うちの嫁鯖が病んだ件   作:VISP

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刑部姫の場合

 「まーちゃんは、ずっと色んな事を抱え込んでたんだね…。」

 

 エリちゃんのお誘いでカルデアに召還された私こと刑部姫にとって、カルデアという場所は想像以上に居心地の良い場所でした。

 そこに暮らす職員らは善人で、尚且つ自分の職務に忠実で。

 召喚された英霊達も何だかんだ気の良い人達が多くて(絶対に反りの合わない人や格上過ぎる人達も多いが)。

 何よりも中心にいるマスターことまーちゃんが、本当の意味で正しい人だったから、この場所はこんなにも暖かいのだと思った。

 

 「まーちゃんまーちゃん、優しいまーちゃん…。」

 

 メル友の玉藻ちゃんや清姫ちゃんも狙ってるのは知ってたけど、それは私もだった。

 すぐに目を奪われ、「ないないこの私が有り得ない」と目をそらして、それでも目を離せなくて、気付けば彼を見ていた。

 でも、ただアタックするだけじゃダメだってのはすぐに分かった。

 私みたいな城化け物、狐とか土地神とか言われてるけど、自分自身でも混ざり合ってよく分からない事になってる化け物じゃ、女神とか女王とかに叶う訳がないもの。

 と言うか、歴史上の偉人、実は女性でしたケース多い、多くない?

 いや、ネタが増えたから良いけどね。

 それは兎も角、ライバルが多くて皆凄いんだったら、それに張り合うよりも持ち味を生かすべきだよね。

 昔って言う程じゃないけど、昔の人は良い事を言ったよね、「競うな、持ち味を生かせ!」って。

 なので、私は私が好きな事で自然とまーちゃんにアピールしてみる事にしました。

 

 そう、まーちゃんの大好きなラノベやゲームに漫画、そして炬燵等の現代日本文化を提供する事にしたのです。

 

 日系の現代文化にも精通しているのはサーヴァントの中でも極一部で、それを提供できるのは私以外誰もいなかったってのも大きいけどね。

 まーちゃんは普通の子で、普通に暮らしてた。

 たまたまそこにいて、適正があり、資格があったから。

 抑止力だっけ?そーゆーののせいで、まーちゃんは英雄なんて修羅道に引きずり込まれちゃった。

 それでもまーちゃんは頑張った。頑張って頑張ってここまで来れた。

 でも、それはまーちゃんが傷ついていない事とイコールじゃない。

 人理が燃えちゃってた間はまともに漫画やゲーム、ラノベの新作を読む事が出来ず、専ら地下の図書室や過去の電子情報を漁ってたって言うんだから、姫にはちょっと耐え難いかなって。

 だから、そんなまーちゃんの少しでも癒しになれば良いと思って、そしてあわよくば私の事を見てくれればって下心で、私のコレクションなんかをまーちゃんに貸してあげたの。

 

 それからはまーちゃん、随分と通い詰めるようになったんだ。

 

 オタクっていうか、そういう人種って無理に誰かとコミュ取る事とか嫌な訳でして、自然に話せるけど必要ないなら話さないのが昔のまーちゃんだって前にちょこっと言ってた。

 だから、ゲームや原稿や薄い本読んでる私や水着の邪ンヌちゃんにくろひーとかが無言でいても、まーちゃんものんびり炬燵で休んでるだけ。

 無理にサバの人達相手にコミュする必要も無ければ、気を遣う必要もない。

 そんなのんびりとした、言ってしまえば職場から実家に帰ってきたみたいな気分をまーちゃんに味わってほしかった。

 

 勿論、まーちゃんが通い詰めてるんだから、他のサバの子達もちょくちょく来たよ?

 でも現代のゲームとか漫画とか薄い本とかの文化なんて、野外で体動かして精一杯生きてきた時代の人達にはあんまり合わないのか、余り通い詰める事はなかったけど。

 例外は征服王さん達とその部下の先生とか、ぐだぐだ系の人達かな?  

 偶に自主ブラック業務終えた賢王様とかも来るけど…あの人は死んだ様に眠るだけだから静かだし。

 

 ん?その状態からアプローチしたかって?勿論したよ。  

 ただし、直接的なものは一切無しで。

 

 だって、そういうのはもう神代の人とかが大抵やってる訳で、まーちゃんはそーいうの全スルー済み。

 加えて、無垢に慕ってくる子供達やマシュちゃんとかも下心無しな訳でして。

 だから、まーちゃんが私の部屋に来たら、必ずまーちゃんの視界の何処かにはいるけど、自分からまーちゃんに積極的に構うことはしなかった。

 でも逆にまーちゃんから構ってくる場合は、積極的に相手をするの。

 勿論嫌な顔せずに、何時間だってお相手するの。

 これを飽きずに繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返すの。

 

 え、よくそんな根気強く続けられたねって?

 当たり前でしょ。

 恋は戦争で、戦争には基本的に禁じ手なんて無いんだから。

 但し、国際条約は守るけどね。

 他のライバルの子達はどうだったって?

 相変わらず過激なアプローチはしてたけど、まーちゃんにはあんまり効いてなかったみたい。

 勿論まーちゃんだって性欲はあるし、女の子にチヤホヤされるのは好きみたいだけど、限度だってあるし、

 

 何より、そんな全く違う時代と地域に生まれた人と、夫婦としてやっていけると思う?

 

 普通の同じ時代同士の国際結婚だって大変なのに、古い時代の英雄様だよ?

 人格的に問題ないマシュちゃんだって、無垢で世間知らず過ぎて、奥さんとして家の事任せたりするのはかなり不安だよね?

 加えて、マシュちゃんって基本指示待ちな所あるから、まーちゃんに何かあった時はかなり不安もあるし、ね。

 別にそれが悪いって訳じゃないよ?

 ただ、今後の事を考えると、ね?

 

 そんなこんなで、私はマーちゃんに私の存在を刷り込み続けました。

 

 結果が出るのはまだまだ先の事だけど、それでも私なりの努力はし続けた。

 マーちゃんに日本人としての日常生活をずっと意識させ、そこに私も必ずいるようにってね。

 即効性もドラマ性もないけど…まぁ城化け物の私なりに出来るアプローチなんてこれ位だしね。

 そんなこんなで一年以上経過した後、遂にその結果が分かる日が来ました。

 そう、例のBB主催の盗撮上映会!

 主催がBBちゃんって時点であ(察し)なもんだから、私もはらはらどきどきだったよ。

 マーちゃんには悪いけど、皆して固唾を飲んで見てたよねー。

 いつもみたいにタブレット片手にネタにならないかって姿勢をしつつ、内心はホントにもう心臓バクバクだったけど、他の皆も大なり小なりそんな感じだったから、気付かれる事はなかったみたいだけどね。

 

 

 『おっきーがいちばんすきかなぁ。』

 「」

 

 

 あの時は心臓が止まったかと思ったね。

 原因は嬉しさと周囲からの殺気(特にきよひー)。

 その後は即座に逃げ出したんだ。

 流石にこのままじゃグサー待ったなしだったから。

 

 

 でもまぁ、これもある程度は計画通りだったんだけどね。

 

 

 基本的にヒッキーでオタな私がマーちゃんが好いてるからって即おk?

 無いね!絶対にへたれるね!(自慢げ)

 加えて、ここで引いておけば、ちゃんとマーちゃんが自分の気持ちを自覚した上で行動してくれるでしょ?

 ヘタレな私を白服のマーちゃんが迎えに来てくれるって、本当にお姫様みたいだし、我ながらナイスプラン。

 ん?もしマーちゃんが来なかったら?

 マスターっていう職業に就いてるマーちゃんが自分のサーヴァントを、しかも自分が原因で引きこもった子を見捨てる?

 それこそ有り得ないよ、マーちゃんの慈悲と懐はチョモランモとベーリング海峡並に凄いんだから!

 んで、後は前みたく城に引き籠った所をマーちゃんが私を迎えに来てハッピーエンド。

 後の諸々の面倒事は、マーちゃんと一緒に解決っと。

 未だ依代であるお城が現存してる私なら、カルデアがどうなった所で後はどうとでもなるってね。

 

 

 ……………

 

 

 「いやホント、マジでよくやってのけたわねあの子。」

 

 食堂で適当にショートケーキをつまみつつ、鈴鹿御前は呟いた。

 目の前には仲睦まじく食事を共にする刑部姫とマスターの姿がある。

 最近は割と自室(夫婦向けに改装)で食事をする二人だが、ちょいちょいこうして食堂にも出てくる。

 その様子を一部のサーヴァントはぐぬ顔で見るのだが、その一部以外は普通に好意的だったり、話しかけてもいる。

 

 「まさかのハーレム許可とか、予想外よねー。」

 

 ぱくり、と上に載っていたイチゴを一口。

 もし刑部姫がそう宣言せねば、彼女の友人である清姫を中心に、カルデアに血の雨が降っていた可能性すらあった。

 小通連の効果でそれを見通していた鈴鹿はその点を警告したのだが、刑部姫から先の説明と共にあっさりと対対策案を出され、紆余曲折の末に今現在も二人は仲睦まじく暮らしている。

 なお、第二夫人のトップバッターはマシュだったりする。

 流石はデンジャラスビースト、抜け目がない。

 

 「ま、幸せにね。同じ狐系としては応援したげるわ。」 

 

 こうして、カルデアの恋模様はただ一人を除いて予想外の形になったのだった。

 

 

 

 




ひっきーで腐女子なおっきーなら、旦那を薄い本の資料集めのために誰かと絡ませそうだなと思ったのが切っ掛けでした。
同時に、正面から誰かと戦うより、誰も気付かないし毒にもならない罠仕掛ける位はしそうだとも。

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