Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
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ロシア連邦ヴラジーミル州ラキンスク市東方
右翼戦域
「私は……最強の盾だからっ、私が敵の攻撃を受け止めます!……受け止めて見せますっ!」
盾のリンケージ『シュッツ・リッタ』を構える蒼髪の少女、ルルーナ・ゼンディアはインカムを通して自分の思いを伝える。
『ルルーナ!?』
部隊長代理として通信を繋ぐモニカが、予想だにしなかった声の主に声を上げて驚く。
「ルルーナ……っ」
傍に寄り添って戦う赤髪の少女、リーリヤ・ザクシードも信じられない気持ちで名前を呼ぶ。
正式な士官でもない幼い少女は、意思が弱く泣き虫でリーリヤに慰めてもらう、そんな少女だった。
『……アスタホフだ。別世界の者の行動は、私の一存では決めかねる。ただし、そちらの行動には決して口を挟まない』
アスタホフはその意思を無下にはできず、新たな行動を追認する形を取るとして、通信を切る。
『……ルルーナ。ルルーナの勇気は勿論認めるけど、いいの?』
「……はいっ。私は負けたくないんですっ、もちろん死ぬのは怖い。だけどっ……必死に戦ってる人たちを見捨てるなんてできない!私は、この世界の人たちを守りたいんですっ!」
そこに泣き虫な少女の姿は無かった。あるのは、涙を零しながらも意思を強く示した少女の姿だった。
『……分かった。アスタホフ司令』
『了承した。そちらに全力で誘導するっ。構えろ!』
アスタホフは通信越しでそう叫び、ルルーナは相手から見えないものの大きく頷いた。
アスタホフからの指令は直ちに北方艦隊へと伝達され、
北のバレンツ海から発射された〈ツィルコン〉の群体は直接『ジスク型』を狙うのではなく、モスクワ州上空を縦断する形で横切った後、標的の南西方向より最後のブースター燃料まで使い果たす勢いで猛加速して、その弾体を三体のウロボロスへとぶち当てる。
着弾したその瞬間、トマホークの200倍以上という破壊力が発揮され、その衝撃は周囲の空気すらも震わせ、一部の弾頭はウロボロスの胴体すらも貫く高貫通力を発揮していた。
その攻撃の後、北の海から発射されたことを探知できない『ジスク型』・『ノヴォ=ジスク型』は、凶矢が飛翔してきた南西方向へと進路を変える。
それは彼らが企図した通り、ルルーナ達がいる方向であった。
「ウロボロス三個体、進路変更!誘導成功です!」
「……後は任せた」
報告を受けたアスタホフは、通信以外では決して言葉は届かないものの、作戦指揮所より祈りを込める。
「……来たっ。マナ最大、充填完了!」
その祈りが通じたかのようにルルーナは頷くと、左手で取っ手を掴む長方形の盾をどっしりと構え右腕に装着する円形の盾を正面に突き出し、拳に力を込めながら叫ぶ。
「『シュッツ・リッタ・リブラット』!!」
彼女は一つのリンケージ”スキル”を発動した。
それはリンケージ『シュッツ・リッタ』に追加の強力な防御膜を張ると共に、その制限時間と自分のマナが完全に尽きぬ限り、目標とした敵に『シュッツ・リッタ』及びその使用者への全力攻撃を強制させる効果を付与するという呪いじみた代物である。
「ルルーナ、それって……」
だから、ルルーナとそのリンケージを身近に良く知るリーリヤはルルーナの身を案じる。
本当は泣き虫で意思が弱かった少女は、今回ばかりはその意思を曲げる事は無かった。
「リーリヤ、止めないで。……敵の全力攻撃を受けるのは怖いけど、そうしないと時間も稼げないから。だけど、絶対に約束するよ。私は絶対に死なないっ!」
身長近い大きさにまで巨大化し使用者を絶対に守ることに最適化した『シュッツ・リッタ』を、ルルーナは絶対に離さないと誓って力強く取っ手を掴む。
やがて三体のウロボロスが目視できる距離まで接近すると、ルルーナが身を引き締めると共に『ジスク型』は胴体下部の円盤部でエネルギー充填を開始し、周囲を赤く照らす。
その赤きエネルギーは臨界まで圧縮され続け、それが限界に達して急速に膨張したエネルギーを赤い奔流として解き放ち、ルルーナへと振り下ろす。
スキル効果によって生じた最初からの全力攻撃であり、奔流は盾に接触した瞬間にエネルギーが拡散されて消失、もしくは弾かれていく。
最初の攻撃を防げているが安心できる状況ではなく、二体の『ノヴォ=ジスク型』からの攻撃も加わると、盾と奔流が接触した途端に生じる光は常人では目すら開けない程の閃光となる。
「耐えて、耐えてっ。……耐えろっ」
奔流の衝撃は物凄く、盾を構えるルルーナの表情も余裕が無く衝撃によって吹き飛ばされてないように必死に掴んでいた。
さらに、反撃が来ないことを良いことにスキル効果も相まって、ミサイルと思しき弾体が周囲に着弾して地面を震わし土埃を被る。
『ルルーナ、大丈夫……?』
少し離れた場所で戦っているリーリヤが通信越しに心配そうな声で問いかける。
「……リーリヤはさ、『ムラヴェイ型』の対処をお願い。地上から接近されたらやられちゃうから。リーリヤを私は信じる。だから、私を信じてっ」
『……分かった。ルルーナのこと、信じるよ』
ルルーナはリーリヤを全面的に信頼して言葉をかける。
”信じる”という短い言葉のやり取りだったが、相棒である二人にとってそれだけで通じた。
だが、三体のウロボロスは攻撃の手を緩めず、赤い奔流が地面を抉り、盾に大きな衝撃が加えられる。
さらに『ジスク型』は胴体下部より横倒しとなった大きな円柱を出現させ、その天面から均等に配置された四本の杭状物体を伸ばし互いに磁場を作り出して擬似的な砲身を形成、その磁力に引かれる形でエネルギーを充填していく。
その疑似砲身の予測口径は60㎝に上り、 限界まで膨張したエネルギーは一瞬の内にミリ単位まで圧縮された後、照準方向へと制御されて巨大な奔流となって解き放たれた。
「もう、限界……じゃない!!ここで耐えれなかったら、みんなはっ」
限りあるマナで防御膜を重ねたものの、受けたのは想像以上の衝撃であった。しかし、ルルーナは守りたい気持ちをバネにしてマナが枯渇するのを覚悟で更に盾の防護膜を強化する。
だが、尋常ではない規模の奔流に膜は一枚ずつ剥がれていくと共に、今まで受けたことのない衝撃の連続で『シュッツ・リッタ』自体も脆くなっていく。
「はあっ……耐えて……っ」
遂には盾にヒビが生じてそこに衝撃が集中したことで、一瞬の内に彼女の腹を細い光線が貫く。
「あぐ……ぃ(痛い痛い痛い痛い……!)」
一瞬でも彼女の腹は傷口を何千度という光線の熱で焼かれ、感覚器官が麻痺するような激しい痛みが彼女を襲う。
さらに、出来た盾の破孔を塞ぐ余裕は無く、奔流が放たれている間は常に小さな光線が盾の内側を蹂躙し彼女の腹を穿ち続ける。
両手で盾を構えてるため手で抑えることもできず、蒼を基調とした軍服は自分の血である赤色に染まっていき、歯を食いしばっていた口内も段々と苦い鉄の味に染まっていく。
「まだ……耐えれる……多分」
莫大なエネルギーの放射が終わり、『ジスク型』はエネルギー供給を担当していた『ノヴォ=ジスク型』と共に、通常火力による攻撃を再開する。
盾を覆う程の攻撃では無いが、破損部を直すマナの余裕は既に無く、唯一出来たのは右手で傷を抑えるだけだった。
ルルーナ自身はそう自分を評価して口にするが、もう既に手では抑えきれない出血量であり感覚が麻痺して彼女が感じ取れないだけで、もう身体はボロボロだった。
絶え間なく攻撃は続き、何発もの奔流が放たれる。
右腕に装着する円状の盾でなんとかメイン盾の破孔をカバーするも、エネルギーの流れは必然的に破孔に集中して圧力が高まり、円盾ごと腹部までぶち抜かれる。
貫かれた右腕は痛みで力が入らなくなってだらんと垂れ下がり、腹部への衝撃と痛みでバランスを崩しかける。
「……まだ……耐えないと」
ルルーナはそう口にして、盾を支えとする形でバランスを整える。
発動者が死亡すると必然的に『シュッツ・リッタ・リブラット』の効果が切れる特性上、彼女は陽動部隊の再編完了まで耐えるつもりでいた。
それを体現するかのように、目には涙を浮かべつつも、決して弱音を吐く事は無かった。
やがて発動から30分が経とうとしている頃。
『ジスク型』から放たれる奔流を『シュッツ・リッタ』によって防ぐが、当然のように穿たれた穴から小さな光線がルルーナの身体へと刺さる。
幾多の攻撃を受けて彼女の『シュッツ・リッタ』は塗装は完全に剝がれ落ちて防御膜も全て破れ、複数の破孔が出来ていてボロボロの状態だった。
身体の方も無事な所は少なく傷だらけであり、服は血の色で赤く染まっていた。
「……リブラット、制限時間……超過っ」
すぐにでも倒れそうなぐらいフラフラな彼女は、掠れたような声でそう口にする。
その直後、オープン回線で通信が入る。
『後衛陽動部隊、再編完了!!阻止砲撃開始!!』
『シュッツ・リッタ・リブラット』の効果が切れたことで、本来の目標へと攻撃するために移動を開始しようした三体のウロボロスだったが、胴体後部に連続して砲弾の直撃を喰らい、さらに北からはロシア航空宇宙軍作戦航空総軍のSu-27SM2戦闘機部隊による空対地ミサイルの攻撃が加えられる。
「……約束、守ってくれたんだ……」
アスタホフからの通信と共に見届けた光景にルルーナは安心したのか、糸が切れたように膝を地に着け、元の大きさに戻った『シュッツ・リッタ』に両手を置いて身体を支える。
「ルルーナ!!ルルーナ、大丈夫ですかっ!!」
「……リーリヤっ……」
そこに『ムラヴェイ型』を相手取って戦っていたリーリヤが駆けてくる。
相棒であり、大切な友達と生きて会えたことに感極まり、大粒の涙を流す。
だが、突然彼女の視界がぐらつき、リンケージを維持できなくなって前屈みに倒れこむ。
当然、それを目の前で見たリーリヤは大声で叫ぶ。
「ル、ルルーナっ!大丈夫ですか!?どうしたん……ですか……?」
大切な人が突然倒れたことに焦った彼女はうつ伏せになった彼女の体を仰向けにひっくり返す。
しかし、その時見た光景は先程の衝撃を超えていた。
一瞬力が入らなくなったことで、口内に溜まっていた血を吐いたルルーナは申し訳ない表情を浮かべる。
地面には傷口から流れ出した大量の血が広がっていた。
「ルルーナっ、どうして。どうして、こんなになるまでっ!自分の身体ぐらい大事にしてくださいっ!」
リーリヤは友達として、相棒として涙ながらに声を上げて怒り出す。
「リーリヤも傷だらけじゃん……私は……みんなを、リーリヤを守りたかったから……」
ルルーナの言う通り、リーリヤは『ムラヴェイ型』の大群を相手に戦っていたため、身体の各所に傷が見られた。
だが、ルルーナの方が重体なのは明らかだった。
「私なんかよりも、ルルーナの方がっ……自分のことをもっと大切にしてくださいっ!ルルーナは、私の相棒なんですからっ!」
「……うん」
ルルーナ自身も無理しすぎたことに後悔の気持ちもあり、リーリヤからのお りも納得して頷いた。
「じゃあ、あとは私に任して、ルルーナは──」
「待って……大丈夫、だから」
ルルーナを運ぼうとしたリーリヤの服を掴む。
「そんな傷、大丈夫なんかじゃ無いですよっ」
「私はっ、リーリヤが心配なの!……リーリヤは私が守る、約束したでしょ……?」
ルルーナはそう答えながら、ゆっくりと立つ。
ルルーナにとってリーリヤ一人で挑ませるなんてことはできなかった。
それこそリーリヤが大きな傷を負うかもしれない、そう思うとどんな状態だったとしても、彼女はリーリヤを守りたいと願う。
そんな思いで苦しそうに顔を歪ませ息も絶え絶えな彼女を、リーリヤは心配そうな表情で見つめる。
「…でもっ……」
リーリヤはルルーナのことを大切に思ってるからこそ、迷い出す。
自分一人で挑むことに恐怖はある。
だけど、ルルーナを救うことこそ一番の思いだった。
「大丈夫、だから。……リーリヤと一緒にいさせて?」
「……は、いっ」
結局リーリヤは折れる。
相棒の決意を無下にはできなかった。
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ロシア連邦ヴラジーミル州ウラジーミル市西方
東からの激しい砲爆撃に晒された『ジスク型』と二体の『ノヴォ=ジスク型』は後衛陽動部隊が企図した通りに大きく回頭。
束縛が解かれたことによる反動で、陽動攻撃へ過敏になった結果、ユリエヴェツ駅付近まで東進する。
「全車、砲撃開始!!」
そこで待ち構えていたのは、大型トレーラー、鉄道などの輸送手段で輸送された臨時第66独立自動車化狙撃師団であり、高精度の砲撃が襲う。
数発程度では痛手とならないことは百も承知であり、潤沢な弾薬をもって絶えず砲弾を叩きこめばいいと全ての指揮官が理解していた。
「ルヴロスク01より全爆撃機隊、攻撃開始!!」
さらに遠距離航空コマンドの爆撃機部隊はTu-95、Tu-160、Tu-22M3といった主力爆撃機を総動員し、弾倉に入る空対艦ミサイル、空対地ミサイルを開放して圧倒的物量によるミサイル弾幕を浴びせていく。
これに対して『ジスク型』は流石に鬱陶しく感じたのか、赤い奔流を振り下ろす
撃ちだされたエネルギーは、大気中の減衰効果の影響を大きく受けて、戦車1両が大破するに留まった。
ルルーナの『シュッツ・リッタ・リブラット』の効果によって、最大出力砲撃を何発も撃ち出した弊害は大きく、わずか30分の間で『ジスク型』はエネルギー枯渇状態に陥っていた。
『ノヴォ=ジスク型』も同様且つ影響はさらに大きく、こちらは砲撃が減衰効果によって地上まで届かないところまで枯渇していた。
この状況に一刻も早く短期決戦で終わらせることを望んだニコルシチャフ大統領以下ロシア政府・軍首脳部、及びグリューネシルト統合軍、イエヴァ達の同意も経て、ラキンスク市近郊へと陽動させることが決定された。
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ロシア連邦ヴラジーミル州ラキンスク市北部
ラキンスクへと誘導される『ジスク型』及び『ノヴォ=ジスク型』。
だが、ウロボロスは時に意図しない動きを見せる。
例えエネルギーが枯渇状態だとしても、別の武装を使えばいいという程度の知能がウロボロスには存在していた。
グリューネシルト統合軍左翼方面部隊に最も接近していた『ノヴォ=ジスク型』の胴体下部よりボウガンに似た形状の機構が展開されると、その先端から何かが射出された。
「……何か、来る……?」
モニカは何かが接近してることを軍人としての感で感知する。
だが、どこから、それが本当に何物かについては気づくことはできなかった。
『ノヴォ=ジスク型』より射出された飛翔体は凄まじい速度でグリューネシルト統合軍左翼方面部隊へと迫る。
「……何?何か来て──」
緑髪ポニーテールの少女、ティナ・ファロは突然の悪寒で何かに狙われてることを感じ取る。
だが、気づくのが全て遅かった。
飛翔体はティナの右腕に突き刺さり、圧倒的な速度を生かして腕を断ち切った。
切断面からは鮮血が噴き出し、数秒後には激しい痛みが彼女を襲った。
「あ……あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
痛覚神経を無理やり引きちぎられた為、のたうち回りそうになる痛みが襲う。
しかし、そんな彼女の様子をよそにもう一つの凶器が迫りつつあった。
第二射目は流石のモニカも気づき、どこからどこへと接近しているのを一目で判断する。
「やらせないっ……武器は……これしかないか」
主武器である『シヴィル・スピアン』は詠唱中であるために動かすことができず、モニカが手にしたのは補助打撃武器の『スクッド』だった。
レンチを少し大型化したような見た目をしているが、立派な武器であることは変わらず、モニカはティナの前に立ちはだかり飛翔体に『スクッド』をぶつける。
激しく火花が散りお互いの力が拮抗しているように見えるものの、モニカの方が一歩上手であり弾く寸前で大暴れされて額を出血したものの、弾き返すことに成功した。
「総員、全周警戒!何をしてくるか分からない以上、警戒を怠らないで!」
モニカは重傷のティナを後方へと移送させると共に、隊長代理としての指示を出した。
ラキンスク市東部
「行きますっ!」
ユリヤが声を上げる。
『ジスク型』を倒すために、全員のマナをぶつけるという方法で、自分から言い出したユリヤが率先して先陣を切った。
手で触れている通常の火器であるAK-12自動小銃にマナが流し込まれる。
銃を媒介手段としているとはいえ、マナには未知な部分が多くこの方法は危険もあった。
手で媒介できる許容量を超えて、銃口に最大まで貯めさせようとした時。
「……か、かはっ」
「ユリヤ!?」
ユリヤは突然口から血を吐き出して、傍に寄り添っていた仲間が心配そうに声をかける。
体に負荷がかかりすぎたのが要因ではあるが、ユリヤはまだ手を離そうとはしなかった。
「私にそれを預けて。もう十分っ」
右目だけに光が灯っている少女、レーニャ・コヴァレンコ曹長は強引に銃身を接触させ、マナを凝縮した球体を奪い取ると共に自分自身もマナを込めていく。
だが、ユリヤと同じく一定量以上のマナを込めると、負荷がかかったことにより口角から血が零れる。
「……ぐっ、でも」
北カフカース紛争時、首謀者の1人に拉致された彼女は左目を傷つけられ、治癒魔法でも治すことが出来なかった。
片目だけの生活は不自由を強いられたものの、それでもイエヴァ達と一緒の幸せな生活を失いたくないと思う彼女は、さらに力を込めて投げ渡す。
投げられた球体は、プログレスの力を生かして跳躍した少女が銃身で受け取り、一緒に飛び上がった少女が銃を擦り合わせて一緒にマナを込める。
負荷によって目に涙を浮かべて苦しい表情をするが、手を震わしつつも戦う事自体を放棄する事は無く、一緒にトリガーを引いて撃ち出す。
彼女達の多くは、身寄りが無く孤児院で過ごしていたか、北カフカース紛争によって家族を失った者によって構成されている。
その為、国を失っても生きていける術を持たず、だからこそ国を守るために全力で戦っていた。
ユリヤの案に不安を覚えていた少女も中にはいたが、苦しくてもこれが唯一の希望だということを理解して、逃げ出す事は無かった。
順番ずつマナが込められていく中で、ロシア連邦軍の陽動攻撃に関心が向いていた倒すべき
「ま、まずいっ、気づかれてる!!」
誰かが声を上げるが、回避よりも『ジスク型』の高出力レーザーが装填される方が早く、赤い光線は振り下ろされる。
その射線上には複数の少女がおり、足や肩、腕を負傷して戦闘続行できる状態には無かった。
「これじゃマナが足りないかも……」
「っ……、だったらその分私たちが多く込めればいいだけっ」
負傷した少女の中には順番が来ていなかった子もおり、その分のマナについてイエヴァは無理する覚悟でいた。
”けど”と、イエヴァは呟き、不安な表情を隠しきれていなかった。
マナを込めてる間は無防備になるため、レーザーを回避しながら充填するなんて無理だった。
「消費弾薬・弾頭の補充が間に合ってませんっ」
「くっそ、こんな時に空軍機が補給に入るとはな……」
不運は重なり、今までの陽動攻撃を担当していたほとんどの空軍機が補給に入っていた。
陸軍戦力でも関心を向ける程度の攻撃は可能だったが、前提として相手は空を移動する個体であり進軍速度が段違いな為、少数の部隊しか展開できておらず、全てをカバーできる数では無かった。
地上の戦車戦力が次弾装填を行っている隙に、『ジスク型』は損傷を修復し終え、高出力レーザー砲や各種砲台のエネルギー充填が完了し、その標的をプログレス達へと向けた。
もう終わりかと多くが絶望する中、突然大きな爆炎が『ジスク型』の表面に生じる。
『こちら自走砲”トゥーレラ”、支援を開始する』
”トゥーレラ”、それが意味するのはソビエト連邦時代に三両のみ製造された520㎜核自走砲のことであり、物質を生成できるプログレスによって作り出された通常砲弾を、戦車を失い持ち場を無くした兵士達が抱えて装填作業を行っていく。
その隙は戦車隊が砲撃することで埋めていき、『ジスク型』に攻撃の機会を一切与えなかった。
最新鋭の主力戦車と骨董品の自走砲、両者にはデータリンクというものは存在しなかったが、不思議と完璧な連携が行われていた。
その間にも少女達はマナを込めていく。
負荷に耐えかねて血を吐き、弱って座り込む少女もいたが、誰もが絶えずそのバトンを次の子に渡していく。
「くっ……リリーヤ、受け取って!」
黒髪ショートボブの少女、アリーナ・エフィモヴナ・プルシェンコ軍曹が空中で飛びながらマナの球体を受け渡されると、即座にマナを込めていく。
追加で1人分のマナも注入して重い負荷がかかり、苦しそうな表情で口を噛み締めつつ、リリーヤに投げ渡す。
最後の一撃を加えるために接近しなければいけないということで、爆発に巻き込まれる危険性から戦車、戦闘機等のロシア連邦軍戦力による援護は終わりを告げる。
しかし、それをカバーするべくまだ戦う余裕のある少女達はそれぞれの魔法やエクシードを生かして攻撃を行い、例え自分の命でさえ危険に晒しても成功させたいという思いが彼女達にはあった。
「イエヴァ、ぐっ……行くよっ!!」
リリーヤは全てのマナを使い切る覚悟でその手に握る銃に込めていく。
血を吐いても、その手の震えが止まらなくても、マナを込め続けイエヴァを信じて受け渡す。
だが、その直後『ジスク型』より高出力レーザーの弾幕が吐き出される。
他の飛んでいた少女達を殺気の籠ったレーザーが貫き、リリーヤはイエヴァを庇って自分から当たりに行った。
「リリーヤっ!……」
イエヴァは一瞬呆然とするも、リリーヤが、皆が信じた思いを無駄にしない為に、自分や負傷してマナを込めることができなかった少女の分を込め始める。
手に握る狙撃銃の銃口に片手では持つこともできない大きさとなったマナの球体が浮かび、その銃身は本来撃つべきではない弾丸を抱えて亀裂が走っていた。
だが、スコープで『ジスク型』の中心を狙うイエヴァの手は震え、思わず落ちかけたリリーヤの体を手で抱えていた。
「最後は一緒に……お願い、リリーヤっ。外したらと思うと、怖いからっ」
イエヴァの気持ちをリリーヤは一瞬で理解した。
イエヴァにはこの一撃を決めてロシアという国家そのものを救わなければいけない、という酷く思いプレッシャーがのしかかっていた。
「……無茶言うなぁ、イエヴァは……でも、いいよ」
リリーヤは左手を銃身に添え、右手をトリガーに指を掛けるイエヴァの右手の上に重ねる。
わずかに残された全てのマナをここで一気に注入し、トリガーを勢いよく引く。
加速した弾丸と共に射出されたマナの球体は、その勢いのまま『ジスク型』の装甲を容易く貫き、コアへと直撃。
わずか数秒の内に巨大な爆発が起きると共に、その胴体は虚空へと小さな粒となって消滅していった。
「やった……?」
「……うん、やったよっ。……でも、イエヴァは……私の体に無茶言い過ぎだよ……」
イエヴァとリリーヤは、勝った喜びとみんなが生きてくれた感動の気持ちに溢れて感極まり、大粒の涙を流しながら抱きしめ合う。
グリューネシルト統合軍 左翼戦域
グリューネシルト統合軍左翼方面部隊は、ラキンスク市北部にて一体の『ノヴォ=ジスク型』と交戦を続けていた。
ロシア軍プログレス部隊と交戦中だった『ジスク型』と合流されるのを防ぐため、そしてある術で確実に仕留めるために、ひたすら引き付けながら戦っていた。
彼我の距離を一定以上離さず誘導を行っているために、その攻撃の焦点は当然こちらを向く。
時間稼ぎでしかない攻撃を行うのと同時に、殺意を剝き出しにした暴力に曝され、傷を増やし、血を流し、痛みに悶える。
だが、それでも逃げ出したい気持ちは微塵も無く、勝利の為に戦いを続けた。
「みんな、火力を集中して!」
モニカの指示でプログレス達がリンケージによって得られるそれぞれの武器で攻撃を行う。
「ポイント誘導、完了っ……!今っ!」
そう叫ぶと、手元にある地中に穂先を突き刺した槍を引き抜き、胸の前に掲げる。
「よし……『
腕を伸ばし空へと槍を突き刺すように頭上へと掲げ、その術を発動させた。
それはグリューネシルト王家にて聖女に選ばれた者に代々受け継がれてきた秘術。
穂先から伸びた黄金色のエネルギーが空へと突き刺さり、雲が一瞬の内に集まって大きくなり黄金色に発光し、鋭い黄金の槍の雨が降り注ぐ。
それに気づいた『ノヴォ=ジスク型』だったが、音の速さで降り注ぐそれを回避する暇は無く、無数の槍がその装甲を貫いた。
その高い防御力を持った装甲をまるで無いように貫いた槍はその体を突き崩していく。
コアさえも尽く貫き、『ノヴォ=ジスク型』は塵となって消えていく。
(あとは、リーリヤ……頼んだよ)
その光景を見ながらモニカは祈る。
その服装は無事な部分が見つけられないほどにボロボロで、切り裂いた後も見受けられ、自分の血か誰かの返り血なのか分からない赤い液体も各所に付着していた。
祈るそぶりを終えると、疲れ切った表情をしながらも仲間の応急処置を行っていく。
グリューネシルト統合軍 右翼戦域
「私がリーリヤを空に打ち上げるっ!……だからっ、絶対に決めてっ……ぐぅっ」
傷だらけのルルーナが痛みを堪えてリーリヤに対してその思いを訴える。
リーリヤは、命をかけたその願いを無下にすることなく頷いた。
「行くよっ、『シュッツ・リッタ』!!」
ルルーナはリーリヤが盾の上に飛び乗ったと同時に、叫びながら腕を空へと勢いよく上げる。
その勢いを決して殺さず、リーリヤは大きな赤き槍『ヴィヒター・リッタ』を顕現させつつ、大きく飛ぶ。
「『ヴィヒター・リッタ・ディラン』!!ルルーナの努力も思いも、これに全てぶつけますっ!!」
身長近い大きさだった槍がその穂先に赤きマナの炎をまとわせ、さらに身長の2倍以上の大きさとなった槍。
それをリーリヤは大きく勢いよく振り上げた。
一瞬で『ノヴォ=ジスク型』の胴体下部が吹き飛ばされ、それを修復する暇も無くリーリヤはもう一度反対方向へと振り上げる。
その胴体は槍によって真っ二つに両断されてコアも巻き添えとなり、その全てが虚空へと消え失せる。
「綺麗……っ」
それを地上から眺めるルルーナはその一言だけ零すと、無言で空を見つめる。
必死に人類の為に戦った少女も、今となってはただ泣き虫な少女へと戻っていた。
しかし、ルルーナはロシア連邦陸軍の数個師団の戦力をもってしても困難な、敵のエネルギーを枯渇させる偉業、それをたった一人でわずか30分という短い時間で成し遂げていた。
この行動はロシア軍を救ったと言っても過言ではなく、彼女固有のリンケージでしか成し遂げられないことだったため、後に【蒼穹の双盾】という異名で呼ばれるようになる。
「ルルーナっ……終わりましたよ、今度こそ帰りますよっ!」
そう話すリーリヤもまた、ルルーナが必死に防いでいた間に『ムラヴェイ型』の大群相手にたった一本の槍で立ち向かい、その全てを破壊し殲滅し尽くすという偉業を成し遂げていた。
『ノヴォ=ジスク型』の討伐も遥かに大きい戦果ではあったが、大群相手に立ち向かったことこそ高い戦果であると多くの者が言い、彼女も後に【真紅の閃槍】という異名で呼ばれるようになる。
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ロシア連邦中央連邦管区モスクワ市
ロシア連邦国防省 作戦指揮センター
「敵、ウロボロス三体の消滅を確認!!」
オペレーターの一声で職員や閣僚らの間で歓声が上がる。
唯一、ニコルシチャフは沈黙を貫いていたが、表に出さない感情は動揺しており、目線をロスチヤへと向ける。
「……プログレスの損害ですが、重軽傷者は多数。ただ……戦死者はゼロですっ」
「何っ……本当か!?」
ロスチヤの言葉に、椅子から勢いよく立ち上がったニコルシチャフは珍しく動揺と困惑の感情を露わにした。
「間違いないかと……グリューネシルト統合軍指揮官及び……私の娘や、その他多くのプログレスより報告がありましたので……」
ロスチヤも困惑の表情を浮かべつつ報告を行う、だが、その声音は喜びの余り上ずっており、決して隠しきれていたわけでは無かった。
「他の各戦線よりも報告が相次いでいますっ!北部、東部、中央軍管区の各戦線にいた『ムラヴェイ型』が全て消滅したと……」
ウラル以東のチェリャビンスク、クラスノヤルスク、ヤクーツクと言った今まで意識の外だった地域にもウロボロスは出現していた。
だが、『ジスク型』、『ノヴォ=ジスク型』の消滅と同時に、その全ての個体が荒らした廃墟を残しつつ、消滅していた。
「ヒエラルキーの頂点にいる個体が撃破された場合、自動的に消える機能でも兼ね備えてるのか……いや、それはともかく全世界に撃破の一報を流すように。それと、ロスチヤ大臣。当然だが、彼女らに救助隊は?」
「当然、派遣しています。助けなければ、生き残った少女も傷が原因で亡くなる可能性もあるでしょう、全員を生き残らせる為に当然です」
同日、ロシア連邦は『ジスク型』大型ウロボロス一体、及び『ノヴォ=ジスク型』準大型ウロボロス二体を撃破したことを全世界に告げた。
世界は明日へと前進するため、更なる一歩を踏み出したのだ。
※次回
日本によるウロボロス撃破の一報を受け、世界各国は自国の未来を阻むウロボロスの撃破に向けて手を打ち出す。
それは、『ヴォークワイバーン』によって南ロンドンを焼かれ、事態の打開策を見つけられなかったイギリスも同様であった。