Q つまり?
A FGOでヤンデレもの?できらぁ!
そういう作品です。
「こんなのうちの嫁鯖じゃない!」
「うちの嫁はもっとデレデレだ!」
「うちの嫁がヤンデレな筈がない!」
等の意見をお持ちの方はブラウザバック推奨で。
それでも良いという方のみどーぞ。
人理修復も終わり、カルデアもその難行を9割方終えた頃の話。
「おーうマスター!今夜一緒に飲まねーか?」
人類最後だったマスター、藤丸立香(20)の前に唐突に大人で槍のクー・フーリン(通称五次ニキ)が現れ、そんな事を宣った。
「どうしたの?藪から棒に。」
「いやなに、マスターも昨日成人して、酒が飲める年になったんだろ?だったら早めに限界覚えといて損は無いと思ってよ。」
くいくいとエアお猪口をする様はまるっきり気の良いあんちゃんだが、彼はこんなでもアイルランドの光の御子(決して太陽の子ではない)、クランの猛犬で、実は結構な教養と気品、それ以上の実力と経験を持った大英雄なのだ。
今は戦いでなくオフの時間な事もあり、こうして気を抜いているのだが、一度レイシフトすれば常に警戒を怠らず、勇猛果敢かつ平静に戦闘可能な全カルデアの頼れる兄貴なのだ。
「……それに、早めに限界覚えとかねぇと、溶岩水泳部とかがな?」
「……ちなみに他のメンツは?」
「安心しな。男だけだ。」
「よし。折角の兄貴からのお誘いだし、参加してみるよ。」
「応!んじゃ今夜食堂に集合な!時間は…」
こうして、マスターの人生初の正式な飲酒が決まった。
だが、楽しい宴が地獄の釜の蓋を開ける様な事態になるなんて、この時は誰も想像していなかったのだ。
……………
お子様サーヴァント達や職員ら、そして規則正しい生活をしているサーヴァントらはとっくに寝付いた時刻。
そんな真夜中にはちょっと早い時刻に、食堂には大勢の男性サーヴァントとそのただ一人のマスターが集まっていた。
「やれやれ。マスター、飲酒の加減を覚えた方が良いのは真実だが、何もこんな遅い時間でなくても良かろうに。」
「固い事言うなって。それにお前さんだって、何だかんだつまみ作ってるしよ。」
「これはマスターが悪酔いしないようにだよ。断じて貴様のためではないぞ、クランの猛犬。」
和気藹々と会話と共に楽しむ者。
静かに少しずつ楽しむ者。
据わった目で只管ジョッキで呷る者。
つまみをメインに楽しむ者。
そして、恐る恐る酒を口の中で味わう者。
深夜の静かな宴会は、明かりを普段の強めのものを暖かくも目に刺さらない光度に変え、穏やかなBGMを流している事もあって、普段の酒豪共の宴会よりも遥かに慎ましく感じられるものだった。
だが、派手な宴会よりも色んな酒をちょっとずつ楽しむマスターにとっては、この雰囲気はちょうど心地よいものだった。
なお、この食堂の調整とつまみの準備等は全てカルデアのおかんことエミヤ(弓)の提供である。
各種酒類はレイシフト先で集めたものか密造したもの、外部から購入したものを各々で持ち込んだ。
「よーぅマスター。飲んでるかー。」
「うん、それなりにー。」
陽気な五次ニキの言葉に、僅かに頬を赤らめたマスターが答える。
「の、割には酔ってる感じしねぇな?」
「そりゃまぁ。マシュと契約してる関係で、対毒スキル持ってるし。」
そのため、マシュ本人よりもアルコールへの耐性は強い(事実、特異点でマシュが酔っぱらってるのに、マスターや耐性のある鯖は無事だった事もある)。
事実、マスターの前には小さいながらも結構な数のショットグラスが置かれており、酒に弱い成人男性なら既に酔い潰れかねない量を飲んでいた。
「限界覚えようにも、現状これじゃなぁ…。」
「おーいマスターにお兄さん方!」
現状じゃ無駄みたいだしそろそろお開きにするか?
そう考え始めていたマスターとエミヤ、五次ニキの所に、一人の好漢がやってきた。
彼は新宿のアサシン、真名は控えるが、その発見された特異点から新シン(中華鯖だがパンダではない)と呼ばれる男だ。
特徴的な入れ墨と美貌、気さくで明るく、実力も経験もあり、何より抜け目がない。
時折うっかりやらかすが、それだってご愛敬。
召喚されてまだ日が浅い部類だが、するっと皆の輪の中にいるのが彼だ。
「そんなこったろーと思って、持ってきたぜ奇々神酒!」
そして、その好漢は喜々として貴重な素材を宴会の酒として持ってきやがりました。
「こらシンシン!勝手に素材保管庫から持って来ちゃダメでしょ!」
「だからオレはパンダじぇねーっての!良いだろ、晴れの日位!」
思わずマスターが叱るも、マスターの初飲酒記念日なんだろいーだろ!と言う新シンの言葉に、どうせだから皆で飲もう、瓶一つは多過ぎるとなって以前から興味はあっても素材だからと手を出さなかった酒飲み共から歓声が上がるのだった。
ここまでは良かった。
ここまではこの場の全員が記憶があったのだ。
ここから先は異性や規律に厳しい人なら眉を顰める様などんちゃん騒ぎにハッテンした覚えがうっすらあるだけで、その場の全員がよく覚えていない。
しかし、この場にいなかった者達はしっかりと覚えているのだった。
……………
きっかけは、マスターの自室での一言だった。
「待ち合わせの時間までは……まだあるか。シャワー浴びて仮眠しとこっと。」
彼の利用するベッドの下と天井裏、そしてクローゼットの中と机の下。
溶岩水泳部とかわいいくノ一からなる「マスターを陰からお守りし隊」のメンバーは、その言葉に驚くと同時、すぐさま情報収集に走った。
結果、幾人かのサーヴァント、それも男性のみで夜遅くにマスターの成人祝いの酒宴が催される予定なのだと判明した。
「私達も参加すべきでは?」
「いえ、これは男性だけの催し。私達が参加してはあの子の楽しみを邪魔する事になります。」
「私だと、下手に参加しては犠牲者が…。」
「とは言え、酒の場は暗殺には絶好の場。護衛も無しには…。」
この噛み合ってるのか違うのか分からないが、マスターへの愛と忠義に関しては突き抜けてる面々は、そこで一つの方策を思いついた。
「よろしい。聊か行儀が悪いですが、あの子らの会話を盗み聞きさせて頂きましょう。」
「それで大丈夫なのでしょうか?」
「幸い、酒宴に参加するのは皆実力者です。何かあってから駆け付けたとしても最低限間に合うでしょう。」
「待機するのは勿論隣室で、でござるな。」
「では直ぐに準備しましょう。」
こうして、「マスターを陰からお守りし隊」はまたいらん事を始めるのだった。
「ほっほーう。」
そして、そんな面白おかしい事を、とある女神が見つめていた。
「見-ちゃった見-ちゃった★ジャガーの戦士は見-ちゃった★」
そう、その名も高きジャガーマン!
中南米よりやってきた、ジャガーのナワル(精霊っぽいもの)を宿した疑似サーヴァント。
☆3なのにガチで☆5相当の火力を有する☆詐欺勢の一角だ!
なお、選考基準は聖杯戦争関係者の中で最も野生的な者だゾ。
「これはそう、サーヴァントとして見過ごせないなぁ。マスター君の危機かもしれないしー。」
んーと悩んだ末、存在そのものがカオスな神霊鯖(低コスト)は一番やっちゃいけない事をした。
「よっし!桜ちゃんに相談しよーっと!」
なお、現時点(亜種特異点3までクリア)での桜顔のサーヴァントは三名のみ。
その中で、こんな面白い事に首突っ込みそうなのは、一人だけである(俯き)。
……………
「と言う訳で、BBちゃんによる皆のための素敵な盗聴タイム!はっじまっりでーす★」
あっさりと事態を把握したBBはより事態を混沌かつ愉快な方向に持っていくため、万全な状態での盗聴を確保するためと称し、たった数時間で用意を整えた。
具体的には食堂の隣の空き会議室を勝手に改造し、監視カメラもクラッキングして、お酒やお菓子も持ち込んで、正に万全な状態でマスター達の痴態を楽しむ準備を整えたのだ。
観客にはマスターラブ勢を始め、大勢の美女・美少女サーヴァントが犇めいている念の入れ様。
おまけにお酒の中にはチートを駆使して対毒耐性を抜けるものも交ざってます!
これでマスターが普段隠してる事をあの手この手で入手できる!
流石はBBちゃん、素敵に無敵でデビルである。
が、後にBBちゃんはこう思う事となる。
「やっべ、私とした事がやり過ぎちゃいました★」
……………
小さな宴の内容が、まるで映画館の様な暗室に大画面で表示されている。
その映像を見るのは子供系サーヴァントや職員、この催しに嫌悪感を見せそうな真面目な人物、そして宴の参加者を除くほぼ全てである。
勿論、そこには事の発端となった溶岩水泳部+1、そして我らが後輩マシュ・キリエライトも参加している。
(もし先輩にとって不名誉な情報が出回りそうなら、どうにかして途中で中止させないと…!)
が、その内心は彼女らしい義憤に溢れてのものだが。
勿論、主催者側もそんな事は承知済み。
(だがしかし、事が始まればそんな彼女の決意なんて風船の様に飛んでいくだろーから問題なーし★)
そんなこんなで、遂に盗撮上映会は始まったのでした。
当初は色んな酒をちょびちょび飲んでいたマスターと色々おすすめするおかんの姿だけだった。
しかし、新シンの持ってきた奇々神酒を飲んだ辺りから露骨に酔い始めた。
流石は「大いなる神に捧げるために永い時を費やして造られたこの貴重な酒は人ならざる怪物や魔獣をも陶酔させる」とか言われる酒である。
マスターが元々それなりに酔っていた事もあるのだろうが、それにしたって凄まじい。
「ごくり……。」
酔っぱらい、頬を赤く染め、普段よりも子供っぽくなったマスターの姿に、幾人かのサーヴァントが生唾を飲み込む。
さっきまでつまらなそうにおつまみや酒、菓子類をつまんでいた面々もその視線を酔ったマスターの映像に向けている。
その視線はさながら肉食獣、元々現代っ子で草食よりなのが我らがマスターである。
彼女らからすれば、今の彼は頂かれるのを待つだけの獲物に見えている事だろう。
順調に欲望のボルテージが上がる中、遂に致命的な話題が上った。
『所でマスター、一体誰が好みなんだ?』
ガタガタガタガタ!
思わず立ち上がった溶岩水泳部。
しかし、それを止める者はいない。
この場にいる面々で、王様愉悦部も含めて、それを気にしていなかった者はいない。
何せもうすぐ彼ら英霊は座へ戻る予定なのだ。
最後の最後にマスターとのアバンチュールを…!
そんな欲望を持つサーヴァントは多いのだ。
『おいランサー、流石に下世話だぞ。』
『固い事言うなって。それに、このまんまじゃずっと抱え込んだままだぞ?』
『むぅ……。』
このままではマスターは一生告白できなかったという後悔を抱えたままになる。
それが人生を歪める可能性がある故に、その場にいた面々は酔いが深い事もあってだが、この世界を背負うには未だ若いマスターに本音を吐き出させようと思っていた。
『すきなひと、かぁ……。』
茫、と視線を宙に向けながら、マスターが呟く。
上映室のボルテージは既に最高潮、全員が最大限その耳をすませて、一字一句逃さず聞く態勢を整えていた。
次の一言でカルデアのサーヴァント達は不可逆の変化に見舞われると分かりながらも、それでも全員が聞かずにはおれなかった。
そして、遂にマスターはゆっくりとその口を開いた。