Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
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北アメリカ大陸では真っ暗闇の中で、ユーラシア大陸西部では朝焼けが煌めく蒼穹の空に、業火をもたらす鋼鉄の弾頭が投じられていく。
大西洋西部、カリブ海、太平洋にそれぞれ配置されていたオハイオ級弾道ミサイル原子力潜水艦より、轟音と共にトライデントD5
バレンツ海を遊弋中で、凍結した海面に浮上していたロシア海軍
そして、太陽が照りつけるアジアの中華人民共和国陝西省韓城市、山東省萊蕪市、大連市に展開する第806・第810・第822
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ソルトレークシティ上空にて浮遊する『ダークヒンデリア』に核という叡智の炎を伴った6発の弾頭が再突入して着弾。
数万度に及ぶ高熱の火球が現れ、数秒後には閃光とともに熱線と爆風が『ダークヒンデリア』の装甲を融解させ、ソルトレークシティの街を洗い流していく。
同時刻、マリ・エル共和国南東部を進軍中だった『ジスク型』、『ノヴォ=ジスク型』はブラヴァー核ミサイル8発の直撃を受ける。
数万度の放射された熱線は『ジスク型』、『ノヴォ=ジスク型』そして『ムラヴェイ型』の装甲を溶かし尽くし、地上の街並みを高熱の暴風で吹き飛ばしていく。
重慶市に飛来した核弾頭は起爆した後、直撃を受けた複数の『鐘楼型』を消滅させた他、多くの高層建築が倒壊の憂き目にあい、無事な建物など一つもなかった。
そして、未だ残る人々は熱線で肌を焼かれ、暴風によって運ばれる数多の破片によって殺戮され、惨劇の廃墟と化す。
アメリカ国防総省 作戦指揮センター
モニターに映る『ダークヒンデリア』は6発中4発の弾道ミサイルが直撃したと思われ、真っ黒な雲が立ち上っていた。
2発の弾道ミサイルは直接地上へと着弾したものの、その衝撃波によって『バッド級』と呼ぶ小型飛行個体群の多くを撃破できていた。
「『ダークヒンデリア』……高度を下げています。表面のレッドラインも消失しています」
オペレーターが告げる。
目視からでは何もわからなかったが、あらゆる観測手段を用いた結果、これまでとは比べ物にならない損害を与えたのは事実だった。
「撃破できた……のか」
しかし、歓声を上げるものは一人もおらず、誰もがモニターに映る『ダークヒンデリア』の姿を注視していた。
それには本土で核兵器を使ってしまった罪悪感もあるが、何より相手が幾度の攻撃も修復させた前例があり、油断ならない敵だからだった。
「……っ!!」
そして、モニターに映る断面に光の粒子が集まる光景を見てしまったアッシャーは思わず顔を強張せる。
ロシア国防省 作戦指揮センター
ブラヴァーSLBMは『ジスク型』に3発、2体の『ノヴォ=ジスク型』に2発ずつ着弾しており、残り1発は地上へと着弾しているが、『ムラヴェイ型』を巻き添えにしていた。
『ジスク型』はその船体構造の7割を消失し、『ノヴォ=ジスク型』に至っては8割以上を消滅し、墜落するようにその船体が地面と接触する。
漆黒の雲が広がる中、両者とも赤く光り輝いてた線は失われ、沈黙が包む。
「あとは追い打ちをかければ撃破できる」と誰もが思っていたが、誰一人、口に出す者はいなかった。
ロシア本土での核の実戦使用。歴史資料に残る原爆映像や街並みを模した標的に対する実験映像を見たことはあれど、本当に人が住んでいた街で使用したことの重みは明らかに違っていた。
オペレーターの中には、その重圧に耐えきれず涙する者もいた。
「あれはなんだ?」
ふと、モニターを睨みつけるニコルシチャフが呟いた。
モニターに映る『ジスク型』の露出した断面、そこには光を失った漆黒の中で唯一赤く光り輝く水晶体があった。
その光は徐々に輝きを増していき、断面に無数の光り輝く粒子が集まっていく。
やがて船体の修復、否、再構築を開始した。
「嘘だろ……あそこまでダメージを負ったのにか……!」
わずか数十秒で再構築されたその姿は、元の姿とは形が異なっていた。
両方とも船体上部のセイルが消失し、『ノヴォ=ジスク型』の方は船体両側面の円盤と船体各部に配置されたブロック状のパーツが消え、上下に円盤があるシンプルな形状に変化した一方で、『ジスク型』は両側面にあった逆ガル形状となっていたブロック状パーツがブロック状パーツを組み合わせた槍に変化して前方に指向し、上部下部の円盤に変化が無い代わりに、自身を軸として回転する横倒しとなった車輪が出現する。
「追加の核攻撃を――」
「無駄だ……!」
一人の陸軍士官が核攻撃を提案しようとするが、ニコルシチャフの言い放った言葉に遮られる。
「既に我々は8発もの核弾頭を使用した、これ以上は国土が放射能に染まる。そして、たかが数発を放ったところで、今の様に修復されるのは目に見えている」
「しかし……!」
「先ほど光り輝いた水晶体、おそらくあれが奴の
ニコルシチャフは眉をひそめたまま、水晶体が核であることを確信していた。
アメリカ合衆国ユタ州
時を同じくして『ダークヒンデリア』も内部の水晶体が光り輝くことで、消失した構造の断面に光の粒が集まり、再構築を始めていた。
『ジスク型』と比べ、1分程度を要したが、その間にアメリカ軍ができることはほぼ無い。
大きく形が変化することは無く、巨大な飛行船のような丸みを帯びた形状に、槍状の突起を持つ鎖が繋がったような戦車クラスの大きさの触手を両側面4か所から出現させ、さらに胴体下部より史上最大の戦艦主砲の3倍近い130㎝に及ぶ巨砲をせり出した。
漆黒の表面に赤いエネルギーがあらゆる個所で流れ、禍々しく映し出す。
「もはや修復の概念を超えている……あらゆる生物や機械でも不可能だ、復活の域にすら達していると思える……アッシャー国防長官、作戦はあるか……?」
「……無いに決まっているでしょう。私たちは核兵器を過信しすぎた結果です、確かに先ほどの越える核弾頭を放てば撃破できる可能性は高まりますが、放射能の危険度がさらに高まるでしょう」
沈黙が広がる。
通常兵器で攻撃しても修復されるのは前例が証明している通りのため、残されたのは全面核攻撃という身を捨てる最悪の手段だけだった。
もはやアッシャーの脳内にプログレスを動員する選択肢は無かった。
それは核攻撃すら倒しきれない相手を、プログレスで勝てるとは思えなかったからだ。
「『ダークヒンデリア』、前進を開始しました!!」
オペレーターの悲鳴ともとれる報告を聞き、全員の視線がモニターに向けられる。
モニターに映るのは、再構築を行った『ダークヒンデリア』の姿、そして命じていないのにも関わらず攻撃を行う戦闘機隊の姿だった。
しかし、今までとは違い濃密なレーザー弾幕を展開しており、1機、また1機と墜とされていく。
「攻撃手段すら封じられたか……」
重く絶望した空気が作戦指揮センター内に広がる。
『ダークヒンデリア』は抵抗を退けながら東進を続け、コロラド州州都デンバーへと到達する。
既存の侵攻予想ルート上に位置しているため、アメリカ陸軍を中心に市民の避難が続けられていたが、この急速に変化する戦況に対応は難しく、多くの市民が残されていた。
『ダークヒンデリア』は胴体下部にせり出した巨砲をデンバー中心部へと向ける。
ゆっくりと『ダークヒンデリア』本体から赤いエネルギーが消失し、代わりに砲身が真っ赤に光り輝く。
そして、途轍もない赤く光り輝くエネルギーの奔流がデンバーを襲い、デンバーの地に存在する全てを洗い流し、溶かし尽くす。
人々が生活していた跡を完膚なきまでに粉砕し、圧し潰す。
逃げる人々を嘲笑うかのように、デンバーという都市は破壊し尽くされ、無残な廃墟となり都市としての存在意義を失った。
_UTC3月23日午前5時30分・
中華人民共和国北京市中南海
重苦しい空気に会議室が包まれる。
「心労が祟った国防部部長に代わって私が報告します。確認された核搭載弾道ミサイルは計9発。全てが戦術核であったため、一つ一つの威力は控え目ではあります。しかし……全9発が重慶に着弾したことにより、街は壊滅状態となっており、展開していた軍部隊及び退避中の民間人の消息は……不明です」
モニターに映る重慶の惨状、これに会議室の閣僚らは顔をしかめ、目を背ける者もいた。
「なぜ導弾旅が発射したのだ?」
「それについてですが、まず各旅団司令に尋問を行いましたところ、反乱の意思は無く、命令を受けたからとの事。受信記録を調査しましたが、しっかりと受信されていました」
崔はまた言葉を止める。
いや、止めざるをえなかった。
「本当に……一体誰が命令を出したのだ!、この私以外の誰が!!」
宋主席は強張った表情で声を上げた。
その声からは、プライド以外の必要なかった犠牲を出した罪悪感が感じられた。
「現場は混乱していたので、何とも言えませんが……現在、中央軍事委員会の全組織要員を調査中です。しかし、その過程で妙な噂が流れています。それは、途中で発生した電磁妨害も、核弾頭発射の命令を送信したのも、『鐘楼型』であるという噂です」
「奴らが我々の命令系統に介入し、我々に代わって命令を出したというのか!?」
「当初は眉唾物だと判断して切り捨てようかと思いましたが、ただでさえ正体不明の敵なのです。ただの噂として切り捨てられる証拠も無かったのです、何より中央軍事委員会の命令・通信記録からは
会議室の閣僚らに衝撃が走る。
「後悔しても仕方が無い……これ以上無駄な犠牲を増やすなどもってのほかだ。ロケット軍もそうだが、他の部隊にも上級司令部とも相互確認を徹底させよ」
「もちろんです、了解しました」
宋はさらに固く拳を握りしめる。
そこには、ウロボロスとの生存競争には絶対に屈しないという中国の指導者としての覚悟が現れていた。
「少し話を戻しますが、核弾頭着弾時の敵の被害ですが、直撃を受けた個体は消滅したものの、衝撃波を受けただけの個体に関しては一部構造を破壊されるに留まっております。違和感を抱かせないため、わざと攻撃を受ける……敵ながら頭がいいかと」
「効きはするのか……」
「ですが、乱用などできません。ひとまず報告は以上です、これからも報告を上げていくつもりですので」
_UTC西暦2023年・常闇暦1722年3月23日午前5時30分_
黒の世界【ダークネス・エンブレイス】 ロゼンヴィアス連合王国アダランディア城
血のような赤い月が浮かぶ常夜の世界。
時には人に危害を加え、時には使役されるモンスターが多く住まう鬱蒼とした森が広がり、石畳と重厚な石造りの家々が建ち並ぶ退廃的に感じる町並みが点在する。
科学の役目を錬金術が果たし、生活に必要な不可欠なものとして魔法技術が発展を遂げ、日常生活において常に使われる。
人間、エルフ、アンデッド、デーモン、吸血鬼等がそれぞれの種族領の拠点を持って生活しており、特殊な魔法を使えることができる魔女の頂に位置する魔女王を頂点として、各種族長の5人が統治する。
黒の世界の権力者は城によって権力を誇示しており、世界の中心には世界を統治する魔女王の住まう最も巨大な城、アダランディア城がある。
「クラリッサ、報告を頼むぞ」
二人の人以外誰もいない玉座の間。
そこには魔女王の防御結界が展開されており、護衛すら必要なかった。
玉座に座る黒いドレスに身を包み、赤薔薇の髪飾りを身に着ける黒髪ストレートロングの女性こそ、黒の世界を統べる魔女王ミルドレッドだった。
「はい……あれは私、私たちが知るウロボロスとは全然違う……『リトルヴォーク】は私の魔法で倒せる、だけど『ヴォークワイバーン』は分かりません…」
「本来なら、世界水晶を狙うはずのだけど……やはり今までのウロボロスとは一線を画しているか……人の殺戮に特化したウロボロスか……」
「……ここに戻る前に、人が殺されるのを見た。今までも無くはなかったけど、一切脅威じゃない人が襲われるのは……なんか怖かった」
クラリッサはその光景を思い出し、『リトルヴォーク』の大きな口に喰われる光景を想像し、思わず身を震わせる。
「もういいわ。私の力である『世界改変』ですらあの壁を改変することは難しいわ。サンドリアでさえ、こんなウロボロスは知らないと言うから、困ったものだわ」
ミルドレッドは溜息を吐き、もう一度クラリッサに面と向かって口に出した。
「クラリッサ。お前には、もう一度行ってもらうわ……今度は全力で、徹底的に叩き潰しなさい。ああ……もちろん、一人で行かせるつもりはない」
不安がるクラリッサだったが、ミルドレッドはそれを見越していた。
「ノヴァ、アビー。来なさい」
ミルドレッドが防御結界を緩め、扉がゆっくり開かれる。
そこから二人の少女が姿を表す。
「よろしくっす、クラリッサさん」
「アビーだよっ、よろしくね。クラリッサ!」
卑屈な性格が現れている髪の高い位置で結った薄紫髪の少女の名は、ノヴァ・ノストラ。
元気よく室内に入ってきた白く鍔の広い三角帽子を被る桃色ストレートヘアの少女は、アビー・フェニット。
二人がクラリッサの同行メンバーとして呼ばれていた。
「え?どうして」
「お前の戦闘スタイルから判断したのだ、その近接と魔法のバランサーたるお前には、高火力魔法を扱えるアビーと、高速機動が可能なノヴァがチームにふさわしい」
ミルドレッドは相手の心を射貫きそうなぐらい鋭く真剣な目でクラリッサを見つめる。
「高速機動って、私は他より少し速いだけっすよ?」
「アビーはただ頑張るだけだもん。このウロボロス達は、私の魔法でやっつける…だけ!」
ミルドレッドは彼女達の言葉を聞き、少し微笑む。
「分かった。行ってくる」
「健闘を祈るわ。後続もすぐに送る、お前たちを見捨てはしない」
_UTC3月23日午前6時20分・
ロシア国防省 作戦指揮センター
『ジスク型』と『ノヴォ=ジスク型』が西進を再開し、航空部隊の攻撃虚しく前進が止められない現実に、作戦指揮センターでは誰もが敗北を確実視していた。
「これって……!?」
その中で突然、オペレーターが自身のモニターに上がってきた情報を見て、驚愕の声を上げる。
「どうした?」
そこに一人の士官が駆け寄り、そして彼も驚愕の表情を浮かべる。
「国防大臣っ!」
「どうしたっ?」
呼びかけられたロスチヤはすぐに駆け寄る。
ロスチヤは驚いた心境を外見に出さなかったものの、瞬きを繰り返す。
ニコルシチャフはその様子を見て、違和感を持ち、問いただす。
「何があった?」
「はい、日本政府と防衛省、そして自衛隊から現在ウロボロスと交戦中の全国家、全軍隊へ平文の緊急通信及び、全言語、全チャンネルでの公式発表です!音声がありますので、再生します!」
『本日未明、自衛隊所属のプログレス部隊と中型ウロボロス個体が交戦、それを撃破した。繰り返す、プログレス部隊によって中型ウロボロス個体を撃破した。他国の……いや人類の健闘を祈る』
ニコルシチャフはその日本語訛りのロシア語音声を聞き、咄嗟に立ち上がる。
口から命令を出すことを渋り、悔しさを噛み締めていた。
プログレスを戦わせない為の核攻撃が徒労に終わり、プログレスを戦場に出さなければいけないことに、彼は世の中の不条理を感じていた。
そして、その希望に見えた報せも、日本は中型を撃破したのみで大型を撃破できる可能性は未知数であった。
「所詮はインパクト重視の方便だ……」
「ですが、確かに希望はもたらされました。諦めるしかない状況だったのが変わったのです」
ロスチヤの言う通り、作戦指揮センターにいる人員の目の色は、絶望一色から変わっていた。
また、ニコルシチャフにとって躊躇するわけにはいかなかった。
彼はこの国の指導者であり、このままでは国家滅亡を招く事態に対して、出来る事はやらなければならなかった。
「わかった……プログレスの主要部隊長を呼んでくれ、命令ありきで死地には投入したくない、彼女らの同意次第だ」
同時刻
グリューネシルト統合軍本部
「本当なのかっ!」
「確かなようです」
司令官室にいたブルーノ・スコッティ統合軍大将は駆け込んできた補佐官から驚くべき報告を受ける。
「まさか、中型のウロボロス個体を撃破するとはな……【テラ・ルビリ・アウロラ】の援護は?」
「一切していないようです。混乱が生じるとして、指揮系統に入れていなかったみたいで……」
その報告にもスコッティは驚きを隠せず、唸る。
「確かに理解できる判断だが……まさか単独で成し遂げてしまうとはな……世界の希望にはなったか」
「いかがしますか?」
「……未だ不明点は多い。だが、それでも撃破できる可能性が見えたのならば……ペトロザボーツクにて待機しているプログレス第5、第6、第7部隊をモスクワにいる先遣隊の第4部隊と合流させろ。ロシア連邦軍との調整次第だが、共同戦闘の可否は問わん」
命令を受け、室内を出ていく補佐官。
それを見送りつつ、スコッティは敵の撃破に意気込んでいた。
日本からの中型ウロボロス撃破の一報。
それは世界中を駆け回り、世界さえ跨ぎ、希望の
※次回予告
希望を報せた者達の戦いの序章
その苦難は始まったばかり