IS──暴竜に仕える八首竜の巫女──   作:樹矢

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皆さん台風15号は大丈夫でしたか?私の家は瓦が少し剥がれ、1部雨漏りすることとなってしまいました。
また、家電もオール電化だったため、日頃どれだけ便利な暮らしをしていたのかを身をもって知ることとなりました。

落ち込んでいたモチベーションも持ち直したので、4話目です。


再び

 出立当日。『(ゲート)』の前に一夏たちはいた。向こう側へ持っていく物は扉は王城の近衛兵が機竜を装着して警備についている。一夏たちが敬礼を送ると兵たちも返す。

 

「あ、やっぱりここにいた」

 

 一夏たちの後ろからルクスが声をかける。一夏たちは振り向くと自然な流れでルクスに跪く。毎回目の前で同じ光景を見せられれば初めは驚いでいた奏も慣れたのか、相変わらずだと苦笑する。当のルクスは変わらないなと平然としているが。

 

「どうしたのルクス君?」

「せめて見送りはしようと思ったので。二人とも、もう立っていいよ」

 

 このまま跪いたままになりそうな2人にそう言うと、一夏と夜架は立ち上がる。

 

「主様、ご公務の方は…………」

「直ぐに手をつけなきゃいけないのは終わってるからね。それに、改めて言っておきたいこともあったから」

 

 言いたいこと? と一夏と夜架は目を合わせる。そして姿勢を正してルクスに向き合った。

 

「必要ないかもしれないし、こういうのは卑怯かもしれないけど、命令。

 

 ───必ず、無事に帰ってきてね」

 

「「───御意のままに、我が主」」

「奏さんもですよ」

「仕方ないわね」

 

 一夏と夜架は再び跪き、ルクスの命令を拝命する。断じて違えてはならないものとして。奏はそれに自分が含まれていることに「やっぱりだ」と内心思う。さりげなく気遣いをしてくるルクスを、奏は好ましく思っていた。

 そして離婚届けを置いていった夫に連れていかれた息子が、ルクスに重なって見えた。

 

「(…………あの子もここにいたら、どれだけ良かったのかしらね)」

 

 そんな思いを表に出さず、奏は一夏達を連れて『扉』へ入っていく。

 

「…………約束だよ」

 

 ルクスは『扉』に入っていく一夏達の背を見送った。

 

 

『扉』を抜けた先は奏の研究室。散らかっていたゴミは全て片付けられ、整理整頓が行き届いている。奏自作と思しきコンピュータ達は何かしらの設計図と思われる画像を映し出している。

 

「さあ、ここが私の研究室よ。この部屋そのものを完全なスタンドアロンにしてあるからセキュリティは安心して?」

 

 機械工学の道具から生物化学に使う道具まで。奏が幅広い分野に手を広げているのが一目で一夏は察する。

 そして部屋に置かれた2機の『機竜』に目がいった。

 

「奏さん、これが?」

「ええ、あなた達にこの世界で活動するにあたり、人前で使ってもらう機竜。『インフィニット・ワイバーン』と『インフィニット・ドレイク』よ」

 

 その2機は奏が一夏達の為に用意した物だ。ISという『兵器』が存在するこの世界において、神装機竜はオーバースペックであり、新たな戦争の引き金となるブレイクスルーを起こしかねない。その上、何者かに奪われでもした場合、それこそ最悪のケースが発生しかねない。

 それを少しでも回避する為の2機だ。技術は全て、奏が『機竜世界』と仮称したアスティマータ新王国などがある『扉』の先にある世界ではなく、『IS世界』と仮称したこの世界の技術で製作されている。もちろんその技術の中にはISに関する技術もある。

 特に一夏専用に製作されたインフィニット・ワイバーンは、ラフィより解析と改修の為に提供された、帝都奪還計画にてヘイズにボロボロにされた、一夏の乗っていたワイバーンから得られた戦闘データが反映されている。その上、解析して得られたデータが余す所なく使われているため、一夏にとって違和感の無い機体へと仕上がっていた。

 対する夜架専用のインフィニット・ドレイクは隠密特化の機体だ。更に王立士官学園に配備されているドレイクに測定用の機器を取り付け、夜架の細かな癖も含めたデータを元に作られている。

 

 奏から渡された仕様書とマニュアルを見終わった一夏は感心と呆れを込めたため息をつく。

 

「…………やり過ぎでは?」

「そうかしら?」

「そうです。現在各国で開発されている軍事用ISが比較対象な時点でおかしいです。せめて現在使われている量産機を比較対象にするべきです」

「仕方ないじゃない。軍事用じゃないとマトモな比較ができないんだもの」

「…………それでいて競技用リミッターをかければレギュレーション違反にはならないんですからタチが悪いですね」

「天才だもの、手は抜かないわ」

 

『天才』という単語を強調する奏。大切な家族を奪った『天災』とは違うのだと言うかのようだった。

 そこに何かしらの感情があるのは一夏にも理解できたが、踏み込むことなく気づかなかったことにする。

 

「このインフィニット・ドレイクの『隠蔽飛翔』とは一体?」

 

 マニュアルを読んでいた夜架が奏に問うた。

 

「ああそれ? マニュアルにもあると思うけど、インフィニット・ワイバーンとインフィニット・ドレイクはISでもあるの。だからインフィニット・ドレイクも空を飛べるんだけど、その機能を使えば熱源、光学、レーダーなどのあらゆる検知システムから発見されずに高速飛行が可能なの。

 もし、幻神獣のコロニーに向かう時にそういった探知網を突破しなきゃいけない場合や、一夏ちゃんのヤマタノオロチによる強襲を仕掛けなければならなくなった時に、その移動中に見つからないように運ぶためのものよ。有効活用してね?」

 

 夜架は納得したのか再びマニュアルに目を通し始めるが、一夏は頭が痛くなっていた。

 

「…………奏さん。私たちに何と戦わせるつもりですか?」

「幻神獣だけど?」

「完全に戦術ステルス機じゃないですか。絶対狙ってくる奴らが出てきますよ?」

「その時は自爆ね、ちゃんと積んでるわよ? わざと盗ませて犯人の拠点でドカン! とか」

「………………」

 

 思わず目に手を当てて見上げる一夏。この世界の加減を知らない夜架の代わりに、今後奏が暴走しないようにしなければならないのかと思い、早速ルクスが恋しくなるのであった。

 

「…………さて、仕様書とマニュアルは読み終わったわね? じゃあ次は買い物よ!」

「…………ゴシップ誌等から幻神獣に関するキーワードを集めるのではなかったので?」

「それもするわよ? でも2人とも女の子なのだからお洒落もしないとね?」

 

 そして一夏達は本来の目的をそこそこに、奏による着せ替え人形となる。

 

「ほら! こういうのも似合うんじゃない?」

「あの、首元がスースーすると言うか…………!」

 

 ポニーテールにされた一夏が清楚な印象を持たせる(女性経験のない男性特攻)の服を着せられたり。

 

「古都国の衣装を思い出しますわね」

「確か向こうでの日本みたいな所だったわね。折角だし他にも選びましょう」

「ええ。ところで周りの視線が集まってる気がするのですが…………?」

 

 着物を着た夜架が周囲の視線を釘付けにしたり。

 

「奏さん! これ下着じゃないです! 紐です!」

「あら、これでルクス君に迫ればあっという間じゃないかしら?」

「なぜ主様が出てくるんですか! そ、それにこんな恥ずかしい格好なんて…………ぁぅぅぅぅ…………………………」

「あら、煙出しちゃった」

「揶揄いすぎましたね。これは私が頂いても?」

 

 下着と豪語する紐で迫る光景を想像してしまい、真っ赤に染めた顔から煙を出した一夏を横目に同じ物をを求める夜架がいたり。

 

「この髪飾り………………」

「あら、着けてみる?」

「いいんですか?」

「お客様なら絶対に似合いますよ!」

 

 桜を象った髪飾りを買ったりと、なんやかんやで買い物を楽しんでいた一夏達。一夏も次第に微笑むようになっていく。

 費用は全額奏持ちだが、主に主要国で使用されている衛星発電による特許料やその他の研究成果による特許料によって莫大な資本を持つに至っているため、奏自身は特に気にしていない。むしろ、自分の子供に服を買っている感覚であった。それを自覚する度に、奏の脳裏には大切な息子の顔が過ぎっていた。

 余談だが、七竜騎聖の会議の決定により、近々ファンブリーク商会がペーパーカンパニーを立ち上げ、奏のバックアップに入る予定である。

 

 奏と夜架と共に買い物を楽しむ一夏。しかしそれでも、見たくもないものは見えてしまう。

 

 自分を更に追い詰めることになったIS。

 IS操縦者を確保する為に女性を優遇した結果の、行き過ぎた女尊男卑の風潮。

 

 そして、そこかしこで話題に登る、血の繋がった他人でしかなくなった、自分を見捨てた裏切り者の女。

 否、最早その女の存在は一夏にとって無価値である。しかしかつての苦しみを、過去を、心を引き裂き、切り裂くように思い出させる存在でもあり、今すぐにでも過去と記憶から消し去ってしまいたい存在であった。

 

 少しづつ、体が冷えるように冷たさを感じ、少し足取りがおぼつかなくなっていく。そんな一夏の様子を、夜架は気にかけていた。

 

 1日目の調査が終わった夜、一夏は割り当てられた部屋のベッドで布団を抱き寄せていた。

 嫌でも思い出す過去。忘れたくても忘れられない、一夏にとっての、1つの地獄の具現。

 機竜世界ならば、多少ルクスと離れて任務に従事するのは耐えられた。しかしこの世界は一夏の心に今なお深く傷を残すこととなった世界。ルクスと共に居られない日々は、流れるだけで傷を切開しようとしてくる。

 怯え、恐怖に震え、それを誤魔化そうと、ルクスに抱き着いて感じた温もりを少しでも思い出そうと布団を抱きしめる一夏の部屋に夜架が来た。

 

「あら、やっぱり」

「夜架…………さん…………?」

 

 一夏が姉として慕う夜架は一夏の布団に潜り、そっと一夏を抱きしめ、頭を撫で始める。

 

「怖いのですか?」

「…………はい」

 

 一夏は無自覚に、肯定を示し、不安に満ちた心の内をさらけ出す。姉に甘えるように、縋るように、一夏は夜架に抱きついた。

 

「思い出したくないのです。ずっと、ずっと、向こうの世界で生きていられれば、永遠に思い出さずに済んだのに…………」

「…………なら、今夜は私が一緒にいますわ。主様程ではなくとも、落ち着くことはできるでしょう?」

「…………はい。ありがとう、ございます」

「お礼なんていりません。あなたは、共に主様に仕える者であり…………」

 

 優しく撫でられる感触と、甘えられる相手がいる安心感から、一夏の瞳は静かに閉じて、眠りに落ちていく。その間も夜架の言葉と撫でる手は止まらない。

 

「…………私の、大切な妹なのですから」

 

 夜架の慈愛に満ちたその言葉を、優しく微笑みながら告げる夜架を見て、一夏は静かに眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も近寄らず、国家ですら知らない研究施設にて、初老の男が白衣を纏ってモニターを眺める。モニターに映るのは培養槽に浮かぶ人間たち。しかしそのいくつかは機能していない。その中身はすでに廃棄されている。そして今、また一つ機能が止まった。

 

「また一つ…………。まったく、『彼女』を失ったのは痛いな…………」

 

 男は部下に命令を出し、停止した培養槽に浮かんでいた個体を手順に従って処理させる。手元のタブレットには、ある個体のデータが表示されていた。

 

No.1-1000-01(Last Doragnight)、君こそが、この世界を救う女神となれたのにな…………」

 

 そう呟く男の部屋に、部下の1人が入ってきた。

 

「報告します。本日、日本にて『扉』に反応あり。『彼女』が『こちら側の世界』に帰還しました」

「ほう、それは本当かい?」

「監視カメラ、配備人員、衛星によるデータを照合した結果、89%の確率で『彼女』と判断されました」

「場所を教えてくれたまえ」

 

 部下がコンソールに指を走らせる。確認された場所のデータと共に表示された少女の画像に、男は愛し子を見るように目を細める。

 

「…………間違いない。『彼女』だ。隣にいるのは古都国の王族、その末裔か。共にいるのは…………ほう。空亡 奏、あの天才か」

 

 男は『彼女』だけを見る。男にとっての最高傑作を。

 

「『彼女』の動向を監視しろ。『彼女』達の目的は確実に幻神獣だろう。万が一に備え、国家軍もいつでも動かせるように下準備を。ああそれと、『彼女』とその仲間には手を出すな。今のあの子には必要な存在だからね」

「了解しました」

「それと、『彼女』に群がる不埒者は払うように。特に、あの『駄作共』はね」

「ハッ」

 

 部下は男の部屋を後にする。男は二つのデータをモニターに表示する。

 

「馬鹿な奴らだ。我々から逃げられると思っていたのか? 逃げ切れたと思っていたのか? 

 何故戸籍を手に入れられた? 

 何故街の住民はすぐ受け入れてくれた? 

 考えれば簡単な答え合わせだろう? それとも、誰の手も入っていないと、本気で思っていたのか? 

 戦闘用でしかないお前は力を振るうことしかできなかった。これから人間の思考ルーチンもこれからインプットしようとしたタイミングで逃げた結果がそのザマだ、№1000、織斑千冬」

 

 全ては男の掌の上だった。一夏への扱い以外は。

 

「人間は自分と違う存在を嫌う。お前には『彼女』を守るために必要な要素を詰め込んだ。しかし人間の思考ルーチンをインプットしなかった結果、武力に頼りすぎた。

 だからこそ住民たちはお前の武力に恐れ、お前よりも弱い者たちを狙った。強者に勝てないならば、弱者を狙うのが人間なのだから。

 しかもよりにもよって無駄にプライドが高くなった失敗作を連れていくとはな。おかげで必要以上に『彼女』が不要な傷を負う羽目になったじゃないか。

 お前は『彼女』を守っていたのだろう。だがお前の行動は、『彼女』を傷つけるだけだったのだよ」

 

 

 

「しかもあの小娘が余計な邪魔をし続けたおかげで自然な形で行方不明にして保護する手筈を整えるのに時間がかかった。まあ、『彼女』が対象と分かればすぐにでもやめたのだろうがね」

 

 まるで無価値な物を見るように、男はモニターに映る女性、ISの発明者である篠ノ之 束のデータを見る。そしてどうでもいいと言うように、そのモニターの電源を切った。

 

「何より、街一つ消すのは造作もないが、目立たぬようにしなければ後に面倒を呼び込むだけだからな。

 優勝阻止の為に誘拐させ、行方不明にし、我々の下に保護し、口封じに誘拐実行犯を始末すれば終わりだったのに…………。

 だが…………」

 

 男は部下が画像と共に持ってきていた映像を見る。保護の手筈が整う前と比べ、明るくなった表情を浮かべ、共にいる女と少女に微笑む『彼女』の姿がそこにはあった。

 

「…………よく笑うようになったじゃないか。向こうの世界で良い縁に恵まれたのかな? そこに君の居場所があるならそれもいい。

 そうであるならば、やはり、『向こうの世界』も捨てたものではなかったか」

 

 男はかつての故郷を思い浮かべる。人が纏う竜の飛び交う、かの世界を。『扉』の先で、『彼女』が過ごしてきたであろう世界を。

 

「君は認めないだろう。しかし私は敢えて君をこう呼ぼう。

 ────我が愛しい娘、織斑 一夏」

 

 男は『彼女』と呼んでいた少女、御祓 一夏を、かつて織斑 一夏であった少女を、慈しむようにそう呼んだ。




最後にオリキャラと、私なりの解釈を1つ。そして一夏が何故酷い扱いを受けていたのかの理由を語らせました。

男の正体についてはまだ秘密です。
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