夜、その少女は目的の物を見つけた。
「あった…………!」
シャルルは竹刀袋に入れられていたインフィニット・ワイバーンの機攻殻剣をを見つけ出し、
しかし、その時には既に、刀の刃が首筋に当てられていた。
「ようやく尻尾を出してくれましたね、デュノアさん?」
「…………いつから見てたの?」
「そうですね、あなたがこの部屋に入ってきたところからでしょうか?」
「…………最初から、か」
「目的は?」
「…………君の機体を作った人と交渉したい」
「企業スパイにその権利があると?」
「僕がじゃない。僕の会社の『社長』がしたいんだよ。僕はその為に送り込まれた。必要ならば、君の専用機を奪ってでもこの状況を作るつもりだった」
「…………いいでしょう。ですが本人と直接交渉させるかは私が決めます」
「当然だね。ちょっとまってて」
シャルロットは待機形態のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを操作し、通信を繋げてホロスクリーンを空中に投影する。
そこに映ったのは、仮にも社長とは思えないほどやつれ、汚れたスーツを着る男だった。その背景には数人の社員達と思しき男性達が、檻らしき場所に共にいる。
『…………コンタクトは取れたのか?』
「その前に審査が必要だってさ」
『やはり、か。お初にお目にかかる。シャルル…………いや、シャルロット・デュノアの父であり、デュノア社社長、アルベール・デュノアだ。このようなみすぼらしい姿で申し訳ない』
「ご丁寧にどうも。『ドラグーン』専属操縦者、御祓 一夏です。単刀直入に聞きます。目的は何ですか?」
『我社はあるテロリストの手中に落ちている。敵は大規模国際テロ組織『亡国機業』だ。
デュノア社は現在、奴らの資金源、及びテロ活動用のISの工房となってしまった。経営陣は奴らの仲間となったIS委員会の面子に乗っ取られ、本来は社長室にいるべき私もこのザマだ。
奴らは君達の使う『ドラグナイト』に目をつけている。その警告を君達へすると共に、デュノア社の解体を世界に宣言する為の協力を依頼したい』
「態々?」
『そうだ。それと同時に経営陣を乗っ取った連中の名も公表し、抵抗が起きる前にフランス政府と軍による制圧が入る予定だ。フランス政府には直接大統領と官僚達にも話は通してある。これは政府側のテロリストへの姿勢のアピールでもある。
だが奴らを摘発する為の最後の1ピースが足りない。
…………君達ドラグーン、ひいてはそのバックアップにいるファンブリーク商会。君達が持つ、ある程度の自由の効く戦力。我々の独力では我が社を乗っ取った奴らを1匹も残さずに捕縛できる力が足りない。
それを得る為に我々は、君達の機体を作り上げた天才、空亡 奏博士に協力を依頼したい』
「見返りは?」
『我が社が払える、彼女が欲するもの全て。これ以上、デュノア社には未来は無い。ならば正しく使ってくれるであろう人物に渡すのは吝かでは無い。これしかできない、とも言えるがね』
その回答に一夏は一息ついて、その場にいない誰かに聞く。
「…………だ、そうですよ。『天才』?」
『そうねぇ、面白そうね、ソレ』
一夏の問いかけに答える声が、一夏の機攻殻剣から発せられる。
「…………交渉させるかは君が判断するんじゃなかったの?」
「繋いでいないとは言っていませんよ?」
ジト目を向けるシャルロットに屁理屈を述べた一夏は視線でアルベールに話の続きを求めた。
『…………初めまして、空亡博士』
『そう畏まらなくても構いませんよデュノア社長。早速だけど、あなたの欲しがっているピースは持っているわ』
『…………そちらの望む見返りは?』
『デュノア社のドラグーンへの吸収』
『…………いいでしょう。乗っ取った連中以外の社員共々、想定していましたから』
『それと、折角だしフランスの偉い人とも話を煮詰めましょうか』
『…………まさか』
『フランス大統領府との
アルベールはすぐさま部下に確認させると、確かにそこには新しい極秘通話用のアドレスが送られていた。
『…………目的が見えませんな。元はこちらの要求とはいえ、吸収合併程度でここまでする理由がそちらには無いと思いますが?』
『実は最近、デュノア社からの攻撃が多くて多くて…………。鬱陶しいから困ってたのよ。
デュノア社を丸ごと潰すのも良かったけど、そういう理由なら渡りに船。折角だし、病巣だけ取り除ければいいかな程度よ。
こっちはデュノア社を本来の経営陣ごと取り込めてラッキー、そちらは病巣が無くなってラッキーってね。
あなた達の技術は私個人も同様の物を持ってるけど、だからと言ってあなた達のような人達の会社が無くなってもいいかと言われたら答えはノー。吸収するとはいえ、デュノア社が無くなるのは勿体ないわ。
それに、私ってやる事は徹底的にやる主義なの。
─────こういう舐めた真似してくれる相手には特に、ね?』
一夏とシャルロット、そしてアルベールはその場に奏がいないのに、悪意に満ちた笑みを浮かべる奏の姿を見た気がした。そして、同じ顔をする物が、もう1人。
『…………成程、それはそれは。
────随分と気が合いますなぁ』
クックックッ…………と明らかに悪役側の幹部がするような笑みを2人は浮かべる。それを見た一夏は引き、シャルロットは顔がが引き攣った。
「うわぁ…………悪い顔」
「子供には見せられませんね」
『これが私よ』
『悪いねシャル、これが性分なんだ』
「見習っちゃいけないね、これ…………」
「見習っちゃダメですよデュノアさん。ロクな大人になれません」
「同感」
ここから先は大人のすべきことと言って彼らは通信を切る。
「…………それで、あなたはこの後どうするつもりで?」
「織斑先生と学園長に自首するよ。その為の物も持ってきてるからね。日本政府への交渉に使えるカードも幾つか貰ってるし」
「かなり用意周到ですね。確実に乗っ取られた時から企んでいたのでは?」
「とっても悪い顔してたよお父さん達。多分さっきより悪そうだったかな?」
「…………奏さんとは会わせちゃいけない類いでしたか」
「ロクな目には遭わないね、乗っ取った人達」
シャルロットは自分の父の会社を乗っ取った者達へ、形だけの黙祷を適当に捧げる。
そして一夏は呼び出した覚えも入室を許した覚えもない客へ声をかける。
「…………さて、いい加減出てきたらどうです? 生徒会長さん?」
すると扉の物陰から『驚愕!』と書かれた扇子を開いた楯無が現れる。
「…………バレてたのね」
「その程度で隠れてられていたつもりなら杜撰の一言に尽きるかと」
「…………はぁ、あなた達には手をやかされるわね」
「その話は後で聞かせてもらいましょうか。今はデュノアさんの問題が先決でしょう?」
「…………その様子だと
「ロクな所の連中では無いのはわかりますから」
どの口が、と楯無は目を細め、自分が命令して部下にやらせたことを、確信を持ってバレていることに、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「………………そう。それじゃあデュノアさん、話は聞かせてもらったわ。織斑先生と学園長に会わせてあげる。御祓さん、あなたも証人として着いてきてもらいたいのだけれど?」
「…………着いていきますよ。拒否権なんてないのでしょう?」
「話が早くて助かるわ♪」
「それとその猫撫で声をやめてください。三味線にしますよ?」
「…………冗談に聞こえないのは気のせいかしら?」
「………………」
「何か言って!?」
「(…………きっと御祓さんは怒らせちゃダメだね)」
それでも無言を貫く一夏に楯無が喚く。そのやり取りを見ていたシャルロットは、言葉に出すことなく心でそう思った。
翌日の放課後、一夏はアリーナで簪とドラグーンでの日程調整を兼ねて共に向かっていたところ、セシリアが走ってくるのを見つける。それは向こうも同様だったようで、セシリアは一夏にアリーナで起きたことを告げる。
「セシリアさん。何かありましたか?」
「一夏さん! 織斑先生はどこにいるかわかりますか?」
「恐らく職員室かと。何がありましたか?」
「ドイツの留学生が突如攻撃をしてきました! 今は鈴さんが迎撃を………………!」
直後、一夏は当のアリーナに向かって走る。ピットに入るなり制服からISスーツに着替え、インフィニット・ワイバーンを展開し、アリーナへ入る。
そこにはボロボロになった甲龍でシュヴァルツェア・レーゲンに足掻く鈴音と、相手の操縦者の状態を気にもとめない攻撃を放つラウラがいた。
それを見た一夏は一切の躊躇いなく、
今後もペースが遅くなります。