Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
_UTC3月23日午前5時42分・JST3月22日午後2時42分_
東京都江東区亀戸9丁目
『べフォート・スフィア』は江東区への進入を果たした。
江東区を突破されれば、中央区、千代田区等の政治・経済の中心地が敵の砲火に晒されることを意味しており、江東区で何としても抑えなければいけなかった。
だが、自衛隊統合作戦部隊は先の電磁パルス攻撃の混乱から作戦部隊再編が間に合っておらず、防壁は敵の攻撃を受ける前から脆かった。
「もう……ここで私たちが止める!!」
プログレスの人以上ある機動力をもって追いついた陽菜はそう意気込んだ。
受けた傷は強く痛み、死ぬかもしれない恐怖を感じていたが、それでも彼女は戦い続けることを選んだ。
「美海ちゃんは飛び回って、千尋は敵の動きを封じて」
「「わかりました!」」
美海と千尋は声を上げて返事する。
「セラは私の、美伽ちゃんは千尋の援護をして」
「うん」
「はい!」
「志津江さんは全員を支援しながら、私についてきて」
「もちろんですよ」
「さくらはみんなを守って」
「みんなを守るのは当然です!」
「いい?決して1人で戦おうとしないで、ひとりぼっちで戦わせることなんてしない!私達は全員で戦う!」
陽菜は隊長として命令を下し、全員が頷く。
誰もが心も体も傷つきながらも、それでも敵に向かっていった。
事前砲撃を行わず、陽菜と美海が奇襲をかけた。
陽菜は志津江によって性能が強化された日本刀を構え、美海は
先程とは違い、日本刀は深く刀が食い込んでおり、剣は深く突き刺さり、剣先から放出された暴風は球体そのものを貫通していた。
しかし、流石に撃破できるわけが無く、2人は咄嗟に刀と剣を抜き取り、ばら撒かれる光線を回避しながら離脱し、2本の触手が2人に襲いかかるが、その寸前でさくらが展開した2つに分割された盾にその動きを阻害された。
さらに、千尋が重力球を投げて、触手を根元から断ち切った後、右拳に重力球を纏って、球体を殴り付ける。
重力球を装甲にめり込ませると直ぐに離れ、重力球は収縮して大きな爆発を起こす。
そこにできた穴に美伽がドッジボールぐらいの火球を生み出して放り込み、球体内で小規模な爆発が起きると共に、炎が損傷部を中心に広がる。
幾度も損傷を負い、『べフォート・スフィア』にとって焦らしてくるような攻撃に対して、暴挙の反撃に転じた。
球体上部の砲身状物体を異例の直上という角度へと向け、赤い輝きを増す。
「嘘っ!ここに落とす気……!」
陽菜は憔悴感溢れる表情を浮かべる。
その物体の威力は人を複数人死なせることが出来るレベルで、誰かが止めなければならなかった。
だったら私が、と結論づける前に、美海が陽菜に意見を出した。
「陽菜先輩、私がやります!陽菜先輩達は、敵を倒してください。陽菜先輩が倒れたらっ、私達は何も出来ないですっ」
美海は先程陽菜が傷を負った時の恐怖を思い出し、泣き出した。
「うん……わかった。任せるよ」
そう言葉を送った時、砲身状物体は離床を開始した。
美海は風の力で浮き上がり、その物体を追う。
すぐに同高度へと到達し、彼女は剣を構えて言い放った。
「
剣先から発せられる風のエネルギーの奔流は砲身状物体内を貫き、巨大な火球が空に生まれる。
美海は衝撃波に巻き込まれ、吹き飛ばされるようにして地上へと落下。
さらに『べフォート・スフィア』は陽菜たちの陽動を完全無視してまで住宅街を巻き添えに光線による追い討ちをかけた。
「美海!!」
さくらが叫ぶ。
その声を聞いたのか否か、爆煙が覆う中で美海はフラフラしながらも攻撃を受ける間の時間で空へと飛び、上手く着陸することが出来ず、前から転ぶようにして戻ってくる。
「痛っ……あ、私は……大丈夫です。だから、陽菜先輩達について行きます。……ほんとに大丈夫」
私は大丈夫、と自分に言い聞かせるようにして繰り返すが、彼女の状態は大丈夫には程遠かった。
右脇腹に直撃を受けて大量の血が服に滲み、左肩部、右脚太腿部にも出血が見られた。
これだけの傷を受けてもまともな精神状態なのは、彼女が無理強いしてまで耐えているから。
陽菜からはそれが丸わかりであり、口をかみ締めた彼女は志津江に振り向いた。
「志津江さん、体力のある限り、全員に強化をしてくれる?多分これが最後だと思う、もうみんな体力の限界だから」
陽菜は笑顔で語りかけるが、彼女も酷く疲れ切っており、セラからはそれがまるっきり見えていた。
「……陽菜ちゃん、分かりました……!」
志津江が彼女たちやその持っている武器に強化を施した後、陽菜と美海は球体表面に張り付いた。
陽菜が日本刀で装甲表面を力のある限り切り裂いて突破口を作ると、美海に振り向いた。
「美海ちゃん」
「はい!
美海は最後の力を振り絞る気持ちで、魔法を発動させた。
突破口に剣先を突き刺し、暴風以上の風の奔流が『べフォート・スフィア』の球体に破壊をもたらした。
薙ぎ払われたエネルギーは球体の5分の1を損壊させる被害を与え、仲間たちに勇気を与えた。
「グラビティ・シャボン!!」
「ファイアスターター!!」
千尋と美伽も互いにエクシードを発動させ、千尋は巨大な重力球を生み出して投擲し、重力源に干渉する形で巨大な爆発を起こし、美伽は球体表面に発火してそれを瞬時に燃え広がらせて、幾度も放たれる光線の熱で誘爆を引き起こした。
過去例を見ない損害に、『べフォート・スフィア』自体もさらなる猛烈な反撃を繰り返す。
陽菜、美海、千尋、美伽を守るために警戒していたさくらは攻撃の兆候にいち早く気づき、周辺にあった瓦礫から数多くの盾を作り出し、『べフォート・スフィア』から放たれる高威力光線の連射を次々に防いでいく。
だが、逆鱗に触れたかと思うような猛烈な連射に、盾が足りなくなり、その射線に身を晒す。
「あがっ……」
高威力光線に腹を貫かれたさくらは痛みに喘ぎ、そのまま空中から地面に叩きつけられた衝撃で口から血を吐き出した。
地面に多くの血が流れ出す中、それでもさくらは立ち上がることを諦めなかった。
「こんなんで……私は……死なない……!」
だが、大量の血を流したその姿は悲惨そのもので、何よりさくら自身が手に力が入らないことを感じ取っていた。
「さくら!」
「さくらちゃん!」
千尋と美伽の2人は返事を返してくれないさくらに必死になって呼びかける。
しかし、呼び掛けに気を取られてた千尋と美伽は『べフォート・スフィア』の怒りの矛先を自分たちにも向けられていたことに気づかず、その代償をその身で受けた。
2人に容赦無く光線が放たれ、千尋は咄嗟に重力球を生み出したことで致命傷を避けるが、左腕を裂かれ、美伽は右腹を貫かれ、2人とも血を撒き散らして動けなくなり、瞬く間に三人が行動不能となってしまった。
力を使い果たした美海は無力さを感じ、この光景を見ていた陽菜は覚悟を決める。
「みんなが……」
「……やるしかない!」
陽菜はその手に持つ日本刀で突破口を一閃して何度も斬る。
陽菜が攻撃したことで、『べフォート・スフィア』の関心は陽菜に移り、光線攻撃に身を晒す。
「ぐぅ……!だけど、まだ……!」
「陽菜先輩っ、援護します!」
陽菜は体に光線の連射をまともに受け、各部から出血するが、その痛みに口を嚙みしめ涙を浮かべながらも、決して悲鳴を上げずに斬り続ける。
その身を案じた美海とセラは引かせるのではなく、共に戦うという選択肢を選ぶ。
「
エクシードを維持する数多くのエネルギーを使い果たした美海は少量の風しか生み出すことができ無かったが、それでも傷を与えていく。
「砕けて……!」
セラはその手に構える20式小銃を撃ち、装甲を叩いていく。
『べフォート・スフィア』はそんな二人に対して球体表面から光線を発射すると共に、2本の触手を指し向ける。
頭上からの攻撃、それに二人は対応できずにいた。
だが、向かってくる触手に突然、盾が激突してその進路をふさぐ。
その正体は満身創痍のさくらが力を振り絞って二人を守った瞬間だった。
その間に陽菜は光線を身に受けても尚斬り続け、やがてコアの赤い輝きが漏れ出ているところまで突破に成功した。
「セラ、撃って!!」
「わかった!!」
セラの持つ小銃から彼女のエクシード『高威力化』の効果が込められた弾が大量に吐き出され、コアを守る最後の防壁が削られていき、遂にコアが露出する。
すぐに修復を試みる動きを見せるが、このチャンスを逃さず陽菜はそのコアを斬りつけて、コアを砕いた。
その瞬間、『べフォート・スフィア』の球体は全て消滅し、代わりに『べフォート』
「くっ……!」
セラが咄嗟に小銃で迎撃を試みるが、最高速度600kmもある相手には無駄な足搔きでしかならず、却って注目を浴び光線の攻撃を受ける。
背中から光線を受けたセラは血を吐き出して、そのまま地面に倒れ伏す。
「セラ……!!」
陽菜といえども大事な親友であり義姉妹が倒れた時には激しく動揺を見せるが、動くことが出来なかった。
その時、隣にいた美海が声をかける。
「陽菜先輩っ、私のエクシードで空に飛ばします。そこで斬ってください」
「……ありがとう、美海ちゃん」
美海は
そして、そのまま『べフォート』に追いつき、陽菜は力を込めて『べフォート』を両断した。
バランスの崩した『べフォート』は地面へと落着し、陽菜と美海は追うようにして地面に降り立つ。
その『べフォート』は落着した瞬間から『べフォート・スフィア』へと不完全な変形を遂げようとしており、追いついた陽菜に光線の連射を浴びせる。
陽菜は幾つかは刀で弾くも、直撃を受けた方が多く、傷の痛みに疲れた表情を浮かべる。
『べフォート』が高威力光線を自分に向けて発射しようとしてるのを見て、悔しさを嚙み締めた表情を浮かべる。
だが、眼前に青い幻影が現れてそれを防ぎ、咄嗟に志津江が撃った威力や貫徹力が超強化された拳銃弾が『べフォート』のコアを偶然貫いて消滅させた。
「あなたは……」
『あなたに看取ってもらった少女、と言えばわかる?でも、本来ならこういう使い方がじゃないんだけど、死んだ時に魂がこっちに来ちゃったみたい』
その幻影は陽菜の言葉に反応して言葉を返す。
彼女が言った内容に陽菜は目を見開いて驚きを隠せない。
「……ありがとう、助けてくれて」
『どういたしてまして、間に合ってよかった……私はね、叶うならやっぱり、生きて長い人生を歩みたかった……!』
彼女は大粒の涙を流す表情を幻影で見せる。
「分かった。私が、いや私たちが出来る限り長い人生を、全うした人生を送る、これでいい?」
『……うん。私が生きるはずだった分まで、生きて……それが私の今生まれた願い……あ、時間みたい」
「時間?」
『本来は死んじゃった人間がエクシード使うなんてできないから、マナが残り少なかったらそれで終わり……だから、バイバイ……』
陽菜もバイバイと返事すると、青い幻影はたちまち形を崩していき、虚空へと消える。
「陽菜先輩、残る一体の敵は太平洋方面に逃走中です、彼女……あの人ですよね」
会話を終えた陽菜に美海が話しかける。
鷹の目で追尾していた美海だったが、顔からは疲れ切った表情が丸わかりだった。
「うん……私があの子の分まで生きる、そう決めたから。それよりも、みんなは?」
「みんな、生きてますよっ……みんな足を引きずりながら、所定の位置にいます。あとは陽菜先輩だけですよ……陽菜先輩、勝ってよかったですっ……」
陽菜に言葉を返してる間に、美海は目を潤わせ、涙を流しながら陽菜に抱き着いた。
これこそ、人よりも強い力を持つプログレスがただの少女でしかない証でもあった。
二人が到着すると、仲間たちはボロボロの姿で出迎えた。
「良いところ、陽菜と志津江さんに持ってかれましたね……」
「千尋ちゃんだって、頑張ったよ」
「やめてください、志津江さん」
千尋が志津江に髪を撫でられる光景が見えたり、さくらと美伽が笑顔で話合ってる光景がその中にはあった。
そんな光景を見てると、陽菜の瞳に涙が潤い、ポツリと一滴の涙を流す。
「どうしたの?ヒナ」
「ううん、大丈夫……。ただ、みんなが生きてるのがなぜか嬉しくて、みんな、生きて戻ってきてくれてありがとうございますっ……」
その言葉に志津江が笑みを浮かべる。
「ねぇ陽菜ちゃん。私さ、自衛隊の調理師になろうと思う。料理作ることだけが好きだから、みんなを食事で笑顔にしたいって思う」
「いいと思います、私は応援してます。なんなら推薦状も書きますよ」
その時、隣でドサッと倒れるような音が聞こえる。
陽菜が振り向くと、美海が倒れていた。
「美海ちゃん……!?」
「っあ……大丈夫です……ただ多分血を失い過ぎたから……」
「……そうだね、救助が来るまで安静にしとこう」
_UTC3月23日午前6時08分・JST3月22日午後6時08分_
東京都千代田区永田町
官邸危機管理センター
『べフォート・スフィア』が江戸川区へと入った時点で多くの省庁官僚が自分たちの勤める省庁を出て立川等の政府一時避難施設へと避難し、野党議員の大部分と与党議員の一部が敵の侵攻予測ルートからは遠い選挙事務所や党施設へと身を寄せている中で、山井総理大臣率いる内閣閣僚らは永田町を動こうとはしなかった。
国民よりも先に逃げるわけにはいかない責任感と、自衛隊に命令を飛ばす立場にいることもその理由の1つだったが、何より彼女らを信じていた。
神頼みに等しい行為だったが、彼女達を頼らないという選択肢はその状況が許さなかった。
陸上自衛隊首都防衛師団が首相官邸を守るように展開し、誰もいない道路に居座るようにして10式戦車が移動する。
官邸内もいつものように多くの報道陣や官僚らが行き交いするような光景は無く閑散としており、内閣関係者以外ほとんど居ないことが見て取れた。
そんな中で衝撃の報告がもたらされる。
それは陸上自衛隊の偵察情報収集部隊の先遣隊と、航空自衛隊機から鈴木統合幕僚長を介して伝えられた。
「本当にやったのか……」
山井は込み上げる気持ちを堪えつつ、吐露する。
偵察情報収集部隊から陽菜達プログレスの戦いは官邸危機管理センターにまで伝えられており、何もできない大人に代わって少女達がその体を傷だらけにしていくのは、想像しただけでも非常に心苦しい思いを痛感していた。
だが、全力で戦わせるためには余計な援護はできず、自衛隊も無力感に苛まれた。
近隣のカメラが破壊されたために遠方のカメラから遠目で映されるモニターをただ見つめることしかできなかった状況に、その報告はもたらされた。
確かに託してはいたが、無理だと思っていたのも相まって、信じることが出来ない者の方が多かった。
だが、偵察隊から伝えられる更に詳細な報告がもたらされると、その信憑性は非常に高くなった。
「山井総理、これは事実です。すぐに今わかる結果を世界各国に送信すべきです」
彼女達を信じ、希望を託した山井が感傷に浸っていたところに、榊外務副大臣が進言する。
その言葉に山井は自身のやるべきことを思い出し、命令を下す。
「……そうだな。すぐに情報をまとめろ!各国に緊急通信文送信の準備及び、会見の準備だ。カンペはいらん、私の思いを伝える」
「こちらはすぐに救護部隊を送ります。我々が想像できない程に傷ついています、幾ら人より優れている力を持つとはいえ、決して死なないわけではありません」
「よろしく頼む……『アナコンダ型』はどうする?」
「引き返してきたプログレス部隊をヘリコプター部隊で神栖市まで輸送し、地対艦ミサイル部隊、空自と共に攻撃を仕掛けさせます」
「そうか、やり方は一任する」
陽菜達によって、『べフォート・スフィア』を撃破できた日本は世界の希望となる。
だが、中型個体でも少女達は大きな傷を負い、ギリギリのところで勝利できていた。
これが大型個体ともなれば、どのような損害規模となるか不安要素は残りつつも、確かに世界は撃破できる可能性が生まれたことに喜んだ。
※次回予告
ロシアの大地で、少女達は激闘に身を投じていく。