Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
前半に力を入れすぎて、後半が若干ダイジェスト形式になってしまったと反省。
※この作品はフィクションです。
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ロシア連邦チュメニ州ヤマロ・ネネツ自治管区チリチム上空
ニジニ・ノヴゴロド州よりさらに北方。
凍てつく寒空に覆われているチュメニ州チリチム上空に2つの雲の尾を引くジェット戦闘機の姿があった。
「ズカフ04、そちらの状況は?」
『問題ありません』
『こちらズカフ02、こちらも異常なし……しかし、南では同じ空軍連中がドンパチやってるのに、俺たちはこんな哨戒任務って……退屈すぎませんか?』
「口を慎め02。哨戒任務も立派な作戦行動だ」
2機のジェット戦闘機──Su-27SM2にはズカフ01と02の二つのコールサインが付いており、それを束ねるズカフ中隊は2機ずつの編隊で通常よりも広い範囲の哨戒に当たっていた。
「まあ……力になれないことには悔しいがな……っ!!」
『隊長?……なっ』
二人は同時に声を上げる。
空軍パイロットとしての優れた視力がその
壁の表面から赤い裂け目が広がり、そこから突き破るような形で一つの機影が現れた。
その形状は、センチュリーシリーズに数えられるF-102”デルタダガー”に似た形をしており、モデル機体と同様の超音速性を即時に発揮し、2機のSu-27は回避を迫られた。
2機が互いに大きく横へと逸れると同時に、それは2機がいた所を瞬間的に通り過ぎる。
「小型……いや準中型クラスか……追うぞ!」
それは確かにF-102に似ていたが、漆黒に塗られた機影がそれは全くの別物であることが現れていた。
コクピットブロックが無くさらに先細りした形状、横に伸ばされた主翼、既存の翼の他に両斜め下方につけられた翼、両翼端から伸びる鎖状の触手、20mを超える個体全長等、明白な違いが見えていた。
「ズカフ02!タイミングを合わせろ、ミサイル発射!」
「
2機のハードポイントより中距離空対空ミサイルが放たれると、的確に誘導されて機体後部へと着弾する。
従来のウロボロス、少なくともロシア方面の小型・中型個体ならば、損傷を修復するために速度を落とすはずだった。
だが、その個体は速度を落とすことなく、むしろ更に加速しながらも被弾によって受けた損傷を即座に修復する。
「噓だろっ……!」
『敵個体、更に加速っ……まもなく時速3000kmに到達します!追いつけませんっ』
「司令部……いや、国防省に伝える!重大事態としてな!」
_同時刻_
ロシア連邦国防省 作戦指揮センター
「作戦は失敗か……」
「ええ。クストヴォを突破され、ニジニ・ノヴゴロド州を守る戦力は現在のところありません」
室内は重苦しい空気に包まれていた。
ニジニ・ノヴゴロド州における敗北の結果、窮地に立たされているのは周知の事実であり、プログレス戦力が破れた今、本当に勝てるのかという疑心さえ生まれていた。
「と、とにかく、カザンから撤退中の3個戦車旅団及び5個自動車化狙撃旅団をすぐにモスクワ前面に引っぱり出せ!」
一人の陸軍士官が怒号を上げる。
”無茶すぎる”との指摘が飛ぶも、それに臆することも無く言葉を続ける。
「そんなことは分かっている!!無茶でも構わん!国が滅び、人民が彷徨うことになるのを回避できればどうだっていい!」
議論が続く中、ニコルシチャフは椅子に座り手を組んで沈黙を続けていた。
その最中、突然オペレーターが声を上げる。
「チュメニ州哨戒航空部隊第98航空中隊より受信!繋ぎます!」
『ズカフ01より作戦指揮センター!チリチム上空を哨戒中に、壁より新たなウロボロス個体が出現!推定速度は時速3000kmで……恐らく──』
『──アルハンゲリスクへと向かっていると思われます!』
衝撃が走る。
提供されたカメラ映像に映る超音速機じみた漆黒の機体を誰かが睨みつけるも、最悪の事実は変わることはない。
「……アルハンゲリスクには、現在少数の防衛部隊しか残っておりません。ただ──」
「ただ?」
「──ただし、海軍は事情は変わってきます。艦隊戦列艦”イヴァン・ヴェリキーイ”含む第69艦艇大隊が現在アルハンゲリスク港にて寄港しております」
その発言を聞いたニコルシチャフは立ち上がり、口を開く。
「当該個体の呼称を『ツヴィート』と命名。第69艦艇大隊に迎撃を命じろ」
「その意味は?」
「特にない。そもそも、国土を用も無く不必要に荒らす無法者の呼称に、崇高な意味など必要ないだろう?」
一人の士官から意味を問われると、ニコルシチャフは怒りの感情を込めて吐き捨てる。
「……確かに」
「では、ただちに伝達します。アルハンゲリスク市政府にも連絡を!」
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ロシア連邦北西連邦管区アルハンゲリスク州
州都アルハンゲリスク
避難警報が鳴り響くアルハンゲリスク市。
その港湾に寄港する艦隊戦列艦「イヴァン・ヴェリキーイ」の
「推定最高速度3000km/h、国防省の分析でも最速約20分でここアルハンゲリスクに到達すると思われます」
報告を聞き、より一層表情を強張らせる者の内、海軍帽を深く被る海軍大佐の階級章を身につけた男が口を開く。
「どのような敵であれ、やれることはやるしかあるまい。まあ……幸いなのは、娘夫婦を極東に置いてきたことだな」
そう口にしたスチェパン・レナートヴィチ・ラトロワ海軍大佐は海軍帽を被り直すと、潔く指示を出す。
「全艦戦闘準備!地上要員は市民の避難誘導を。艦隊各艦は民間船の護衛に当たれ!本艦は彼らの盾となる!」
指示は滞りなく伝達され、アルハンゲリスク市民の避難誘導と並行して迎撃準備が整えられていく。
だが、わずかな時間でその全てを完遂することは不可能だった。
そして、20分後。
アルハンゲリスク上空に音速を越えた速度で飛行する『ツヴィート』が現れ、その衝撃波は高層ビル群のガラスを木端微塵に吹き飛ばし、未だ逃げ惑う市民らの頭上に破片を降らす。
さらに、殺意が籠っているかのように、多数の赤い光弾をばら撒いていき、高層建築物の多くが直撃を受けて損壊する。
「VLS全番開放!対空ミサイル、順次発射ぁ!!」
それに手をこまねいて見ているロシア軍ではなく、市民の海上への避難誘導の傍ら、海軍艦艇及び陸軍の地対空ミサイルシステムより数多くの対空ミサイルが放たれる。
的確に誘導されたそれらは、速度は違えど『ツヴィート』へと殺到する。
「全ミサイル、まもなく目標へ着━━『ツヴィート』急回避!!4割のミサイルが目標を見失いましたっ!!」
だが、『ツヴィート』は一瞬の内に時速3000kmに加速し、人類の作り出す飛翔体では絶対に不可能な機動で急旋回を行うことで、一部のミサイルが目標を見失う。
残りのミサイルは懸命に追い続けるも、速度差で引き離されていくものも存在し、残った2割程度のミサイルだけが『ツヴィート』へと着弾する。
しかし、その程度では瞬く間に修復されてしまい、街への攻撃を再開する。
「大天使の町」の意味を持ち、かつてのピョートル大帝期に開発された伝統ある街並みが壊されていく事に、長年アルハンゲリスクの地で勤務する陸軍の将兵らは怒りをあらわにした。
「こちら、戦車隊。目標への射撃を開始する!」
T-72B2”ロガートカ”で主に構成される戦車中隊群は建物の影から飛び出して砲弾を上空へと放つ。
だが、音速を越える速度で移動する敵に当たる可能性は低く、数多の砲弾は虚空を通り過ぎる。
代わりに、『ツヴィート』は赤い奔流を多方向に放ち、建物ごと一部の戦車を大破させてしまう。
「対空ミサイルは当たるが、破砕効果が後ろへと流れてしまい奴を撃破しきるには至らない。さりとて対艦ミサイルはあの柔軟な機動性の前では、楽に回避されてしまうのが目に見えている」
”ならば”と、ラトロワは一拍置いて言葉を続ける。
「起爆式の爆薬よりも、物理的な破壊力に勝る本艦の主砲弾で撃破する。避難民を分乗している各艦、及び陸上の各部隊に伝達。退避せよ、と」
”イヴァン・ヴェリキーイ”の主砲、40.6㎝3連装3基9門の砲口は曇天の空を睨みつける。
主砲弾が既に装填された主砲は、『ツヴィート』の未来位置へと照準を調整しつつ、命令を待った。
「全主砲発射用意!第一射、放てぇ!!」
艦の周囲で爆音が響き渡ると共に、その巨弾は放たれた。
しかし、いくら現代の照準システムだとしても、その脅威を認識した『ツヴィート』によって避けられてしまう。
だが、砲撃を絶えず行い、随伴巡洋艦のミサイルも加勢し、その応酬は時が進むにつれて激しさを増していく。
「敵個体!本艦に攻撃を集中!!」
”イヴァン・ヴェリキーイ”を確実な脅威と認識した『ツヴィート』によってビームで撫でられ、幾多のレーザー、光弾が放たれる。
現代の対艦ミサイルに耐えうる装甲を獲得しているが、対レーザー防御は施されておらず、甲板を焼き、装甲に傷をつけていく。
「被弾……ですが、損害は軽微!」
「よし……ならば戦闘続行!再度、照準を合わせろ」
とはいえ、戦艦は簡単に落とせる存在ではない。
勇ましく砲撃を撃ち返し、速射砲とミサイルの弾幕を形成する。
そして、奇跡的に1発の砲弾が『ツヴィート』の片翼に命中して引きちぎる。
「命中……!」
「いや、だめだ!」
参謀らは啞然としながら悲痛な声を上げる。
40㎝級の砲弾が翼に直撃しておきながら、その行き足は止まることも無く、高速飛行中に修復を完了させる。
さらにその悪知恵を働かせ、1隻の民間船に高出力ビームを振り下ろし、数多の光弾を”イヴァン・ヴェリキーイ”の後背に降らす。
「民間船に直撃弾!」
「奴、我らが守ろうとしているのをわかって……!!」
当然、将兵たちは怒りの感情を昂らせる。
その思いは艦隊だけでなく、陸軍にも共通し、”イヴァン・ヴェリキーイ”の砲撃だけでなく、第69艦艇大隊から対空・音速巡航ミサイルが放たれ、戦車部隊も対空射撃を行い、ひたすら一撃を与えようと応酬を繰り返す。
対する『ツヴィート』は自身に最も脅威となる艦艇群に対して牙を向け、光線を振り下ろす。
「ストィキン被弾!」
その標的となったのは1隻の巡洋艦であり、激しく黒煙を吐き火災も起きている状態ながら、主砲であるAK-130連装速射砲から火を吹き、ミサイルの発射を繰り返すなど、その抵抗の意思は挫けていない。
それに呼応し、"イヴァン・ヴェリキーイ"も砲撃を続行。
空に40cm級の砲弾を飛ばし、高速で回避を続ける『ツヴィート』の周囲に爆炎が乱発する。
「近接信管ではダメだな。時限信管に切り替えろ、奴の未来位置に直撃させる」
ラトロワは『ツヴィート』を睨み付けながら口を開く。
その命令に応じて40.6㎝主砲9門に自動で砲弾が装填され、その1射目はすぐに放たれた。
『ツヴィート』に殺到する砲弾、直撃することは無かったがその外殻を破片が傷をつけた。
明らかに砲弾の反応が異なることに気が付いた『ツヴィート』は”イヴァン・ヴェリキーイ”を脅威と判断して攻撃を集中する。
今度は
数多の光弾が装甲へとぶつかり、主砲塔より遥かに脆い速射砲群を吹き飛ばし、ミサイル発射の
極太の赤い奔流も連続で振り下ろされ、流石の戦艦と言えども激しい炎を噴き上げ、甲板が炎上する。
さらに『ツヴィート』の機首から真っ直ぐ伸びた赤い光線は”イヴァン・ヴェリキーイ”の中央部へと数回連射される。
その時、耳をつんざくような激しい爆音が戦闘指揮所へと響き渡った。
『ツヴィート』が狙ったのは、各艦への指示で通信量が増大していた戦闘指揮所だった。
いくらウロボロスであろうと、通信量を測るとは思われず、完全に想定外の攻撃だった。
幸いにして攻撃の規模は小さく、数人の士官が負傷しラトロワは腕に切り傷が出来た程度で済んでいた。
鋭い痛みに険しい表情を崩さないラトロワは声を上げた。
「損害報告!」
わずか数十秒程度ではあるが、『ツヴィート』の攻撃が止んだ隙に今まで受けた攻撃による損害が報告されていく。
「航法システムの一部に異常発生!されど、射撃管制に問題無しっ!!」
「ならば結構!主砲全門、照準連動!」
ラトロワが吼えると共に、未だ健在な9門の主砲が『ツヴィート』を狙いだす。
だが、高速で飛行する相手を捉えるのは容易ではない。そう思ったのもつかぬ間。
『ツヴィート』の予想進路を塞ぐように。いや、『ツヴィート』を所定の進路へと誘導するように、第69艦艇大隊構成艦、陸軍戦車部隊及び地対空ミサイル部隊、駆けつけた空軍機から多数のミサイルが放たれて、『ツヴィート』は回避を半ば強制されてしまう。
「『ツヴィート』の未来位置への予測照準完了!」
「放てぇ!!」
射撃可能位置へと誘導されてきた『ツヴィート』に対し、40.6㎝3連装砲3基9門の主砲が火を吹く。
現代型の射撃管制装置により寸分狂わずに放たれた砲弾は、全ての砲弾が『ツヴィート』へと直撃する。
1発は耐えた個体であっても、9発という過剰な破壊力を受けてその行き足は止まり、修復する間もなく暴力的な破壊に耐えられず崩壊を迎えた。
直後、傷跡が多く残る街が歓声に湧いた。
「終わったな……」
誰かが静かにそう呟いた。
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ウクライナ共和国首都キーウ 大統領府
東欧の国、ウクライナの大統領府会議室は重苦しい緊張感に包まれていた。
「……報告します、ロシアとの国境より東に50kmの地域にて中型ウロボロス個体を確認。形状等の詳細は不明ながら、多数のムラヴェイ型を引き連れて我が国へと侵攻してくるものと思われます」
ウクライナ軍士官の報告に、軍の重役や閣僚らは悲痛な表情を浮かべる。
大型ウロボロスの侵攻にロシア軍は敗走を続け、中型ウロボロスについては日本が撃破しているが、日本程の国力も無いウクライナが撃破できるという自信は彼らの中に生まれなかった。
たった1人を除いて。
「我らを獲物と見たか」
中央に座る顎に白髭を生やす人物、ニコルシチャフ大統領とも親交を持つ正真正銘のウクライナ共和国大統領であった。
最初の言葉に寒気がして身体を震わす者がいたが、彼はそれを気にも留めない。
「確かに、我々は大国の狭間にある国に過ぎない。戦力も褒められたものでは無かった。……だが、それは2014年以前の我々だ!」
彼はカッと目を見開いて言い放つ。
「我らを舐めるな。大国には戦力も劣るが、それでも国の一つであることに変わりない。奴らに我々の本気を、覚悟を見せつけるのだ!」
大統領の覚悟と勢いに気押され、閣僚や軍人も徐々に頷く。
「ロシアは何と言ってるか?」
「はっ、”国境を越えて砲撃することは構わない”とのことです」
”義理堅いな”と小さく呟くと、彼は椅子から立ち上がる。
「では、それも含めて作戦計画を早急に立案せよ。我らを弱小国だと侮った報いを与えるのだ!
「「
直ちに命令は伝達され、ウクライナ軍全部隊に動員命令が発せられる。
レオパルド2A5主力戦車、M142高機動ロケット砲システム”HIMARS”と言った2014年以前には無かった兵器すら戦列に並ぶ。
なぜ大統領が2014年以前と比べたのか、その理由は過去へと遡る。
2014年。ロシアとウクライナの軍事的緊張が高まった。
結果的には直接的な軍事侵攻が起こることは無く、戦争勃発の可能性は杞憂となった。
だが、それはウクライナ国軍の脆弱性を露呈することとなり、ロシアとの軍事的緊張が解かれると共に、黒海沿岸諸国との対立危機、即ち「黒海対岸危機」が生起した。
その状況に懸念を覚えた新大統領によって、ウクライナ軍は大変革を開始する事となり、代表的な例としては”HIMARS”の大量輸入、次期主力戦車候補としてレオパルト2A5戦車の選定開始などがあり、大々的な西側装備の導入によって、装備の旧式化及び不足問題を急速に解消していった。
ロシアとの関係も重視しており、その証拠となるのは、ウクライナ海軍の旗艦として建造が再開され、就役した巡洋艦「ムィコラーイウ」*1だった。
安全保障分野での協力を確約した建造元の継承国家であるロシアは当艦の建造に大規模な協力を見せ、無事に進水した。
そして今、海上からの火力支援として黒海にその身を浮かべ、海軍司令部からの命令を待っていた。
「ウロボロス先頭集団、射程圏内に入りました!」
「足止めも兼ねる。全砲門、砲撃開始!」
号令と共に、新鋭のHIMARSより227㎜誘導ロケット弾、古巣のBM-21”グラート”より122㎜ロケット弾の雨が発射されると共に、自走砲や牽引式榴弾砲などの幾多の火砲が火を吹く。
戦線の後方では国産の戦域弾道ミサイルシステム”グリム-2”より戦術弾道ミサイルが放たれ、「ムィコラーイウ」はブラモス対艦巡航ミサイルを打ち上げる。
「敵集団撃破率40%のみ!突破されます!」
「問題ない!戦車
業火のごとく展開された支援砲撃をくぐり抜けた先にはウクライナ軍精鋭の戦車部隊が控えていた。
その中心にいるのは、黒海対岸危機の武力衝突事件で活躍した第17独立戦車旅団であり、レオパルト2A5戦車及び西側規格砲弾を発射可能に改修したT-90A8、T-72M1Sと言った戦車で構成されている。
戦車並みの装甲を有するムラヴェイ型ではあるが、機械化歩兵部隊による足止めを主とし、戦車戦力を集中投入した遊撃というウクライナ軍の作戦に嵌まり、阻止砲撃戦力による攻撃を含めて、中型ウロボロス一体以外はほとんどが殲滅された。
「中型ウロボロスより砲撃、来ますっ!」
小型ウロボロスの大群を撃滅しホッとしたのも束の間、奔流が空を裂き中層マンションへと着弾する。
幸い避難が完了しており、犠牲を心配する必要は無かった。
「敵個体、目視で確認!……これはっ、日本に出現した個体と酷似しています!」
「なんだとっ、電磁パルスを喰らっては元も子もないぞ!」
偵察部隊の報告に司令部の参謀は憔悴した表情を浮かべる。
沈黙が続くが、その間にも隷下の部隊が戦闘準備を整えていく。
だが懸念した通りに、その中型ウロボロスが特殊な行動を行う兆候は見られず、戦車戦力との砲撃戦へと移っていく。
「訂正します!敵個体は日本出現個体と酷似するも、砲身状物体及び資料にある電磁パルス発生装置は確認できませんっ!」
偵察部隊から届いた二度目の報告に誰もが唖然とする。
されど各々は僅かな時間で我を取り戻すと、命令を告げた。
「地上・航空・海上戦力は全面支援!奴の関心がそちらに集中している間に、プログレスを突入させてこれを討つ!」
命令は発せられた。
MiG-29、Su-27の航空戦力が低空へと降下して誘導爆弾を投下し、レオパルト2A5戦車の大隊が光線によって一両を撃破されても尚前進しながら砲撃を加えていく。
FH-70 155㎜榴弾砲からは間接砲撃が継続され、弾道ミサイルの束はウロボロスの装甲表面に大きな爆炎を上げる。
全てが上手く行った作戦。
そう評価されることが運命づけられたかのように、ウクライナ軍は戦闘の主導権を握り、陽動を完遂。
プログレスの全力投入によって、中型ウロボロスを撃破。
多くの負傷者や戦傷者を出しながらも、国土の防衛に成功する。
だが、大局を覆すロシア陥落の危機はまだ過ぎ去る事は無く続いていた。
それは同時にウクライナの存続自体も未だに脅かされていることを意味し、直接的な脅威が過ぎ去ったウクライナの人々は祈ることしかできなかった。
※次回予告
国家滅亡が現実味を帯びてきたロシア。
そのような状況下で最悪を回避するべく、ニコルシチャフはある命令を下す。