Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

20 / 50
敵の形状描写が拙いかもしれませんが、そこはご容赦ください。
改めてその描写を上手く書ける方々には脱帽です。

感想や評価、推薦等お待ちしています。
誤字報告もどうかよろしくお願いします。

※7/8、イギリスシーンの後半に文章を追記しました。


世界の危機(ワールドクライシス)〈3〉【破綻】

 特異生物群__通称()()()()()

 

 四世界共通の敵。

 地球との接続以前から各世界へ侵攻を行ってきた過去を持ち、四世界はその侵攻を撃退してきた。

 そう、撃退である。

 だが、ウロボロスは侵攻に際して大きなエネルギーを消費することが確認されており、一度侵攻を撃退してしまえば、十数年は侵攻する事が無いとされている。

 四世界と接続した地球は確かに侵攻される可能性自体は存在していた。

 しかし、ウロボロスから認知されるには今後数十年ほどの時間が必要だと思われていた。

 だが、ウロボロスは早期に地球を認知し、想像を超える規模で侵攻を開始する。

 

 地球での異変の始まりは、太平洋の壁の東側から始まった。

 

_UTC(世界標準時)3月22日午後4時56分・ハワイ時間(HST)午前6時56分_

ミッドウェー島より南約200km・オアフ島より西北西約2000km

 

 太平洋に跨る壁の東側壁面に人為的ではない赤い裂け目が現れる。

 その裂け目から赤い光線が発射され、哨戒中だった駆逐艦「ジョンソン」艦載機のMH-60R"シーホーク"を木端微塵に吹き飛ばす。

 それを目にした同艦艦載機のAH-1W"スーパーコブラ"は母艦に通信を入れようとしたが、その暇を与えず光線で吹き飛ばされる。

 

 そして、その裂け目より全長400mに上る、どこの国の艦艇とも似つかない、強いて言えば最大の飛行船であるヒンデンブルク号を上下からわずかに押しつぶした形の物体が現れる。

 その物体が裂け目より完全に這い出た後、下部から伸びる円錐状の物体が海面に突き刺さる。

 

_HST午前7時4分_

アメリカ海軍第3艦隊旗艦「ジェラルド・R・フォード」

 

「駆逐艦ジョンソンより伝達!ミッドウェー島南約200kmの海域を哨戒中のヘリ2機との通信が途絶、依然として消息不明とのことです」

 

 シーホーク1機、スーパーコブラ1機との通信が途絶したことが母艦を通じて艦隊旗艦に情報が送られる。

 

「200kmだと?あそこは何も無い海域だったはずだが……」

「事故と見るべきでしょうか?しかし、天候も風速も弱く、晴天なのですが……」

 

 参謀らは決して起こるはずがない事態に疑問と共に動揺する。

 

「嫌な予感がするな、既に燃料補給を完了している隊に先遣隊として向かわせる。何か報告があり次第、判断する」

 

 イーストンは険しい表情を崩さぬまま、命令を繰り出した。

 

 そうして、増槽を取り付けたF-35Cの先遣隊が現場海域へと送られ、パイロットらは驚愕の光景を目にする。

 

「こいつは一体……!」

 

 ホーク1のコールサインを持つパイロットが動揺を隠せず声を上げる。

 

『ホーク2よりホーク1へ。海面にヘリと思しき残骸を確認しました、こんな穏やかな風です、撃墜したと判断するべきかと」

「だがな……ひとまず母艦に映像を同期させる、カメラ回せ!」

 

 そして「ジェラルド・R・フォード」には先遣隊からの映像が受信される。

 

「異形の怪物か……友好的な存在ではなさそうだな」

 

 イーストンと、参謀らは意見を交わす。

 だが、その間に異形の物体は動きを見せる。

 

 異形の物体は薄鈍色だった表面色を赤いラインが何重にも走り、その下を黒一色で埋め尽くす不気味な色へと変化させた。

 そして、先遣隊に牙を向く。

 

 反応の遅れた1機を赤い光線で吹き飛ばすと、その他の機体にも赤い光線を次々に繰り出す。

 

『ホーク3、ロスト!奴が突然表面の姿を変えたら、ビームを放ってきた!!援護を求む』

 

 その報告を受けた旗艦では動揺が走った。

 攻撃してもいないのに、突然奇襲的に攻撃する怪物に、赤いビーム、それが困惑をもたらした。

 だが、イーストンは咄嗟に命令を下す。

 

「補給を終えた機体から順次爆装させ出撃させろ!あのデカ物だ、対艦ミサイルクラスでないと無理だろう。

奴をアルファと呼称、現時点を持って敵対的存在と確定させる」

 

 甲板上では整備員がせわしなく動き、電磁カタパルトに配置された機体が次々に打ち出されていく。

 一方で有力な対艦武装を持ち合わせていない先遣隊は、最初の攻撃隊が到着するまで敵の気を引き付け、到着が確認できると、交代するように引き返していく。

 

「全機、目標アルファに固定。フォックス4!!」

 

 攻撃隊24機よりハープーン対艦ミサイル、及び空中発射型対艦巡航ミサイルが放たれていく。

 それらに反応して赤い光線が飛ぶが、ミサイルを撃墜できるほどの追尾性能は無いらしく、

2発ほどが撃墜されるに留まり、異形の怪物の表面に爆炎が上がる。

 パイロットらは歓声を上げ、煙が晴れると命中部位に損壊したと思われる穴が見られた。

 空母を超えるデカ物な為、時間はかかるが倒せない相手ではないと誰もが確信する。

 だが、次の瞬間、衝撃の光景を目撃した。

 

 損壊部位に粒子状の物が集まり光に覆われる。

 それが晴れると、何事も無かったかのように損傷が回復していた。

 

「バカなっ!!」

 

 同期していた映像を見ていたイーストンはその声と共に驚愕の感情を漏らす。

 だが、諦めてはいない。

 

「データリンクを同期、トマホークで片を付ける」

 

 トマホーク巡航ミサイルによる長距離打撃、それが彼の答えだった。

 

 2回目の攻撃隊による攻撃も損害は与えられたものの、結局は全ての損傷を回復され、結果は得られなかった。

 よって、航空管制の指示で戦闘空域にいる全飛行隊に退避が命じられると共に、トマホーク巡航ミサイルが一斉に発射される。

 トマホークによる集中した攻撃は苛烈を極め、十数発の巡航ミサイルが異形の怪物に命中して損害を与えていく。

 

 だが、その火力をもってしても、損傷の修復は止められなかった。

 

 そして、は再び動き出す。

 海面に突き刺さっていた円錐状の物体を引き抜いて内部に回収し、二回り小さい同型の物体を虚空から3体出現させる。

 さらに、どうやって動いているかもわからない原理が不明な飛行手段によって移動を開始し、加速し始める。

 

『て、敵艦が移動を開始しました!』

「どこに向かっている!」

 

 同期された映像でしか情報を得られず、データリンクも敵が正体不明であるため、正常には機能していない状況により、イーストンはパイロットに直接尋ねた。

 

『……東南東、ハワイ諸島です!』

 

 ジェラルド・R・フォードの戦闘指揮所で沈黙が走る。

 その間にも敵艦と称された異形の物体は加速を重ね、時速600kmまで加速していた。

 ジェット戦闘機であるF-35Cにとって追い付くのは苦ではなかったが、航続距離という問題で追尾は中止された。

 

「ホワイトハウスに通信を入れろ!」

 

 イーストンは沈黙を破った第一声でそう言い放つ。

 

『……敵の正体は?』

 

 現況の説明を受け、ギレットはそう問いかける。

 

「不明です。目的も何もかも分かっていません。ただ、敵があらゆる攻撃を受けても、損傷を修復する術を持っていることは事実であり、その大型個体がハワイへと向かっていることも事実です」

『迎撃も間に合いません。唯一届くのは最も射程距離が長い弾道ミサイルのみです……が、時速600km近い速度の敵を狙撃できる術はありません』

 

 ギレットの隣にいたアッシャー国防長官がそう言いながら、何もできない悔しさの余り顔をしかめる。

 

『ハワイ州全土に避難命令を発令しろ!太平洋軍にも情報を伝達!国防長官、今からそちらに向かう、リアルタイムで情報が知りたい』

 

 ギレットは状況を理解すると、即座に命令を下した。

 だが、たった3時間でハワイ州全土はもちろんの事、オアフ島の住民を全員逃がすのは到底困難であることは誰もが理解していた。

 しかしながら、やらないよりはマシである。

 

_HST午前10時24分_

ハワイ諸島オアフ島

 

 大型個体がハワイ諸島に接近している間に緑の世界【グリューネシルト】のグリューネシルト統合軍より、国交を結んでいる各国政府及び軍組織に対してウロボロスについての情報がもたらされた。

 事前予知を行った事や、今次侵攻の全容が不透明であり、ウロボロスについて誤解を招く可能性があったとして事前に情報提供しなかった理由についても伝えられた。

 しかし、四世界と言えども侵攻そのものを防ぐ事は出来ず、後は撃退するしかなく、アメリカの現状を受けて各国に警戒を呼びかけると共に、最大限の援護を行うことを確約した。

 そして、今回の侵攻に対して効果のある攻撃手段が不明であることも分かった。

 

 400m近い大型個体は太平洋軍の迎撃を真っ向から跳ね返し、オアフ島上空に飛来し、動きを停止する。

 陸地の対空ミサイル部隊からミサイル攻撃を受けたのを逐次修復しつつ、胴体下部より砲身状の突起をせり出す。

 否、砲身そのものであった。

 胴体から赤いラインが薄れると共に、その砲身を真っ赤に滾らせ、砲の先端に赤い光が集中する。

 

 そして、砲口からスパークを走らせると共に真っ赤な光線を薙ぎ払う。

 最初に狙われたのはパールハーバー・ヒッカム統合基地であり、太平洋空軍及び太平洋艦隊の司令部施設が集中的に破壊された。

 攻撃は一回で終わらず、2射目はインド太平洋軍司令部のある海兵隊キャンプ、3射目は太平洋陸軍司令部を薙ぎ払う。

 4、5度目の連射はホノルル市街地にまで攻撃が及び、ビーチ沿いのホテル街が赤い光線によって薙ぎ払われた。

 

 被害は文字通り甚大であった。

 さらに攻撃が行われるのではないかと恐れたが、ゆっくりとその大型個体が移動を開始し、オアフ島上空を離れると救助活動が開始された。

 完全に破壊されたわけではなかったものの、行政機構が機能できる状況ではなかった。

 だが、ホノルル市警察や消防が治安維持及び破壊された施設に取り残された人々の救出に全力を注ぐ。

 

_UTC午後8時30分・HST午前10時30分_

アメリカ国防総省 作戦指揮センター

 

「インド太平洋軍司令部との通信途絶!!パールハーバー・ヒッカム統合基地からの通信も途絶えました!」

「やはり攻撃されたか……」

「それ以外の要因が思いつきませんが……やはり事実は必要ですね」

 

 アッシャーは破壊されたかどうか民間人からの情報収集も指示する。

 

「ありました!ホノルル市民からの情報でやはり施設の破壊が確認されてます」

 

 オペレーターは声を上げる。

 

「指揮系統の混乱が予想されます、すぐに第3艦隊司令部を臨時インド太平洋軍司令部にすべきでは」

「分かっている、ジェラルド・R・フォードに通信を繋げろ!」

 

 アッシャーの補佐官の助言を受けて、国防総省より「ジェラルド・R・フォード」へと映像通信が繋げられる。

 インド太平洋軍司令部、3軍司令部が破壊された事を聞き、イーストンは顔をしかめる。

 

「分かっていたことですが、やはり心に来るものがありますね。太平洋軍司令の無事を祈る事以外、出来ませんが」

「臨時インド太平洋軍司令部を設置する旨、受けてもらえるか?」

「もちろんです、この危機的状況で受けない理由はありません。それよりも、敵の現在位置は?」

 

 その質問を聞き、アッシャーら国防総省の職員は憂鬱な表情を浮かべる。

 

「ハワイ州のレーダーを管理する司令部の破壊により周辺海域のレーダー網に穴が空いている、見失ったのだ」

「もちろん、我々はアメリカ本土への飛来が最も可能性が高いと判断している。西海岸に避難命令含む国家非常事態宣言を出し、現在の状況も国民に説明済みだ」

「北方軍管轄の陸軍部隊にも展開指示を出している。空軍も数時間前の破壊作戦時に動員した爆撃航空団及び戦闘飛行隊を再編成し、動員している」

 

 国防総省に努める上官及び、ギレット、アッシャーから状況説明を受け、わずかに安堵するイーストン。

 だが、オペレーターより衝撃の報告がもたらされる。

 

「ハリー・S・トルーマン空母打撃群より緊急連絡!『報告にあった敵と遭遇、打撃群構成艦4隻が大破、本艦は甲板が甚大なダメージを負い、航空機の着艦不能!』とのことです!」

「……場所はどこだ!」

「サンフランシスコ東、約1500kmの沖合です!」

「奴の狙いはサンフランシスコか!!」

 

 それはその場にいる者全員が共通してたどり着いた答えだった。

 救援隊の派遣や、着艦できなくなった機体の指定基地への着陸指示等の命令が飛び交う。

 

「サンフランシスコに部隊を増派!修復されるのなら、より多くの部隊で攻撃を行うまでです」

 

 アッシャーはそう言い切り、矢継ぎ早に指示を出していく。

 

「我々は……」

 

 その状況でイーストンも命令を尋ねる。

 

「慌てるな。全力で東へと向かってくれ。必ず役に立つ時が来る、約立たずでは終わらせないさ」

「……分かりました。その言葉、信じています」

 

 アッシャーの返答に、イーストンは納得したのかそう答えて、通信を切断する。

 

_UTC3月22日午後8時40分・MSK(モスクワ標準時)午後11時40分_

ロシア連邦中央連邦管区モスクワ市

ロシア連邦国防省 作戦指揮センター

 

「まもなく周回衛星がハワイ諸島上空へと到達します」

 

 オペレーターの声が室内に響く。

 多くの者が視線を室内の大型モニターに集中する。

 そしてある映像が映し出された時、動揺が広がった。

 

「やはりか、アメリカが攻勢を受けていると知った時はいまいち信じきれなかったが……オアフ島が壊滅してるのは本当だったというわけか」

 

 作戦指揮センターにいるニコルシチャフはその動揺の中で、冷静に判断する。

 

「……アメリカ太平洋軍の主要戦力がハワイから離れていたのは不幸中の幸いでしたが……それでも司令部施設の大半が破壊されるのは将来的にも手痛いダメージです」

 

 隣にいるロスチヤ国防大臣もその現状を覚悟していた為、冷静に分析する。

 

「展開状況は?」

「第4親衛戦車師団、第2親衛自動車化狙撃師団を戦闘態勢でモスクワ東地域で展開させました。第1航空作戦群は上空待機を厳命している他、各航空連隊にはローテションによる監視を続けさせています。陸軍の各旅団にはいつでも動けるよう稼働させています」

「わかった……後は待つだけだな。来ない事ばかりを祈るが、その可能性は低いだろう」

「はい」

 

 ニコルシチャフとロスチヤは憂鬱な表情を浮かべる。

 その時、オペレーターが声を上げる。

 

「第9親衛戦闘機航空連隊より受信です!」

『こちらクルスタフ01!壁面には赤い裂け目が出現!さらに、裂け目から壁面に赤い波紋が連続して放射されています!』

 

 動揺と困惑が走る。

 赤い裂け目から太平洋にも見られた現象ではあるが、波紋が放射されるというのは初めての現象だからだ。

 さらに驚きが続く。

 

『裂け目が広がってる!?あ、裂け目より謎の物体が出現!』

「映像をモニターに出せ!」

「は、はい!」

 

 その報告を聞き、ニコルシチャフは先んじてオペレーターに指示を出す。

 そうしてモニターに映された物体に困惑した空気が流れる。

 

「アクラか……?」

 

 ある海軍佐官がそう言葉を漏らす。

 その言葉が指す意味は971(アクラ)型原子力潜水艦の事であった。

 

 広がった裂け目より現れたのは3つの物体であり、2種類の形状に分けられた。

 2体現れた方は、大きさは200m程で、船体上部のセイルに接するように中心に円状の穴が開く円盤が斜めに置かれ、

それと平行になるように船体両側面に同型の円盤が配置されており、

船体下部には中心円が狭まり倍近い大きさとなった円盤が船体に平行で設置され、

さらに無数のブロック状のパーツが船体各部に散らばっていた。

 1体のみの方は、大きさは300mもあり、前者とほぼ同じ配置ながら、船体上部には一回り大きな円盤が並列に2枚置かれ、

両側面からは円盤が消えた代わりに巨大な逆ガル形状にブロック状のパーツが何十も配置され、

船体下部には中心から円状にブロック状のパーツが広がる円盤状の物体がベース船体を超える大きさで置かれていた。

 共通していることとしては、全体のカラーリングが黒をベースに赤いラインが何重も走っていることだった。

 

「攻撃を開始しろ!」

 

 ロスチヤが我に返り、攻撃命令を下す。

 空中待機をしていたTu-95MS及びTu-160が空対地ミサイルを一斉に発射し、Su-27SM2、Su-35S戦闘機らが空対艦ミサイルや誘導爆弾をもって攻撃に赴く。

 地上では2S19ムスタ-S自走榴弾砲が仰角最大で152㎜榴弾砲による射撃を行い、遅れて戦域弾道ミサイルイスカンデル-Mが着弾する。

 

 相当程度の打撃を行ったはずだが、敵は頭上の円盤を高速回転させ、損傷した部位を粒子状の粒が集まり、修復していく姿が見られた。

 それに驚く暇もなく、お返しを受ける。

 

 下部円盤やブロック状のパーツに幾つも走る赤いラインを光り輝かせ、何重もの赤い光線を斉射する。

 地上の各所で爆炎が上がり、戦車が、自走砲が、歩兵が吹き飛ばされていく。

 空でもジェット戦闘機に比べれば劣速のTu-95MS戦略爆撃機が片翼を破壊され、墜落する。

 1個連隊並の戦力が軒並み行動不能に陥り、たった1斉射で戦線を崩されたと言っても過言ではない。

 さらに、2体の比較的小さい個体が逃げ惑う車両に向けて、苛烈な追撃を行う。

 

『アルフェク中隊、中隊長車が撃破され、早急に指示を請う!』

『ブラヴァ中隊、1両残り全自走砲が壊滅、援護無いとこのままでは!』

『くそっ、敵のビームが激しくて攻撃を仕掛けられない!航空部隊はどうすれば!』

 

 悲鳴が、怒号が、国防省と作戦司令部、第66諸兵科連合軍を繋いだオープン回線に響き渡る。

 

『申し訳ありません。この責任を取り、私はここで——』

 

 作戦司令官アスタホフの言葉が机を叩くニコルシチャフの行動で遮られる。

 

「しなくていい、貴様は作戦全部隊の統率を再び取れ。即時後退し、防衛線を築け。それが貴様に課せられた責任だ」

『しかし、足止めは?』

「問題ない、そうだろう?グラーニン海軍中将」

『はっ!』

 

 モニターにもう一人の男性の顔が映る。

 ロシア海軍黒海艦隊を預かる身として、この場に出ていた。

 

「臨時編成した航空宇宙軍作戦航空総軍と黒海艦隊で全力で足止めする」

『……後退場所はどこになりますか』

「タタールスタン共和国首都カザン、この地に防衛線を築きます。作戦に動員していない他の陸軍部隊にも動員をかけ、決戦を挑みます」

『……わかりました、責任をもって作戦部隊全員を防衛線へと引っ張らさせていただきます!』

 

 ロスチヤがアスタホフ中将の質問に力強く答え、アスタホフも力強く宣言し、通信を切断する。

 

「では、敵の大型個体を『ジスク型』、一回り小さい個体を『ノヴォ=ジスク型』と呼称します。

作戦航空総軍の各編成部隊に伝達してください、足止めを開始します。黒海艦隊も攻撃をお願いします」

『了解です、カリブル攻撃はじめ!』

 

 作戦部隊から引き抜いた、及びそれ以外の航空部隊から編成した作戦航空総軍が攻撃を開始し、その先鋒となった敵に対して遥かに優速なSu-35S戦闘機は空対地ミサイルを一斉射する。

 アゾフ海に展開する黒海艦隊も全VLSを開放した上で、カリブル-NKを遥か遠くのアリメチエフスクの敵個体群に対して放つ。

 

_同時刻_

イギリス海峡ポーツマス沖

イギリス王立海空軍統合戦力部隊

 

 イギリス海峡でも赤い裂け目が出現し、咄嗟の判断でイギリス海軍は裂け目に対して攻撃を行ったが、全てが無効化された。

 その裂け目より現れたのは、円盤翼型実験機V173を模した形状の周りに羽根のような機構と後部に3枚の長大なブレードフィンを付け、先端部から長く首を伸ばした機械的なドラゴンの頭を持つ個体のみだった。

 当然、出現直後の個体に対してイギリス軍は攻撃を加えるも、何度も修復される始末であり、お返しとばかりにドラゴンの頭からオアフ島で放たれたものと同様の大口径の光線が連続して放たれ、45型駆逐艦1隻が轟沈する被害を喰らう。

 

魔導砲(マジックキャノン)発射準備完了!』

 

 その時、「クイーン・エリザベス」の艦橋にそのような報告がもたらされる。

 

「ようやくか!あの敵個体に向けてぶちかましてこい!」

『了解です、照準調整!』

 

 マクルーア海軍中将はその報告を聞いて心が躍動するのを感じ、大きく声を上げて命令を下す。

 「クイーン・エリザベス」の甲板にその魔導砲は設置されており、甲板上を長いコードが伸びていた。

 魔導砲の発射装置の周りには黒の世界、緑の世界、そしてイギリス軍所属のプログレスの複数名が集まっていた。

 

「マナの制御率安定!よしっ、いつでも行けるぜ!」

 

 緑の世界【グリューネシルト】のプログレスであり、機械技師の職を持つ統合軍曹長のマリル・ルガネットが右腕を上げてガッツポーズする。

 

「あんまりはしゃいで落ちてしまわないように気をつけてくださいね」

 

 そう窘めるのは黒の世界【ダークネス・エンブレイス】のプログレスで、機械人形であるアイリーンだった。

 

「分かってるよっ!」

 

 その言葉にマリルが眉を一つも顰めずに元気よく答える。

 そして、発射装置のボタンを持つ士官にグッドサインを送る。

 

 カチッと発射装置が押されると、戦艦主砲並みの口径がある砲口は光り輝く。

 大量のエネルギーを貯めた砲口は一瞬光を無に帰すと、膨大なエネルギーとなって敵個体に打ち出された。

 どんな攻撃でも動じていなかった敵が初めて悲鳴らしき不協和音を響かせ、姿勢を崩した瞬間だった。

 だが、砲口の大きさに反比例し、膨大なエネルギーは敵を撃破するまでには至らなかった。

 

「やっぱりだ!」

「やっぱりとは、どういうことですの?」

「うん、初めての試みだから、マナの消費量に反してエネルギー変換効率が悪すぎた、だから倒しきれなかったんだ」

 

 マリルは自分の傑作がうまくいかなかったことに薄橙色の髪をくしゃくしゃにしながら頭を抱える。

 

「再発射にはどのくらい?」

「うん、一日以上かかる、だから……多分無理」

 

 会話している間に魔導砲によって受けたダメージを修復し終えた敵は同じドラゴンの頭を持ちつつ、大蛇のようなクネクネした機械の体を持つ小型の個体を数十体出現させる。

 その個体は本体と同様のビーム攻撃の他にブレス攻撃を行い、イギリス艦隊にダメージを与えていく。

 戦闘機隊はその小型個体に攻撃を仕掛けようにも機動性が高く、混戦状態となってまともに狙う余裕などなかった。

 そして、本体は自身へとダメージを負わせた元凶に目標を定める。

 

「総員退避!!」

「逃げてくださいませっ!!」

 

 マクルーアは全艦マイクで叫び、アイリーンは機械人形の力でマリルやイギリス軍のプログレスを甲板の端に追いやる。

 敵本体が赤い光線を一斉射した瞬間、アイリーンは追いやった仲間を海に落しつつ、右腕から身長の1.5倍程もある鎌を取り出し、光線を角度5度程度屈折させ自身はその圧力を流すように海へと身を投げる。

 

「アイリーン、大丈夫!」

「大丈夫ですわ、機械人形を舐めないでください」

 

 4人は海面でずぶ濡れになり、立ち泳ぎしながら会話を続ける。

 

「そう……良かった。だけど、司令とは繋がらなくてっ……」

 

 マリルはアイリーンの無事を安堵するのも束の間、悔し涙を浮かべる。

 「クイーン・エリザベス」は沈むことは無かったものの、甲板はズタズタに引き裂かれ、艦橋は光線の直撃を受け、原形を留めないほどにまで破壊されていた。

 幼い頃から機械いじりが趣味だったマクルーア中将と作戦前に会話し、時間を忘れるほど話し続けたことをマリルはしっかりと覚えていた。

 話した内容も、彼のしぐさも記憶力には定評のある彼女だけが覚えていた。

 

「……噓でしょ」

 

 一方で、アイリーンは海上から見える光景に驚愕していた。

 「クイーン・エリザベス」の護衛艦艇は軒並み攻撃を受けて、沈みかけてる船もいた。

 「プリンス・オブ・ウェールズ」空母打撃群が必死に抵抗を続けていたが、劣勢なのは明らかであり、退避するように後進を入れていた。

 救いなのは、海上に浮かぶ生存者に対して敵が攻撃を仕掛けてこない事のみだった。

 

 人類は多くの被害を受けた。だが、まだ始まったばかりである。




※次回予告

世界の危機(ワールドクライシス)(4)【防衛戦】

世界各国は防衛戦を展開する。
数多くの犠牲の元に何を得られるのか。
そして、ある兵器の使用すら考えられ始める。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。