Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

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お久しぶりです。遅くなり申し訳ございません。
それと、今次情勢は本当色々狂わせられますね。
あまりにセンシティブな事なので何も言及しませんが。


チェチェンの真実《10》【苦痛】

_モスクワ標準時(MSK)5月31日午後10時半頃_

ロシア連邦首都モスクワ 大統領府庁舎

 

 大統領執務室では、ニコルシチャフ大統領が窓際に立ち、夜のモスクワ市街を眺めていた。

 

「まだ明かりが付いているか、この時勢でもご苦労なことだな。いや、この時勢だからこそか……」

 

 そう言い、ニコルシチャフは振り返り、席に座る。

 すると、机の上に置いてある物の一つに違和感を感じる。

 

「これは……なるほど。そういうことか」

 

 元軍人としてか、政治家としての感なのかははっきりとしないが、ニコルシチャフはその物の意味を理解する。

 そして、部屋の照明に照らされた視界の中で、歪んだ空間を見つける。

 

(隠れてるのだろうが、気配までは隠し切れないか……だが、殺気は感じない。ふむ)

 

「そこにいるのだろう。隠れてるつもりであると思うが、私にはバレバレだ。忠告する、すぐに姿を見せろ、見せないのであれば……」

 

 そう言うと、ニコルシチャフは右手を左の服に内側に入れ、拳銃を取り出すそぶりを見せる。

 実のところ、そのようなものは無いのだが、相手は焦ったのか、慌てて姿を表した。

 

「待って待って!姿を見せるから」

 

 少女のような姿をしている者は、ニコルシチャフの前に現れ、謝るそぶりを見せる。

 だが、運悪く、大統領の護衛を務めている者が部屋に入ってくる。

 護衛は少女に銃を向けるが、大統領が左手を上げて止めさせ、「大丈夫なのですか」という表情を見せる護衛に、机に置かれていた物である一枚の紙を見せる。

 

「『こちら側の人間が来ます、事後報告となってしまった場合は申し訳ありません』とな」

 

 その言葉を聞き、少女ははっとした表情でニコルシチャフを見てくる。

 

「それは……お姉さまからの……!」

「まあこれが向こう側からの秘匿文書であることは理解できる、だがあなたの所属と名前を聞かないことにはな、席に座って話してくれ」

 

 緑髪ポニーテールの少女は対面となる座席の片側に座り、ニコルシチャフは反対側に腰を掛ける。

 

「緑の世界【グリューネシルト】統合軍所属、ティナ・ファロ三曹です」

「これには、あくまで我々がどう動くかの大まかな情報を入手するためと書いてある。だが、本心は別だろう。それはなんだ?」

「へ!?」

 

 ティナは心の内を言い当てられ、素っ頓狂な声とともに、驚いた表情を浮かべる。

 

「あ、ただ……私たちも救出を手伝わせてください……」

「私たちも?」

「はい、一人でこっちに来たわけじゃありません。今は分かれて行動してるだけです。お願いです、私たちなら見つからずに助けることができます、だから手伝わせてください!」

 

 ニコルシチャフは悩む仕草を見せる。だが、本人は既に決断を決めていた。

 

「申し訳ないが、許可できない。冷酷に思われるだろうが」

「……なぜですか?」

「既に作戦は始まってる、急な変更は現場に混乱をもたらす。軍は政治家の都合で動かせる道具ではないのだ」

「そうですね、先ほどの発言は失礼しました……」

 

 ティナは頭を下げつつ、沈んだ気持ちで謝る。

 

「だが流石にこのままではこちらも顔が立たん、代わりと言えるほどでもないが、情報という場所からは知ることができないこの国の様子、モスクワ市街を見ていくといい。仲間たちも誘ってな。我が国は友好関係にありたいと思っている」

「そうですね……そうします」

 

 ティナは幾程か気持ちが和らげた気がした。それは本人も自覚してるかもしれないが、モスクワを観光できるという喜びに違いは無かった。

 そうした顛末がありつつも、作戦は動き続ける。

 

_モスクワ標準時(MSK)5月31日午後11時頃_

黒海海上 ロシア連邦海軍黒海艦隊

艦隊旗艦「マクシミリアン・エルマチェンコ」

 

「艦載機全機発艦準備!急げ!」

 

 航空指揮所から航空管制官の命令が飛ぶ。

 3機のMiG-29KRが発艦位置に着く中、新たに3機のMiG-29KRがハンガーからエレベータで飛行甲板に上げられる。

 

「ザーィツ01、発艦します」

「02発艦します」

 

 発艦レーンの都合上で同時発艦は2機までとなり、2機の後方にジェット・ブラスト・ディフレクターが展開された後にエンジンノズルから火が吹かされ、スキージャンプ勾配でほぼ同時に発艦し、3機目は1機目の後方から加速して発艦レーンに沿って発艦する。

 続いて後続の3機が発艦位置に着き、発艦が行われる。

 ひたすらにそれを繰り返し、計32機の発艦が完了し、ザーィツ隊16機、プィリース隊16機は、その数をもって艦隊から見た東の方角へと向かう。

 

「全機発艦完了、生産終了してしまったSu-33の代替機の運用は問題なさそうです」

「あとは全機の無事を祈るばかりだな」

 

 熱心な正教徒であるグラーニン海軍中将は片手で神に祈るそぶりを行う。

 その様子を見つつ、艦長はグラーニンの言葉に頷くも、”ですが”と付け加える。

 

「チェチェン北部では航空優勢を勝ち取ったそうですが、黒海沿岸はまだ不安定な状況です。ステルス機でもないため、あの無人機部隊にやられてしまう可能性がありますが」

「航空宇宙軍の方も航空部隊を送っている、問題ないだろう。しかも、ここで足踏みしては全てが台無しになってしまう。ここが頑張りどころだ」

「確かに」

「最悪戦果が無くても、エクシード・リグラや民間人を救出次第、我々がカリブルを撃ち込めばいい」

 

黒海沿岸空域

 

 ザーィツ隊、プィリース隊が黒海沿岸に近づくにつれ、レーダーに交戦情報が受信されるようになった。

 これは早期警戒管制機からのデータリンクを受け取っていることを示していた。

 

『隊長、これは』

「ああ、既に味方が交戦中だな」

『いかがしますか?』

 

 ザーィツ02パイロットは決まり切った答えをわざと尋ねる。

 ザーィツ01はそれを分かってるかのように、素直に答える。

 

「プィリース隊は作戦通り爆撃開始、我々はя тебе помогу(加勢するぞ)

заметано(了解)!』

 

 プィリース隊が離れていく一方で、ザーィツ隊16機は4機ずつの4個編隊に分かれて加速していき、雲を引き始める。

 そして、その向かう先では、Su-27らの航空宇宙軍戦闘機隊がCLFのMig-21と交戦状態にあった。

 

「あれは……ああ海軍の連中か。よし、全機編隊を再編成、終わらせるぞ!」

 

 第173戦闘機航空連隊はわずか数分の後に再編成を終え、一斉にミサイル攻撃を開始。

 ザーィツ隊も4個編隊から空対空ミサイルをたて続けに発射し、最終的に黒海沿岸空域のCLF航空部隊を壊滅させる。

 

 プィリース隊はザーィツ隊らがCLFの航空戦力を引き付けている間に作戦目標へと飛行し、ノヴォロシースク及びソチにて爆撃を開始し、敵戦車戦力を漸減することに成功する。

 なお、プィリース隊はCLFに使役されているエクシード・リグラのレーザーによって攻撃を受け、3機が撃墜され、4機が片翼がちぎれる等の損害を受けているが、なんとかパイロットは救出されている。

 

「そこそこの被害だな。だが、データリンクによって敵の戦力データは受け取っている。しかも、敵戦力の40%には被害を与えられている。上出来だ」

「では、上陸作戦ですか」

「ああ、前衛打撃群”モスクワ”に伝達!!『作戦開始』と伝えろ!」

 

黒海ノヴォロシースク沖 黒海艦隊前衛打撃群

1164型(スラヴァ級)ミサイル巡洋艦「モスクワ」

 

「”マクシミリアン・エルマチェンコ”より通信!『作戦開始』です!」

「分かった。総員、作戦配置につけ!」

 

 「モスクワ」の戦闘指揮所で前衛打撃群司令官に任じられたアラム・キリーロヴィチ・クラコフスキー海軍中佐が命令を飛ばす。

 そして、2名のエクシード・リグラが戦闘指揮所に上がってくる様子を一瞥する。

 

「気に食わんな……」

 

 そのぼそっと言ったはずの独り言はなぜか近づいていた二人に聞かれていた。

 

「中佐、それは……」

 

 尋ねたような口調で話す一人の少女を前に、ため息混じりに息を吐き出すと応えた。

 

「……お前たちに言ったんじゃない。お前たちを使わないといけないこの状況に対する愚痴だ」

「私たちはいてはいけないと?」

「そうは言ってない、ここは戦場だぞ?海軍は比較的ましだが、一歩間違えれば自分の命を無くすかもしれない場所だ。……勉強だけしろというわけではないが、青春を奪われていることは事実だろう、軍人だけで済む話ならどれほどよかったか、カリーナ・ヤーコヴレヴナ・フリスチェンコ一等兵曹、スサンナ・ユーリエヴナ・スミルノヴァ二等兵曹」

 

 クラコフスキー中佐は本心を告げる。

 それに対し、二人は返答する言葉が見つからず沈黙する。

 

「だが、確かに先ほどの発言は誤解を招く発言だった、そのことに関しては謝罪する」

 

 二人にクラコフスキー中佐は海軍帽を脱ぎ、正面を向けて頭を下げる。

 上官が下士官に対し謝罪する光景に二人は慌て始める。

 

「あのっ、頭を上げてください……作戦を遂行しましょう……!」

 

 カリーナがクラコフスキーにそう告げると、クラコフスキーは頭を上げ、「そうだな」と頷く。

 

「主砲、制御開始します……!」

 

 スサンナは自分が扱える魔法"物体操作"によって「モスクワ」の有するAK-130 130㎜連装速射砲が動かされる。

 動かすことに成功した様子を見て、カリーナはスサンナと手をつないだ上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鷹の目を発動する。

 スサンナは鷹の目の効果を共有した上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()天の秤目を発動し、射撃準備は整った。

 

『こちら主砲操舵室、動作に問題ありません。主砲弾も装填済み』

「だ、そうだ。安全を鑑みて片方のみの射撃に限定した方がいいだろう」

「了解です」

 

 クラコフスキーはそう聞き、無線機をつなぐ。

 

「第810独立海軍歩兵連隊総員、準備はいいか」

『問題ありません、いつでも出撃可能です』

 

 「そうか」と告げ、スサンナを一瞥する。

 

「では、作戦開始だ。砲撃開始」

 

 スサンナがトリガーを引くような手の素振りを見せると、それと共に130㎜速射砲1門が火を吹き、彼女らの目には見えているであろう倉庫の一角を吹き飛ばす。

 薬莢が甲板上に落ち、数秒の再装填が入り再び発砲。

 

 130㎜砲によって生み出される破壊はCLF兵士の潜む倉庫や住宅を正確に狙い撃ちにしていく。

 だからこそ注目度は高く、少しでも被害を与えるべく、対戦車ミサイルを撃ち込もうとする者もいた、だが。

 

「スサンナ、10時方向に対戦車兵器、RPG来るよ」

「分かった。やるよ」

 

 鳥になったような俯瞰視点で戦場を映す鷹の目によってその動きは把握されており、速射砲によってその試みは粉砕される。

 

「13時方向の住宅、敵兵の近くに私たちと同じ少女がいる。気を付けて」

「任せて」

 

 通常なら狙撃銃を使った方が難しくない狙撃も、敵兵のいる区画のみを破壊することで救出対象に危害を加えることなく、敵兵を殺害する。

 

Небесный масштаб(天の秤目)か……物体との距離を数センチ単位で測ることができるエクシードと話には聞いていたが、これ程とはな。排除状況はどうだ?」

「現在確認できるだけでも7割の排除は完了しました」

「頃合いか。揚陸部隊に発進命令……!?」

 

 命令を飛ばす直前、ミサイル接近警報が鳴る。

 オペレーターが状況を報告するまでもなく、クラコフスキーは新たな命令を飛ばす。

 

「全艦、対空戦闘!」

「不明飛翔目標、艦対艦ミサイルと断定、数6!」

「順次対空ミサイル発射!”ノヴォーラヌイ”、”リトヴィヌイ”にも対空戦闘命令を伝達!」

 

 「モスクワ」は4K33個艦防空ミサイルシステムからオサーM防空ミサイルを、1155型大型対潜艦(ウダロイ級駆逐艦)「ノヴォ―ラヌイ」は3K95防空ミサイルシステムよりキンジャール防空ミサイルを次々に撃ちだして、4発のミサイルを撃墜する。

 残り2発のミサイルに対しては、「モスクワ」、「ノヴォ―ラヌイ」、956-A型艦隊水雷艇(ソヴレメンヌイ級駆逐艦)「リトヴィヌイ」はAK-630M 30㎜CIWSで対応し、至近距離に近づかせる事も無く、あっさりと撃墜する。

 

「ミサイルの発射位置は?」

「発射位置特定は無理です、こちらのレーダーの範囲外からの攻撃です!」

 

 レーダ手の報告にクラコフスキーは驚愕する。

 

「範囲外だと!?ということは……Соколиный глаз(鷹の目)によって索敵されたということか」

 

 クラコフスキーはカリーナを一瞥しつつ、そう答えを出す。

 その直後、はっと気づいたような表情を浮かべたカリーナがクラコフスキーを見ながら声を上げる。

 

「こちらの鷹の目にも反応補足!本艦より南南東、5時方向!1241型大型ミサイル艇(タランタル型コルベット)1、1234型小型ミサイル艦(ナヌチュカ型コルベット)2、1124型小型対潜艦(グリシャ型コルベット)3!」

「旧式じゃないか!……当艦隊も鷹の目と連動、対艦ミサイルによる打撃を加える!」

「待ってください!」

 

 クラコフスキーはミサイル発射命令を下そうとするが、カリーナが呼び止める。

 

「どうした?」

「敵戦隊の各艦に私たちと同じ反応が……見殺しになんてできません」

「救出が必要、ということか?」

「はい、私は助け出したいです……」

 

 「厄介だな」とクラコフスキーは呟きつつ、眉をひそめる。

 険しい表情を浮かべながら、机をトントンと叩き、カリーナに視線を向ける。

 

「救出するには敵艦の武装を破壊し、足を止めなくてはいけない。足を止めるにはスクリューを破壊するか、機関を損傷させるかのどちらかが必要だ。そして、機関を損傷させるには本艦の対艦ミサイルでは過剰威力だ、ならば主砲を用いるしかないだろう、できるか?スサンナ」

「機関に対して、ですか……わかりません。もし外したらと思うと……!」

「そうか……」

 

 その返答を聞き、クラコフスキーは悩むそぶりを見せる。

 すると、近くにいた砲術士官が彼に声をかける。

 

「司令、我々に敵戦隊への砲撃を任せていただけませんか?」

「何?」

「私は本艦に長年勤めておりますゆえ、AK-130というじゃじゃ馬の扱いにも慣れております」

「そうか……では、機関に対しての射撃を任せる。絶対に外すなよ」

「分かっております」

 

 砲術士官は敬礼を行い、すぐにその場を離れる。

 同じく敬礼を返したクラコフスキーに、カリーナが詰め寄る。

 

「どうして、許可したんですか!数㎝単位で測れる私たちとは違って、現代兵器に頼らないといけないのに、なぜ」

「お前たちは自分を過信しすぎだ、我々大人だってやるときはやる。少しは頼れ」

「……わかりました。でも、私たちにも補助はさせてください」

「わかった。許可しよう」

 

「鷹の目、天の秤目のよる補助を加えます」

「感謝する」

 

 カリーナとスサンナが砲術士官と言葉を交わし、連携を確認する。

 AK-130 130㎜速射砲の射程範囲に1隻が入った直後、片方の1門を撃ちだした。

 高加速で飛翔した130㎜砲弾はあっという間にその距離を詰め、1234型小型ミサイル艦1隻の艦後部に命中し、砲弾が爆発したと思われる爆煙を上げた後に敵艦は停止する。

 続けて、第2射、第3射と続き、1124型小型対潜艦2隻を行動不能にする。

 

 だが、敵艦も抵抗する。

 対艦ミサイルや、対潜ミサイル、57㎜や76㎜砲を撃ち込み、損害を蓄積させる。

 

「ジーナ、お願い!」

『りょうかい!гелиосфера(ヘリオスフィア)!!』

 

 カリーナが同僚であるジーナに通信で呼びかけると、彼女は「モスクワ」の甲板上に上がり、右手を真上に上げて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ヘリオスフィアを発動させる。

 右手から紫色の光が天高く昇り、敵艦6隻に紫色の光が降り注ぐ。と共に、「モスクワ」、「ノヴォ―ラヌイ」、「リトヴィヌイ」に防御膜のようなものが展開される。

 

 弱体化の効果によって、敵艦の動きが鈍くなった隙を突き、「モスクワ」は再び発砲し、1234型小型ミサイル艦1隻、1124型小型対潜艦1隻の機関を貫き、行動不能に追い込む。

 さらにS-300Fフォールト艦隊防空ミサイルシステムから艦対空ミサイルを撃ちだし、既に行動不能にした艦艇の武装を破壊していく。

 

 最後の1隻を行動不能にしようと、AK-130が指向する間、スサンナはクラコフスキーに希望を告げていた。

 

「私たちにも撃たせてください……!見栄っ張りじゃないです!大人はもちろんできますよ、でも私たちは子供です、私たちでもやれるってことを示したい、これは私たちのプライドなんです!」

「……砲術士官、代わってくれ。二人は迅速に処理しろ、いいな?」

「「はい!」」

 

 スサンナとカリーナの二人はすぐに発射態勢に移り、スサンナは目を細めつつ()()へ照準を定める。

 そして、1発の砲弾を発射した。だが、狙ったのは機関ではない。

 1241型大型ミサイル艇の最後部、海面との境界線に近い箇所に命中し、爆炎の中から羽根のような破片が飛び出すと共に、敵艦は停止する。

 

「もしかして、スクリューを破壊したのか!?」

 

 その光景を見たクラコフスキーは面食らった表情を浮かべ、スサンナを一瞥する。

 クラコフスキーの視線を感じたスサンナはその問いに答えるかのように答える。

 

「私たちでもやれます、その証拠を示しただけです」

「そうか……よし、第810独立海軍歩兵連隊に伝達!救出を開始する、と!」

「了解!」

 

 一方で、機関やスクリューを破壊され、行動不能となったCLFの戦隊6隻では、文字通りの()()()が生じていた。

 行動不能になった後、男たちが弱体化効果によって動きが鈍るなかで、従わされていた少女達の一部が反抗していた。

 

「あんな日々は嫌なの......!消えろ…かはっ」

「いやぁぁぁ!!やめ……やめてぇ!!、いや……だ」

 

 だが、それは凄惨な結果を生んだ。

 弱体化効果が付与されてるとは言え、彼らが持つ銃自体の性能は変わらず、魔法に完全に慣れていなかった少女はよくて一人を殺せる程度で、相討ちか、もしくはただ銃に打ち倒されるだけだった。

 

 そんな中で今も一人の少女が戦っていた。

 

「私はもう従わない……喰らえぇ!」

 

 魔法の一つである燃ゆき剣(ブレイズ・セイバー)を発動し、少女は赤く光る剣を片手に持ち、目の前にいる男に突き立てようとする。

 だが、すんでのところで回避され、少女の額に銃口が突きつけられる。

 

「え……やだやだやだやだ……殺さないで」

「あぶねぇものを使う嬢ちゃんはもういらないんだ、じゃあな」

 

 男は1マガジン分の銃弾を撃ち尽くし、撃ち切った後、少女を邪魔物として蹴飛ばした。

 少女は数発の銃弾が撃ち込まれた時点で死に、一人の儚い命が散った。

 

 また、ある1隻は怒りで気が狂った男によって、単なる処刑場と化し、大量の血が部屋の床を濡らす。

 

「いやぁぁぁ!!いやぁぁ…ゴホッ」

 

 背を向けて逃げる少女の背中に、的当てゲームのように命を奪うことを厭わずに銃撃音とともに大量の銃弾が撃ち込まれていく。

 

「あ……いや……ア”……」

 

 急所は大きく外れており、少女の命は未だに灯っていた。だが、限界が近づいていた。

 

 そして、戦隊の旗艦たる1241型大型ミサイル艇では、一目で巨漢と称せる大男が拳銃を舐めながら、桃髪の少女とそれを庇う紫髪の少女に近づく。

 

「そこをどけ」

「……嫌っ、犯罪者なんかになんでっ……!」

 

 大男は高圧的な態度で迫るが、紫髪の少女は目を潤ませながらも反抗的な目で断る。

 その返答に大男はあからさまに不満な態度を見せる。

 

「ふんっ、そうか」

 

 そう告げた直後、少女の胸倉を掴み、右横の壁に叩きこむ。

 

「いっ!だぁ……!」

 

 紫髪の少女は後頭部も打ったのか頭から血を流し、ぐったりとしつつも桃髪の少女を守ろうとするが、その手は簡単に払いのけられる。

 

「さて、言うことに従え、もちろん言うことは分かってるよな?」

 

 大男は言いながら、拳銃で桃髪の少女の体をまさぐる。

 気弱な性格の少女は恐怖に怯え、何も言い出せなかった。

 

 やがて大男は拳銃を仕舞い、少女の衣服を強引に破り、脱がす。

 少女は恐怖の感情に埋め尽くされ、その目は光を失い、虚ろになっていく。

 

 だが、突然現れた船内を照らす光に大男の行為は中断される。

 

 時間は遡り、クラコフスキーから命令が下された直後、前衛打撃群の陰に潜んでいた21980型哨戒艇や12700型掃海艇、その他何隻もの複合艇らが温めていたエンジンをフル稼働して進発する。

 行動不能になった6隻に近づきつつ、威嚇射撃を行い、及び接舷に伴う脅威を排除し、強制接舷を実行。

 各艇に分乗した第810独立海軍歩兵連隊は強行突入を開始し、ある船では惨劇となった現場を目撃し、ある船では弱体化効果によって海軍歩兵に圧倒的に劣る男たちが海軍歩兵によって射殺もしくは連行されていき、致命傷を負った少女を優先し、全員を救出していく。

 そして、1241型大型ミサイル艇に突入した班は大男を目撃する。

 

「ほう、だが遅い」

 

 大男はロシア軍であることを認識するや否や、手榴弾のピンを抜いて投げ捨てるとともに、あるスイッチを押す。

 

「総員退避!!」

 

 手榴弾は大男自らの体を焼き、押したスイッチは船内各所に設けられた爆弾を起爆させる。

 爆発の寸前、紫髪の少女はゆっくりと桃髪の少女の元に歩み寄り、爆発から庇うように上から体を覆う。

 1241型ミサイル艇は構造物が吹き飛ばされ、爆発の余波は接舷した複合艇にも及び、複数名の隊員が投げ出されるも、その多くは無傷だった。

 

「おい、これ!!」

「……くそったれ!」

 

 そこで投げ出された隊員の一人が見たのは爆発で吹き飛ばされた少女の四肢が全損した亡骸であった。

 

「自爆か……本隊に病院船の派遣は伝達したか?」

「既に連絡済みです、護衛と共に、急行中と思われます」

「そうか、……反応は?」

「爆炎で……確認できません」

 

「そうか」とクラコフスキーは答えるが、彼にはカリーナの言葉が嘘であると感じた。本来確認できないのであれば別の表情を浮かべるものだが、彼女は悲壮な表情を浮かべていた。

 

(微弱、もしくは消えたか……?)

 

 そのように考えていると、「モスクワ」の医療士が近づいてきた。

 

「中佐、第一陣の応急措置及び、()()完了しました」

「……面会可能か?」

「はい、できますよ」

 

 クラコフスキーはそう聞き、カリーナとスサンナを呼ぶ。

 

「付いてこい。好んで見るものではないが、必要なことだ」

 

 その言葉に二人は困惑するも、その命令にはきちんと従った。

 

「モスクワ」救護室

 

「数が多いから本艦にも搬送している、これはその一部だ」

 

 クラコフスキーはそう告げる。

 

「これって……」

「ああ、遺体だ」

「!?」

 

 クラコフスキーは残酷な真実を告げる。

 二人は声量を一切変えず話すクラコフスキーをにらみつけるが、クラコフスキーすら悲壮な表情を浮かべていたことに気づく。

 

「戦場に絶対はあり得ない。いくら優秀であっても、今回のような事態は防げない。だから、二人のような若すぎる子供を戦場に出したくないのだ、私は」

「……」

 

 クラコフスキーの言葉に、二人は何も答えずただ頷く。

 その時、少し離れた簡易ベッドで大声を上げる少女がいた。

 

「うそ、お願い!目を覚ましてよ!!」

 

「一緒にいよう……ずっと一緒にって約束したじゃん……ねぇ……」

 

 その少女は、亡くなった少女の右手を両手で握りしめる。だが、そこから暖かいものは感じ取れない。海水に浸り冷たくなった事は幼い少女でも亡くなったという事実を感じ取るには十分で、しかしその事実を受け止めきれずに大声で泣き叫んだ。

 

「……世の中って……こんな残酷なんですね……」

 

 スサンナは口から引き絞るように声をだし、そんな言葉を口にする。

 その言葉を聞き、クラコフスキーは少し考えた。

 

「だが、希望はある」

 

 クラコフスキーはその言葉を口に出すとともに、指を視線の先に向ける。

 

「ちょうど、運び込まれたらしい。そして、あれは先ほどの自爆した艦艇にいた()()()だ」

「!?」

 

 その言葉にカリーナは俯きかけていた顔を上げ、指が示す先を辿り、見つめる。

 そこには、簡易ベッドでほぼ全身を包帯に巻かれて横たわっている状態の紫髪の少女と、彼女に庇われて比較的軽傷で済み、ベッドに座る桃髪の少女がいた。

 

「良かった……ヒナが無事で……」

「でも……セラがこんな目にあってるなんて……!」

 

 互いにヒナ、セラと呼び合う二人の少女。

 

「私は生きてればそれでいいよ、ヒナもそうでしょ」

「うん……もうだめだと思った、今も夢みたいって思っちゃう」

 

 ヒナが言った「夢」という言葉、だが、セラは否定しようとする。

 

「夢じゃないよ、私たちは生き残ったのは事実、だから生きよう」

「……ありがとう……良かったよ……生きてて……良かったよっ……」

 

 ヒナは大粒の涙を流す。

 それを見ていたセラも徐々に目が潤っていきやがて涙を流す。

 

「作戦は継続している、行くぞ」

「「了解!」」

 

 それを見たスサンナとカリーナは、こんな悲劇はもう起こさせないと決意を胸に灯しながら、救護室を出る。




※次回予告

チェチェンの真実《11》【騎士】

空の戦場において、決着がつけられようとしていた。
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