落ちこぼれの魔導士は魔王と共に異世界で生きるようです   作:ウィングゼロ

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20話

「人…なのか?」

50階層の異質な扉の向こうの部屋に生えている金髪の少女。立方体の石に上半身と顔だけが出ていて身動きが取れていないようだ。

 

「南雲どうす…」

「すいません。間違えました」

南雲に訪ねようとしたとき即決で南雲は180度回転し来た道を戻っていく。

俺は苦笑いしながら香織の手を引きながら南雲に付いていく…まあ何となく察したし

「ま、待って!……お願い!……助けて……」

「ね、ねえ!助けてって呼んでるよ。助けた方が…」

「嫌です」

必死に金髪の少女が俺達に掠れた声で助けを求め、香織も助けてあげたそうな顔でこっちを見ているがそれを南雲がきっぱりと言い切った。

「ど、どうして……なんでもする……だから……」

「あのな、こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴を解放するわけないだろう?絶対ヤバイって。見たところ封印以外何もないみたいだし……脱出には役立ちそうもない。という訳で……」

「えっと、ごめんな…俺も南雲みたいにきっぱりという訳ではないんだけど、この手のトラップって一番危険なものなんだよね。ミイラとかならまだ良かったけど…生きてるとなると…」

本当にごめんっと俺は謝りながら門の外へと去って行き、南雲は徐々に門を閉めていく。

南雲は感覚で俺は遺跡探索とかで培った経験からの結論だった。良心に響くが生き残るため、心を鬼にする。

「ちがう!ケホッ……私、悪くない!……罠じゃない!……待って!私……」

それでも懇願する少女、香織も助けてあげよっと声には出さないが明らかに顔に出ており。その顔を見て俺も助けてリスクを背負うか見捨ててこのまま進むかの葛藤に迷う。

南雲はそんな悲痛な声にも耳を貸さず扉を閉めていき、あとわずかで閉じる時に彼女の声が響いた。

「裏切られただけ!」

その言葉は人の心を捨てていた南雲にも響いた。

俺は気絶していて香織に聞いたがどうも逃げる途中に味方の魔法が南雲目掛けて降ってきたという。いきなり軌道が変更されるなどありえないために明確な殺意の元行われた犯行だった。

その犯人には目星は付いてるんだが……香織には伝えない。伝えたら多分香織の怒りが爆発するだろうし

少女も誰かに裏切られたのだろう……同族意識といったものかそれが南雲の心を完全に揺さぶった。

しばらく固まっていた南雲は苦い顔をしながら扉をまた開け、中へと入っていく。

「八坂……何かあったら」

「わかった何時でも射撃できるようにする」

有事の際のことを気にした南雲は何時でも射殺できるように声を掛けると俺もあまり殺生はしたくないが背に変えられないとアストロスフィア*1を6発待機させたうえにソニックアローをオリオンに携え何時でも射撃できるように準備しながら少女に近づいていった。

だが俺も南雲の行動に少しほっとしていた。俺の闇の書事件後砕け散った石の欠けらが残っていてそれを香織のお陰で再び灯火が付いたように、まだ南雲にはあの時の良心の欠けらが残っていたことに微笑みを浮かべた。

「裏切られたと言ったな?だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

気になることを質問する南雲、諦めかけていた少女は唖然として言葉を出せず。それが気に召したのか言わないなら帰ると来た道を戻ろうとしたときに慌てて少女は話し始めた。

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

「…吸血鬼…ねえ確かトータスの吸血鬼は300年前に滅んだはずだが…」

「??この…世界?」

少女は吸血鬼の王族で用済みとして封印されたと説明し俺は頭の片隅で覚えていたトータスの歴史からこの世界の吸血鬼は滅んでいると言うのを口に出し、少女は何処か引っかかる言葉に首を傾げた。

「お前、どっかの国の王族だったのか?」

「……ん」

「殺せないってなんだ?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

「それもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

この子は吸血鬼の王族で凄まじい再生能力を持ちなおかつ魔力操作と詠唱破棄も使えるってことか。

 

魔力操作を使える時点で多分この少女もリンカーコア覚醒…いや保持者だろう。

魔力量はともかく、下手したらはやてみたいなやばい魔法をばかすか詠唱なしでぶちかませるわけだ。

「お願い……助けて……」

全て説明した女の子は再び助けを求める。明らかに悪意はない……助けても良いんじゃないかと思う反面、解き放ったら何かありそうという嫌な予感もしていた。扉の前に居たサイクロプス同様何か出てきそうで怖いのだ。

そんなこと考えていると横から涙ぐんだ声が聞こえてくる。

「そんな…酷いよ…グスッこの子何にも悪いことしてないのにぃ……あんまりだよぉ~……」

香織だ、嫌な予感で完全に見捨てようとした俺達とは違い香織に関しては助けたい一心だった。

その上、少女のこれまでの経緯を聞いたことで抑えていたものが完全に決壊、完全に同情して涙目で俺達に助けるように語りかけてくる。

恐らく此処で助けないという選択肢はないのだろう。

俺は溜め息を吐き左手に持つソニックアローを消すと南雲と香織に下がるように促すと左手に魔力を溜め込み最大まで溜め込んだ全左ストレートパンチを繰り出し閉じ込められている岩を破壊しようとしたが異変が起きる。

「いったぁ!!」

少女が埋めている石に接触した瞬間左手の魔力が打ち消され、素の全力パンチか石に叩きつけられたことにより悲鳴を上げたのは俺の左手だった。

「ま、正人くん!?」

「いっ、くそ!この石、魔力を吸い取ってやがる。」

よく考えればそうだ、この少女も魔力があればどうということはないはずなのに出られないのは魔力が吸い取られているからだと何故気付かなかった。

未だにヒリヒリする左手に香織は天恵で俺を癒し始め。選手交代と言わんばかりに南雲が前を見る。

「この石は魔力吸い取るみたいだが…鉱石なら俺の錬成で!!」

そういって右手を石…魔法を封じるということで魔封石でいいか、それに当てて錬成を発動する。

当然魔封石も抗ってくるが徐々に魔封石を浸食しているのがわかる。

「ぐっ、抵抗が強い!……だが、今の俺なら!」

南雲は更に魔力を高めてトータスなら八節ぐらいに込める魔力量を錬成に継ぎ足すと漸く魔封石に南雲の錬成が効き始めた。

「まだまだぁ!」

更に南雲は魔力を高め持てる全ての魔力を注ぎ込んでいるのだろう。

これを見ているほど俺達は薄情ではない。

俺はすかさず左手で南雲の肩に手を当てると錬成の足にするために魔力を受け渡し香織も自分に出来ることをするために詠唱を始める。

「南雲!俺の魔力を渡すそれも使え!」

「南雲くん!私のも受け取って!天恵よ 神秘をここに 譲天!!」

香織が放つ譲天は他者の魔力を回復する魔法。しかし香織はその応用で錬成の注ぎ込んでいる魔力を増大させたのだ。

「ありがてえ…これなら!!」

俺達の魔力で凄まじい魔力を使った錬成はついに少女を捕らえる立方体を融解していき。少女は長きにわたる封印から解き放たれその場に座り込む。

動けるまでは少し掛かると言ったところ。まあ俺達もかなり魔力を消耗した。

香織と南雲は全力、俺もその後の戦闘のためにセーブしたとはいえ6割ほど注ぎ込んだ。

南雲は神水で回復しようとしたが少女の震える手がその手を掴む。

顔は無表情ながら紅眼の瞳には彼女の気持ちが溢れ出てわかる。

「……ありがとう」

その一言だけでも俺達はやったかいがあったとそう思えた。

 

 

*1
アストロスフィア

正人の使う射撃魔法、ソニックアローより弾速も威力も劣るがロックした対象を追いかける追尾性に優れる。

ヴォルゲンリッターの先行加入を誰にするか(最終的には全員来ます)

  • シグナム
  • ヴィータ
  • シャマル
  • ザフィーラ
  • 誰も来ない

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