文を見ながらこの場にいない2人に向けて呟いた。
『竜の住処に踏み込むな。さもなくば厄災が降りかかる。喰われたくなければ関わるな』
所変わり、織斑千冬は自室で酒を煽りながら一夏のプロフィールを見ていた。
「(約10年前に両親が死亡。両親と関係の深かった、所属企業『ドラグーン』の創業者ルクス・アーカディアに引き取られ、そのまま『ドラグーン』に所属。以後、テストドライバーとなる、か…………)」
それは奏が偽造した『御祓 一夏』の情報だ。千冬の手元にある情報だけでなく、細かい部分の情報までも作り込まれている。諜報を主任務とした者たちでも、見破るのが難しいレベルである。
「ふざけるな…………こんなもの、誰が信じるものか…………お前は一夏だ…………織斑一夏だろう…………?」
だが千冬はその情報を信じない。『御祓 一夏』が、『織斑 一夏』であると信じて疑わない。
力が必要だった。
家族を、弟と妹を守る為の力が。
だから武力を行使した。敵になるものは全て薙ぎ倒した。全ては弟と妹の為。
束がISを開発した時、確信したのだ。
コレで、家族を守れるに違いないと。
だから束の計画に賛同した。
『この力で、秋一と一夏を守る…………!』
そして、白騎士事件を起こした。
そして世界はISに注目し、ISを動かせる女性優遇政策を実施。ISの操縦者の募集に参加し、日本代表となって収入を得た。
守っている。守れている。守れているに決まっている。
だからそんな筈は無い。
秋一が一夏を虐めるなんて有り得ない。
だって秋一もそんな事は無いと言っていたじゃないか。秋一が嘘をつく訳が無い。
中学の全国大会で優勝した?
私の家族なのだから、それくらいの力があるのは当然だ。
なのに、なのに、何故?
何故一夏は攫われた?
何故一夏は死んだ?
嘘だ。
嘘に決まっている。
あいつは私の妹だ。
死んでいない。
帰ってくる筈だ。
帰ってくるに決まっている。
一夏の友達が怒りを向けてくる。
何故そんなに怒っている?
私は間違っていない。
間違っていないんだ!
私は…………!
『アンタ達が一夏を殺したのよ!』
違う!
『一夏に助けを求められた癖に! アンタが振り払ったんでしょうが!』
違う!
『泣いてる一夏の味方になってすらいないアンタに! 一夏の姉を名乗る資格なんて無いのよ!』
違う!
『一夏のことを何も知らない癖に! 一夏を知ったような口を聞くな!』
私は…………! 私は…………!
だが、帰ってきた! 一夏は生きていた! なのに、何故、どうして…………、
どうして織斑を捨てた?
何故そんな奴らといる?
何故帰ってこない?
私たちは家族だろう?
「私は、間違ってなど、いない………………」
何度目かも分からぬ呟きを最後に、家族を守っていたと信じ続ける女は眠りに落ちた。
たった1人に宛てがわれた部屋で、篠ノ之 箒は天井を見つめる。
篠ノ之 箒は当たり前を過ごせていない。
篠ノ之 束によるISの開発。白騎士事件によるその軍事的優良性。
そして日本政府により、失踪した篠ノ之 束へのカードとして、他国に狙われる前に、そして自分達のカードにする為に行った重要人物保護プログラムにより両親と離され、何度も転校を繰り返した。
そして篠ノ之 束が関わったと思われる事件が起きれば、連絡は本当に無かったのか、何も知らないのかと、知りもしない事を聞かれ続けた。
その結果、篠ノ之 箒はその精神的苦痛から精神安定剤の服用が必要となり、同時に不眠症にまでなってしまった。今の彼女は精神安定剤は必要なくなったが、眠る為には睡眠薬の服用をしなければならない。
そんな篠ノ之 箒は、1人のクラスメイトを思い出していた。
「アイツに、似ていた…………」
かつて家族と離れ離れになる前、自分の暮らしていた家の道場で、休みなく稽古を続けさせられていた少女と、『御祓 一夏』が重なっていた。
織斑の『出来損ない』、『欠陥品』などと呼ばれるようになっていた少女は、今どうしているのだろうと、ふと思う。
リンチ同然に、立てなくなっても立たされ続けた少女は、どれ程の苦痛を味わっていたのだろうと想像してみる。
そして欠片も想像できない自分を嗤う。
「馬鹿か私は。他人の事など、理解できるわけないだろうに」
最早誰も信じられない。差し伸べられた手は全て自分を利用する為のものでしか無かった。他人を疑い続け、誰も信じられなくなった自分に、他人の何を理解できると言うのだろうか。
「孤独なのは、辛いな………………。いや、アイツは居場所すら無かったじゃないか…………。傷つけた側の私が、言うべき言葉ではないな…………」
1日の汚れを落とし、睡眠薬を飲んで眠る。
眠りに落ちる寸前、独りだけになった道場で、誰にも縋れず泣いていた『織斑 一夏』の姿を幻視した。
奏、しれっととんでもねぇことやらかす。(マギアルカは商魂逞し過ぎてやべー)
現実逃避千冬
人間不信な不眠症箒
の3つでお送りしました。