戦姫絶唱シンフォギア ~奇跡の歌姫と戦士の物語~ 作:イキスギコージー
月の破壊は免れた。だがそれは二人の命と引き換えによるものだ。
隼人は絶望感に襲われた。一人の敵の手によって二人の尊い命は...握り潰されたのだ。
X1の緑色の瞳の光は失われた。だがそのあと装甲の隙間から大量の蒸気を放出し...白を基調としたカラーリングが黒くなり...叫びはじめた。次の瞬間...
「お前は...アンタだけは...貴様だけは!!!」
「グオォォォォォォ!!!!」
X1が獣のように声を上げ赤い瞳に変わる。フェイスオープンが通常の開き方とは違う。通常を上下解放するはずのマスクが観音開きのように開きそこから見えるのは...生々しい獣のような牙をむいたX1だった。
「とうとう目を覚ましたか...X1...いや、悪魔め...」
フィーネは隼人のなるX1に向かって言い放った。そこに翼が剣を構えながらフィーネに聞く。
「悪魔だと...どういうことだ!!」
「凡人に知るはずもない...X1はお前たち聖遺物の欠片からなる紛い物とは違う。ネフシュタンと同じ完全聖遺物だ。だがX1は他の聖遺物とは違い一度身にまとえば自我を失いすべてを壊す破壊衝動に駆られる。そして最後は纏った適合者も食らいつくす聖遺物。今まではエボルトがその浸食を抑えていたが、奴が死に制御を失った今完全に適合者を食らい始めた。これを悪魔と言わずなんて言うのだ?」
フィーネが笑い、笑みをこぼしながら言い放った。まるで自分の計画が予想よりいい状態に整ったかのように...
「隼人さん...」
悪魔になった隼人を響はただ見ることしかできなかった。
「あれが...隼人君なのか...」
破壊された指令所とは別の場所から映像を通して見る弦十郎たち。そこにはオペレーター達や響たちのクラスメートや未来、負傷をしているが博也もいた。
「あれってテレビに映ってた鎧の戦士?」
「でもなんだか禍々しい形になってるよ?」
周りでそう声が上がる中、博也は眉間にしわを寄せ苦虫をつぶすように言った。
「隼人...クソ!!」
X1から大量の蒸気を放出する。すると勢いよくフィーネに向かって飛んで行った。フィーネは鞭で応戦する。だが表情が余裕だった。まるで人間が獣に墜ちていく所を楽しむような表情だった。
「隼人!」
翼が隼人に呼びかける。だが反応がない。フィーネは翼と響に言った。
「そいつはもう人ではない。人の形をした破壊衝動の塊だ」
X1は再びフィーネに向けて攻撃する。フィーネが展開したバリアに向かって飛び蹴りを放つが攻撃が通らない。バリアに防がれながらX1の蹴りが通らない中足の裏からヒートダガーを射出する。
フィーネの体がヒートダガーによって切れた。だがフィーネは余裕の笑みを浮かべている。X1自身も息を上げながら立つ。
「もうよせ、隼人!これ以上戦えば...人間に戻れなくなる!」
翼が隼人に呼びかけるが...反応しない。それどころかフィーネから対象を翼に切り替え...ブランド・マーカーを展開し攻撃を仕掛けた。
「翼さん!!」
響が翼を掴み一緒に回避をした。その後、X1は響の方を見つめ手を伸ばし、力強く握った。まるで何かを握りつぶしたかのように...
「...そんな...急に...体が...重い...」
響が急に膝をつきながら倒れこんでしまった。
「立花!!一体何が...」
翼は状況が読めなかった。自分を助けた後、響が倒れてしまったからだ。
「ふん、シンフォギアのシステムをジャックしてシンフォギアを強制解除させたか」
フィーネがそう言うとX1は再度翼に攻撃を仕掛けた。
「やめろ!!隼人!!」
「グオォォォォォォ!!!!」
指令所とは別の場所から避難した弦十郎たちがモニター越しで外で起きていることを見た。
「隼人さん!!隼人さんの体に何がおきてるんですか?」
「わからない...たが一つ言えることは...」
未来の問いに博也はモニターをにらみつけながらこう言った。
「隼人は聖遺物に呑み込まれて...死ぬ...」
周り一同の表情が変わる。そして彼女も...
「おい...それってどういうことだよ...」
負傷した勉を連れてきた奏。奏はモニターに映る隼人を、X1を見ていた。負傷した勉をソファーの上に横にした後博也に詰め寄ってきた。
「どういうことだよ!なんで隼人があんな風になっているんだよ!!それに死ぬってどういうことだよ!!!」
「...事実、X1はみんなが纏うガングニール、天羽々斬、イチイバルより解析が進んでいない。初めはエボルトが託したX2をベースにX1の解析をしようとしたがエラーが出てしまった。そのため現段階で不明な部分な所もあった。だが最近、解析していくうちにある一文が気になったんだ...」
[心清き戦士 力を極めて戦い邪悪を葬りし時 汝の身も邪悪に染まりて永劫の闇に消えん]
「これって...どういうことなんですか?」
未来が博也に尋ねた。
「あくまで私の推測だが...今までの隼人が誰かを守るために戦ってきた、だがフィーネがクリスとエボルトの殺した。それが暴走の原因になってあのように理性を失いただ破壊するための状態になってしまった。今の状況ではそう解釈することが出来る。いくら聖異物に呑まれたとはいえ動いているのは隼人の体だ。無理に動いていれば...いつかは...限界が来る...」
「もう終わりだよ、私たち。学院もめちゃくちゃになるし...味方だったあの人もおかしくなるし...」
板場が口を開いた。未来はそんなことないというが...
「あれが私たちを守る姿だっていうの!?」
周りからすれば今の隼人は悪魔になってしまったようにしか見えない。
「あれが2年前に突如現れた戦士だって知ってる...この状態がどうにかなるって信じたい...信じたいよ!!」
板場が泣き崩れて座った。
「死にたくない...死にたくないよ!!だから...助けて...助けてよ!!骸骨の戦士さん...」
X1と翼が戦闘を再度始める。翼は戸惑っていた。模擬戦とはいえ隼人のなるX1には負けたことがない翼。だがこの時この瞬間ハッキリとした。
(これが本来のX1。同じ間合いにいるのに...全てにおいて向うが上だ...)
つば競り合いに持ち込まれ翼の剣は空に飛ばされた。
「しまっ...」
剣が飛ばされ一度後退しようとする翼。X1はビームサーベルを捨てビームザンバーに持ち替え翼に切りかかった。
翼は怯えて目を閉じた。だが切られたと思ったが何の痛みもない。
「...ふぅ、間一髪だったな。翼」
X1のビームザンバーを一つの槍が受け止める。X1と同じ脚部、腕部、背面にX字のスラスターを持つ隼人以外がなるクロスボーンガンダム。
「奏!!」
奏のなるX2ガングニールがX1が戦闘開始した。
「奏さんのX2ガングニール、今エンゲージしました!」
「...もし隼人をもとに戻せるとしたら...今の奏君が切り札だ...」
藤尭がオペレーションすると、博也がつぶやいた。
「博也、どういうことだ?」
弦十郎が博也に意味について質問した。
「以前、X2ガングニールが暴走して隼人のX1が暴走を止めたことがあっただろ?さっきの言葉通りX1にはまだ未知なる力があるのは確かだ。X1とX2ガングニールが戦闘した際聖遺物が発するアウフヴァッヘン波形とは別の波形を微量だが検知した。その後二機に共通する兵装、装備品を調べたところ一つの装備品があったんだ」
「それは一体...」
「...サイコフレーム...これについてはまだ解析途中だ。だがさっきの響君の強制解除はX1のサイコフレームとやらが恐らく働いたのかもしれん...」
「隼人...この前、アタシが暴走した時助けてくれたよな。だから...今度は、アタシが隼人を助ける!!」
奏とX1が戦闘を開始した。X1のビームザンバーが奏の槍と交わり火花を散らし合う。X1の攻撃をかわしながらしっかりかわしながらダメージを与える。しばらくすると奏は不思議な感覚を感じ始めた。
「なんだ...この冷たく、悲しい気持ち...隼人からだ!!」
奏がつぶやくと博也は即座に奏に回線をつなげる。
「隼人の意識を感じたのか?」
「あぁ!間違いない!!」
確信したように奏が答える。
「それなら隼人の意識を連れ戻すことが出来るかもしれない!!」
「どうすればいい!!どうすれば今の隼人を救えるんだ!!」
奏が強く博也に尋ねる。博也は一呼吸いれ奏に答えた。
「奏君がなるX2と隼人のなるX1には他のシンフォギアとは違いコアにある装備がついている。その装備品は以前隼人が奏君を助ける際に使ったものだ。あとはわかるな?」
「アタシの気持ちで...隼人を連れ戻せってことか?」
「現状としてはそれが...唯一の打開策だと...私は考える...」
その後奏は槍を...
地面に突き刺した。そしてX1の元に歩み寄り始める。
「奏、何をしてる!今の隼人は自我を...」
「大丈夫...」
心配した翼が奏に言う。だが奏は歩みを止めない。
「隼人...」
「グォォォォ!!」
X1は右手のブランド・マーカーを展開し奏の顔を目掛けて殴りかかった。だがその攻撃は...
奏の顔の前で止まり当たらなかった。
その光景を見た翼。
「動きが止まった...奏」
奏はX1の前まで行き、顔をX1の胸に埋めた。
「以前にも...隼人の胸に顔を埋めたよな。みんながいる前でさ...復讐しか持っていなかったアタシに隼人は希望をくれたんだよ...生きて世界の人々に歌を届けたいって。それにさ...アタシがこいつを纏って暴走した時隼人の呼ぶ声が聞こえてたんだ。あの時の隼人の気持ち、嬉しかった。だから...帰ってきて。そして...アタシの思いを伝えさせてよ...」
するとX1のマスクが閉じ...奏に支えられつつも倒れた。黒かったカラーリングも白と紺色に戻り目の色も緑色に戻り変身を解除した。
全てを見ていた指令室。
「まさか...本当に...」
「間違いない。奏君が隼人を引き戻した」
「骸骨の戦士...もとに戻ったの...」
一同驚くと同時に安心もした。
その一部始終を見ていたフィーネが拍手しながら奏の元に歩いてきた。
「まさか暴走状態のX1を止めるとは、流石は天羽奏。だがそいつを止めたところでカ・ディンギルの制御は私が持っている。聖遺物の欠片ごときで私の計画は止められない!!」
奏は隼人を地面に寝かすと振り返り立ち上がった。
「そうだな...アタシだけだと止められないかもな。だけど...」
奏の隣に翼が並んだ。
「アタシと翼、剣と槍がそろえばこの状況を打開できなくもないと思うけどね」
「なるほど...どこまでも『剣と槍』ということか」
「たとえ今日に折れて死んでも、明日に人として歌うために...」
「天羽奏と」「風鳴翼が歌うのは」「「戦場だけでないって教えてやる!!」」