Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

26 / 50
日本編第一話です。



世界の危機(ワールドクライシス)〈9〉【希望となるまでの苦難】

_UTC(世界標準時)3月23日午前3時24分・JST(日本時間)3月22日午前12時24分_

日本国東京都永田町

首相官邸地下 官邸危機管理センター

 

 作業服に身を包んだ山井首相含めた閣僚らが会議室に鎮座する。

 そこにいる誰もが険しい表情を崩さなかった。

 

「外務大臣はどうした?」

「未だアメリカ大使と会談中です」

 

 山井は眉をひそめる。

 その根底にあったのは、核攻撃を行うかもしれないという危機感だった。

 

「総理、報告したい事が」

「何かね?榊君」

 

 山井に対して発言しているのは、20代後半から30代前半の容姿を持つ、若く活力のある政治家だった。

 最大派閥である山井派に属し、その手腕を見込んで山井自身が閣僚へと登用した、榊是親(さかきこれちか)外務副大臣である。

 

「ロンドン郊外に避難している駐英大使と連絡を取りました。イギリス政府は情報を発信していませんが、ロンドンにウロボロス個体が侵入したのは確実だそうです」

 

 その報告に閣僚らは顔を強張らせる。

 

「迎撃作戦についての情報はあるか?」

「正確な情報はまだですが、他国の駐英大使及び現地軍人との情報交換を行った結果、核兵器を除く戦力で精一杯迎撃を行ったのは確実です」

「……叶わないと言うのか……!」

 

 誰かの言葉が会議室に反響する。

 絶望の空気が漂い始めるが、山井や小原、榊ら一部の閣僚は諦めることを良しとしなかった。

 

「だが最善は尽くすべきだろう、迎撃態勢はどうなっている?」

 

 その言葉を聞き、小原防衛大臣はモニターに関東の太平洋沿岸部の地図を表示させる。

 

「観測される敵『べフォート』の進路から、防衛省としては当初の予測とは異なり、茨城県の太平洋沿岸と断定しました。陸上自衛隊の東部方面隊第1師団の各部隊、習志野の第1空挺団、東部方面航空隊を神栖市沿岸部に、第20高射特科群を成田空港に、第12旅団を首都近郊へと展開、東北方面隊第6師団の各部隊を茨城県中部へと展開させました。航空自衛隊は引き続き、百里からの展開を予定しています。また、海自から特技試験護衛隊を東京湾沿岸に展開し、突破された場合の攻撃を予定しています」

「まるで突破されるのが前提の配置だな」

 

 迎撃態勢を聞いても、誰もが険しい表情を崩さなかった。

 その上、経済産業大臣が苦言を呈する。

 

「仕方ありません。現在確認できる各国の戦況でも、ほとんどが突破されているのです。例外はあり得ません、ならばそれを予想するのは当然です」

「しかし……万全とはいかないか」

 

 それに代わり、山井首相が発言する。

 

「ええ、16式は展開できましたが、あれは軽装甲な上に、悪路での走行は制限されます。装甲化された戦車部隊を送り込むことができればよかったのですが、時間と敵がそれを許してくれないようです。遅滞戦闘を行って、装甲戦力が到着した第二防衛線での迎撃が予定のプランとなります。無論、第一防衛線でも本気を尽くしますが」

「頼んだぞ」

 

 その時、会議室のドアが勢い良く開かれ、防衛省職員が駆け込む。

 

「大臣!敵ウロボロス個体を補足っ、まもなく特科部隊の射程圏内に入ります!」

 

_UTC3月23日午前3時30分・JST3月22日午前12時30分_

太平洋上

ロシア海軍太平洋艦隊旗艦1143.6型航空巡洋艦「ルカ・ヴェチカソフ」戦闘指揮所

 

 太平洋の中間に位置する壁に対して西側からの攻撃を画策した連合艦隊が敗北を喫した後、日米艦隊が敵の予想進路を迂回する形で横須賀基地へと帰投する一方で、ロシア艦隊は海上自衛隊大湊基地を経由してウラジオストク海軍基地へと帰投するルートを取った。

 太平洋を北上中のロシア艦隊は、「ルカ・ヴェチカソフ」含む第41艦艇大隊が中破・大破艦を牽引する一方で、1164型ミサイル巡洋艦「ヴァリャーク」含む第54艦艇大隊は比較的損傷の少ない艦を引き連れていた。

 

「閣下、報告が」

「なんだ?」

 

 太平洋艦隊司令官のセルヴェンコ海軍中将は話しかけてきた参謀に振り向く。

 

「巡洋艦ヴァリャーク以下、第54艦艇大隊が転進要請を出しています」

 

 セルヴェンコはその報告を訝しげに考える。

 そして、数秒間考えて真意にたどり着いた彼は口元に笑みを浮かべた。

 

「ふっ、なるほどな。おそらくはサムライども(日本)の援護だろう。いいだろう、許可してやれ」

 

 セルヴェンコは含み笑いを浮かべつつ、参謀に伝える。

 参謀は少し驚くも、報告を伝えに来たその足で通信機器に向かい、「ヴァリャーク」へと命令を伝えた。

 その直後、「ヴァリャーク」及び11356M型フリゲート艦2隻、22350型フリゲート艦2隻で構成される第54艦艇大隊が転回を開始。

 連合艦隊を敗北に追いやった存在を追うべく、南西へとその足を向け、全速力で向かう。

 

_UTC3月23日午前3時35分・JST3月22日午前12時35分_

日本国茨城県神栖市沿岸

 

 会議にて小原防衛大臣は師団・旅団規模で簡潔に説明していたが、実際にはそれ以上に多くの小規模部隊が陸路輸送や空路輸送、あらゆる輸送手段を活用してかき集められており、東部方面隊の統合戦力部隊として展開していた。

 

 結果的には、普通科部隊では敵の足止めすら困難だった。

 代わって第1偵察戦闘大隊の16式機動戦闘車が105mm砲を撃ち放って、低速行動に入っていた敵に打撃を与えていくなどして抵抗するものの、戦車に劣る軽装甲が災いし、車体が二つに裂かれたり、砲塔が吹き飛ばされるなどして、大破する車両が続出する。

 

「キドセンが!?」

「くっそ!全員身を隠せ!!」

 

 155㎜榴弾砲FH-70で構成される第1特科隊が空中射撃を行い、第1高射特科大隊が近距離・短距離地対空誘導弾を撃ちはなっていくが、それが効果的であったかは別であり、精鋭である第1空挺団と言えども上空からの光線攻撃には身を隠すほかなく、反撃の手段を見いだせなかった。

 一方で航空自衛隊及び在日アメリカ空軍は圧倒的速度差を生かして奮戦。

 少数ながら配備が開始されたばかりのF-3『心神』が圧倒的機動性を見せつけてレールガン及び空対空ミサイルを乱れ撃ちし、対艦番長のF-2戦闘機が4発の対艦ミサイルを一斉射していく。

 空自と米軍のF-35戦闘機はステルス性を存分に生かし、見えないところから攻撃を加えていく。

 だが、航空部隊だけでは決着が付けられないのは、連合艦隊の戦闘を見れば明白だった。

 3機のウロボロスは第一防衛線を突き破り、その戦線全てを崩壊させた。

 

 そして、日本政府はすぐに緊急会議を開催する。

 

「まさかこんな短時間で……!敵の状況は?」

「神栖市の第一防衛線を突破した後、霞ヶ浦の外浪逆浦の低空にて進軍を停止し、旋回を続けています」

 

 どの閣僚も顔を俯かせるが、ある一人がふと顔を上げてモニターを見た瞬間、驚愕の表情を浮かばせる。

 そして、誰かが叫んだ。

 

「おい!モニターを見ろ!何が起こってる!!」

 

 その光景ははっきり言って驚愕する光景だった。

 3機のウロボロスから赤いエネルギーの糸が伸び、直径40mもある赤く輝く光球にエネルギーを供給していた。

 

「まさか、砲撃……」

 

 その予想はすぐに外れる。

 光球へとエネルギーを供給していた3機のウロボロスは光の粒子を拡散させて霧へと消え、光球が実体化。

 浮遊する漆黒の球体はブレードフィンの付いた固定脚状物体を下部の中心から等間隔の4個所に出現させ、上部には榴弾砲の砲身のような棒状物体を空に掲げる。

 再構築が終わった後、赤いラインを各部に生じさせ、特に砲身状物体は禍々しく赤く輝かせた。

 そして、再構築前と比べて遥かに鈍重だが、与田浦を経由して利根川上空へと進入し、遡上を開始した。

 

「……ひとまず、遡上するということは敵の狙いが東京であることは明らかですので、当初の予定に従い第二防衛線にて迎え撃ちます」

「どうして迎撃しない?」

 

 財務大臣が不満げな表情で問い詰める。

 それに小原は口答えするなという口ぶりで、断言した。

 

「無理だからですよ。多少の攻撃を加えても、すぐに損傷を回復されて無駄足となるだけです。ならば、集結してデカい火力を叩きこんだ方がよいでしょう?……まあ、威力偵察ぐらいなら構いませんが」

 

 『べフォート』3機が合体して生成された個体、『べフォート・スフィア』は時速約200kmの速度で利根川水面上を浮遊しながら遡上し続けており、F-2、F-3、F-35ら航空自衛隊機は誘導爆弾、対地ミサイル、対艦ミサイルによる攻撃を仕掛け、在日アメリカ空軍横田基地から離陸したF-35、F-22もそれに続く。

  また、陸上自衛隊東部方面航空隊の対戦車ヘリコプター隊も出撃し、対戦車ミサイルを直撃させていく。

 だが、空に赤い光芒が走った。

 その精度は正確ではなかったが、縦横無尽に放たれる光線は一部のミサイルを撃墜し、対戦車ヘリコプター隊のAH1S数機を撃墜させるなどして壊滅に追いやった。

 

 さらに、その衝撃は終わらない。

 『べフォート・スフィア』上部の砲身状物体はさらに輝きを増し、そのまま高速で射出される。

 その予想外の攻撃に驚く暇もなく、迎撃も間に合わず、人々が空を見上げる中で悠々と空を飛翔し、横田基地敷地内へと突入する。

 

_UTC3月23日午前3時59分・JST3月22日午前12時59分_

日本国東京都永田町

首相官邸地下 官邸危機管理センター

 

「報告を頼む」

「はっきり言いましょう、進軍を止めることは不可能でした。そればかりか、利根川沿いの住宅に誤爆が確認されております」

 

 沈黙が広がる。

 誰もが顔をしかめ、現実だと信じたくなくなる現状に目を覆うものも現れる。

 

「横田基地の被害は?」

「滑走路に弾道ミサイルが直撃したかのような大穴が出来ており、当面復旧のめどは経っておりません」

「破片は鹵獲できたのか」

「……いえ、それが……あれは擬装されたエネルギー弾という可能性があります」

 

 会議室内で一部官僚が疑問の声を轟かせる。

 

「事実です。破壊の痕跡はありますが、敵の弾頭と思われる破片は一切ありません。まさしく超長距離自走砲といったところでしょう。既に再生成は完了していることから、あれはただの射出機構だった可能性があります」

 

 山井は頭を抱える。

 だが、悩むばかりではいられず、次の質問を咄嗟に繰り出した。

 

「位置は?」

「既に利根川から千葉県印西市の内陸部へと移動し、白井市へと入っています」

「このままでは住宅の被害が増加するばかりか……」

 

 会議室が重苦しい雰囲気に包まれる。

 その空気に小原はさらに重たい一撃を加える。

 

「在日米軍から通達がありました。B-52爆撃機2機を厚木基地へと移動させ、オハイオ級弾道ミサイル潜水艦が()()()()()()()()()()()で浮上したと」

「核か……」

「ただし、発射タイミングは日本政府に一任するとのことです。私はこれに『発射しない』という選択肢を投じたいと思います。その代わり、江戸川沿岸、国府台地域で防衛線を構築したいと考えています」

 

 核兵器しか効かないのではないかという空気の中で一石を投じた小原に一部で感嘆の声が上がる。

 山井は一切表情を変えないまま、鈴木統合幕僚長を見る。

 

「なるほどな。自衛隊が動いてると思ったらこういうことか」

「上陸当初から立案してくれと要請されましたから」

 

 山井は顔をしかめた表情を戻し、ふっと笑みを浮かべる。

 一方で会議室の中では核兵器発射を容認する声もあった。

 

「核兵器しかない!イギリスが敗れたのは公然の事実だろう!ならば、可能性のある選択肢を選ぶべきではないか!」

「出来る選択肢ならば、我々は総力を上げた攻撃を行っていません。やり方を変えれば、効果のある攻撃を見込める。そのような答えには行きつかないのですか?」

 

 段々と議論が白熱し、対立の危険性が周りからも見て取れた。

 山井は立ち上がり、一度矛を収めさせる為に両者に話しかける。

 

「二人の話はよくわかった。申し訳ないが、私も核攻撃には賭けられない。敵を撃破出来たとして、数十、数百万人の人口を許容する大都市を灰燼に帰す程の価値を本当に持つのか?加えて、それを実行できる責任を貴方は担えるのか?」

「……そうだな、それを忘れていた。申し訳ない、山井総理」

 

 絶望の空気に押しつぶされ、焦りの余り核攻撃を容認する選択肢を選んでいた官僚らは、山井の言葉通りの光景を脳裏に創造し、我に返る。

 

「自衛隊は直ちに防衛作戦計画がきちんと機能するのか、繰り返し再検討を頼む。我々は政治家としてやるべきことをやる。以上だ、各自持ち場に戻れ」

 

 多くの閣僚が席を立ち、小原もその1人として持ち場に戻ろうとする。

 だが、山井が小原を呼び止める。

 

「小原君、話がある」

 

 そう言い切った彼は自身の部屋へと向かい、小原も後を追う。

 

「内閣官房から話があった。()()()()が出撃を嘆願しているそうだ、どれも日本という国を守りたい、家族や友人を守りたいと言ってるものばかりらしい」

 

 官邸危機管理センター内の総理執務室の椅子に、山井は話をしながら深く座り込む。

 

「やはり……」

「どうする気だ?願いをドブに捨てるのを繰り返すのか?」

 

 山井は珍しく小原に睨みをきかせる。

 

「ですが、無駄な犠牲となっては……」

「何のために政治家をやっている?少なくとも、金目当てでは無いだろう」

 

 ()()()()()、その言葉が小原の脳内で反響する。

 黙り込む小原に、山井は沈黙を破って話し出す。

 

「私は日本という国の為に政治家は力を尽くすべきと考える。今がこの時だろう、犠牲は無視できないが、奴に勝たなければ日本と言う国が終わるのは目に見えている。そうすれば、君が躊躇していることは無駄骨に終わるのだ!」

「彼女たちが守ろうとしている家族も無に帰すと……」

「そうだな。勝てる見込みはあるか?現在の戦力で」

 

 小原は山井に尋ねられ、小さく俯く。

 

「……無いと思われます。イギリスや、アメリカ、ロシアと言った我が国以上の戦力が破れているという情報があります。あそこは大型個体ではありますが、性質は変わらないでしょう」

「やはり、そうか……()()()()()()()()()()()

 

 山井の言葉に小原は怪訝な表情を浮かべ、頭の中で考えを巡らせる。

 だが、答えに辿りつく前に、部屋のドアをノックする音が聞こえる。

 

「……私です」

 

 その少女の声を聞いた瞬間、小原は驚愕する表情を浮かべる。

 官邸危機管理センターに少女が立ち入ることができることも驚愕する材料の1つだったが、何よりその少女の声に小原は()()()()()()()()のだ。

 山井の「入ってくれ」という言葉に呼応して、入室してきた少女の姿を見て、小原は予想通りだったことを思い知らされた。

 

「私を、いえ()()()を呼んだのは日本のプログレスの中で唯一実戦経験があるからですか?」

 

 黒髪ツインテールの少女は、日比野陽菜(ヒナ)

 紫髪ウェービーヘアの少女は、日比野セラフィリーニヤ(セラ)

 二人の共通点は実戦経験があることに加えて、共に北カフカース紛争の被害者であることだった。

 2人ともトラウマを完全に捨てたとは言えず、陽菜は帰国後に親から受け継いでいた地毛の桃髪を全て黒髪に染め、祖父母の実家で暮らしていた。

 セラは拉致された時に家族を殺され、解放後で行く宛てが無かった彼女を親友になった陽菜の計らいで日比野家の養子になり、日本人として陽菜と同様に過ごしていた。

 ロシア連邦政府と日本政府の養子として受け入れる時の交渉に際して、山井と小原は顔を見たことがあり、彼女たちに面識があったのはその為だった。

 

「半分はあっているが、もう半分は二人の意見を聞きたい。君たちは要望を出していなかったと聞いているからな」

 

 その言葉を聞き、陽菜とセラは互いに顔を見合わせる。

 

「正直に言うと……私たちも戦いたいです……!国を守りたいという意識があるわけじゃない、だけど生まれ育った土地と育ててくれた家族、友達を守りたいから」

「小原君、君のやるべき事は決まっただろう?」

 

 山井の言葉で小原もようやく決心が着き、覚悟を決める。

 

「分かりました。すぐに体勢を整えます……しかし、まさか鈴木統合幕僚長も私を騙すのに関わっていたとは」

「申し訳ない。私も彼女たち、そして総理の申し出は無視できないもので。そうそうあとは、榊外務副大臣も関わっておりますよ」

 

 小原は苦笑いを浮かべつつ、陽菜の方へと振り向く。

 

「では、頼みました。先遣隊として指定する位置に向かってください。座標は後で指示します。出撃準備を」

「了解……!」

 

_UTC3月23日午前4時11分・JST3月22日午後1時11分_

東京都江戸川区総合体育館

自衛隊現場指揮所

 

「砲撃を開始せよ!」

 

 第1師団師団長が統合作戦指揮官となって命令を発する。

 奥戸スポーツセンター公園、新小岩サニーゴルフ場、新小岩公園、私学事業団総合運動場、篠崎公園、及び各小・中・高等学校敷地内の校庭に、特科部隊が分散して配置され、単一誘導ロケット弾がMLRSから猛射され、155㎜榴弾が155㎜榴弾砲FH-70や99式155㎜りゅう弾砲、19式装輪自走155㎜りゅう弾砲から放たれていき、『べフォート・スフィア』表面に大小様々な爆発を生起させる。

 江戸川西岸の江戸川グラウンド、東岸の市川市里見公園、国府台2丁目、3丁目道路の見渡しのいい交差点には10式戦車及び16式機動戦闘車と言った戦車部隊が展開し、120㎜滑腔砲及び105㎜ライフル砲による激しい連続射撃を繰り返す。

 降りかかり、襲い掛かってくる光線の隙間を縫うように移動を続け、多方面からの砲撃に『べフォート・スフィア』は晒される。

 

 航空部隊はF-2、F-3、F-35戦闘機を筆頭に、陸自戦車隊に被害が及ばない程度に爆撃を繰り返す。

 この時点で彼らも覚悟を決めており、完全に住民は避難している前提の下で容赦なく住宅ごと巻き添えしていく。

 F-35ステルス戦闘機から統合空対地ミサイルが飛翔し、対艦番長であるF-2戦闘機は『べフォート・スフィア』に肉薄しつつ空対艦ミサイルを叩きこみ、F-3ステルス戦闘機”心神”は音速滑空誘導弾を連続で投下し、住宅の窓ガラスを破壊しつつ、装甲表面に陥没痕を与えていく。

 在日米空軍も横田基地の復讐と言わんばかりに、自衛隊の作戦への参加を熱望し、攻撃を叩きこむ。

 

「特技護衛隊からの砲撃来ます!」

 

 復讐に燃えるのは海上自衛隊と在日アメリカ海軍も同じであり、連合艦隊敗北の復讐戦を望んでいた。

 幸いにも海上自衛隊特別試験技術護衛隊が修理の為に横須賀に寄港しているタイミングであったため、在日アメリカ海軍は駆逐艦以上の戦闘可能艦艇を派遣すると共に、あらゆる共通弾薬を海上自衛隊に提供した。

 

「まさか、初実戦が本土への砲撃とはな。それもよりによって首都近辺とはな……!」

 

 いぶき型打撃護衛艦「いぶき」艦長の小沢久彌(ひさや)一等海佐がそう悔しさを滲ませ、拳を固く握り締める。

 いぶき型打撃護衛艦、これはかつての太平洋戦争中に起工したB65型超甲型巡洋艦であった。

 完成する日を見ることなく終戦を迎え、解体予定ではあったものの、史実と異なり急速に冷戦体制への移行が進んだために、アメリカ合衆国連邦政府が日本の抑止力として建造を続行させた船である。

 1950年に就役したその船は戦前の艦にあった「伊吹」ではなく、「平和の息吹」という意味を込めて「いぶき」と命名された。

 その結果、幸か不幸か戦闘を経験することも無く、レールガンのテストベッドとして運用される中で本土への艦砲射撃命令が下された。

 

「一番二番、撃てぇ!!」

 

 30.5㎝3連装砲2基6門が爆音の咆哮を轟かせ、発射された巨弾は寸分狂わずに飛翔していき『べフォート・スフィア』に直撃を果たす。

 追従していた護衛艦及びアメリカ海軍駆逐艦はその攻撃に呼応する形で、ミサイル攻撃を開始する。

 

 だが、どれも『べフォート・スフィア』に結果的に損害を与えられたものは無かった。

 滑空誘導弾や30.5㎝主砲弾といった巨弾の砲撃は回復速度を僅かに減じたが、それだけだった。

 最初の反撃は砲身状砲弾による砲撃であり、対応する暇もなく江戸川グラウンドへと投下され、約10両の戦車が巻き添えになる大損害を蒙り、さらに球体本体からの連射される強力な光線は10式戦車の装甲をいとも簡単に食い破り、里見公園に展開していた戦車隊は数両を残して壊滅。

 

 正面の脅威を排除した『べフォート・スフィア』は砲撃に晒されながらも前進を再開させる。

 さらに自衛隊指揮所に衝撃の報告がもたらされる。

 

「バカなっ!もう1体のウロボロスが茨城県沖に出現だと!!」

 

 官邸危機管理センターにもたらされた衝撃の報告に一部の閣僚が驚きの声を上げるが、モニターに映ったそれは公然の事実だった。

 その姿が異形とも言っても差し支えない全長20m近い大蛇であり、装甲表面には機械的な構造物がいくつか見受けられるも、ただスクラップを大蛇の形に仕上げた印象であった。

 茨城県沿岸部には『べフォート・スフィア』に突破されて再編成を行っている部隊しかおらず、迎撃部隊はいないも同然であった。

 山井総理、小原防衛大臣、榊外務副大臣、鈴木統合幕僚長は最後の希望としてプログレス達に『べフォート・スフィア』の討伐を託していたが、2体目の援護がある状況では成功率が下がることを予期しており、強張った表情を浮かべていた。

 しかし、突如として大蛇の表面に爆炎が上がる。

 

「誰が撃った!どこが攻撃できたのだ!」

「どこも……攻撃しておりません!」

 

 自衛隊部隊からではない攻撃に会議室は騒然とするが、一つの報告が舞い込む。

 

「ロシア海軍……ヴァリャークより入電!『敵増援は我々ロシア海軍に任せてほしい、日本は全力で正面の敵ウロボロスを討伐せよ。健闘を祈る』と……」

 

 「ヴァリャーク」含む5隻の艦で構成される第54艦艇大隊は対艦ミサイルを猛射し続ける。

 瞬間攻撃能力に長けるロシア海軍艦艇の攻撃だからこそ、大蛇の関心を引いており、主砲による砲撃戦へと移行しながらもミサイル発射を欠かさず関心を引き続ける。

 だが、1隻の船が操舵のミスで大蛇に接近しすぎていた。

 

「アルヴィツェイが接近しすぎです!!」

 

 しかし、大蛇はそのミスを見逃さず、「アルヴィツェイ」へとのしかかる。

 想像以上の重さに船体が軋む中で、大蛇は頭部から大量の炎を吐きつくし、船内各所で起きる悲鳴ごと船体を焼いていく。

 

『た、助け……ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 悲鳴の通信が「ヴァリャーク」に届くも、それを助ける術は無く、ヴァリャーク艦長は何もできないもどかしさに悩む。

 炎が船体を回り、遂に弾薬庫に引火することで、「アルヴィツェイ」は轟沈する。

 

「アルヴィツェイ、轟沈……」




※次回予告

世界の危機(ワールドクライシス)(10)【初めての死線】

日本という国を、家族を、友人を守るために少女達はその手に武器を掴む。
苦難は終わりを告げない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。