Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

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【防衛戦】は終わりました。
次回から次パートに入ります。


世界の危機(ワールドクライシス)〈7〉【防衛戦】④

_UTC(世界標準時)3月23日午前0時30分・MSK(モスクワ標準時)午前3時30分_

ロシア連邦沿ヴォルガ連邦管区ウリヤノフスク州ウリヤノフスク

 

 第66諸兵科連合軍前衛集団が約150km離れたアレクセーフスコエ近郊に到着している間に、アリメチエフスクより真西方向へ誘導させるため、航空宇宙軍作戦航空総軍が攻撃を行う。

 その理由は明白であり、撤退行動中の部隊に目を向けさせないため、少しでもカザン侵攻を遅らせるためだった。

 

「クルスタフ01より各機、全機攻撃開始!!」

「ブロズカヤ全機も続け!ありたっけのミサイルを撃ち込んでやれ!!」

 

 Su-27SM2戦闘機の集団がハードポイントに吊り下げられている対地ミサイルを切り離し、次々に『ジスク型』、『ノヴォ=ジスク型』に着弾させる。

 『ジスク型』、『ノヴォ=ジスク型』は赤い光線をばらまき航空部隊を墜とそうするが、比較的初速が遅い光線の為に易々と回避していく。

 

 同時に、ウリヤノフスクに展開する第5ロケット旅団は全ての発射台を起立させる。

 

「躊躇はいらない、これは人との戦いではない。弾道弾の圧倒的打撃力を敵の鼻っ面にぶち当てる!」

 

 戦域弾道ミサイル『イスカンデル-M』、戦術弾道ミサイル『トーチカ』が発射台からブースターが点火されて上昇を開始。

 ロフテッド軌道で落下した弾頭は最も大きい『ジスク型』の上部装甲へ着弾し、複数の巨大な爆炎を巻き上がらせる。

 さらにS-300PMU地対空ミサイルシステムも稼働して長距離対空ミサイルを放ち、距離が近づくにつれてMLRSタルナードから長距離ロケットがばら撒かれる。

 

 ジスク型系統の敵個体は攻撃を受けると移動を停止する傾向にあり、それを利用した形でカザンへの侵攻を遅らせることができていた。

 しかし、理想形である撃破はかなわず、ロケット弾及び対空ミサイルの残弾がゼロとなり、弾道ミサイルの残りも半数を切ったところで、参謀本部より攻撃停止命令が下される。

 だが舞台は整った。

 第66諸兵科連合軍は全ての部隊がカザン及びより後方への撤退が完了。

 部隊全てが再編成を終え、迎撃の準備を整えた。

 

_UTC3月23日午前2時10分・MSK午前5時10分_

ロシア連邦沿ヴォルガ連邦管区タタールスタン共和国カザン

 

「やはり、第1親衛戦車軍は派遣できなかったか」

「ええ、彼らがいなければモスクワは空になります。全力を投入するべきなのは承知していますが、これ以上の戦力供出は作戦司令部にとっても負担でしょう。一応、ニジニ・ノヴゴロドまで前進させています」

「最後の砦か……しかし、この規模の戦力を突破されては、彼ら精鋭であっても勝ち目は薄い。最悪、あれを使う以外ないだろうな」

「そうならないことを祈っていますが」

 

 国防省内の作戦指揮センターから少し離れた小部屋にてニコルシチャフとロスチヤが眉をひそめたまま会話する。

 彼らの表情には不安が現れていた上、その思考にはある最凶の兵器の存在が見え隠れしていた。

 

 T-90"ヴラジーミル"、T-72B2"ロガートカ"、T-72B3"ズミーニャ"で構成される大規模戦車群を含む第6・第17独立戦車旅団、第19独立親衛戦車旅団、第9独立自動車化狙撃旅団、第15・第20・第23独立親衛自動車化狙撃旅団、第30独立自動車化狙撃旅団が防衛線最前列及び中列に配置される。

 中列及び後列には、ムスタ-S自走榴弾砲、MLRSタルナード、TOS-1”ブラチーノ”、TOS-2”トソーチカ”ロケット砲、2K22”ツングースカ”自走対空砲、9K33”オサー”、9K330”トール”短距離防空ミサイルシステムが含まれる砲兵・ロケット砲旅団、防空ロケット旅団等が配置される。

 さらに後方の陣地には、数多くの戦域弾道ミサイルシステム”イスカンデル-M”、戦術弾道ミサイルシステム”トーチカU”が展開された。

 

 カザンから100kmの距離に『ジスク型』、『ノヴォ=ジスク型』が迫ると、Tu-95戦略爆撃機が比較的後方から対艦ミサイルを放って旋回すると共に、Su-57Bステルス戦闘機、Su-35S戦闘機、Su-27SM2戦闘機、Tu-160超音速戦略爆撃機が、『ジスク型』、『ノヴォ=ジスク型』双方に最接近して、様々な大きさの円盤を破壊し船体船首部分に損傷を与える。

 その渦中で一際大きな爆炎が炸裂する。

 その正体は、『爆裂術式魔法』が通常より多く込められた戦域弾道ミサイルであり、第21親衛ロケット旅団は保有する残り全ての弾頭にその術式を装着させていた。

 そして、限りある全ての弾頭を、夥しい勢いで次々に発射台に装填され、猛射されていく。

 対して、『ジスク型』は迎撃する暇もなく、進軍と停止を繰り返していた。

 

 戦場の主導権を握ったかのように見えたロシア軍だったが、戦場に絶対はあり得ない。

 攻撃を受け続ける『ジスク型』と『ノヴォ=ジスク型』だったが、攻撃が無い時間も確かに存在しており、突然その個体群は攻撃を受けていないのにも関わらず空中で停止する。

 

「ジスク型及びノヴォ=ジスク型、行動停止しました!」

「どういうことだ!奴は攻撃を受けない間は前進を続けるのでは無かったのか!」

 

 作戦指揮センター内に広がる疑念。

 それは北カフカース紛争にてプログレスという新たな戦場概念を経験したロシア軍だからこそ感じた疑念だった。

 

「ひとまず、攻撃部隊第2陣に攻撃を開始させろ!」

「了解……待ってください!ジスク型直下に不明個体群出現!」

 

 まさに突然だった。

 『ジスク型』、『ノヴォ=ジスク型』は赤く透明な円柱状の膜を地上まで下ろすと、円盤にブロック状のパーツが繋がった8本脚の個体が大量に現れる。

 それらは共通して表面を黒く塗り、赤いラインが生じていた。

 

「数十、数百さらに増えます!」

「敵と判断し、攻撃を開始させろ!」

 

 ムスタ-Sの152㎜榴弾砲が火を吹き、タルナードが大量のロケット弾を吐き出していく。

 しかし、152㎜榴弾砲の直撃は撃破に至るものの、300㎜ロケット弾は過大な威力と引き換えに装甲貫徹力に乏しく、戦車並みの装甲を持つアリ型個体に対しては効果は半減していた。

 加えて、ロケット砲は基本的に面制圧兵器であるため、直撃で無ければ撃破に至る可能性はさらに減じていく。

 その為、この時点で既存の防衛プランの阻害要因となったのは明白だった。

 

 Tu-160が亜音速飛行状態のまま地上個体群への爆撃を続けるが、数が少なくTu-95を爆撃作戦に使用できなかったためにその効果は決して高くなかった。

 ロシア航空宇宙軍と陸軍、戦略ロケット軍の攻撃リソースが二つに分かれてしまっており、撃破できる(すべ)は減っていく。

 モスクワ以西より急遽派遣されてきたTu-22M3戦術爆撃機の集団が極超音速空対地ミサイル『キンジャール』を放ち、衝撃波と共に『ジスク型』及び『ノヴォ=ジスク型』に甚大なダメージを与える。

 だが、それも撃破することは叶わずに損傷を修復され、再び進軍を再開する。

 

 やがて『ジスク型』と『ノヴォ=ジスク型』、そして『ムラヴェイ型』と呼ばれた小型個体群はブラチーノロケット砲の射程内に到達。

 ”ブラチーノ”、”トソーチカ”から220㎜ロケット弾が大量に吐き出され、『ムラヴェイ型』に降りそそぐ。

 胴体円盤に直撃を受けた個体はバラバラに四散して撃破されている一方で、生残している個体や全くの被害を受けていない個体もあった。

 この距離まで到達すると、爆撃機の役目は上空の個体にひたすらミサイルを投げ続けるだけであり、パイロットらは地上部隊がどうなろうと忠実に実行していく。

 第21親衛ロケット旅団からの戦術弾道ミサイルは未だ絶えることは無かったが、止めるには至らず、自走砲はひたすら上空の個体に砲撃を行っていく。

 そして、戦車部隊はその125㎜滑腔砲の照準を『ムラヴェイ型』へと向けており、『ムラヴェイ型』ですら光線を放つのに、その咆哮を上空へと向ける余裕など一切なかった。

 

 ()()()()()を退け、『ジスク型』と『ノヴォ=ジスク型』は防衛線上空へと到達。

 2体の『ノヴォ=ジスク型』が側面の円盤から1本の赤く光る管を『ジスク型』へと繋ぎ、『ノヴォ=ジスク型』から赤いラインが消えていく一方で、『ジスク型』はより一層赤く輝き、船体下部の円盤状物体の中心が眩いばかりに赤い輝きを見せる。

 そして、円盤状物体の中心から赤く輝くエネルギーが地上へと伸び、一瞬にして薙ぎ払われた。

 

 防衛線は崩壊。予想を裏返し、多くの部隊が生き残ってはいたが、組織的な戦闘を行うのは絶望的な状況であることに変わり無かった。

 

_UTC3月23日午前4時35分・MSK午前7時35分_

ロシア連邦中央連邦管区モスクワ市

ロシア連邦国防省 作戦指揮センター

 

「ロスチヤ国防大臣」

「……はい」

 

 覚悟を決めたニコルシチャフは、ロスチヤを呼び出す。

 

「もはや選択肢は一つだけだ。無抵抗を晒すのは愚者のやり方、国を守る為には今できる最善のやり方を選ぶのみだ」

「……分かりました。ですが、可能な限り周辺域への被害は抑えたいので、戦略原潜からの核攻撃でよろしいでしょうか?」

「構わん、我々はジスク型及びノヴォ=ジスク型に対して核攻撃を実施する!」

 

 ニコルシチャフはモニターに移る災厄(ジスク型)を睨みつけながら、そう声を上げた。

 

「待って……ください!」

 

 少女の呼び止める言葉が響き渡る。

 

「グリューネシルトの方か……言いたいことは分かるが、なぜ止める?」

 

 ニコルシチャフは振り向くと、そう尋ねた。

 その視線の先には2人の少女がいた。

 呼び止めたのは、青髪のツーサイドロングの髪型をした少女――ルルーナ・ゼンディア士官訓練生。

 そしてもう一人は、赤髪ミディアムショートの横に1つ結びした髪型の少女――リーリヤ・ザクシード士官訓練生。

 

「どうして……私たちを戦わせないんですか私たちは全然戦えます!」

「リーリヤと同じです、それに私たちのようなプログレスの子だってまだいっぱいいるのに、どうして戦わないんですか?」

 

 二人からの疑問を、ニコルシチャフは少し考える素振をする。

 

「では、あれに本当に勝てると?主力部隊を負かしたあの個体に」

 

 ニコルシチャフはモニターの映像を指差しながら、言い放つ。

 

「怖いけど私たち統合軍ならやります、いえやります……!」

「慢心は禁物だ、我々と同じ失敗を繰り返させるわけにはいかない」

「慢心なんて……」

 

 ニコルシチャフの言葉に、リーリヤは顔を俯かせる。

 

「慢心なんてしてない、それに私たちはウロボロスとの戦闘経験が……」

 

 代わりにルルーナが答えるが、ルルーナは教官から教えられた「今回の侵攻に対して効果のある攻撃手段が不明であること」を思い出す。

 

「確かにその力は本物だ。だが、今回は既存のウロボロスと訳が違うと聞いている、何でも倒せるのか?」

「それは……だけど、北カフカースみたいに協力して戦えば……」

 

 ルルーナの言葉をニコルシチャフは遮った。

 

「私は、青春を生きるべき少女達が戦わないといけない状況は嫌なのだ。強制されるのもな。北カフカースの事は確かに心強かったが、あれはそうしなければならない状況に陥ってたからだ。だが、今は自分から陥らせる事はしたくない。彼女達の青春が核攻撃で守られるのであれば、それでいい」

「大、統領……」

 

 ルルーナは自分の認識が間違ってたことを恥じる。

 大人は、子供たちの未来を守ろうとしていた。

 グリューネシルトでは、誰もが兵士とならなければいけない環境だったから、それに気づかなかった。

 

「……冷酷と感じてしまったら申し訳ないが、核攻撃は決行する」

「いえ……あなたの想いは伝わりましたから、大丈夫です」

 

 二人は立ち去っていく。

 その光景を見届けた上で、ニコルシチャフは再び声を放つ。

 

「戦略弾道ミサイル、活性化コード入力」

「了解」

 

 ニコルシチャフは核のボタンを護衛官から渡され、核兵器の活性化を実行。

 

「では、発射せよ……!」

 

 そして、数百発もあれば世界を滅亡に陥れる兵器が離床して上昇を開始する。

 

_UTC(世界標準時)3月23日午前1時50分・PST(太平洋時間)3月22日午後5時50分_

アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ近郊

 

 『ダークヒンデリア』の表面装甲に青い奔流の束が叩きつけられる。

 その荷電粒子砲のエネルギーは表面装甲を貫いだ挙句、内部構造を破壊しながらも反対側の装甲まで貫通する。

 ズムウォルト級駆逐艦が荷電粒子砲を再び装填している間に、モンタナ級戦艦「モンタナ」の40.6㎝電磁加速砲(レールガン)が一斉に吐き出され、寸分狂わず荷電粒子砲の貫通跡に命中し、傷口を広げていく。

 さらにアーレイバーク級ミサイル駆逐艦及びタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦が全てのVLSからダメージが与えうるあらゆる巡航ミサイルや対艦ミサイルが放たれ、『ダークヒンデリア』に爆炎が生じる。

 空母航空団のF-35Cも全力出撃を行い、滑空誘導弾や空中発射巡航ミサイルを放つ。

 第3艦隊作戦戦闘部隊の空母3隻の甲板上ではせわしなく空母艦載機の兵装補充が行われ、点検もそこそこに射出される光景が見られ、駆逐艦や巡洋艦があまりの猛射に残弾が無くなり、補給艦や近場の海軍基地へと弾薬補給に向かう様子も続出した。

 しかし、『ダークヒンデリア』は引き続き損傷を修復することを絶やしておらず、懸念が生まれていた。

 

「装甲を反対側でも貫いたのに、機能停止すらしないとはな。普通は何らかの機能が失われたり、無力化するものだが……。何かしら(コア)のような物が存在するのか……?」

「私の世界に現れたウロボロスに、このような特徴は一切ありませんでした。形状にも類似性が見られません」

 

 「ジェラルド・R・フォード」の空母戦闘指揮所にて戦闘の光景を見るイーストンの隣に、セニアというアンドロイドの少女がいた。

 

「すまないな、現地の戦闘へ赴けるよう申請したが、断われてしまった」

「いえ、大丈夫です。ここで、観察するのも私の役目ですので」

「そうか……」

 

 そう答えると、イーストンは『ダークヒンデリア』の様子を目で分析する。

 

「やはりか、奴はこちらに注意を向けていない。各艦に伝達、沿岸に近づき戦闘を実行せよと」

「ですが、それでは遠距離攻撃のメリットを失ってしまいます!」

「そんな段階ではないのだ!我々は軍人だ、我々は国民を守る盾となるべきなのだ!」

 

 参謀の反対を一蹴し、第3艦隊は陸上へと近づき、「ズムウォルト」から再び荷電粒子砲を放つ。

 だが、それだけで撃破できるはずもなく、まさにその時を狙っていたかのように、『ダークヒンデリア』は「ズムウォルト」に正確無比な赤く輝く光線を放ち、大破させてしまう。

 そして、サンフランシスコ防衛部隊の抵抗を一蹴した『ダークヒンデリア』は加速を開始する。

 

_UTC3月23日午前2時20分・EST(東部時間)3月22日午後9時20分_

アメリカ国防総省 作戦指揮センター

 

「奴はどこに向かっている!」

「このルートは……ネバダ州中央部を通るルートです!」

 

 オペレーターが士官の質問に答える。

 

「すぐに侵攻ルート上の住民に避難命令を出せ!空軍は攻撃を継続!陸上各戦力は敵の侵攻ルートを詳細に把握して集結させて叩く!」

 

 アッシャーは声を上げて指示を出していく。

 

「侵攻ルートに最も近いネバダ州の基地は、トノパ試験場空港、そしてホーミー空港(エリア51)ですが……使用しますか?」

「構わん。この際使えるものは何でも使う、補給拠点として攻撃中継基地の役割を担わせる」

「了解しました」

 

 アメリカ陸軍の迎撃部隊を置き去りにした『ダークヒンデリア』はカリフォルニア州ストックトン近郊上空にて、第6航空団第64戦闘飛行隊、第41航空団第19戦闘飛行隊のF-35A"ライトニングⅡ"、F-16V"ファルコン"、第5爆撃航空団第23爆撃飛行隊、第28爆撃航空団第37爆撃飛行隊のB-52”ストラトフォートレス”、B-1B”ランサー”からなる合同航空部隊と激突する。

 ステルス性を生かし、レーダーにもウロボロスの探知網にも映りにくいF-35Aが先鋒として突入し、大量の誘導爆弾を投下して上部装甲に叩きつけていく。

 さらにB-1Bも擬似的なステルス性を生かし、探知網の影から滑空誘導爆弾及び対地ミサイルを撃ち込んでいく。

 しかし、『ダークヒンデリア』に探知されていたB-52及びF-16らの部隊は対地ミサイルや巡航ミサイルの発射母機として機能する直前に、上空へと向けられた大口径光線の餌食となって、十数機がまるごと撃墜される。

 

「ばかなっ、対地攻撃用じゃなかったのか!」

『こちらベンガル隊、ベンガル4が墜とされた!』

『バンシー1よりベンガル隊、ここは我々に任せて撤退を』

『……了解ッ』

 

 残弾ある限りF-35AとB-1Bの部隊は攻撃を加えていくが、致命的ダメージをもたらす損傷を与えることができず、撃破できなかった悔しさを身に染みながら撤退する。

 

_UTC3月23日午前3時10分・PST3月22日午後7時10分_

アメリカ合衆国ネバダ州オースティン

 

 ネバダ州のほぼ中央に存在するこの町には、アメリカ軍の総力を挙げた戦力が集結した。

 大量のM1A2戦車、自走砲からなる陸軍戦力とF-35Aからなる航空戦力であった。

 この防衛線は当初順調に推移する。

 M270MLRS及びM142HIMARSからなる戦域支援戦力を序盤から投入できたことで、轟音と共にエイタクムス戦域地対地ミサイルが猛射され、夥しい数の爆炎が前面装甲で生まれ修復の暇がないほどに損害個所は広がっていく。

 さらに航空戦力も大盤振る舞いに投入された他、アメリカ空軍地球規模攻撃軍団は総力を挙げており、地中貫通爆弾(バンカーバスター)が連発されて装甲が凹凸だらけになる甚大な損害を与えていく。

 光線によって破壊されてもなお多数いるM1A2”エイブラムス”戦車による絶え間ない連射によって損害が蓄積されていき、M109A6”パラディン”自走榴弾砲の砲撃もそれに加わる。

 

 しかし、戦闘が予想内、予測された範囲に収まる保証などどこにもない。

 突如として、移動と攻撃と修復を繰り返し続ける『ダークヒンデリア』より、粒子の粒から生成されるようにして多数の小型飛行個体が出現する。

 それは旧大日本帝国の特攻兵器「桜花」に酷似した形状を持ち、黒く塗られた表面に映る赤いラインから光線を吐き出す攻撃手段も有していた。

 マッハ1に匹敵する速度を有しており、爆撃機部隊は大混乱に陥った。

 最悪なことに地上戦力に地対空ミサイル部隊は無く、唯一F-35A、F-16V、F-15EXが制空戦闘を可能としていたが、対艦・対地ミサイル兵装が多数を占めており、短距離空対空ミサイル(AAM)を最低限搭載しているのみであとは自前の機関砲しか無かった。

 そもそも制空兵装が搭載されていたとしても、この膨大な数に抗うことはできる訳がなく、防衛線は混乱に乗じて突っ込んできた『ダークヒンデリア』に食い破られる形で崩壊を迎えた。

 

_UTC3月23日午前4時10分・EST3月22日午後11時10分_

アメリカ国防総省 作戦指揮センター

 

 涙ながらにオペレーターより防衛線が崩壊したことを告げられ、室内は沈黙が包み込む。

 他のオペレーターも絶望的な戦況に泣き出し、センター職員に慰められていた。

 

「……覚悟を決めるしかないようだ」

「……そうですね、やるしか……無いようです……!」

 

 ギレットの言葉に、アッシャーは悔しさを表情に表しながら応えた。

 

「目標地点は?」

「このまま行けば……ユタ州ソルトレイクシティです」

「分かった……。すぐに全住民の避難を急がせろ!最低限の遅滞戦闘部隊を除いて、出来る限り全ての車両を動員して全ての住民を避難させるのだ!核を使うなら……せめて国民にあの熱線を浴びせるわけにはいかない!」

 

 ギレットの覚悟は多少の震えがあるものの、決まっていた。

 そして、その覚悟が決まったならば、そこに躊躇は一切なかった。

 無辜の国民を守る為に、これ以上の被害をもたらさない為に。

 

 戦術核では比較にならない威力を持つ弾頭、戦略核弾道ミサイルは今、離床を開始した。




※次回予告

世界の危機(ワールドクライシス)(8)【絶望と希望の前奏曲(プレリュード)

絶望をもたらしたもの、そして希望の灯。
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