落ちこぼれの魔導士は魔王と共に異世界で生きるようです   作:ウィングゼロ

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10話

 

正人の体を黒い閃光が走った。正人はその衝撃で後ろに吹き飛ばされハジメと香織がいる近くで仰向けになって倒れる。それは香織にとって信じがたい光景だった。突如現れた女性を知っていた正人がその女性が放った攻撃で致命傷を負わされた。それは一瞬だったというのに香織にとってはスローモーションでゆっくりと感じられた。

ベヒモスとの戦いで無双した幼なじみ、それが呆気も無く倒れたことで放心してしまう香織、だが正人の貫かれたお腹から血が溢れ出し始めたときに香織は悲鳴を上げた。

「いや…いやぁぁぁっ!!正人くん!正人くん!!!

錯乱する香織。頭の中はぐちゃぐちゃで冷静な判断ができない。

「ぐはぁ…はぁ…はぁ」

「驚いたな即死だと思ったが本能的に急所を避けたのか…しかし…」

正人の口から吐血し呼吸が荒いがまだ息が有り。彼女は致命傷を避けたかとそう言いながら追撃するように左腕に装着しているパイルバンカーの矛先を正人と香織に向ける。

「香織!!」

「よせ!もう間に合わん!」

階段の方からは雫が助けに行こうと今にも飛び出そうとしていたがそれをメルドが静止する。あれでは間に合わない。そう理解できるからこそ、メルドは己の不甲斐さを悔いながらもこれ以上の犠牲を出さないため非情に徹した。

「穿て…」

「錬成!!!」

パイルバンカーから放たれた閃光が真っ直ぐ放たれたが重傷の正人や香織には当たることは無かった。放たれる着前、ハジメが錬成で正人と香織のいる足元の岩を凹ませ、それにより奇跡的に二人は助かった。

「南雲くん!?」

「白崎さん!速く八坂くんに治療を!白崎さんならまだ間に合う!」

ハジメは先程以上の恐怖にかりたたれながらも香織の治癒なら正人の体から出血している血を止められると希望的な憶測も交えながら叫ぶと、正人の瀕死に錯乱していた香織も正気に戻り、直ぐに詠唱を始めた。

「天の息吹、満ち満ちて――天恵」

この死地での火事場のくそ力なのか、本来香織が天恵を発動を三節まで省略できたが。たった二節で天恵を発動させ正人の回復を始める。

「小賢しい真似を」

香織が正人の回復を見て次こそ決めるっと女性はパイルバンカーの照準を香織にあわる。だがそれを見過ごさないのは錬成師である南雲である。

「錬成!!」

「くっ!」

直ぐさま錬成を発動し今度はハジメ達の周囲の岩を盛り上げ、女性の視界からハジメ達は見えなくなる。

「白崎さん!八坂くんの容体は!?」

「止血はできたよけど、意識が」

完全に視界を遮ったのを見計らってハジメは香織に正人の状態を確認する。短時間ではあるが女性により貫かれた傷は塞がり血管も回復したが意識だけが未だに回復しきっていなかった。

(此処に長居するわけには…)

此処にいれば直ぐに女性の標的として狙われるとハジメは思い、止血もできているのであればとハジメは香織と倒れている正人の元へ駆け寄り、動けない正人を担いだ。

「上手くメルド団長のところまで逃げよう!」

ハジメの言葉に香織は頷くと錬成で盛り上がっている岩を隠れ蓑に階段の方へ向かおうとしたとき、盛り上がっていた岩は風圧と共に全て砕け散り。女性の目からハジメと香織を確りと捉えられる。

「見つかった…!」

少しは時間稼ぎになると残っていた魔力で錬成したというのに、それがあっさりと砕け散った。そんな事態に血の気も引いてくるハジメは先程から香織や正人が狙われたパイルバンカーの矛先を自身に向けられ、自身の死期を悟る。黒き閃光が再び放たれようとしたとき、女性目掛けていくつもの魔法攻撃が降り注げられる。

それらが降り注いできているのはハジメ達が逃げようとしている階段がある場所、先に退路を確保したメルド団長達が魔法陣を展開して女性目掛けて放ったのだ。

「南雲くん!香織!」

「坊主!香織!八坂を連れて速くこっちまで来い!」

心配の声を上げる雫に、メルド団長が大声でハジメ達に聞こえるようにこっちに来るように伝えながらも次射の魔法の準備も怠らない。当初はハジメ達を見捨てるしかないと悔しながらも決断しようとしたが、ハジメの諦めていない光景を見て、長居しては危険だと重々承知しながらも、彼らが助けるために踏みとどまったのだ。

「南雲くん!急ごう!」

「うん!白崎さんは先に行って!」

生きる確率が出てきたと二人は顔色も良くなり持てる全てを出し切ってメルド達の元へと走りだす。香織が先行しその後ろを正人を担ぐハジメが急ぐ。女性は何とも涼しげな顔で次々と放たれる魔法がくらう手前でプロテクションというバリアで受けきり。何発も当たっているのにプロテクションは罅1つ付いていない。

(これなら僕たちは助かる!)

メルド達の支援攻撃で女性は足止め、このまま逃げ切れると希望を見いだしたハジメだが…

遂に悪意は牙を向けた。

(っ!どうして、あの魔法だけ僕の方に!?)

「うわぁっ!?」

女性目掛けて放たれていた魔法の1発がことあろうことか軌道を変えハジメに目掛けて飛んでいき突然のことで対処できないハジメは魔法の直撃をくらい。吹き飛ばされて正人共に地面に倒れる。

「正人くん!南雲くん!」

先行して走っていた香織が魔法の誤操作で直撃し倒れ込む2人を見て立ち止まり、2人の元へと引き返してしまう。

「っ!香織!駄目だ!そっちに行ってはいけない!」

光輝も引き返していく香織を見て必死に声を掛け呼び戻そうとするが香織にはそんな声聞こえていなかった。

「正人くん!」

「うっ…ぐっ…ぁ…!」

香織が正人の元へ辿り着き、安否を確認すると正人も無事なのは確認できたが、先程の攻撃で至るところ怪我をしていた。

「大丈夫、また、治療して「白崎さん!」…え?」

天恵を発動させようと詠唱を始めようとしたときにハジメに呼び止められる。ハジメの方を見ると彼の視線は女性の方に向いており、直ぐに確認を取ると香織も目を疑った。

「黒い…球体?」

女性の天に突き出した手の平には黒い球体。それは稲妻がスパークし徐々に大きくなっていくのが見たところからわかる。この時正人が正気であればその魔法が空間攻撃だと気付き、メルド達にも避難と物凄い血相で喋っていただろう。

「不味い…!」

ハジメもまたあれはとんでもなく不味いものと何となくだが理解することができた。しかし、起き上がるまで待ってくれるとは到底思えず。逃げられないと顔が恐怖で歪められる中。女性はぽつりと呟いた

「闇に…」

「リィンフォース!!!」

そのまま言い切れば空間攻撃が発動していた。だがその途中で正人は辛くも言葉を絞って大声で叫ぶことで発動を遮った。だがそれは一時的な物であり、正人もまた本能的に口走ったに過ぎずまだ意識がハッキリしていない。再び言い切れば空間攻撃は発動する。しかし、黒い球体は飛散し女性は両手を頭に押さえ苦しみ始める。

「祝福…の風……ナ、ハト…!我が…あるじぃ!!!」

「あの人…苦しんでる」

うわ声で呟き始める女性に、香織は何かと葛藤して苦しんでいると理解する。そして未だ意識がハッキリしない正人に顔を向けて正人とあの女性、この2人の間には並々ならぬ因縁かあるのだと、他人である香織にも理解することができた。

だが、そんな状況も長くは続かなかった。

「うわあぁぁぁぁぁっ!!!」

苦しみながらも左腕のパイルバンカーの先端を地面に叩きつけ黒い閃光が地面へと走るとそこを起点に石の橋はひび割れていき、遂に崩落した。

「正人くん!」

崩壊する直前、無防備な正人に抱きつき、身を挺して守ろうとする。

そして橋が崩落し、ハジメ、香織、そして正人は奈落へと落ちていく。

橋の方では青ざめる生徒達は悲鳴を上げ、メルド達騎士団もまた悔しそうな顔をする。香織の親友の雫に至っては身を乗り出して飛び降りようとしているのを龍太郎が必死に止めている。

落ちていく最中、香織は女性の方を見るとその表情に眉をひそめた。

表情は無表情ながらも瞳からは涙が流れ落ちていく香織達を悲しんでいるように見えた。

「――――」

女性は何かを呟いた。しかしそれは誰も聞こえること無く。香織も何かを言ったとしかわからずに正人と共に奈落の闇へと消えていった。

 

勇者パーティーから香織が離脱する時期

  • 原作通り
  • ベヒモス戦、ハジメが奈落へ
  • ベヒモス再戦後
  • 香織が目覚め、決意後
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