IS──暴竜に仕える八首竜の巫女──   作:樹矢

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遅くなりました。最新刊を読んで少し先を変更していたら意外と時間がかかりました。
以下前書き含め本編。


ごめんなさい。
守ってあげられなくて、ごめんなさい。
ずっと友達だって言ったのに。
あんたを守るって約束したのに。

辛かったよね……
怖かったよね………
泣きたかったよね…………

アタシのこと、嫌いになったわよね。
約束を破ったんだもの、当然よね。
結局アタシも、他の連中と同じ嘘つきになったんだもの。

でも、私の親友は、あんただけなのは、変わらないから────


龍、来たる

 ───ドイツ某所にて。

 

「…………久しぶりね。少し早くて悪いわね」

 

 少し小柄なツインテールの少女が、墓石に花を添えながら言う。

 その声は、後悔に満ちていた。

 

「…………IS学園に行く事にしたわ。あそこなら、もっと私は強くなれる。…………アイツらがいるのは、気に食わないけど」

 

 思い返すのは、どれも辛いはずなのに耐え続け、傷つけられる親友の姿ばかり。まともに笑っていた姿は、見たことがなかった。

 そんな当たり前のはずのことが、少女の親友には、できなかった。

 少女は2年前から後悔と共に考える。

 ────私は、ちゃんと味方になれていたのかな? 

 

 その答えを告げてくれる存在は、もういない。

 

「しばらく来れなくなるわ。ごめんなさい」

 

 少女の後方に控えていた黒服の女性が、時計を見て少女に声をかける。

 

凰候补生(凰候補生) 時間是的(時間だ)

我明白了(わかったわ)

 

「…………また来るわね」

 

 それは、遺骨の無い墓標。

 墓石には、織斑 一夏の名が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 クラス代表決定のパーティーが行われた次の日、1組はグラウンドでの専用機持ちの訓練となり、その他のクラスメイトは見学となった。

 

「これより専用機持ちの実習を行う。織斑、オルコット、御祓、専用機を出せ。オルコットからだ」

「わかりました」

 

 セシリアが光に包まれ、〈ブルー・ティアーズ〉を纏う。

 

「0.5秒か。候補生なら当然だな、次。御祓」

「はい。──来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い、無限の空を飛翔せよ、〈インフィニット・ワイバーン〉」

 

 機攻殻剣を抜剣。ボタンを押しながら詠唱符を唱える。そして光が一夏を包み、眼前に〈インフィニット・ワイバーン〉が現れる。

 

接続(コネクト)開始(オン)

 

 そして一夏の各部に接続される。詠唱符を唱えた一夏に周りはざわめきを起こしている。

 

「その長ったらしいモノは省略できないのか?」

「仮に盗まれた場合と万が一不具合が認められた場合の為のものです。私の指紋、静脈、声紋に完全に一致しなければ使用できません」

 

 本当は一夏の要望で詠唱符による起動システムはオミットされる予定だったが、奏が『カッコイイから残す! それに合わせてセキュリティも追加!』と言って生体認証という形で残されたのだ。

 代わりに緊急時用のボタンが追加され、それを押せば詠唱符無しで0.01秒以下で展開と接続までを行える。

 だがそれを使う時が来ないことを一夏は祈っている。これを使うということは、自動的に幾つかのリミッターが外れ、幻神獣(アビス)と戦闘することを意味している。そうなれば当然幻神獣の存在は世界に露呈し、一夏達の任務に支障が出かねない。

 仮にテロリスト等を相手にした対人戦だとしても、他国に情報が流れ、機体が狙われる可能性は少しでも避けたい。

 

「……そうか。最後に織斑、やれ」

「はい」

 

 秋一は〈白式〉を展開。1.57秒かかった。

 

「長すぎる。遅くても0.8秒以下にしろ」

「でも……」

 

 スパァン! と音が響き、秋一の脳天から煙が出る。

 

「やれと言っている」

「…………はい」

「では次だ。オルコット、武装を展開しろ。遠距離兵器からだ」

「はい」

 

 セシリアは《スターライトMk Ⅲ》を展開する。しかし……

 

「オルコット、どこに向けている。直せ」

「で、ですがこれは必要な…………」

「自分の状況を見て同じ事が言えるか?」

「え……っ!?」

 

 それは一夏のこめかみに向けられており、セシリアには一夏がいつの間にか展開した機竜牙剣(ブレード)の刃が1mm残して首に突きつけられていた。

 一夏の向ける冷たい瞳に、セシリアは言い様のない恐怖を感じる。

 

「申し訳ありません、癖なので。できれば照準を外して貰えますか?」

「は、はい……」

 

 セシリアが銃口を一夏から離すと、一夏は機竜牙剣を格納する。他のクラスメイトはわからなかったが、セシリアは一夏に向けられた冷たい瞳に冷や汗を流した。

 

「次、近接武器だ」

「は、はい! 

 ……《インター・セプター》」

 

 近接ブレード《インター・セプター》を展開する。しかし言葉にして展開したのは減点だった。

 

「貴様は実戦の時でも同じ真似をするのか?」

「そうならない為に通常の訓練に追加で訓練をしています」

「そうか。クラス対抗戦までに習得しろ。

 次はい……、御祓だ。近接武器は先程見たから省略だ。遠距離武器を出せ」

 

 千冬が名前呼びしようとした事に一瞬顔を顰めるが、一夏はインフィニット・ワイバーンの装甲腕の人差し指を動かす。たったそれだけで機竜息銃(ブレスガン)が展開される。

 

「0.01秒以下か、やるな。

 次、織斑」

 

 秋一は〈白式〉唯一の武装である《雪片弍型》を展開する。得意な剣道の竹刀をイメージしたのか、0.5秒以内に展開した。

 

「もっと早く展開しろ。

 次は機動を見る。指定したコースを飛べ」

 

 指示に従い3人同時に空へ舞う。一夏とセシリアは滑らかに飛翔し、指定されたコースを飛ぶ。その2人の後ろを秋一はノロノロと飛んでいく。

 

『何をやっている! スペックでは白式の方が2番目に速いぞ!』

 

 メガホンで千冬が秋一に叱責を入れる。因みに速さではインフィニット・ワイバーン、白式、ブルー・ティアーズの順であるが、現状はインフィニット・ワイバーン、ブルー・ティアーズ、白式の順で飛んでいる。

 

「上手いですわね」

「それほどでも。できれば自由に飛んでいたいのですが」

「同感ですわ。ですが……」

「授業中ですからね。真面目にやるとしましょう」

「ですわね。それと御祓さん。私のことはセシリアとお呼びくださいな」

「わかりました。それとこちらも呼ぶ時には一夏で構いませんよ」

「わかりましたわ、一夏さん」

 

 他愛のない話をしながら、一夏とセシリアは指定コースを通過。秋一も遅れて通過する。

 

「よし、次は急降下からの停止だ。目標は地上から10cmだ」

「それではお先に」

 

 そう言ってセシリアは降下。ぴったり10cmで停止する。

 次に一夏も少し加速して降下、こちらも10cmで停止する。

 そして秋一だが、こちらは加速をし過ぎたのかバランスを崩し、グラウンドに穴を穿ちながらも停止する。

 

「誰がグラウンドに穴を開けろと言った」

 

 制裁の出席簿が放たれ、秋一は1人で穴を埋めることになった。

 

 

 翌日、セリスティアから出された朝の訓練メニューをこなし、教室へ向かうとクラスメイトの1人が一夏に声をかけてきた。

 

「ねぇねぇ御祓さん、今日から2組に転校生が来るって知ってる?」

「そうなのですか? 初めて聞きました」

 

 曰く中国からの代表候補生だと。中国という単語を聞き、一夏はかつて織斑 一夏であった時の、たった1人だけの味方であり、親友を思い出す。

 

「(鈴……元気にしてるかな……? もしかしてその転校生が……なんて都合の良いわけ無いか)」

「御祓さん?」

「ああ、すみません。ちょっと考え事してしまったので」

「いいよいいよ。だけど2組の代表は専用機持ちじゃ無いらしいし、3組と4組は専用機持ちだけど、4組は完成していないらしいから、3組さえ勝てちゃえば今度のクラス対抗戦は勝ったも同然だよね!」

「───その情報、古いわよ」

 

 1組の誰のものでも無い声が静寂を作る。全員が声のした扉を見ると、そこには小柄なツインテールの少女が立っていた。

 

「改めて2組の代表になった凰 鈴音よ!」

 

 その姿を認め、変わらないなと思う一方、一夏は喜びと申し訳なさが混ざったような感情を抱く。

 嬉しい。自分の味方で、親友だった少女にまた会えたことが。

 申し訳ないと思う。もう、自分が生きると決めた世界はこの世界ではない。

 そして決めた。もう一度、1からやり直しだと。

 身勝手かもしれない。わがままかもしれない。どこかでボロを出してしまって、自分が元は織斑 一夏であるとバレてしまうかもしれない。

 だけど、また、もう一度。親友ではなく、友達からやり直そう。

 自分の正体を明かせば、理解を示してくれると思ってはいる。そうしてしまえば自分は主の元へ帰るのを躊躇ってしまう。

 バラさなければ主の元へと帰ることができる。せめて親友の1人にだけは、自分の正体を明かせばよかったと後悔を胸に。

 一夏にとって、ルクスへの忠誠と鈴音への友情は等しく、どちらかしか選べないものだった。

 そう思っていると、鈴音の雰囲気が変わった。

 

「鈴? 久しぶりだな!」

「ああ、アンタもいたわね。忘れてたわ」

 

 秋一に話しかけられると同時に先程までの活気の良さはどこへやら、鈴音は一気に嫌いなものを見たような雰囲気になる。

 

「酷いな。テレビでもうるさい程言われてたじゃないか」

「興味ないものは見ないのよ。それで? 1組の代表は?」

「僕さ。よろしく頼むよ」

「へぇ、アンタなんだそれは良かったわ。お陰で……」

 

 ───遠慮なくぶちのめせる。

 

 その一言で、秋一の背中に冷や汗が流れる。

 怒り、失望、そして殺意。秋一のしてきた事を、その被害者を知っているが故の、被害者の親友だったからこその感情。

 

「それじゃ、そろそろ授業始まるから」

 

 そう言って去っていこうとする鈴音を見届けるしかない1組の一同。そこへ千冬がやってきた。

 

「凰、ここで何をしている。授業が始まるぞ」

「久しぶりですね千冬さん。いえ、ここでは織斑先生でしたね。これから教室に戻るところですよ」

 

 そう言って千冬を背に2組へ向かう鈴音。すると突然千冬に振り向き告げた。

 

「あいつを理解することはできましたか?」

 

 そう言って再び歩いていく鈴音。それを聞いた秋一を含める誰もが疑問符を浮かべる。

 しかし千冬は違った。鈴音が千冬に向けた感情は怒り。親友の姉であり、助けもしなかった千冬への怒り。しかし千冬は訳が分からないと言うような表情でその後ろ姿を見ていることしかできなかった。

 その鈴音の態度が、一夏が虐められていた時に庇ってくれた時と変わっていないことに一夏は笑みをこぼした。

 

 その後なんとも言えない空気の中授業は進み、昼休み。一夏が食堂でセシリアと共に食事をしていると、鈴音がやってきた。

 

「テーブル、一緒でもいいかしら?」

「どうぞ」

「構いませんわ」

 

 そしてテーブルに座り、一夏を見ると目を見開いた。

 

「…………いち、か……………………?」

「…………確かに私は一夏という名前ですが、あなたとは初対面ですよ?」

 

 一夏は思わず久しぶりと言ってしまいそうな自分を抑える。一夏の返答に、一瞬だが少し悲しげに俯く鈴音。

 

「……悪かったわね。あまりにも知ってるやつに似ていたから。改めて2組の代表、凰 鈴音よ、よろしく。呼び方は鈴で構わないわ」

「御祓 一夏です。呼ぶ時は一夏で構いませんよ」

「セシリア・オルコットですわ。セシリアとお呼びくださいな」

 

 互いに自己紹介をし、昼食を進めていく3人。そこでセシリアは思い出したことを一夏に聞いた。

 

「そういえば一夏さん、一夏さんの師はどのような方々なのですか?」

「そういえば途中でしたね」

「何の話?」

 

 鈴音の質問にセシリアは経緯を説明する。そして一夏に対して鈴音は一言。

 

「何者よアンタ……」

「企業秘密です」

「ケチ」

「まったくですわね。それでは教えてくださいな」

 

 頬を膨らませる鈴音とそれに同意しながらも話の続きを求めるセシリア。

 

「そうですね……。私の師は6人います。

 まず1人目は初心で箱入り娘のようなところは多いですが、自分は自分だとはっきりと言い、いざという時のカリスマ性は頼もしいです。想いを寄せる相手と手を繋いだことでライバルから1歩リードしたと本気で思っていた姿はある意味微笑ましいの一言かと」

 

 早速言われた1人目に、セシリアと鈴音は一夏の言葉に同意する。そして思う。是非ともその光景を見たかったと。

 

「2人目は人を揶揄って楽しむ性格をしてますが、有事の際は的確に状況を判断してくれて頼りになります。私に色々なことを教えてくれた人でもあります。時折急に私をターゲットにしてくるのは慣れないですが」

 

 軽くため息をこぼす一夏に本当に唐突に狙われるのかと思いつつ、それでも頼れるその人物がどんな人間なのか気になる2人。

 

「3人目はおっとりとして天然な方ですが、思ったことははっきりと言い、間違ってるところは間違ってると言ってくれます。何度か叱ってくれたこともありますね。食事とお菓子を大量に食べても一切太らないのは羨ましいですね」

 

 それは確かに、と2人は頷く。

 取り込んだ食事やお菓子は自身のエネルギーに回され、余剰は3桁を越えた場所に行っていることは一夏を含めた身近な人間しか知らない。

 

「4人目は少し抜けてるところがあり、揶揄いがいのある方ですが、自分を厳しく律し、誰よりも努力を重ね、怠らない人です。戦闘面では主にこの人に鍛えられましたね。正気とは思えないレベルの訓練を軽々と熟す様は目を疑いましたよ、ええ」

 

 どこか遠くを見る一夏に、2人はその人物を想像する。

 鈴音は某格ゲーの自分の祖国出身の女性格闘家を。

 そしてセシリアはよりにもよって女性ボディービルダーのような人物を想像した。

 どちらも現実からは程遠い。

 

「5人目は3年生にいる切姫 夜架さんです。何かと掴みどころがありませんが、私にとっては姉同然の方です。護身術を含めた幾つかを教えてくれた人でもありますね」

 

 鈴音はどのような人物だろうと考えていると、一夏がとある方向へ目を向けていることに気づいた。

 その先には左右で目の色が違う少女が1人、一夏に微笑みながら手を振っていた。その相手に一夏も手を振って返す。

 

「もしかしてあの人?」

「そうです」

「髪型が似ていますのね」

「私が似せてますから」

 

 なるほどと2人は頷く。どうやら一夏は自身が思っている以上に姉だと思っているのだと2人は察した。

 

「…………最後の6人目の方は、先程の5人と私も含めて心配するようなことを何度もしますが、いざという時は安心して背中を預け、頼ることができて、守ってくれて、間違いをしてしまった時には間違ってると叱ってくれる人です。

 …………今の私は、この方がいなければ存在していないと断言できます」

 

 一夏の師がどのような人物かを知ることができたセシリアと鈴音。

 しかし6人目を語る一夏に、2人は息を飲む。それは一夏が自慢するかのように言い、恋する乙女と言えるような表情で語ったからだ。

 

「私が語れるのはここまでです」

 

 そう言って再び食事を進める一夏。そんな一夏に鈴音が質問した。

 

「そういえば、訓練とかはどうしているの?」

「先程語った4人目の方に訓練メニューを考えていただいたのでそちらを。学園にいる都合上、普段よりも軽めですが」

「ふーん、ねえ、それ私も参加していい?」

「構いませんが、クラス対抗戦が終わってからでいいですか? この訓練のせいで2組が負けたなんて言われたくないので」

「構わないわ」

「わたくしもご一緒しても?」

「別にいいですけど、2点忠告……いえ、警告を」

 

 警告? と2人は疑問に思う。

 

「まず1つ、女性としての品性は犬に食わせてください。なんなら誇りもその辺のドブかゴミ箱にでも捨てておいてください。そんなものは邪魔です」

 

 突然の言葉に耳を疑う2人。しかし次に放たれたのは、尚耳を疑うものだった。

 

「第2に、参加するのであれば命懸けでするように。2つ目は絶対にです。仮に軽い気持ちで行いでもすれば、三途の川を渡りかねませんので。警告はしたので、仮にそうなっても自己責任でお願いします」

 

 特に真面目なトーンで言う一夏。その雰囲気と威圧感に汗が流れ、息を飲む。

 

「お前達! いつまでのんびりと食べている!」

 

 そこへ千冬の怒声が響き、3人はさっさと昼食を食べ終えるのであった。




新型コロナで近所のスーパーやコンビニでティッシュが買えなかったりとありましたが私は無事です。
今では品薄状態も回復したので良かったです。こういう時のデマって本当に悪質ですね。情報社会なので尚更こういった時のデマはあっという間に広がりやすいという代表例とも言えるかも知れません。
皆さんも新型コロナに限らず、体調には十分気をつけてください。


さて、一夏絶対守る姉貴の凰 鈴音登場。冒頭はネットの中国語翻訳をそのまま乗せているので、間違っていたら指摘お願いします。

本作の裏設定
鈴音の存在が一夏が自殺をしなかった理由そのもの。存在そのものがファインプレー。その性格も相まって文字通り『唯一の親友であり味方』でした。
もしも一夏が『保護』されず、機竜世界にも行かなかった場合、一夏は誘拐犯達に貞操を踏み躙られ、依存系ヤンデレの百合になって鈴に依存してました。

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