それと《陸戦型》の為にもちょっと。
翌日の放課後、一夏はISの整備室に来ていた。インフィニット・ワイバーンの新たな武装が届いたため、その開封と装備のためだ。
整備室の中で作りかけのISを見かけたが、変に関わるのはよそうと、敢えてそれを無視して奥の空いているスペースに入る。インフィニット・ワイバーンを喚び、一夏は武装の装備に取り掛かった。
数分後、一夏のいる整備室に1人の少女が現れた。その人物は作りかけのISに近づいて作業を始めようとして、先客が居ることに気がついた。
「(だれかいるの?)」
恐る恐る奥を覗いてみると、一夏の姿を見つける。
「(確かあの人は……)」
一夏はその少女を知らなくても、少女は一夏を知っていた。
織斑 千冬に掠らせもしなかったと噂の人物。自分の専用機の開発が凍結された元凶を蹂躙せしめた人物。
一夏自身は知らなくても、御祓 一夏という人物の名前は学園では有名になってきている。
『ブリュンヒルデの弟に勝利した1年生』、『国家代表候補生を倒した無名の強者』。
そして『織斑 千冬にかすり傷すらつけさせなかった新入生』。それらが今の一夏を指す称号であった。
そんな一夏を見つけた少女は、何をしているのか気になった。一夏の機体の近くにあるコンテナには、大型のドラムマガジンらしきものが4つ接続され、レールガンの砲身をガトリング状に6つ連ねた武装とスナイパーライフルの様な武装、そして刀身が折り畳まれた大剣の様な武装があった。
無意識の内に興味を惹かれ、足が動く。爪先に転がっていた工具が当たり、金属音が響く。それに驚き内心しまったと思うがもう遅い。
直後、一夏の手近にあったスパナが少女の近くに飛来し、甲高い音を立てる。
「誰ですか?」
一夏は機攻殻剣を掴み、警戒による殺気を向けながら振り向く。そこには少し涙目になった眼鏡をかけた水色の髪の少女。それを見て一夏は楯無を思い浮かべ、関連性があると思考する。
「えっと……あなたが作業してたから……何してるのかなって…………」
「……そうでしたか。あなたは?」
「更識……簪、です」
「そうでしたか。私は……」
「知ってる…………御祓 一夏……でしょ。いろいろと有名だから…………」
「そうでしたか。……それと更識、ですか。生徒会長と関係は?」
「姉、それだけ。あの人は関係ない。それと呼ぶ時は名前で呼んで欲しい」
「……そうですか」
簪が姉に対してそれだけと言った直後、整備室の隅が1つ暗い空気に包まれる。物凄く小さな「それだけ………………それだけ………………」という音と暗い空気を認識した一夏だったが、めんどくさいのでなにも無かったことにした。
「では1つ聞きたいのですが」
「……何?」
一夏からの質問に、簪は無意識に緊張し始める。そして一夏が口を開いた。
「…………あなたの姉は同性愛者のストーカーですか?」
ずっこけた。盛大に。
つい先程まで暗い空気を放っていた場所からも、簪と全く同時にずっこけた音がした。一瞬目の前の簪と同じ髪色が見えたが気の所為だろう。先程までの真面目な雰囲気はどこに行ったと問いただしたくなった簪は悪くない。
なんとも言えない空気が数十秒も続き、簪が勇気を振り絞って聞いた。
「………………それは、なんで?」
「どうやら興味を持たれたみたいなのですがね。早朝から授業が始まる前までと昼休み、そして放課後からお風呂に入るまで全く同じ人の視線を感じるんですよ。それがあなたの姉のものでして。
いい加減しつこくて少々我慢の限界なんです」
「いい加減にして欲しいものです」と一夏は不満げに言い、簪は自分でもなんと言えばいいのかわからない気分になった。
「………………えーっと、その。なんか、身内がごめんなさい」
それが簪の言える精一杯であった。
「と、ところで、御祓さんは何をしていたの?」
「…………所属企業から新装備が届いたので
話を逸らす簪。これ幸いと一夏は流れに乗った。
「見るからにガトリング砲とスナイパーライフル、それと、大剣?」
「ええ。少なくともガトリング砲は開発者曰く、ロマンだそうで」
「…………どういう事?」
一瞬で簪の目が真剣な物になる。それを見た一夏は察した。あ、奏さんと同類だこの人と。
「武装名にもなっているのですが、開発者の言っていた言葉を言うと、
『ガトリング、ロマンよね。レールガン、ロマンよね。その2つ混ぜたら最高だと思わない?』だそうで。要するに《ガトリングレールガン》ということでして」
「なんかその人と語り明かしたくなってきた」
「やめてください。始末に負えないので」
目が椎茸と言うべき物に変わりつつある簪に一夏は奏の同類だと確信する。
「因みにこれ一つだけ?」
「更に片腕二門ずつになるように三門追加されるそうで」
「折角だからマルチロックオンとか大艦巨砲主義についてもその人と語りたいんだけどこの後時間ある?」
肩を掴んで覇気迫る簪に、一夏は謎の形容し難い恐怖を覚えた。
一夏はさっさと量子変換を終え待機形態へと戻し、奏の電話番号を教えることでそれを抜け出せたのだった。
これが彼女の、更識 簪の分岐点であった。
その夜。風呂場から寮へ戻る途中、奏から着信が入る。
「一夏です」
『久しぶりね一夏ちゃん。早速だけど、本業よ』
その言葉を聞いて、一夏は任務を遂行する為に意識を切り替える。
「場所は?」
『小笠原諸島を構成する島の1つ、完全な無人島よ。妨害になりそうなのは確認できなかったわ。小型と中型の混成なのかはわからなかったけど、2個中隊規模はいるわ。わかっていないだけで、大型もいるかもしれないから気をつけて』
「了解。疑いはしませんが警戒しながら対応します」
『時間制限はそちらの消灯後から夜明けまでよ。ルームメイトに悟られたくないでしょ?』
「最近は物漁りをしていないので大丈夫そうですけどね」
更識の当主から命令があったのか、最近はぱったりと漁ることはしなくなった。恐らくは何者かと接触しようとするのを待っているのだろうと一夏は予想を立てている。
『…………あなた達の前では更識の一味も手の平ね』
「向こうが様子見のままでいてくれるのもありますけどね。いつぞやのクラッキング以降、何かありましたか?」
『無いわねぇ。別のところから熱烈なラブコールを受けてはいるけど』
となると更識では無い別の者、或いは組織からか。その答えが、近いうちに一夏のもとへと自分から来るとは、この時の一夏は思ってもみなかった。
「随分と人気者になりましたね。どこかの兎さんが餌でも吊るしたのでしょうか?」
『それか血なまぐさい亡霊と踊ってるのかも知れないわねぇ。とにかく、そっちは私が対応しておくから、あなた達は任務に集中して』
「了解しました」
『それと、更識 簪さんだったかしら。戻ってこれる時間があったら、彼女も連れてきて欲しいわ』
「…………早速ですか」
いくらなんでも行動力があり過ぎると一夏は内心慄いた。
『いやぁー趣味の合う子とは話が弾むわね!
…………それと、ちょっと個人的に気に入らない事も教えて貰っちゃってね。力になってあげたいっていうのが本音よ』
「…………未完成の機体ですか?」
『…………知ってたの?』
「送られてきた格納庫に未完成の機体があったので。私のように量子変換するならまだしも、それ以外の目的で使うなら修理か未完成機体の開発かと思ったので」
『…………正解よ。ここでは詳しくは言わないけど、ロクな理由では無いのは確かよ。取り敢えず、その時はお願いね』
「分かりました。では」
そう言って一夏は通話を切る。先程会った簪のことを一旦頭の隅に置き、改めて任務に集中することにする。
その夜、一夏は夜架と共に出撃する。
世界は何も知らず、学園に近づいていた脅威は2人の竜騎士によって葬られた。
察しの言い方はわかると思いますが、奏の同類です。それでいて常識枠です。
片鱗はあるけれど
出撃した一夏達の戦闘はカット。ダレるのは目に見えてたし、本筋で戦闘するからそっちに集中しないと。
新たに出てきた武装解説
ガトリングレールガン
レールガンが6つ束ねられたガトリング砲。1発ごとにレールガンの砲身を冷却しなければならず、量子変換で交換しながらばら撒く。撃った瞬間に交換される為、タイムラグはほぼ無し。今回持ち込まれたのは実戦データ取得用の試作品。
ドラムマガジン型のパーツの内2つは予備のレールガンの砲身が量子格納されている。使用済みの砲身もここに格納され、即座に冷却が開始される。
強化プランで
スナイパーライフル
凍息投射をモデルにした形状。
刀身が折り畳まれた大剣のようなもの
デスティニーガンダムのアロンダイトをイメージしてくれればわかりやすいかと。機能もほぼ同様のもの。