Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

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守護天使作戦開始。ロシア連邦軍の反攻が始まります。


チェチェンの真実《9》【反攻】

_モスクワ標準時(MSK)5月31日午後8時_

エーゲ海ドデカネス諸島近海

アーレイバーク級駆逐艦「ストックデール」

 

「ロシア連邦軍から提供された座標の固定完了、目標を補足しました。僚艦にも伝達済みです」

 

 ストックデールCICの狭い空間で、砲術長はモニターを見つつ声を上げる。

 

「そうか、そろそろ向こう側との歩調を合わせた作戦時刻だな、しかし、まさかロシア連邦との共同作戦が、初のロシア領内への攻撃とはな……」

「私としては、こういうのは二度と勘弁してほしいところです、いえ、二度と起こっては欲しくない出来事でしたな」

 

 艦長は副長の言いたいことを感じ取る。

 

「大方はあちらさんがやってくれる、我々はただ援護射撃を行うだけだ。では、終わらせに行くぞ」

 

 艦長は海軍帽を手に取って頭に被り、席へと座る。

 

TMS(トマホーク武器システム)起動!トマホーク発射用意!誘導目標への最終調整も順次開始!必ずぶち当てろ!!」

 

 わずか数十秒の後、返事が返ってくる。

 

「目標への最終調整完了!」

「よし、トマホーク発射!Salvo(斉射)!」

 

 アーレイバーク級の前部甲板にあるMk.41VLSの蓋が次々に開口し、巨大な筒を次々に打ち上げる。

 RGM-109Eトマホーク巡航ミサイルは僚艦「カーニー」からも打ち上がり、固定ロケットブースターで初期加速を行った後、予定された飛翔航路の巡航を開始した。

 

_同時刻_

黒海海上クリミア半島サールィチ岬から南東150kmの沖合

ロシア連邦海軍黒海艦隊

 

 先の戦いとは異なり、黒海艦隊は全力出撃を行っていた。

 艦隊旗艦である11435型重航空巡洋艦3番艦「マクシミリアン・エルマチェンコ」を筆頭に、数十隻の艦艇が揃い、その威容を見せつける。

 

 「マクシミリアン・エルマチェンコ」の戦闘指揮所では、ガヴリイル・エゴロヴィチ・グラーニン海軍中将が、オペレーターからのミサイル発射準備完了を聞き、声を上げる。

 

「全艦作戦開始!VLS全番解放、カリブル発射始め!!」

 

 第173ミサイル艦大隊の1164型ミサイル巡洋艦「ブルナコフ」、1144.2型重原子力ミサイル巡洋艦「アドミラル・スグラノスク」の他、11356M型フリゲート、20385型警備艦、21631型小型ミサイル艦十余隻から、3M14TEカリブル-NK巡航ミサイルが次々と発射される。

 装備されている全VLSから一斉攻撃によって、ほとんどの艦が自艦から放たれたミサイルの噴煙に包まれる。

 

 同じ光景はカフカース地方を挟んだカスピ海でも見られた。

 11661型警備艦「タタールスタン」「ダゲスタン」や21631型小型ミサイル艦らによって構成されるカスピ小艦隊(フローティラ)第106水域警備艦旅団は発射準備が完了次第、文字通りの()()()()を開始した。

 カリブル巡航ミサイルがVLSから次々に放たれ、西方の空の彼方へと飛んで行く。

 

 陸上では南部連邦管区に位置するクラスノダール州クラスノダールの第1親衛ロケット旅団及びアストラハン州ズナメンスクの第439親衛ロケット旅団に配備されている9K720「イスカンデル-M」戦術ミサイルシステムから9M723K1短距離弾道ミサイルが放たれる。

 固体推進燃料によってブースターで上昇加速し、彼らは一度大気圏外高高度へと到達し、標的への飛行を開始した。

 

_モスクワ標準時(MSK)5月31日午後8時20分_

ロシア連邦南部連邦管区ロストフ州ロストフ・ナ・ドヌ

南部軍管区作戦・戦略司令部(OSK)

 

「イスカンデルが撃墜されました」

「想定済みだ。CLFの連中に対空レーザーを放てるエクシード・リグラがいることは知っている、それよりもトマホークの方はどうだ?」

「発射された弾頭の多くが命中し、武器庫等にダメージを与えているのを確認してます」

「そうか、ならば次の段階に移せるな」

 

 作戦司令室でニキーチンは副官と状況を確認しあい、判断を行う。

 

「作戦参加全航空部隊に伝達!守護天使となって空を舞え」

 

ロシア連邦北カフカース連邦管区スタヴロポリ地方ブデンノフスク

南部軍管区ブデンノフスク空軍基地

 

 夕日が滑走路を照らす中、Su-27SM2戦闘機が照らされながらも滑走路に進入する。

 すでに発進指示は管制塔から発しており、管制塔の指示を受ける必要もなかった。

 機体後部のエンジンノズルから火を吹き、数秒の滑走の後に地表から離れ、無事に離陸に成功する。

 第39親衛戦闘機航空連隊が飛びたった後、同機種で構成される第127親衛戦闘機航空連隊が直ちに離陸を開始。

 すでに60機を超す大編隊が形成されていたが、まだこんなものではなかった。

 

 クラスノダール地方アルマヴィル空軍基地から出撃した第123戦闘機航空連隊のMiG-29SMT戦闘機32機、アディゲ共和国マイコープにあるハンスカヤ空軍基地から出撃した第43襲撃航空連隊のSu-25SM2攻撃機22機が進出。

 クラスノダール地方のクシェフスカヤ空軍基地、クラスノダール・アヴィアゴロドク空軍基地、クルイムスク空軍基地からはSu-27SM2及びSu-35S戦闘機で構成される第134親衛戦闘機航空連隊、第166戦闘機航空連隊計74機が離陸し、作戦空域へ空中給油を経て進出を開始する。

 そのさらに遠方のアストラハン州アストラハンのアストラハン・プリヴォルジュスキー空軍基地及びクラスノダール地方プリモルスコ=アフタルスク空軍基地ではMiG-31やSu-27で構成される部隊が南部軍管区全空域での防空任務に従事する。

 

 そして。

 

ロシア連邦南部連邦管区ロストフ州ロストフ・ナ・ドヌ

南部軍管区ロストフ・ナ・ドヌ空軍基地

 

 ブレンデッドウィングボディの胴体を有する機体が二つのエンジンノズルから火を吹き、滑走路上で加速していく。

 同時に同型の機体が滑走路に進入しタキシングを始める。

 

「トリーフォン1より基地管制塔、離陸許可を」

『コントロールよりトリーフォン1、離陸を許可します」

「了解、離陸する」

 

 Su-57Bステルス戦闘機。ロシア初のステルス戦闘機はトリーフォン1ことアンドレイ・レシーニコフ少佐の操縦の元、滑走路上を加速して飛び立つ。

 第39航空連隊より移籍したレシーニコフ少佐が指揮していた12機を含む第56親衛戦闘機航空連隊の34機が南部軍管区OSKのあるロストフ州ロストフ・ナ・ドヌの空軍基地より離陸する。

 

『全機に告げる。我々はこれよりチェチェンへの向かう。トリーフォン1以下の部隊はすでに経験していると思うが、今までの様な訓練とは違うと思え。なお、これより我々は早期警戒管制機及び給油機を近くまで護衛したのち、戦場に赴く。CLFにロシア空軍の実力を見せてやれ。これをもって訓示とする』

 

 第56親衛戦闘機航空連隊は前回の戦場で確認された無人機とは異なる機動を見せた敵の戦闘機集団に対する決め手としての意味を持ち、また同時に離陸した早期警戒管制機〈クロレブニィ〉、空中給油機〈ナスベレンディ〉の護衛任務も受け持ち、戦場へと向かう。

 

ロシア連邦北カフカース連邦管区チェチェン共和国北部全域上空

 

 ロシア連邦軍が本気で挑んだ空を制する戦いは、チェチェン共和国北部全域の上空で激闘の大空戦となった。

 

「カラシフ01より全機、空対空ミサイル発射ぁ!」

 

 カラシフ中隊のSu-27SM2戦闘機の翼下ハードポイントから中距離空対空ミサイルを次々に切り離し、ブースターが点火され目標への誘導を開始する。

 既に後方にいるA-50早期警戒管制機(AWACS)からの管制によって誘導目標はレーダーに視認されている。

 よって視界外の110kmの射程を有する空対空ミサイルをCLFのMiG-21戦闘機が防ぐ手立ては無く、10機ほどの戦闘機から放たれた空対空ミサイルは同数の戦闘機を葬り去る。

 

 CLFが投入した航空戦力はMiG-21戦闘機がその大半を構成する200機に及ぶ大部隊だった。無論、そのほとんどがCLFが行わせたエクシードを持つ少女たちの持つ魔法の一つである残骸や流出した機体から『複製』であり、全ての機体に一切人を乗せず少女たちの脳が焼き切れるのを承知で操作させていた。

 簡単に複製できるためにその対策にロシア連邦軍が出した答えは全空域における激しい空中戦を起こすことだった。

 救うべき対象である少女たちに激しい疲労を蓄積させてしまうことは耐え難い真実であったが、それぐらいしか方法が思いつかない以上、仕方がないと割り切るしかなかった。

 

「ウラヴ01発射!!」

『こちらプロバフ01、ウラヴ隊を援護する!全機カバーに入れ!』

「ありがたい!」

 

 Su-27SM2の中隊後方よりSu-27UB戦闘機とMiG-29SMT戦闘機で構成される中隊が接近し、計20発以上のミサイルが発射され、フレアを発射するものの多くのCLFの戦闘機が撃墜される。

 だが、CLF側もただ黙って撃ち落されるのを待ってるわけではなかった。それは少女たちの想いではなく、利己的な欲にまみれた男の思いだったが。

 突如として先頭を走っていた20機ほどの機体が急加速し、ロシア連邦軍の戦闘機部隊に迫る。

 

「ちっ!こちらシェンコ02、敵機急加速!直ちに支援要請!」

『サバーカ01、対処する』

 

 一時的にミサイルを撃ち尽くしたシェンコ中隊に代わり、サバーカ中隊が早期警戒管制機の管制よりも早く個別にロックオンして残った中距離空対空ミサイルを発射して次々に撃ち落とす。

 だが、その勢いは衰えず、シェンコ中隊の2機が撃墜される。

 

「くそっ、シェンコ7、11被撃墜!」

 

 その勢いのまま編隊内に突入した数機のMiG-21であったが、急旋回する間に機銃弾をエンジンに食らい1機が急速に落として落伍。2機目は後方から迫るミサイルに背部を左右に両断されて爆炎を上げ、残った機体も避けるも間もなく機銃弾及びミサイルで要撃任務にあたっていたローシカ中隊のSu-35Sが撃墜する。

 

 一時的な混乱によって彼我の距離は近づき、更なる激戦となる。

 皮肉にも先の戦いのような構図となるが、慢心も油断もなかった。

 戦場はチェチェン共和国シェルコフスカヤ地区、ナウルスカヤ地区、ナドテレク地区の三つに分かれつつあり、さらに一部は首都近辺のグロズヌイ地区にも及びつつあった。

 

ロシア連邦チェチェン共和国ナドテレク地区上空

 

 二発の空対空ミサイルが尾を引きながら飛翔し、2機のMiG-21を葬り去る。

 それに続くかのように12機のSu-27が1列となって緩く左に旋回を掛けながら加速する。

 

「ズニィ01より全機、合図したら順次ミサイルを発射せよ。一切足を止めるなよ」

заметано(了解)!」

 

 隊長機の発射!という合図の後、一斉に空対空ミサイルが発射され、1列に尾を引く。

 突然発射されたミサイルにCLFの戦闘機隊はぎこちない回避機動を行うが、ミサイルはそれを忠実に追い、瞬く間に20数機の敵機が墜ちる。

 その直後、一部の敵機が有人機には無理な急旋回を掛け、ロシア軍機に向けて空対空ミサイルを放ちながら突撃を開始する。

 それに正面から立ちはだかったのはトゥラーラ01率いるSu-35Sで構成される隊であり、ヘッドオンの形によって固定武装の30㎜機関砲を撃ち尽くす勢いで連射する。

 

「トゥラーラ04被弾!」

「即座に帰投せよ。こちらも無用な被害は避けたい」

заметано(了解)

 

 敵機のミサイルによって1機が被弾するも、飛行可能だったこともあり帰還命令が出され陣形から離脱する。

 十数機以上による30㎜機関砲の乱打はCLFのMiG-21戦闘機隊を引き裂いていく。

 コクピットガラスを粉砕し人のいないコクピットを貫通しエンジンにまで被害をもたらして炎上し墜ちていく機体もあれば、完全にバラバラに引き裂かれた機体、翼を引き裂かれる機体も確認でき、全ての機体がたどり着く前に撃ち落された。

 

 その付近では逆にCLFの戦闘機群へ真横から突っ込む隊もあった。

初めに2発のミサイルによって突入口を形成、炎吹き徐々に墜ちていく機体の残骸をよそにジラーフ隊が突っ込んいく。

 MiG-21は編隊の中に突っ込んできた戦闘機を排除しようとミサイルや機銃を撃つが、それは巧みに回避され、前の戦闘機への同士討ちを繰り返す始末であり、ジラーフ隊のSu-27は後ろ以外は全部敵だらけという状態で機関砲や翼下のミサイルを乱れ撃ち、敵に損害を与え続ける。

 

「ジラーフ01より全機、周りは敵だらけだ、落としまくれ」

『隊長、さすがに無謀すぎですな……』

「確かにリスクはある……が、それだけに効果はでかいはずだ」

 

 その時、味方に対する同士討ちに構わずミサイルや機銃を放つMiG-21が現れ、4,5機の味方機を巻き添えに2機のSu-27を大破に追い込む。

 

『こちらジラーフ05、脱出する!』

『ジラーフ08、こちらもやられた!脱出!』

「了解した、地上部隊も進撃中だ。無事を祈る」

 

 ロシア連邦航空宇宙軍は少なくない損害を被りながらも、CLFの航空機を減らしていき、

 わずか1時間の戦闘で敵機を半数にまで減少させた。

 

_モスクワ標準時(MSK)5月31日午後9時頃_

ロシア連邦チェチェン共和国ナドテレク地区コマロヴォ

 

 日も落ちた暗闇の中、薄明かりのライトだけが点いた2階建ての小屋に鈍い音が聞こえる。

 

「ひっ……いや……がっ……」

 

 筋肉質の大男が自分の身長の半分程度にしか及ばない薄橙髪の女の子の頬を全力で殴る。

 数回両頬を殴られた少女は頬が青あざだらけとなり、男に胸倉を掴まれ無理やり引き寄せられたときには、前々から男に暴力的な凌辱を受け精神が摩耗していたことから、顔が絶望に染まる。

 

「おい!!耳かっぽじって聞けよ、くそ野郎。何落とされてるんだ、前のように全ての敵を落とすことがなぜできない?約立たずが!」

 

 男は少女の首元にナイフを当て、口には出さずとも脅迫していることは明白だった。

 

「だ、だって……あんな数がいるなんて……頭がおかしく…ガハッ…」

 

 少女は反論をおびえながらも口にするも、男に腹を殴られ痛みに喘ぐ。

 

「お前の言い分なんて聞いてねぇんだ、返事ははいか奉仕するかのどっちかなんだよ」

 

 そう言い、男は少女の髪をひっぱり、ナイフを少女の顔の数センチ手前まで近づける。

 

「やめろよ!」

 

 その声は男勝りな深紫髪の少女の声だったが、彼女も同じような目に遭った少女であり、言葉だけは勇ましかったが手や足は震えていた。

 

「てめぇがこいつをしっかりと見ねぇからこいつがさぼるんだよ!」

「さぼ……かはっ……!」

 

男は彼女の胸元を左手の拳で殴りつけ、倒れた彼女に唾を吐く。

 

「いいか!お前ら役立たずに挽回の機会を与えてやる!ロシア軍を叩き潰せ、しょうもない結果だったら、俺らの慰め物になるだけだ。むしろ……そんなことはできないと今からやるか?」

 

 男は下卑た笑みを浮かべ、下品にも指でそのポーズを示す。

 

「い、いや……それだけは……いや」

「なら大人しく命令に従え、いいな!」

 

 男がその場を離れた直後、薄橙髪の少女はその場に崩れるように倒れこむ。

 咄嗟に深紫髪の少女が受け止めて抱きしめる、そして思いを話し出す。

 

「なぁ……逃げ…ようぜ」

 

 かすれるような声で提案する少女。

 

「逃げ……だめ……いや……また嫌なこと……」

 

 だが、もう一人は恐怖のあまり、体を震わせる。PTSD並みのトラウマを抱えた少女にとってその決断をするのは無理があった。

 

「おい!何サボってるんだ!ええ?さっさと働け」

「ごめん……逃げたいけど……無理……ララだけでも逃げて……」

 

 男の怒号が響く中、少女は泣きながら男の声にかき消されないように必死に伝える。

 そして、男の暴行が行われない内に窓側に駆け寄り、自分の中にあるコピーされた情報から戦闘機を空に複製していく。

 彼女一人で生成した戦闘機の操縦を行わなければいけないことによって彼女の意識を各戦闘機に乗り移る、もしくは自分の脳内でそのイメージを投影し操舵する関係上、先ほどの戦闘によって多大な疲労が加わった分も合わせて、彼女の脳は多大な負担を強いられていた。

 

 何一つない星空、そこに数十機のMiG-21が生成される。

 さらにその中に紛れ、先の戦いで撃墜した機体から機体情報をコピーしたSu-27戦闘機が複数機含まれていた。

 突然何もない空間からの空間からの襲撃で、ロシア軍は混乱に陥り複数機が撃墜される。

 

「今のなんだ!おい……!同型機がいる!味方か!?」

「友軍コードが表示されていない!敵だ!」

 

 複数の戦闘機を操りながら、少女は小声でごめんなさい、ごめんなさいと連呼し続ける。

 その傍でもう一人の少女は自分の何もできない不甲斐なさに嘆き、俯いていた。その時、床に筆記用尖筆が落ちているのを見つけ、それを拾い上げる。

 

「これなら……」

 

 少女は一つの希望を見出す。

 場面は変わって薄橙髪の少女が生成した戦闘機はロシア軍相手に暴れまわっていたが、限界が近づいていた。

 当初はCLF側の航空機の数が上回っていたが、今ではロシア航空宇宙軍機の方が多くローテーション形式で展開しているため、予定外の疲労はあり得ず、一般以下の技量ではただ撃ち落されるしかなかった。

 それでも、生成する機体をSu-27に絞ることでロシア軍に損害を強いてなお、撃ち落される確率は確実に下がっていた。

 

「もう1機ぃ!!、さらに1機、全部……撃ち落さないと……じゃないと……じゃないと……!」

 

 感情的に叫ぶあまりロックオン警報に気づかず、1機に空対空ミサイルが直撃して胴体がへし折られる。

 

「!?……どこから」

 

 ロックオン警報に気づかなかったのは彼女のミスであったが、肝心なのは敵の姿がレーダーに映ってないことだった。

 さらなるロックオン警報、だが敵機は見えない。

 動揺する余り回避機動がうまくいかず、立て続けに2機墜とされる。

 

「一体どこから……!なんで……なんで映らないの!!」

 

 少女は困惑し、一方的な光景に泣き叫ぶ。

 

「カローヴァ01より隊長機、敵Su-27の撃墜を確認。任務を続行する」

 

 その正体は第56親衛戦闘機航空連隊に所属するSu-57Bステルス戦闘機であり、ステルスとあるように既存のレーダーには映りにくい性質をしていた、軍事に知見にあるものなら一発で分かるが、彼女には無理な話だった。

 

「カローヴァ01へ、了解した。トリーフォン01はそのまま高空待機を」

『了解しました』

「作戦は優勢に推移しつつあるか……だが、あの無人のSu-27は囚われたエクシード・リグラによって操作されている、おそらくノルマもあるんだろう。皮肉だな……我々は救おうとしているのに、それによって苦しめられるとは」

 

 隊長は一旦話すのをやめ、拳を強く握りしめる。

 

「だが、だからと言って足を止める理由にはならない、救わねばならないだろう。アクツァール01より全機、全ての敵機を撃ち落せ」

 

 Su-57Bは次々に低空へと突入する。彼らは他の航空部隊がやったような奇抜な戦闘機動をせず、教科書通りに戦闘を行った。教科書通りだからこそ効果はあった。接近されたことでレーダーには映った。だが、そうだとしてもどうしようにもできなかった。

 CLFのSu-27は立て続けにSu-57Bの空対空ミサイルによって火だるまにされ、どのような回避機動を行おうとも、精鋭パイロットによる3機で一組による構成によっていくらでも対応され、その刃からは逃れられない。

 彼女がさらに戦闘機を生成させても、すぐに撃墜されるほど隙は無く、航空優勢は完全にロシア軍に握られた。

 

「あ……ああ……ああ……!」

 

 薄橙髪の少女は絶望し床に膝をつく。

 

「命令に逆らうなといったはず…だ!」

 

 その少女に近づく男は先ほど少女に命令した男であり、彼女の腹に怒りとともに足蹴りを喰らわせる。

 

「オゴッ!?……ゲホッ……」

 

 胃や肺の辺りを激しく蹴られたことで、少女は転倒するとともに激しく咳き込んだ。

 怯えた表情で男を見るが、その前に髪を強引に掴まれて無理やり顔を上げさせられる。

 

「おい!さっきから耳聞こえてるよなぁ!なぜ命令に従わない?」

「……無理だって……初めから無理だって分かってた……!!」

 

 少女は今まで良い様にされてきたこと腹が立ち、涙を流しながら反抗的な目で反論する。

 その答えは、男がナイフを持ち出したことだった。

 男はただ無言で少女の左頬をナイフで二回切りつけ、着ていたボロボロの服を切り裂き、肌すらも切り付ける。

 

「痛い……やめて痛い…!痛いよぉ…!」

 

 少女がそう言ったことで男の手は止まり、ナイフは首筋に当てられる。

 

「ひっ……」

「何もできない女はいらないんだ、もちろん殺すしかないだろう。それとも、自分から奉仕するかのどちらかだが」

 

 少女は怯え悔し顔も見せ、最後には泣きながら答える。

 

「私を……してください……」

「よく聞こえんかったが、それでいいだろう」

 

 男は躊躇なしに少女の下着の中に手を突っ込む。その時少女の体は震え、顔は絶望に染まる。

 男のナイフは首筋に当てたままだったが力を入れておらず、もう一人の少女に対しては意識すら向けてなかった。

 

風の加速(エアステップ)

 

 その時、深紫髪の少女がそう言い、素早い跳躍で男に飛びかかり、拾った筆記用尖筆を男の首筋に思いっきり突き刺す。

 躊躇というのは一切無かった。憎しみを込めて何度も突き刺し、男の首筋からは大量の血が流される。

 

「ぐぅ…!メスどもが……ああ!」

 

 男は少女を振り払おうとするが、やがて感覚がなくなり力が抜けてくるとそんな行動もできなくなり、ナイフを手から落とす。

 少女は追い打ちをかけ、尖筆を突き刺した上でぐりぐりとねじ回し傷口を広げていく。

 そんな中で、深紫髪の少女はもう一人の少女に目線を向け、逃げてと小声で伝える。

 

「う、うん……」

 

 薄橙髪の少女はそんな彼女を心配そうに見るも、すぐに頷いて窓から飛び降りる。

 それと同時に、男は気を失ってゆっくりと倒れ床にその巨漢を横たわらせる。

 深紫髪の少女がそんな光景とともに男の血で濡れた手や体を見ながら一安心と息を吐く。

 だが、この小屋は男一人だけの場所ではなかった。

 

「てめぇやりやがったな!!」

 

 その声は同じ2階にいた男であり、肩に担いでた小銃を構え連射した。

 数十メートルの距離での連射は反動が強く、且つ男にはこれ以外に銃を撃った経験がないため、ほとんどは外れたが少女は左腕と右足に命中した。

 

「痛い……」

 

 その反応とは異なり、少女は大きな痛みを感じでおり、尻もちをつく。

 それを見た男は一連射で仕留められなかったことに舌打ちをしつつ、次で仕留めるために少女に近づく。

 男が少女からわずか数メートル、左横に階段のある所まで歩いたところで、男は真左から脳天に一発の銃弾を受ける。無論即死であり、右へ倒れた後は一切動く様子は無かった。

 

 その一連の状況に何が起きたか分からず辺りを見渡していたところ、階段が昇ってくる一人の男性に気づく。

 その男は最初は警戒気味に小銃を構えていたが、深紫髪の少女の姿をバイザー越しで見つけると小銃を下ろし、少女に近づく。

 男は倒れてる巨漢を垣間見つつ、少女に話しかける。

 

「凄まじく勇敢だな。褒め称えたい。だが、詰めは甘かったようだ。もう少し命は大事にだ」

「あなたは一体……」

「失礼、やはりこの紋章だけではわからないか」

 

 男はバイザーを上げ、ヘルメットを外す。そこから現れたのは顔つき等から判断して壮年らしい男性の顔であった。

 男は敬礼しながら再び少女に話しかける。

 

「ロシア対外情報庁ザスローン部隊、と名乗ってもわからないな。ある者にはこういわしめた、『作戦が成功したならば、世界はその成果についてすら知ることができないだろう』とされる部隊さ。たった今成果があなたにバレてしまったが」

 

 軽いユーモアを含んだ男の言葉に少女は少しだけ警戒を解く。

 

「……もう一人、私と同じぐらいの女の子は!!」

「仲間かね?もちろん保護しているよ」

 

 そう言い、男は無線機を取り出し、口を開く

 

「こちらアルファ中隊、小屋の二階で一名を保護した。そちらで保護した1名と仲間のようだ、容体などはどうだ?」

『こちらベータ中隊、現同性の兵士によって事情聴取をしています。ですが、外見上は容体に問題はありません。また、傷の手当てを受けさせています』

「そうか、こちらも傷の手当てが必要だ、空きはあるか?」

『問題ありません』

「そうか、すぐ向かう」

 

「立てるか?」

「無理そう……かも」

 

 男はそう聞き、傷の容態を見つつ少女を横抱きする。

 少女は他人に優しく抱きかかえられたことで、わずかに羞恥心を感じる。

 だが、何も言い出せない。助けられたのに、運んでもらっているのに、文句を言うのは失礼であると思ったから。

 確かなのは、囚われていた時のように人の尊厳さえ蹂躙されていたことを考えれば、こんなのは些細な事であることだった。 

 

 二人の少女が再会したとき、二人は互いの無事を確かめ合うように両手を握り合い、大粒の涙を流した。

 

_モスクワ標準時(MSK)5月31日午後10時20分_

 

 ロシア連邦軍は航空作戦の間に陸軍部隊も進軍させてナドテレク地区に進入。

 作戦開始から約2時間でナドテレク地区を解放、そのまま足を止めずに他地区への進撃を開始。

 守護天使(Ангел-хранитель)作戦は順調に推移しつつあった。

 




※次回予告

チェチェンの真実《10》【苦痛】

作戦は海上と航空でも引き続き推移する。
だが、戦場に痛みは伴う。それは銃弾を受けた痛みか、心の痛みか。
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