Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

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これにてチェチェンの真実編は終わりです。次話から新たなストーリーが始まります。


チェチェンの真実《13》【終幕】

_モスクワ標準時(MSK)6月1日午前8時頃_

ロシア連邦北カフカース連邦管区チェチェン共和国

シェルコフスカヤ地区ヴィノグラドノエ

 

「……エーリン伍長、軍医も同行してもらった。彼女の容態を見たい」

「は、はい……」

 

 極度の緊張と疲労で疲れ切った表情を見せるリリーヤだったが、サンダークの声に応え、一番大事にする親友の為に動き出す。

 

 土手の陰で横たわるイエヴァの元にリリーヤが案内する。

 腹部が血で溢れるという見るだけで酷い状態にサンダークや軍医は衝撃を隠せない。

 

「止血は?」

「やろうとしました……でもっ、こんなの無理ですよっ……!」

 

 リリーヤは何もできない悔しさと無力感から目から涙を溢れ出す。

 

「そうか……弾は貫通してるか?」

「してなかったと思う。背中から血が出てないから……いっ!?」

 

 泣くリリーヤに代わって、アリーナが答える。

 その直後、アリーナの左肩に強烈な痛みが走った。

 その痛みの正体は対物ライフル弾であり、掠めただけでも肩の一部を抉っていた。

 彼女は余りの痛みに尻餅をつき、歯を食いしばって自分が知らない間に両目から涙を流していた。

 だが、そんな状態でも、弾丸が来た方向を理解し、透視を発動させて壁を透かして周りを確認する。

 そして、こちらを狙う"元凶"を発見する。

 アリーナは苦しみながらも、指をさして声を上げる。

 

「こ、こちらを狙って……隠れて……っ!?」

 

 言い終わる前に、対物ライフルから大口径の弾丸が発射される。

 もうダメかと皆が思ったが、その直前。

 

Поражение электрическим током(電撃)!!」

 

 ニーナがそう叫ぶと、ニーナの手から火花が迸り、高電圧の電流となって弾丸を襲う。

 弾丸は電撃によってその勢いを殺され、砕け散り、一時的な煙幕となって狙撃手は目標を見失う。

 

 指をさした先、そこにはほぼ四角柱の形状をしている錆まみれの建物が存在しており、覗ける程度の窓が各所に存在し、狙撃にはうってつけだった。

 その窓にPGMへカートⅡ対物ライフルの銃身を置く男がいた。

 ミハイル・セルゲーヴィチ・アニシモフは舌なめずりしつつ、先ほど標的とした少女の表情を脳裏に思い出す。

 

「ふっ、悲鳴も好きだが、あのような痛みに必死に耐える顔もそそるな、そうは思わないかね?」

 

 と、アニシモフは後ろの壁に杭を打ちつけてそこに手錠を掛けて縛られたまま力無く首を前に垂れる少女に言葉をかける。

 その少女が着る軍装には第45特殊任務連隊とわかるマークが付けられていた。

 

「やめて……かはっ……」

「その反応は面白くないな……」

 

 アニシモフは壁に立てかけた小銃を取り、右腹に撃ち込み、その箇所に足を蹴りこむ。

 

「いっだぁぁ!?」

 

 何回も蹴りこんだ後、その少女が持っていた銃身が折れた小銃を傷口に突き刺す。

 

「ふっ、これで血が止まるだろう」

 

 その間、地上では狙撃手に対する対策を練っていた。

 だが、一人の少女隊員がリリーヤに憔悴した様子で走り寄る。

 

「レーニャがいなくなった……!多分……気づかない間に連れ去られた……!」

「!?」

「完全装備のエクシード・リグラを捕らえることは並大抵ではないな。おそらく、例の狙撃手か」

 

 サンダークの言葉を聞き、リリーヤは一人決意をする。

 

「私に……やらせてくれませんか!……何も出来ないままじゃ……嫌なんです……!」

「ふむ……分かった」

 

 サンダークは彼女の願いを少し考えた後に受け入れる、だが無条件というわけは無かった。

 

「ただし、2人程同行しろ。それと、無謀なことはするなよ。命を無駄にするな」

「は、はい!」

 

 リリーヤは待機している隊員2名にお願いし、建物を昇っていく。

 その様子を見つめつつ、サンダークは険しい表情で悩む。

 そこに、ニーナが話しかける。

 

「あ、あの……!イエヴァさんの傷、治せないことはわかってます、だから……私と同じ子達にお願いしてもいいですか……」

「なに……!?」

 

 サンダークはそれが何を意味するか分かっていた。

 救出対象である少女達に手伝わせることなど、道徳的には良くない行為であるとされた。

 だが、サンダークはそのしがらみを断ち切った。

 

「……許可しよう。誰も死なずに済むのなら」

「!……ありがとうございます……」

 

 ニーナは涙ぐんだ表情で感謝し、足早に立ち去っていく。

 その様子を見るサンダークに副連隊長が話しかける。

 

「いいのでしょうか?彼女達に手伝わせることなど……」

「今回の戦いは例外が多いのだ、目を瞑ってくれ。それにな、誰も死なずに済むのが最良の結果だろう」

「……そうですね、では目を瞑ることにしましょう」

「で、何かあったのではないか?」

「は。少女達が生活していたと思われる個室の数と、助け出した人数が合いません。人数の方が少ないのです」

「何……?まあその件は彼女らが戻ってきた後で処理しよう」

 

 そう言うサンダークであったが、内心は猛烈に嫌な予感を感じていた。

 

 そのような会話がなされている最中、建物内ではリリーヤ達3人が小さな窓がある階へと突入したところだった。

 そこには、PGMへカートⅡ対物ライフルを持ったアニシモフの姿と、壁の傍で力無く首を前に垂れるレーニャという少女の姿があった。

 

「は……レーニャ……」

「二人は下がってて、私がやる」

 

 リリーヤはAK-12から自動拳銃GSh-18に持ち替え、構える。

 そして、言葉に出さないまま、Физическое укрепление(身体強化)のエクシードを発動させる。

 

「……ふんっ」

 

 アニシモフはただ笑い、対物ライフルをリリーヤに向けて放つ。

 それをリリーヤは回避し、自動拳銃をアニシモフに向かって撃ち続ける。

 対物ライフルはあくまで狙撃用の武器であり、室内戦闘には不向きな武器である。

 だが、それはあくまで射撃することを前提にした場合ではあった。

 

「予測済みだ!」

 

 アニシモフはもう1発を放ち、それがリリーヤに避けられるのを確認すると、対物ライフル自体を振り上げ、銃身でリリーヤを殴りつけた。

 

「あがっ!?」

「リリーヤ……!」

 

 思わぬ怪力による打撃武器としての運用にリリーヤは壁に叩きつけられ、腹部に受けた衝撃のあまり、血を吐き出した。

 

「へっ、さすがに凹むか。まあいい」

 

 アニシモフは銃身が凹み銃として使い物にならなくなった対物ライフルを放り投げ、狙撃銃に持ち替えて、リリーヤの腹に銃口を突き付ける。

 そして、4発程撃ちだした後、彼女が事切れたと思い、銃を放り出す。

 

「ふんっ、もう十分か」

 

 そうアニシモフが油断した言葉を口にした次の瞬間、リリーヤは自分が手から離さずに持っていた拳銃をアニシモフの胸に突きつける。

 アニシモフは咄嗟の事で硬直し、リリーヤは無言でトリガーを引く。

 弾倉に入ってる全ての銃弾が切れるまで撃ち続け、アニシモフが有無を言えない状態で胸から大量の血が溢れる様子を見て、銃を離す。

 

「これで死んだなんて……舐めないで……かはっ」

「リリーヤ!良かった……生きていて」

 

 壁に背中を預けるリリーヤに隊員が寄ってきて、さらにいつの間にか助け出されてたレーニャが泣きながら喜んだ。

 

「でも……流石に無理し過ぎたかも……痛くて動けないから……お願い」

「うん、分かってる。そっちはレーニャをお願い!私はリリーヤを支えるから」

「おっけー、りょうかい!」

 

 その頃、ニーナは囚われている少女達が解放され集められた場所に着いていた。

 その中にはニーナの見知った顔も確認でき、自分だけが逃げた罪悪感も感じていた。

 そのような心情の中、ここの警備を担当する第186分隊と同じ少女達で構成される部隊である第191分隊の一人に詰め寄った。

 

「あの……本当は良くないことだとわかってるけど、助けがいるんです……!イエヴァさんを助けたいから……お願いします……お願い」

 

 ニーナは涙目になりながら、頭を下げる。

 その相手をしていた第191分隊長リンマ・シェスチナ軍曹はニーナの頭を上げさせて、その頭を撫でる。

 

「あの川で私はあなたたちを助けた。あれも私が本来することじゃなかった。だから……いいよ。行ってあげて。誰も死なないことが一番いいから」

「は、はい……!」

 

 リンマは通信機を取り出して、同じ分隊員及び警備を担当する別部隊にニーナの事を連絡する。

 

「向こうにはサンダーク大佐もいるはず、だから多分いいよね……」

 

 ニーナは武器を荷物の中に入れ、最も声が伝わりやすい場所に移動する。

 そこで数回深呼吸して息を整える。

 

「あの……!!私はニーナ・ノスカナです、知っているかもしれないけど、私は……みんなを置いて逃げました……でも、聞いてください。本当ならこんなことお願いするのは間違ってると思う、でもっ……助けてくださいっ……。私を救ってくれた人が今死にそうなんですっ……!助けてっ……!!」

 

 ニーナは話し終わる最後には大粒の涙を流すも、きちんと伝え終わった。

 多くの少女がどうしようかと迷う中、一人の少女が立ち上がって声を上げる。

 

「ニーナ!!」

「マリル……?」

 

 ニーナは涙を拭き、マリルと呼んだ少女の顔を見る。

 

「ニーナは悪くないよ……みんな分かってる、あんな状態じゃ一緒に逃げることなんてできない……私は回復魔法を使える、だから連れて行って。ニーナが逃げたから、みんなが助かったんだと思う。だから私はニーナに恩返しがしたい」

「うんっ……!ありがとうっ……!」

 

 マリルは他の少女達が自分から動いて空けた道を通り、ニーナの元へと行く。

 マリルは未だに涙を流すニーナへと寄り添い、頭を突き合わせる。

 

「それじゃあ連れて行って」

「うん……!」

 

 ニーナがマリルを連れて戻った時、ちょうどリリーヤも仲間に支えられ帰還していた。

 

「本当に連れてきたのか、名前を聞かせてもらえるか?」

 

 サンダークは驚きつつも、マリルに名前を聞く。

 

「……マリル・ポネットです」

「フランス人か……そうか、頼んだ」

「はい……任せてください」

 

 サンダークの「フランス人」という単語に頷きつつ、マリルはイエヴァの元に寄る。

 

「酷い傷……だけど、私なら……Lumière de guérison(癒しの光を)

 

 マリルがその回復魔法を発動させると、蒼白い光がイエヴァを包み込む。

 その蒼白い光は、次々と傷を塞ぎ元通りの状態に戻していき、周囲にイエヴァから流れた血もさっぱり消えてなくなっていた。

 そして、その光が消えた後に、イエヴァの視界は戻り、最初はぼやけつつもすぐに晴れはっきりと周りが見えるようになった。

 

「あれ、私は……」

「良かったな、彼女が救ってくれた」

「マリルです、私はただニーナへの恩返しをしたかっただけ……でも人を救えたのが嬉しいですっ……」

 

 マリルは嬉し涙を流す。

 それに気づいた彼女は手でそれを拭き取ると、サンダークの方へ振り向く。

 

「あの、私はまだ余力があります。だから傷ついてる人がいたら私に治させてください。これだけじゃニーナへの恩返しにならないから」

「分かった……だが無理だけはするなよ」

「はい……」

 

 マリルはイエヴァ以外にニーナの傷だけじゃなく、リリーヤ、アリーナ、レーニャの傷を次々に治していく。

 軽傷以外の傷を治し終わった時には、疲れを見せていた。

 サンダークは彼女を休ませろと他の隊員に告げると、ニーナへ告げる。

 

「幼馴染が言いたいことがあるそうだ、連れてきてもいいか?」

「カティ……!は、はい!」

 

 カティンカ・ラスチン。

 ニーナの幼馴染である少女は言いづらそうな表情をしていた。

 そして、その腹は太っているのとは異なる膨らみ方をしていた。

 

「本当は先に言うべきだった……でも、ニーナが忙しそうだったから言えなかった……。ごめんなさいっ……!私はっ……私はニーナやみんなを罠にかけたっ……。もうこんなことしたし、友達じゃないけど許してっ……」

 

 カティンカは大粒の涙を流しながら俯いた。

 ニーナは彼女を抱きしめ、頭同士を突き合わせた。

 

「罠にかけたとかそんなの関係ない……!マリルは私のことを悪くないって言ってくれた、私もカティが悪いなんて思ってない……!友達……いやそれ以上の親友だよカティは!」

「いいの……こんな体だし……」

「だから関係ないよっ……!!どんなことをしたって、どんな体になったって、親友だよっ」

 

 それを見ていたイエヴァやリリーヤはその会話を聞き、口を挟む。

 

「私たちもあなたが悪くないって思ってる、悪いのはあなた達を使って酷いことをしたあいつらだよ」

「うん、イエヴァの言う通り、カティンカはニーナといつも通りの関係に戻っていいと思う」

「あ、ありがとうございますっ……」

 

 カティンカは再び涙を流す、だがそれは半分嬉しいという気持ちが籠った涙であった。

 その光景を遠目で見ていたサンダークはちょうど話が終わったという頃合いを見て、話しかける。

 

「話し込んでるところ申し訳ないが、お前たちは早急に帰還して検査を受けてもらう必要がある」

「なぜですか?」

「……回復魔法の効果がまだ例が少なくデータ化ができていないんだ、5人はその検査だ。カティンカさん……だったか、に関してはこの劣悪な衛生環境だからこその健康状態の検査に加えて、その妊娠している状態の検査も必要だ。それと、ノスカナ上等兵待遇は回復魔法の検査に加えて、健康状態の追加検査がある、先ほどは簡易的なものしか行えてなかったからな」

「……分かりました」

「だが、その前に奴に聞くべきことがある」

 

 サンダークはそう言い、アポロフの目を覆ったガムテープを剥がし、ヘッドホンを外す。

 

「聞こえているならこっちを向け、今から質問に答えるのなら口も剥がしてやる」

 

 サンダーク自らAK-12自動小銃を携え、振り向いたアポロフの額に銃口を突き付ける。

 頷く動きを見せるアポロフを見て、サンダークは口を覆うガムテープを強引に引き剥がす。

 

「必要な事以外は喋るなよ、小心者。では聞こう、彼女達が生活していた痕跡より、我々が救出した人数の方が少ないが、どういうことだ?」

「……答えたら、どうする?」

「そんな話はどうでもいい、これは尋問だ。答えない場合は自白剤を使えばいい」

「……移動する」

「そうか、私が選んだメンバ―だけついてこい、それ以外は全員待機だ」

 

 サンダークがそう言うと、連隊に属する複数の士官に加え、イエヴァとリリーヤ、アリーナが選ばれ、代わって副連隊長は責任者として残された。

 

 そうして、アポロフの案内により到着したのは少し離れた場所にある錆の付着がさらに多い施設であり、サンダークの嫌な予感は増幅する。

 

「ここはなんだ?」

「この建物に別に意味はない、お目当てのものはそこよ」

 

 アポロフは視線をずらし、箱状である鉄製の物が多数設置されている場所に視線を向ける。

 

「……やはりな、開けて中を見てくれ」

「え……これって……!?」

 

 イエヴァとリリーヤは二人で近くの箱を取り出し、扉を開ける。

 そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()されており、腐敗臭が周りに広がった。

 

「うぇぇ……!」

 

 アリーナは涙目ながら嗚咽して吐き出し、イエヴァとリリーヤは苦しそうな表情をしながら、拳は怒りに震えていた。

 

「遺体をぞんざいに扱うとは……」

「こんなの人間としての死に方じゃない!!屠殺でしょ!!」

 

 サンダークの言葉を遮ってまで、リリーヤは怒りに任せて叫び出した。

 

「ふっ、そうさ。人間としての扱いなどしてない、家畜、いや玩具よ。壊すこともできる玩具、我々はそう扱ってきたのだよ」

 

 リリーヤは涙目になりながらも怒りを抑えきれず、拳銃を取り出しアポロフへと向ける。

 

「リリーヤ!?やめて!捕らえて裁判でって」

「分かってるっ!!分かってるけどさっ……こんなのって、こんな死に方なんて撃たなきゃ気が済まないよっ!!」

 

 リリーヤはそう叫ぶも結局撃つことは叶わなかった。

 イエヴァと、険しく苦しい表情を浮かべ同じ気持ちである男性兵士に取り上げられる。

 

「くそ野郎が!さっさと黙れ!!」

 

 サンダークも同じ怒りを抱えており、銃口を額から放しアポロフが安心したのも束の間、銃を振りあげ、銃床でアポロフを殴りつける。

 死にはしなかったものの、アポロフは強烈な打撃で気絶する。

 

「第186分隊、帰還しろ。既に向こうにヘリが待機している。ここからは我々大人たちの仕事だ」

「……了解しました」

 

_モスクワ標準時(MSK)6月1日午後2時頃_

ロシア連邦首都モスクワ 大統領府庁舎

 

「アポロフ、アニシモフを拘束し、多くの少女達を救出、死傷者は予想ラインを大きく下回る数に留まり、作戦は無事に終了しました」

 

 大統領執務室にて、ニコルシチャフはロスチヤ国防大臣からの報告を聞いていた。

 

「成功したのは良かったな。だが、まだ何かあるだろう」

「はい……囚われている少女達の死傷者ですが、現在確認できるだけでも死者は40名を下りません」

 

 執務室を重苦しい空気が覆う。

 第一声を放ったのはニコルシチャフだった。

 

「そうか……ロスチヤ国防大臣、今日は帰ってくれ」

 

 その発言を聞いたロスチヤは怪訝な表情を浮かべ尋ねる。

 

「え……なぜでしょうか?」

「私もそうだが、貴様は何時間寝ていない?私は大統領を数年務めているが、君は就任したばっかだろう」

「ですが、仕事ですので」

「わからないかね、大統領はそれを今日はもう終わらせよと言ってるのだ」

 

 そう口を挟むのは補佐官の立ち位置にいるイサレフであり、さりげなく呆然とするロスチヤの持っていた資料を取り上げる。

 

「娘が戦場帰りだろう、少しは親子の仲を考えたらどうだろうか?仕事ばかりに集中せずにな」

「……そうですね、しかしこの資料はいかがしますか?」

「大統領と私が二人で読むさ、少しは年上を頼ってくれないと寂しい思いがする」

「……では、帰宅させていただきます」

 

 ロスチヤは一礼し、執務室を出ていく。

 二人はその足音が聞こえなくなるまで無言になり、聞こえなくなると話し始める。

 

「済まないね、茶番に付き合ってもらって」

「いえ、この非道に対する怒りを感じるのは同じですから」

 

 イサレフは大統領が必要とする資料だけを机に置き、それ以外を抱えて執務室を出る。

 ニコルシチャフもイサレフの足音が聞こえなくなるまで待った上で、拳を振り上げて力強く机を叩く。

 

「彼女らをどう救えたか、死んだ命は生き返れない。なんという理不尽さよ」

 

 ニコルシチャフは軽く自嘲気味な発言を行い、再び机をたたく。

 

「退出させたのは、怒りを晴らすためだったんだ」

 

 姿を隠しながら執務室で暮らしていたティナが姿を表す。

 

「君か、まあその通りと言えよう……政治家といえど完璧ではないが、より良い結果とするために反省点を洗い出すためにな。だが、戦いは二度と元に戻せないこともある、彼女達のようにな」

 

 ティナはその発言が少ししか理解できず、困惑する。

 そして、思いついたかのような表情を浮かべて口に出す。

 

「なら私たちが向かえば」

「無理だ、死亡推定時刻がそれより前の少女もいる、戦いに完璧は無いのだよ」

「そう……だね」

 

_モスクワ標準時(MSK)6月1日午後3時頃_

モスクワ市街 ロスチヤ家宅

 

「あ、お父さん、お帰り。……今日は早いね」

「ああ、ひと段落したからな」

 

 本当は大統領と補佐官に強制的に帰されただけではあるが、それを娘のイエヴァに言えるはずもなかった。

 

 ロスチヤはあまり家族との会話をしない傾向であったため話題が浮かばず、二人は暫く無言という状態が続いた。

 一通りの家事が終わり、ロスチヤがソファーに座るとイエヴァが父との距離を詰め、父の肩にもたれかかる。

 

「どうしたんだ?」

「あ……わからない、ただこうしたくなっただけ……」

 

 その少しの会話も長続きせず、ロスチヤはテレビを見て、イエヴァは携帯端末をいじり続ける。

 だが、ロスチヤがふと視線を彼女に向けると、目から涙を流していた。

 

「どうした?なんで涙を?」

「え、私いつの間に……なんでっ……」

 

 指で拭いてもとめどなく流れてくる涙。

 ロスチヤはその光景を見て、意を決して娘に尋ねる。

 

「なあ、何があったか教えてくれないか。イエヴァの気持ちを知りたいんだ」

 

 イエヴァは父の言葉に感情が溢れ出したのか、父の胸に飛び込み、思いっ切り泣き出した。

 

「怖かったっ!!撃たれた時、死ぬかと思った……怖くて……怖くてっ……!」

「私はイエヴァの戦いを見ていないから正しいことを言えるかわからない、けどこれだけは言わせてくれないか。頑張ったな、今日は安心できるまで休んでくれ」

「ありがとう……お父さんっ……」

 

 イエヴァは涙を拭きながら、笑顔で答える。

 

 モスクワ標準時(MSK)西暦2021年6月1日。

 後に北カフカース紛争と呼称される多くの無辜な少女達が犠牲となった悲劇の戦いは終結した。

 




※次回予告

after(妥結)【プログレス】

北カフカース紛争が終わった後、エクシードを使う少女達についての国際ルールの議論が始まった。
全ては先の悲劇を再び引き起こさせないため。
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