Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
_
チェチェン共和国グロズヌイ地区上空
「あと1時間も満たない内に日の出か」
Su-57Bステルス戦闘機を操縦するレシーニコフがそう呟く。
ナドテレク地区上空での航空戦の後、第56親衛戦闘機航空連隊は休息と燃料及び弾薬補給を兼ねて一時帰投し、再び最前線に展開していた。
追従するのは、Su-27SM2戦闘機で構成される第127親衛戦闘機航空連隊、前述のSU-27SM2及びSu-35S戦闘機で構成される第166戦闘機航空連隊である。
「そろそろか」
レシーニコフが言った直後、レーダ画面に後方から迫る6機の機影が映る。
それはSu-57Bステルス戦闘機とは異なる形であったが、ステルスを意識したシルエットの機体であった。
「
『こちらアメリカ空軍、只今現着した』
『アクツァール01よりアメリカ空軍機、指示はトリーフォン01に従ってほしい』
『分かりました』
中隊長機同士の通信が一度切られ、第117戦闘飛行隊隊長機とレシーニコフとの間で通信が繋げられる。
『ラティス1よりトリーフォン01、よろしくお願いします』
「コールサインでの会話はやめてくれ、私はアンドレイ・レシーニコフ、階級は少佐だ」
『オーブリー・バースです。同じく階級は空軍少佐、昇進街道から外れた者ですよ』
「だが、今はこうして来ている。また戻れるんじゃないか?私はエクシード・リグラ達を連れて戦うとは思わなかったが」
『我々で言うマジックガールですな、無論、幼い彼女達を戦場に投入するのは気後れしますが』
「そうだな」
隊長機同士の通信をつなげていると、A-50
「まだ戦うか……」
レシーニコフは表情を変えず、だが怒りを籠めつつ呟き、周りに聞こえない程度で舌打ちをする。
第56親衛戦闘機航空連隊からはカローヴァ中隊所属のSu-57Bステルス戦闘機が連隊を離れ、戦闘行動に入る。
「作戦は承知しておりますが、我々はいかなくてもよろしいのでしょうかね」
「構わん、むしろ異なる機体が混じっていたら混乱になる、我々は我々の任務を遂行するだけだ」
だが、その時、目下で戦闘を続ける複数のSu-27SM2戦闘機の反応がレーダーから消失。
同時に、通信機から怒号が飛び交う。
『やつだ!MiG-23を確認!援護を要請する!』
『大量のミサイルを連発できるとかふざけんなよ……!』
『しかも機動性がいい、くっそ追いつかん!』
Su-27SM2が複数の中距離
一見無謀とも思える行為。だが、その集団の先頭機はMiG-23の特徴である可変翼を生かし、主翼を前後させて加減速を繰り返し、巧みにミサイルを回避する。そして、先頭機に当たりそうな場合では追従する同型機がそのミサイルを全て受け、複製によって元の状態の機体が現れる。
翼下のハードポイントに懸架している短距離
『トリーフォン01、出番だ』
「
「ラティス1、行くぞ」
『了解です、トリーフォン隊の後ろから追随します』
レシーニコフは無言で頷き、機体を左回転でロールさせて降下していき、トリーフォン中隊所属機もそれに続く。
その光景を見届けたバースも「全機続け」と通信を入れる。
だが、ラティス2ことリラが呼び止める。
「待ってください、マナ探知機が敵MiG-23戦闘機集団の先頭機にマナ反応を補足しました」
『それは既に予測されていたこと、呼び止める事ではないと思うが』
バースは事前ミーティングでやっていたことだと頭の中で振り返って認識しつつ、答える。
だが、返ってきたのは予想だにしなかった返答だった。
「それは分かってます、ですがこれは明らかにおかしいんです!その探知したマナ反応の推定量が通常の約4倍なんです!」
『何……?いや、そうか……分かった。だが、我々はするべきことをするだけだ』
「了解です……」
バースはその通信を切ると、トリーフォン01へ繋ぎなおす。
『ラティス1からトリーフォン01へ。少しばかり大事な話がある』
「分かった」
レシーニコフはそう言い、現在の通信をトリーフォン中隊全機に繋ぐ。
『こちらのマナ探知機で、敵MiG-23集団の先頭機にマナ反応を確認した、だがこれだけではなく、その反応の推定量が通常確認される反応の約4倍だ』
「……そちらの探知機が正常であることは我々も認識している、だがそれは一体」
『隊長!、私たちに心当たりがあります!』
エクシード・リグラのパイロットがレシーニコフの元に通信を繋ぐ。
「心当たりとは?」
『マナ反応が増えるのは、極端に気持ちが、怒りや悲しみなどの気持ちが高ぶった時に起きます。能力向上等のメリットもあります。けど……長持ちするものじゃない……最悪の場合、心が壊れます……』
その言葉を聞き、レシーニコフは一つの推測にたどり着き、確認を取る。
「それは……恐怖でもか?」
『おそらく……はい』
自分の推測が合っていたことに安堵する半面、彼の表情は珍しく怒りで歪む。
「そうか、答えが分かった。感謝する」
『…その答えは何ですか?』
「……簡単には言い表せない、胸糞悪い事実だ、あまり言いたくはない」
『……わかりました』
少女はレシーニコフの返答に何かを察したのか、渋々頷く。
「撃墜から救出へと作戦変更か、ラティス1へ、我々トリーフォン隊は能力的には不足気味だ。そちらにお任せしたい」
『わかりました。ですが、救出に赴くのは2機のみです』
「大丈夫なのか?」
『私を含む残りの4機はただの護衛、戦場の姫を護衛する
『ラティス2及び3へ、作戦を伝える。救出対象はリラが探知した対象の機体に搭乗する少女1名、戦闘空域から奴らを引き離した後、救出における算段はお前たちに任せる』
バースが通信で伝えると、心配そうな声でマリオンが聞く。
『そんな大雑把で作戦としてはいいの?』
『問題ない、我々護衛4機が
「わ、私はやるべき事をす、するだけです!」
リラと同じ機体に搭乗するチェルシーが緊張した面持ちで口を開く。
『チェルシー、リラックスリラックス、そんなに緊張してたら実力出せないよ』
アイリーンが笑顔でチェルシーの緊張を和らげる。
「私はただ頑張ろうと思います。みんな、行くよ」
「はい!」『うん』『もちろん』
そして、リラの呼びかけに異なる返事で返す。
『では、作戦開始だ』
『『「「了解!」」』』
初撃はトリーフォン中隊及びラティス隊4機からのミサイル攻撃から始まった。
Su-57Bステルス戦闘機12機、F-35Aステルス戦闘機4機からの中距離空対空ミサイルがMiG-23戦闘機集団の後方から発射され、大量のミサイルが彼らを後方へと急旋回する行為を妨げる。
よって、MiG-23戦闘機集団は最後尾の複数機が火球と化す中で戦闘空域から離れざるを負えなかった。
『
その時、その集団の側面からアフターバーナーすら使用した最高速度で2機のF-35Aが突入を開始した。
1機が正面に立ち、自身をもう1機と共にマリオンの声で発動させた薄鈍色の光の膜で覆いながら突っ込んでいく。
相手は反応する暇もなく、先頭機の一つ後方の機体に真横から突っ込み、反射領域の力と、その速度で人の乗っていないMiG-23を破断させる。
.『
と同時に、アイリーンの重力操作によって、先頭のMiG-23は遠く前方へと引き寄せられ、リラの乗るF-35Aが真横に急接近する。
「
キャノピーを開け、チェルシーの声と共に指から小さいレーザーが飛び、器用な手腕で敵機のキャノピー上方部分をレーザーで切り取り、救出の手口を作る。
「リラ、行って」
「うん、
「わけわからん!お前から死ね!」
コクピットに居座る男はリラに向けて撃つが、ファンタズムによってもたらされる未来が見れるリラにとっては少し体をくねらせることで回避し、戦闘機の先端に立つ。
だが、男が座席に座り操縦させている少女を人質に取ろうとしているのを見て、コクピットに走り込み、銃弾を受け左頬に傷を負う。
目の前に敵がいることで意外にも腕が震えて弾の切り替えができない男を傍目に、リラは少女を拘束しているベルトをナイフで切り、男から少女を強引に引き剥がす。
「あんな小心者が……許せないけど、任務に集中」
リラは少女を抱え、コクピットから飛び降り、ちょうど真下でチェルシーが繊細な制御をしていた自機に乗り込む。
「ごめん、リラ。もう限界、しっかり掴まってて!」
VTOL機でもないF-35Aをここまで繊細な操縦で位置を固定させていたのは賞賛に値する技量であるが、誠実な彼女はしっかりと謝った上で、機体を加速させ、高度を稼ぐ。
高度を稼いだ後、リラは座席に座り、救出した少女を抱きしめる。
「触らないで!汚いから……いや……いやぁぁ!」
「大丈夫……汚くない、汚くないから……落ち着いて」
少女は戦闘機を操縦させられていた時の恐怖と、男に凌辱されていた時の恐怖が頭の中に残っており、汚されたことに合わさって自己嫌悪に陥っていた。
「ごめんなさい……ごめん、あ……傷が、ごめんなさい……」
「え?リラ、ケガしてるの?」
「大丈夫、大きな傷じゃないから…チェルシー、通信機」
「バース少佐、救出できました。離脱します」
『分かった。で、彼女は……どうだ?」
「……予測は合ってると思います、やっぱり許せない……」
『話は後だ、すぐに離脱しろ』
「了解です」
『2機の離脱を確認!』
「よし、全機放て!!」
レシーニコフの命令でトリーフォン中隊から中距離空対空ミサイルが一斉に放たれる。
操縦が無くなり、全機がバラバラの機動を描いているところに後始末とばかりにミサイルが次々と着弾し、塵と化す。
そして、残ったのは少し離れたところで操縦者を失い落下機動を取る1機のMiG-23だけであり、レシーニコフはそれを末路とばかりに傍観する。
『敵戦闘機、自由落下機動を取りますが、撃墜しなくてよろしいんでしょうか?』
「もう戦力にはならんし、搭乗している男を墜落後に捕らえることができる機会だ。無論、あんな機動では助かるかもわからないが」
『そうですか、では私たちはこれからどうします?』
「弾薬もかなり消費している、帰還すべきだな」
レシーニコフと、その補佐を行う少女パイロットが話し合いし、帰還を決断する。
「バース少佐もはどうしますか?」
『我々も燃料補給だけは受けさせてほしい、どの道救出した少女の国籍を調べるのは貴国ですから、引き渡しを行わないといけませんし』
「そうだな……了解した。トリーフォン01よりアクツァール01へ、帰還する」
『アクツァール01、了解』
その後、両隊はロストフ州ロストフ・ナ・ドヌにあるロストフ・ナ・ドヌ空軍基地に着陸。救出した少女は両指揮官の合意によって、ロシア連邦へと引き渡された。
なお、墜落したMiG-23であるが、後にロシア連邦陸軍が無残な姿で墜落していることを発見。
驚くべき事に搭乗していた男は生への執念によるものなのか生存していたが、致命傷を受け病院に搬送するまでに死亡すると思われたために、撃ち殺された。
この時点をもって、CLFの航空集団は消滅し、残っているのは各個で抵抗を続けている所のみとなった。
※次回予告
チェチェンの真実《12》【到達】
ロシア軍はチェチェン共和国の中心部へ進み続ける。