IS──暴竜に仕える八首竜の巫女──   作:樹矢

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簪の打鉄弐式開発への導入です。


臨時休日・1

 突然の告白に一夏は現実から逃げるようにロランツィーネ・ローランディフィルネィ、ロランの愛称で呼ばれる彼女の情報を思い出す。

 

「(たしか3組の代表でオランダの代表候補生。99人の同性の恋人がいると噂されてる人ですね。百戦練磨とはこの人みたいな人間を言うんですね)」

 

 明らかに使い方を間違っているがとりあえず納得した一夏。しかし現実は見なければならない。

 

「あの時私達を助けてくれた凛々しさに、あの化け物を止めるために放った舞のような剣の美しさに、そしてそれらを兼ね添えた君自身に、私は心を奪われた! 

 御祓 一夏! 私の妻になってくれないか!?」

 

 告白はプロポーズへ。一夏は遠目からこちらを見て笑いを堪える夜架を発見、アイコンタクトで救援要請をする。

 

 ───助けてください。

 ───頑張ってくださいな。

 

 一夏は確信する。神は死んだと。

 そして夜架の反応から諸行無常とはこのことかと一夏は世界の理不尽を知る。なんと酷い姉だろうと一夏は心の中で嘆いた。

 よく見れば1組のクラスメイトや他のクラスの生徒達まで見ている始末。中には先程までどこかにいたのか、教室に荷物を取りに戻ろうとするセシリアと鈴音までいた。途中からとはいえ夜架同様に見ていたらしく、爆笑を必死に堪えているようだ。クラス代表戦前に約束していたトレーニングをキツくしてやろうと本気で思った瞬間である。

 答えを待つロランに、一夏は意を決して答えた。

 

「申し訳ありませんがお断りさせていただきます」

「なっ!? それはどうしてだい!?」

「もう(従者として仕えると)心に決めた方がいますので」

「そんな…………。もう(想いを捧げる)相手がいると…………?」

 

 瞬間、周囲から興奮の悲鳴があがる。いつの間にやら野次馬に紛れ込んでいた新聞部の部長を見つけた一夏は捏造されないように話を付けると決めた。そしてロランの勘違いと一夏が意図的に言わなかったことで真意の齟齬が起こる。

 しかし一夏は従者という身でありながら主のルクスに恋心を抱いているため、ロランの勘違いはあながち間違いではなかったが。

 

「なのでその言葉を受け取る訳にはいきません」

「そうか…………。ならばその相手のライバルとなり、宣言しよう! 私は必ず! 君を振り向かせて見せると!」

「それと同性愛に興味はありませんので」

「なん…………だと………………?」

 

 ロランがアニメのように白くなっていく気がするが、一夏は気のせいだろうと言い聞かせる。

 そしてその場を去っていくついでに、先程のやり取りは新聞にしない様に新聞部の部長に話をつけて今度こそ去る。後に新聞部の部長は「まるで大蛇に睨まれたようだった」と語る。

 そしてしばらくは夜架に偶にねだられる和菓子は作らないと心に決めた。見捨てた罪は重いのだ。仮に泣きついて謝ってきても、一夏は絶対に許さぬと心に決めた。

 

 

 

 

 

 幻神獣の襲撃により、休校になった翌日の早朝。一夏はスポーツウェアを着て、寮の近くにある開けた場所で休日のトレーニングメニューをこなしていた。しかしそこにはもう2つの影が倒れている。それはセシリアと鈴音だ。

 何が起きたのか。簡潔に述べるならば、『地獄を見た』の一言に尽きる。流石に本来の量よりは減らされているとはいえ、セリスティアの考案した訓練メニューは2人の少女達には初期段階でアウトだったらしい。

 

「あん……た………………よく、やれる…………わね…………」

「本当…………ですわ……………………」

「2人ともそこまでです。これ以上はやらないでください。死にますよ」

 

 一夏から丁度いい温度のスポーツドリンクを受け取りながら、一夏の警告を身をもって体感した2人は大人しくその指示に従う。

 

「それにこれでも軽いほうですよ? 私なんて本来の訓練メニューを初めてやった時には、胃袋の中身が空になった筈なのに出てきましたから」

 

 遠い目をして言う一夏を見て、2人は思う。

『何だその地獄は。この地獄が天国のようではないか』と。

 そして改めて思った。一夏を鍛えた者達は何者だと。2人の中でこのトレーニングの考案者のイメージが悪魔で固定された。

 この日、2人は過去最大級の疲労で食事以外で出歩くことができなくなったのは余談である。

 

 トレーニングを終えた一夏はセシリアと鈴音をそれぞれのルームメイトに預ける。2人の惨状に、何故こうなっているのかと聞いてきた2人のルームメイト達に事実を説明すると、まるで人外を見るような目で見られた。

 部屋に戻ると、一夏はトレーニングでかいた汗を流す。髪をよく乾かしてエンブレムを隠した王立士官学園(アカデミー)の制服に着替えると、一夏は機攻殻剣を竹刀袋に入れて用意していた荷物を手に取った。

 すると、さっきまで夢の住人になっていた本音が寝惚けた目を擦りながらそれに気づく。

 

「あれ〜? みっちーどこ行くの〜?」

「少し企業の方へ。先日の戦闘で機体に負荷をかけたので、メンテナンスをするすることになったので」

「そうなんだ〜。あ、そうそう〜」

 

 そこで一旦言葉を切って、本音は言う。

 

「…………守ってくれてありがとね」

 

 いつもとは違う、間延びしていない口調でそう言う。そして「おやすみ〜」と言いながら、再び本音は夢の世界へと旅立って行った。

 

「…………まあ、悪い気はしませんね」

 

 校門へ向かうと、そこには一夏と同じく王立士官学園の制服を着た夜架と、IS学園の制服を着た簪がいた。夜架は一夏と同じ理由で、簪は先日に一夏から貰った奏のアドレスで語り合った際に出た専用機についての話をする為にドラグーンへ向かうのだ。打鉄弐式は待機形態となって簪が身につけている。奏からは私服でいいと言われていたが、簪はせめて服装だけはしっかりしなければと思い、IS学園の制服を選んだ。

 

「では行きましょうか」

 

 これからドラグーンに向かうのだと緊張する簪を、夜架がその緊張を解していく。時にからかわれ、あたふたとする簪を夜架が楽しみながら、モノレール、電車と乗り継いで目的の駅で降りる。駅のホームを出ると、奏が自家用車で一夏達を待っていた。

 

「ここまでお疲れ様、ここからは私が乗せてくわね。あなたが簪さんね?」

「は、はいっ! よろしくお願いします!」

「もう、そんなに緊張しなくていいのに」

 

 そう言う奏に、簪は内心で「無理です!」と叫びながら全力で首を横に振る。

 最近はISに関する技術ばかりで忘れられがちだが、奏は世界的にも有名な技術者の1人だ。簪にとっては雲の上の存在。以前電話で語り合った時に名前を聞いていたが、語り終えて部屋で冷静になった時に語り合った相手が何者なのかを思い出して卒倒しかけたのは記憶に新しい。

 そんな奏の車にあれよあれよという間に乗せられ、車はドラグーン日本支社である奏の研究所へと向かう。カードと生体認証でゲートが開き、一夏達はようやくドラグーン日本支社へと到着した。

 

「さて、少し歩くけど、時間欲しい人はいる?」

 

 恐る恐る簪が手を挙げ、一夏の案内で花を摘みに行く。どうやら緊張しすぎていたらしい。

 簪達が戻ってくると、一夏と夜架は別れ、整備室へ向かう。残った簪は奏と共に廊下を進んでいた。

 

「なるほどねぇ。それで専用機が…………」

「…………はい」

「とはいえ、確かに誘ったのは私だけど、最後に決めるのはあなたよ、簪さん」

 

 そう言われ、簪は俯く。ふと視界に入った窓の先を見ると、子供達が勉強に励んでいる。しかし国籍は見るからに違う者達ばかりだ。

 

「あの、空亡さん」

「奏でいいって言ってるじゃない」

「…………さすがにそこまでは無理です…………。あの、あそこにいる子供達は?」

「…………ああ、あの子達ね」

 

 簪の視線が行く先を奏も見ながら、真剣な表情で奏は問う。

 

「…………ねえ、簪さん。『売却』って知ってるかしら」

「えっと、何かを売るってことですよね…………?」

「そうね。あの子達は、その売られた子供達よ」

 

 その言葉に簪は血の気が引いた。子供達を、人間を売る。それはつまり。

 

「…………人身売買ってことですか?!」

「そうよ。ISによって過剰な女尊男卑が世界中で起きてる。それこそ中にはあの子達のように、性別が男だからって理由で売られる子供達もいる。売られた子供達がマトモな場所に行く確率はほんの僅か。テロリストや紛争地域の少年兵にされる子供達のほうが多いわね。

 …………ここにいる子達はね、そんな子供達を売っている組織や少年兵として消費している連中のいる組織を壊滅させて保護した子達よ」

「…………買った、訳じゃ無いんですね」

「中にはそうせざるを得ない子達もいたけどね…………」

 

 ギリ…………と奥歯を食いしばりながら奏は言う。言外に不本意ではあるが売買に加担していると奏は答えた。

 

「言っておくけど、ここにいるのはほんの一部。私達日本支社が担当している子達がここにいるのであって、もっと多くの子供達を保護してる。その大半はドラグーンが傘下に入ってるファンブリーク商会のところにいるわ」

「ファンブリーク商会?」

「私達のバックアップをしてくれているところよ」

 

 窓の奥で教材と睨み合う子供達。見ているだけではどこにでもいる子供達に、そんな過去があるようには見えない。

 

「…………あなたはそんな大人になっちゃダメよ」

「…………はい」

 

 さて、と。と奏が手を叩く。沈鬱とした空気を払うように奏は目的の部屋へ向かう。簪が連れて行かれたのは試作品の装備などを開発する部屋だ。

 

「さて、と。それじゃあ本題に入りましょうか」

「は、はいっ!」

「そんなに緊張しないで。専用機、持ってきてある?」

「は、はい…………」

「それじゃ、2番コンテナの前で展開してくれる?」

 

 簪は言われた通りに打鉄弐式を展開する。簪が降りると、奏は打鉄弐式の周りを歩きながら、時に触りながら見ていく。

 そして一通り見終わると、コードを打鉄弐式とコンピュータに繋ぎ、ソフトウェアを見ていく。

 

「…………」

「あ、あの………………」

「…………ねえ、これ、貴女が1人で作ったの?」

「………………はい。何か、良くない所が………………?」

 

 流れていく膨大なプログラムを奏は無言で見ながら奏は思考の海に沈んでいく。

 

「………………………………っ!」

 

 先程まで見せていた話しやすい雰囲気の奏や子供達について語る真剣な奏とは、打って変わった面を見せる奏。

 完全に技術者であり科学者としての、本職としての奏の姿がそこにあった。その奏の表情に、簪は思わず唾を飲んだ。

 

「ありがとう。結論から言わせてもらうと、この機体を今のあなた1人で完成させるのは無謀よ」

「…………はい」

「やろうとしている事はわかるんだけど、処理内容は滅茶苦茶だし、機体自体も損傷したら動けなくなってしまうかもしれない程にデリケートな物になってるわ。

 当たらなければいいのかもしれないけど、1発でも当たったらこの機体は動けなくなってしまうわ。そこは技量でカバーしたいところだけれど、そこまでの実力はないでしょう?」

「………………」

 

 簪は無言で頷く。反論できる材料も無く、簪は無言で俯く。しかし奏は指摘だけでは終わらせない。

 

「とはいえ、ここまで1人で作り上げたのは賞賛に値するわ」

「……………………え?」

 

 突然の評価に簪は思わず顔を上げる。それに気づかないのか、奏は良かったと判断したポイントや伸ばせば長所になるであろう点を次々に挙げていく。

 

「…………まあ、1人で作ったんだもの、出来ていないところも多い。技術者として見ても、色々と穴だらけ。

 でも凄いわね、1人でここまで作り上げるなんて。これ、貴女が手をつけた時には殆ど基礎フレームだけだったんじゃないかしら?」

「………………そうです」

「それを1人でここまで作り上げるなんて凄いわ。IS学園の設備じゃ、武装を作るのが関の山。装甲とかは満足なものを作ることだって難しいのに、機体のガワだけでもここまで作れるのは誇っていいわよ?」

「…………………………」

「それにソフトウェア面もいい線行ってる。もっと教えてくれる人がいたなら、本当に貴女1人でも作れていたかもしれないわね。

 倉持の連中、龍になる鯉を逃がしたわね。

 ともあれ、入学してそこまで時間が経っていないのに近くで基礎フレームからここまで作れた貴女は凄いわ。エンジニアに向いてるし、将来有望………………って、どうしたの!?」

「…………え? あ、あれ…………なんで、泣いて………………」

 

 無意識の内に流れていた涙に気づいた簪はそれを拭う。しかしいくら拭っても涙が止まることは無い。

 

「…………よく頑張ったわね」

 

 そんな簪を奏は抱きしめる。そして優しく頭を撫でてくる奏に、簪は声を上げて泣いた。

 

「…………ごめんなさい」

「気にしないの! 頑張ったなら、頑張った分だけ褒められるのは子供の権利よ」

 

 しばらくして、簪は自分のやった事に縮みこんでいた。奏は気にしてはいないのだが、羞恥やらなんやらで簪には謝ることしかできなかった。

 コロコロと百面相をする簪を微笑ましく見ている奏に、奏がスカウトした科学者の1人がやってきた。

 

「失礼します。空亡博士、先日提案した理論の…………そちらは?」

「あらオーエン博士。この子がこの間言ってた子よ」

「ほう、君がかね。私はジャック・オーエン、彼女の下で働かせてもらっている。君は?」

「更識 簪、です」

 

 ジャックの名を聞いた簪は完全に一致する人物について思い出す。

 

「(ジャック・オーエンって確か、アメリカ出身の量子物理学の権威で有名な人じゃ…………)」

 

 打鉄弐式の自作の為に、様々な論文を読み漁ったことですぐに思い出すことができた。そしてある意味奏と同じレベルの科学者であることに気づき、体がバイブレーションが起動した携帯のように震え始める。

 

「更識君か。その機体は君の専用機かな?」

「そ、そうです…………」

「ふむ………………」

 

 若干声が上ずりながらも返事を返す。ジャックは先程までの奏と同じく、科学者と技術者の両方の視点から打鉄弐式を見ていく。

 

「どうかしらオーエン博士。私は()()だと思うのだけれど」

「………………成程、この考えは浮かばなかったな。この辺はもう少し簡略化できそうだが…………」

「えっと、あの………………?」

「ごめんなさいね。この人気になり出すと直ぐに周りが見えなくなるの。多分指摘される所は私が指摘したところよりも痛い所でしょうけれど、その分役に立つアドバイスをくれるはずよ」

 

 奏の言葉に気持ちを落ち着かせながら、簪はジャックの様子を見届ける。

 

「…………面白い!」

 

 唐突に叫んだジャックに簪は驚きのあまり飛び上がる。

 

「更識君!」

「は、はいっ!?」

「この後はまだ時間あるかね…………?」

「い、一応、今日一日は…………」

「よし!」

 

 ガシッ! と両肩を掴まれて問われた簪は、声を震わせながら答える。するとジャックは携帯を取り出し、誰かに向けて通話を繋いだ。

 

「ハワード! 例の子が来た! 技術棟206号室に皆を集めてくれ! 有意義な時間が始まるぞ!」

 

 楽しみでたまらないという感情を隠しもせず、ジャックはハワードと呼んだ人物に指示を出す。奏、ジャックというそれぞれの分野の権威が2人もいることから、ハワードという人物とこれから集まる人物達も何かしらの権威なのではないかと簪は恐怖する。

 

「…………さて、行きましょうか」

「あ、あの、どこに…………?」

「────私達の同類の所に」

 

 その言葉で簪は一夏の言葉を思い出した。

 

『ここがドラグーン日本支社技術研究本部。通称『マッド(変態)の巣窟』です。取り敢えず色々と覚悟はしておいて下さい』

 

「(もしかして、選択肢間違えた?)」

 

 それに気づくも後の祭り。簪には最早できることは大人しくついて行くことだけだった。




ロランからの告白を振った後
夜架「そういえば、この前頼んだ羊羹はありますか?」
一夏「無いですよ」
夜架「えっ…………」
一夏「私を見捨てた人に差し上げる羊羹は欠片たりともありません」
夜架「…………謝りますので許しては「嫌です」……ごめんなさ「知りません」…………(´・ω・`)」


奏・ジャック&その他マッド共「Welcome!」
簪「…………生きて帰れるかなぁ」
一夏「簪さんが染まらなければいいのですが……………」
夜架「……………まだ怒って「…………(つーん)」………ますわね」
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