Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

31 / 50
このタイトル名だけ見て、わかった人もいそう。

アンジュ・ヴィエルジュより新たに1名出演しています。


■前日譚はまだ続きますが、それでも読んで頂けて嬉しいです。
 よろしければ、お気に入りや感想、評価等、お待ちしています。


世界の危機(ワールドクライシス)〈14〉【国防人民委員令第227号】

_UTC(世界標準時)3月23日午前11時20分・MSK(モスクワ標準時)3月23日午後2時20分_

ロシア連邦中央連邦管区モスクワ市

ロシア連邦国防省 作戦指揮センター

 

 作戦指揮センターに設けられている大統領用執務室。

 その室内で、ニコルシチャフは神妙な表情でタブレット端末をロスチヤに手渡す。

 大統領の表情に疑問符を浮かべるロスチヤだったが、渋々端末を受け取りそこに表示された内容を見て、目を見開いても尚驚きを隠せなかった。

 

「これは……!?」

 

 驚きつつもじっくりと読み進めた彼は、ニコルシチャフに一言、言葉を告げる。

 

「正気、ですか?」

「至って正常だ。かつての祖国が絶滅戦争に勝利するために発した忌まわしき命令、その再現だ」

 

 苦々しく言葉を紡ぐ。

 ”本当はやりたくない”という気持ちが、ロスチヤにもあからさまに伝わってきた。

 

「まさか忌々しく思っていた命令を、大統領として命じることになるとは思わなかったな」

 

 自虐じみた嘲笑さえ浮かべるニコルシチャフ。

 しかし、彼の覚悟は目の色から察せられるほどに決まっていた。

 

「全てはロシアという国家を守り抜くため、だ。されど無条件で発することは無い。"1歩も退くな"、それが彼女達にとってどれほど無情なものか、考えるまでも無い」

 

_UTC(世界標準時)3月23日午前11時45分・MSK(モスクワ標準時)3月23日午後2時45分_

ロシア連邦中央連邦管区ヴラジーミル州ラキンスク市

 

 ラキンスク市はモスクワ、ニジニ・ノヴゴロド間を結ぶ鉄道沿線に位置し、連邦道路M7が通るなど、主要な輸送網に位置している街である。

 ここにクストヴォより後退してきた戦力は集結を果たしていた。

 グリューネシルト統合軍の輸送機部隊及びホワイト・エグマ軍備管理部隊の輸送機の力も借り、カザンより撤退中だった第66諸兵科連合軍という膨大な戦力と共に、ロシア陸軍は万全の態勢を整えていた。

 作戦指揮所として接収した雑居ビルにて、アスタホフ中将は険しい表情で部下と話す。

 

「国防省より命令が発せられた。しかし、彼女らにはまだ伝えるなというお達しだ。見ればわかる、あの第227号の再現だ」

 

 アスタホフはタブレット端末を机に置く。

 それを聞く参謀や士官はアスタホフの言葉を信頼して手に取らず、『第227号』という言葉に訝しげな表情を浮かべた。

 

「ただしСМЕРШ(スメルシ)や督戦隊はいない。だが、ニジニを落とされた以上は一歩も退かぬことも考えねばならない」

 

 アスタホフの言葉に、参謀や士官らは憔悴した表情を浮かべ始める。

 その反応にアスタホフは気遣い、言葉をかける。

 

「その気持ちを持てということだ。我々のやることは変わらない。彼女たちを全力で援護し、道を切り開くまでだ」

 

 参謀らは徐々に頷き、”我々もお供します”と答えた。

 ”話は他にもある”とアスタホフは告げ、参謀らの視線が向くのを待つ。

 

「遅滞戦闘はどうなっている?第17独立戦車旅団の状況は?」

「は、州都ウラジーミル東方のコブロフ市、スドグダ市にて大隊戦術群を編成して遅滞戦闘を実行中です。しかし……完全に抑えきれてるわけではなく、後退中なのが現状です」

「……やはり、有効的な防御手段が無いのでは、それが限界か……まあ、いい。現在の状況を出来る限り維持させろ。この後の反攻に支障が及ばない範囲での後退は許可しよう」

 

 命令を受けた士官が退出し参謀らもそれぞれ個別の指示を出す中で、アスタホフは目立たないようにして、今までの疲れを吐き出すかのように小さく溜息を付く。

 

 一方でグリューネシルト統合軍ロシア方面派遣部隊及びロシア連邦軍リグラ人事局第1大隊は慌ただしい空気に包まれていた。

 深い傷のある子には治癒魔法が施され、軽傷者は一人で、もしくは手伝われながら患部に包帯を巻いていく。

 中には治癒魔法をかけてもすぐに戦線復帰が難しそうな子もおり、彼女達は担架で運ばれていく。

 また、一切傷が無いのにも関わらず腕に包帯を巻く者、自らの武器に包帯で補強を施す者もいた。

 

 それぞれ違う行動を見せる少女達だったが、彼女らに共通しているのは一様に不安げな感情を顔に浮かべていることだった。

 敗北のショックは大きく、誰もがその手を震わしていた。

 

 そのような場に颯爽と現れたのは大統領専用ヘリと護衛のKa-52"アリガートル"攻撃ヘリの一団で、大統領専用ヘリが着地しローターの回転が止まると共に、そのドアからはニコルシチャフが降り立った。

 彼は護衛を引き連れつつ、止まること無く歩みを進め、少女達の眼前で立ち止まる。

 その中の1人が大統領に気づき、立ち上がろうとしているのを止め、口を開く。

 

「そのままで良い、話を聞いてくれ」

 

 ニコルシチャフはそう口火を切り、言葉を続ける。

 

「対ウロボロス反攻作戦、『希望の一手(рука надежды)』作戦の概要を伝える。まず、これはロシア連邦軍とグリューネシルト統合軍の共同作戦だ。次に──」

「待ってよ!」

 

 突然ニコルシチャフの言葉を少女の声が遮った。

 ニコルシチャフは話を止め、視線を声の主へと向ける。

 そこにいたのは、派遣部隊指揮官の妹であるモニカの姿があり、あからさまに不満げな表情を浮かべていた。

 

「何だ?」

「役立たずと一緒に戦ったって、足手纏いになるだけ!私たちだけの方が上手くできるっ!」

 

 ニコルシチャフの問いに、彼女は姉を傷つけられた憎しみをぶつけるが如く答える。

 ニコルシチャフはその思いを無言で受け止め、言葉を返す。

 

「とはいえ、既に共同作戦自体は成立している。なぜ我々がここで余裕をもって準備できるか、分かるか?」

「……それは……っ!!」

 

 モニカは思考の中で一つの予測に辿り着く。

 それの答え合わせを行うように、ニコルシチャフは正解を話す。

 

「プログレスもいない、ただの兵士達で構成されるロシア陸軍が全力で遅滞戦闘を実行中だからだ。非力な彼らではあるが、唯一愛国心だけはある。それが彼らが退かずに戦う理由だ」

「……わっ分かんないよ……」

 

 非常事態の世界である故に全ての組織が統合軍に統一されたグリューネシルトでは、愛国心、その地への思いなどは忘れ去られていた。

 それを表すかのように、モニカは困惑し反論の手を止める。

 

「……話を続ける、この作戦内容は至極単純だ。ソビエト連邦時代、独ソ戦の最中で発せられた一つの命令から由来している」

 

国防人民委員令第227号、そのスローガンは『一歩も退くな』。この命令の再現だ」

 

 その発言に、少女達は衝撃が走ったような顔を浮かべ、互いに顔を見合わせる。

 第227号を悪名高き命令として知る者は少なくなく、当然その怖さを知っていた。

 少女達の懸念を払拭するため、ニコルシチャフは言葉を続ける。

 

「されど、強制はしない。今、逃げたい者は逃げても構わない。だが、参加すると決めた以上は後退をしないでほしい。立ち止まっても、俯いても構わない。しかし……必ず前へと進んでほしい。重圧を課すようで申し訳ないが、もはや唯一の希望なのだ。……以上へと発言を終える」

 

 ニコルシチャフは頭を下げる。

 暇を置かず、1人の少女が立って口を開く。

 

「やります、やらせてください」

「私もっ」

 

 イエヴァが真摯な眼差しでニコルシチャフに視線を向けながら立ち、遅れてリリーヤも頷きながら立つ。

 その二人の勇気に背を押されたように、皆がそれぞれの思いを抱えながら次々に立つ。

 

「私もやります」「……私、だって」「も、もちろん」

 

 二人に勇気づけられ、ある1人は死の恐怖と葛藤しながら、またある1人は弱く声を出しながら、別の少女は友達と顔を合わせ手を繋ぎながら立つ。

 少女達が立ち上がる物音が収まり、ニコルシチャフは顔を上げて言葉を告げる。

 

「感謝する……だが、無理はするな。死ぬな」

 

 その言葉を告げ、戦闘に巻き込まれる危険を回避するため、護衛に連れられてヘリに再び搭乗する。

 ヘリは地を離れ、Ka-52の護衛の元で西へと離れていく。

 

「正気じゃない……」

 

 モニカはそう全員に聞こえるように呟く。

 

「勝てるか分からない敵なのに、死地に挑むなんてどうかしてるっ。もちろん退かない事も大事だけど、たがか国の首都が落ちるぐらいで……死にたくないんじゃないの?」

「…私は、この国を守りたい。それも、生まれ育ったこの地を守りたい。みんなは分からないけど、少なくとも私はそう思ってる。もちろん、死にたくないし、死への恐怖だってある。でも、国を捨てて逃げるなんて、嫌」

 

 モニカの言葉に、イエヴァははっきりと言い返す。

 

「矛盾してるよっ。死にたくないなら生き延びて力を蓄えて、また挑めば良い話じゃん。ここで戦うのは、死に行くようなものだよっ」

 

 モニカは不満げな顔で言い放つ。

 彼女自身も姉が重傷を負ったことで、死に対する恐怖が生まれ、大統領に言った言葉も自分の気持ちに嘘を尽き、取り繕っていた。

 

「勝てる可能性が低いのは分かってる。弱いことだって!けど、生まれ育ったこの地を守り抜く思いは絶対に譲れない」

 

 イエヴァは無謀であることを認識しつつも、自分の気持ちに正直になって言葉を言い放つ。

 

「頑固……」

 

 その言葉にモニカは気圧(けお)され、溜息を吐く。

 

「…分かったよ。私たちだって命令だから、協力するよ。……さっきはごめん」

 

 モニカは気持ちを切り替え、そう宣言する。

 同時に小声でイエヴァに話しかける。

 

「え?」

「私だって動揺してた。あんな言葉を言うなんて、1人の軍人として恥ずかしい」

 

 モニカはイエヴァに対して吐いた暴言について謝罪する。

 

「……大丈夫だから。その代わり、死なないでね」

「何言ってるの、グリューネシルト軍人を舐めないで」

 

 両者は互いに握手を交わす。

 そして、互いに戦域を分けたそれぞれの部隊へと戻っていく。

 

「モニカ様、あれで良かったんですか?」

「……私だってどうかしてた。あの言葉で私たちの世界を守る行為が、あの子たちの国を守ることと同等だとはっきり分かってしまった。規模はもちろん違うけど、それだけの重みを感じたの。あの子たちはもう後には退けない。だったら、それを手助けしないと、グリューネシルト(世界の守り手)の名が廃るでしょ」

 

 グリューネシルト統合軍派遣部隊の陣地へと戻ったモニカは部下からの問いに答える。

 先の口論で彼女はグリューネシルトと地球の考え方の違いをはっきりと認識し、イエヴァ達と同様に戦う意思も固く決めていた。

 

「中央はあの子たちが担当するから、私達は左翼と右翼に分かれるよ。『ノヴォ=ジスク型』を倒すためには、近づいてコアを破壊しないといけない。だから、とどめを刺す役として左翼は私が、右翼はリーリヤを指名するね」

「え、私ですか!?」

 

 モニカが隊長として指示を出していく中で、指名されたリーリヤは驚きの余り声を上げる。

 

「私と同じ槍使いなんだから、大丈夫。行けるから」

「が、頑張ります」

 

 モニカの言葉に、リーリヤは渋々頷く。

 

「それじゃあ、みんな配置について。遅れを取るわけには行かないでしょ」

 

聖女の槍(シヴィル・スピアン)、詠唱開始」

 

 モニカは命令を出し終え、自分の周囲から部下が離れるのを確認すると、自身のリンケージを地に突き刺して詠唱を始める。

 敵にとどめを刺す槍として、自身の手からエネルギーを流し込んでいく。

 

 一方で、イエヴァ達はどのようにして『ジスク型』を倒すか、ほぼ全員が集まって話し合っていた。

 

「今までの結果を見ても、1人1人の魔法が効果的じゃなかった。だったら、私たちの体に流れているマナそのものをぶつけるんです!」

 

 プラチナブロンドショートの少女がその凛とした素顔を崩して、声かける。

 

「でも……ユリヤ。それって危険じゃ……」

 

 別の少女が危惧するように、その方法にはリスクがあった。

 本来なら魔法やエクシードといったものを介して身体からマナを放出するのを、直接放出するのは未知の領域であった。

 

「……もちろん、どうなるか分からない。……だけどっ、一人一人の力が強くない私たちには、もうこの方法しか残ってないんですっ!」

 

 ユリヤと呼ばれた少女、ユリヤ・レオニードヴナ・イリューシナは一瞬俯くもすぐに立ち直り、力強く訴えかける。

 その思いを込めた言葉を聞いたイエヴァはそれを受け止める。

 

「わかった……。ユリヤの案で行こう。苦しみや痛いことが待ち構えてるかもしれないけど、私たちは絶対に負けられない。勝つまでの辛抱だから」

 

 イエヴァはユリヤの案に決め、自分にも言い聞かせるようにして仲間を説得するために声を上げる。

 

「私は賛成。元々案出すのは上手く無いし、これが命に関わる選択であることは理解してるけど、私には戦う以外の選択肢は無いから」

 

 それにいち早く隣にいたリリーヤが応じ、イエヴァの手を掴む。

 二人の言葉に押されるようにして、全員がその案に同意。

 

 その後、イエヴァは簡単にまとめた戦闘計画を通信で作戦指揮センターの面々とアスタホフ中将、グリューネシルト統合軍派遣部隊隊長代理のモニカに伝える。

 アスタホフと、イエヴァの父親であるロスチヤは不安を覚え憔悴した表情を浮かべるも、ニコルシチャフは目を瞑っただけに留まった。

 

『もう既に、我らは少女達に国家の命運を託したのだ。今更どうこう言える立場には無い。戦い方を選択した、ならば我々はそれを負けぬように全力で支援するまでだ』

 

 モニター付きの通信機越しでニコルシチャフは答えると、アスタホフとロスチヤは険しい表情を浮かべつつも首肯する。

 

『じゃあ私たち、グリューネシルト統合軍はあなた達の近くで、全力で戦います。決して死人は出させないっ』

 

 モニカの強い決意の籠った言葉に、ニコルシチャフは大きく頷き、通信が終了した。

 

 そして、数刻後。

 作戦開始、との命令がアスタホフの元から第66諸兵科連合軍各部隊及び北方艦隊、航空宇宙軍作戦航空総軍に伝わり、各部隊は行動を開始する。

 

 その中で、陸軍は初期ウロボロス戦の頃より大きく陣容が変化していた。

 定数を下回った部隊があったのも要因の一つとして、師団もしくは旅団規模で戦闘を行っていた以前とは異なり、それらを細分化して戦車及び自走砲、ロケット砲、防空ミサイル部隊で構成されるコンパクトな部隊として100近い数の大隊戦術群(BTG)を編成している。

 歩兵を組み込んでいない理由としては、ウロボロス戦では力不足であることが認識されたためであり、自動車化歩兵・機械化歩兵の戦力は偵察部隊を除き、ほぼ全てが支援戦力に回されていた。

 

 彼ら地上戦力を追い抜き、航空宇宙軍作戦航空総軍は先手を打つ。

 

「カローヴァ01全機、ミサイル発射!!」

 

 最も前を行くのは、ウロボロスの探知能力にステルス機が有効であると証明されたために投入された、Su-57Bステルス戦闘機であった。

 機体のウェポンベイより空対地ミサイルが発射されていき、迎撃のレーザーを掻い潜り胴体へと着弾していく。

 その後ろからは、その背を追うようにSu-27から放たれたミサイルが続けて着弾し、『ジスク型』の行き足を止める。

 

 さらにその影に隠れる形で、攻撃機及び、Tu-95、Tu-160、Tu-22M3といった遠距離航空コマンドの爆撃機部隊は真打ちとしての役目を担い、空対艦ミサイルを一斉に放ち、胴体表面に爆炎を起こす。

 戦果確認はしない、それがすぐに修復されることは目に見えていた。

 彼らパイロットにて重要なのは、より長くウロボロスの連中を引き付ける事だけだった。

 

「全艦VLS及び発射管、全番開放。放てぇ!!」

 

 海が半ば凍り付くバレンツ海の洋上。

 そこに浮かぶのは11435型重航空巡洋艦「アドミラル・クズネツォフ」、1143.8型航空巡洋艦「レオニート・チチェロフ」*1という2隻の空母を擁するロシア海軍北方艦隊であり、旗艦たる「アドミラル・クズネツォフ」より命令が発せられると、麾下の艦隊は直ちに戦闘行動へと移る。

 ヴラジーミル州まで届く攻撃手段、対地型カリブル巡航ミサイルの搭載艦は即座にVLS発射管を開口し、膨大な白い噴射煙を吐きつつ空高く打ち出していく。

 

 さらに、艦隊に追従する潜水艦のVLSからも白煙が噴出する。

 955型戦略任務ミサイル潜水巡洋艦4隻は、核兵器によって葬れなかった悔しさを怒りに変え、通常弾頭型のブラヴァーSLBMを彼方の空へと放つ。

 

 『ジスク型』及び『ノヴォ=ジスク型』が爆炎に揉まれる中、陸軍部隊は『ムラヴェイ型』との戦闘に突入していた。

 ムスタ-S自走榴弾砲の152㎜榴弾砲で天から貫き、T-90"ヴラジーミル"の砲発射型ミサイル及び125㎜滑腔砲で正面から射貫く。

 

「第28BTG、ウラジーミル市南東のスタンツィヤ・ウラジーミル=パッサジュルスキー駅にて『ムラヴェイ型』の群れを頓挫!第44・第76BTGがこれの漸減に当たっています!」

「よくやった。南側から『ジスク型』へと攻撃を回せ。北方面の対処と遅滞戦を急がせろ!」

 

 作戦陸軍部隊の指揮権を第66諸兵科連合軍司令部に統一し、各方面部隊の対処も各師団司令部ではなく最上級司令部であるここに集約させていた。

 莫大な労力が必要となるものの、アスタホフはそれを見越して各師団司令部より参謀及びオペレーター人員を引き抜き、対応に当たらせていた。

 

「都市北西の連邦道路M7・R74のジャンクション付近にて、第61BTGが『ムラヴェイ型』の群れを突破!後続の第162戦車中隊が遊撃に当たります!」

 

 アスタホフはそのオペレーターの声に、内心ガッツポーズをする。

 実際には血の滲む苦労の末に成功した事であるため、表に出すのは不謹慎と思われた。

 

 北と南における良好な結果。

 これを合図に、唯一大隊戦術群に編成しなかった完全編成の統合火力部隊が動き出す。

 臨時第66独立自動車化狙撃師団として編成されたそれは、虎の子の第1親衛戦車群及びウロボロスとの激闘を生き抜いてきた歴戦の戦車、自走砲部隊で編成されていた。

 

「全車、主砲及びロケット砲、攻撃開始!!」

 

 アスタホフからの直接の指示で上空の『ジスク型』、『ノヴォ=ジスク型』に対して砲弾が撃ちだされていく。

 それらの砲弾はウロボロス戦当初にて高度な射撃管制システムがあっても尚命中率が低かったのと比べ、ほぼ全弾命中という高戦果を叩きだす。

 それらの兵器に搭乗する兵士たちは北カフカース紛争を除けば、現代の戦争を経験したことが無く、それ故に対ウロボロス戦に特化した能力を見せ、上空の敵に対する対空射撃能力は格段に上がっていた。

 

 だが、上手く行ってる時こそ何かが起こる前兆であることをロシア軍は身をもって痛感していた。

 そして、それは突然起きた。

 

 各種兵器は無制限に何発でも撃てるわけではなく、少なくとも装填時間というものは確実に存在する。

 さらに部隊の動きも、機械でなければあらゆる原因により洗練された動きが出来なくなる場合もある。

 そうした人類としての隙をウロボロスは突いてきた。

 

 戦車の装填時間、陣形移動のトラブルにより、攻撃にわずかな空白が起きた隙を突き、『ジスク型』・『ノヴォ=ジスク型』は眼下の都市すら眼中に無いとばかりに急加速。

 突然の移動に戦車の照準もまともに対応できず、装甲を掠める事も無く明後日の方向へと砲弾が飛んでいく。

 

「両ウロボロス、急加速!!前衛陽動砲撃部隊の対応、間に合いません!!」

「後衛の陽動部隊は?阻止砲撃はまだか!」

 

 アスタホフは困惑した表情で問うも、オペレーターは憔悴した表情でそれに答える。

 

「む、無理です!間に合いません!弾道ミサイル部隊ではわずかな足止めにしか……!」

 

 

『……しに……私に、任せてくれませんか!……私が引き付けます!!』

 

 突然飛び込んできた通信。

 それは、人類を救いたい一心で迷いを振り払った、幼い統合軍プログレスの声だった。

*1
旧2番艦ミンスクの大改修後の姿、史実と異なり欧州方面への配備となり良好なコンディションで現役を続けている




※次回

世界の危機(ワールドクライシス)(15)【プログレスの底力】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。