Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
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イギリス イースト・オブ・イングランド地方ハートフォードシャー州イーストベリー
ノースウッド司令部
「この機を逃さず、すぐに反抗を行うべきだ!部隊を再編成して直ちに!」
「この機とは、一体どの機ですか!極東のウロボロスと、『ヴォークワイバーン』は一切繋がりがないのですよ!『ヴォークワイバーン』が弱体化している兆候なんてものは無いのですよっ!」
日本からウロボロスを撃破した一報が伝えられた後、ノースウッド司令部にて軍幹部が集まりロンドンを侵しつつある目下の敵、『ヴォークワイバーン』への対応を協議していたが、その進捗は始まって早々に滞り始めた。
「……あまり進んでないか」
「ええ。日本における戦闘詳報が大使館経由で送られてから、議論は遅々と進んでいません。少人数のみのプログレスで倒したという状況があまりにも過酷すぎる上、『ヴォークワイバーン』が別の、もしくは未知の攻撃を行ってこない可能性を否定できない以上……」
「……損害率9割などという無謀な作戦を、彼らは行いたくないだろうからな、わからないわけでもない」
別室では、ブレイス首相とスポール国防大臣が会議の状況について話し合っていた。
二人は同じ思いで憔悴した表情を浮かべていた。
「とはいえ、待っていられる状況ではない。そうだな?国防大臣」
「無論です。大出力砲撃を行った『ヴォークワイバーン』は依然として沈黙を続けていますが、いつ活動を再開するかわかりません。さらに、『リトルヴォーク』に至ってはロンドン各地で個々による迎撃を行ってるのが現状です」
ブレイスは目を覆いたくなるような状況に何度目か分からない歯ぎしりをする。
「……損害ばかりを気にしても仕方ないか……」
悩むあまり、室内は静けさに包まれる。
ふと耳をすませると、軍幹部が会議を行っていた部屋の方角から喧騒が響いてくる。
「何があった?」
「私が見てきましょう──」
「いや、私も行く」
ブレイスはスポールの言葉を遮って立ち上がり、スポールと共に部屋を出る。
部屋を出て数歩歩いたところで、喧騒の源へと辿り着く。
会議室の前に立つ3人の少女の内、金髪の少女が警備兵を眼光で威圧して押し退け、1歩踏み込む。
それを出迎えたのは、外から"総司令官"と名指しされて呼び出されたウィンストン国防参謀長であった。
「何か──」
「なんでこんな呑気に会議なんて行ってるのっ。今も多くの兵達は戦い続けてる。それを意地でも支えるのが、アンタらの役目じゃないのっ」
ウィンストンの言葉を遮り、金髪の少女──クラリッサはその思いを叩きつける。
心の奥底で直ぐに動くべきと思っていたウィンストンは、その言葉に心を揺らがせられた。
「一体どうしたんだ、この騒ぎは?」
「首相……」
ブレイスから掛けられた言葉に、ウィンストンはクラリッサを気遣い、騒ぎの原因である彼女に視線を向けるだけに留まる。
「あなた方は?」
その視線に気づいたブレイスは、クラリッサらに声をかける。
「……ダークネス・エンブレイス対ウロボロス討伐派遣部隊、先遣隊のクラリッサ・リュラドミル」
「同じく先遣隊のノヴァ・ノストラっす」
「アビー・フェニットです!」
名前を明かした後、僅かな沈黙が流れる。
その間に息を整えたクラリッサが口を開く。
「私たちは、魔女王様の命でここに来てる。当然、ウロボロスの『ヴォークワイバーン』を撃破するため。だからこそっ、今も犠牲になってる人達のために、アンタらは今ここで戦う意思を見せるべきっ。私達も戦う、だから直ぐに動いてっ!」
少女の言葉に、彼らは強く心を揺さぶられる。
現場の惨状を見てきた彼女だからこその言葉は、慎重論を唱えていた軍人の口を閉ざすには十分だった。
「し、首相!テレビ中継を見てくださいっ!」
さらに慌てた様子の秘書が駆け込み、首相に対し声を上げる。
ブレイスが急いで指令室のモニターにて中継画面を見ると、そこには驚きの映像が流れていた。
_20分程前_
ロンドン地区シティ・オブ・ウェストミンスター自治区
バッキンガム宮殿
南ロンドンに近い位置にあるバッキンガム宮殿。
イギリス国民ならば既知の常識ではあるが、イギリス国王と王族が住まう宮殿である。
その国王の居室にはいたずらに飾らない質素でありつつ高級感のある服を着た老淑女とタキシードを着た老紳士の姿があった。
「女王陛下、お逃げください」
老紳士は絞り出すような声で言う。
その目の前にいる女性こそ、イギリスの象徴として君臨する女王その人であった。
「いいえ。逃げません」
女王は老紳士の訴えを毅然とした態度で断る。
しかし執事である老紳士は諦め悪く言葉を続ける。
「ですがっ、ここはもはや最前線です!」
「息子達や、殿下らはスコットランドや国外におります故、血が絶える心配は無いでしょう。ブレイス首相もイーストベリーの司令部にいると聞いております。ならば、私はここにいて残された国民を導くまでです」
「しかしっ、あなたはロンドン市民だけの女王ではないのですよっ、国民に選ばれる首相のように、替えの利くお方ではないっ!」
執事の声に、女王は手元にある杖で床を強く叩く。
「ならば、あなたはブレイス首相をここに残らせ、死んでもいいと?」
「そうは言っておりませぬ……しかし、共に安全な場所へと行っていただいた方がいいのではと」
「それこそ認められません。残された国民より先に、導くべき王族が逃れるなどあってはならないのですっ。……私の身を案じて頂けるのは嬉しいですが、私は女王としての役目を果たさなければなりません」
女王は、ふと街並みが崩れていく南ロンドンに視線を向ける。
視界に小さな揺らぎを感じ、最初は疲れが出たのかと数回瞬きをするも、視界には変化なくそれが事実だと判断する。
その直後、居室にある固定電話が鳴り、それを速やかに手に取る。
「はい、どなたですか?」
『陛下……お忙しいところ失礼いたします、お送りしました動画を速やかに見ていただきたいのです。陛下のお力ならば……』
「……ええ、分かりました」
使用人である女性からの電話を切ると、慣れた手つきで手元にあるタブレット端末を操作する。
使用人から送られた動画を開き、僅か十数秒後。
女王は執事へと目線を向け、口を開く。
「直ちに会見の準備を。メディアが来なくても構いません、機材を掻き集めてテレビに一刻も早くこれを流すのです!」
「は……はっ、直ちに!」
そして、時は現在に戻る。
映像に映されたのは、英王室の大きな会見場であり、記者の一人もいない会場で女王がただ一人壇上に立つ。
『こちらの映像をご覧ください』
指し示された映像には、瓦礫が散乱し戦災が広がる街の中で10代にも満たない少女達が自分達にもたらされた力『エクシード』を使って、『リトルヴォーク』の群れと戦う光景が映っていた。
信じられない光景ではあったものの、南ロンドンにある家から遅れて避難していた宮殿使用人の老淑女が敵に見つからないように実際に撮影した映像であった。
『こんなにも幼い少女達。親を無くし互いに身を寄り添いながらも、大人に助けられなければ生きていくことができなかった彼女達が自分達の意志で傷つきながら、戦っています』
『確かにプログレスという存在はあの事件以降、一般化しつつあります。ですが、10代にも満たない彼女たちは私共の未来であり、無用に潰してはなりません』
『
女王陛下の会見は終わる。
刻一刻と状況が悪化している中、英王室に忠義を誓う国民たちは時に自宅で、時に車及びバス、徒歩で避難しながら、英王室を護ることを定められた兵士達は時に搭乗する戦車及びトラックで、時に出撃までの休憩中等に、全ての国民が希望に縋る気持ちでその言葉、一語一句を聞き逃すことなく聞いていた。
ノースウッド司令部
「流石だな……我らの
ブレイスはそう敬意をこめて呼ぶと、スポール国防大臣へと顔を振り向いた。
女王陛下の会見は、ブレイスらに前へと進む決意を与えるには十分過ぎるものであり、ウィンストンら将官も更にその決意を固めていた。
『こちら陸軍第6戦車中隊!陛下の意志に賛同する!既に反抗の用意は完了している!』
『空軍第16飛行群より常設統合司令部!!女王陛下に栄光あれ!反抗作戦の実施を要請する!!』
指令室には各部隊からの通信が恐ろしい勢いで舞い込んでくるが、そのどれもが女王陛下の言葉に勇気づけられた兵士たちからの反撃作戦の発動要請だった。
それを聞いたブレイスは”流石は王室に忠義を誓う軍隊だ”と小さくぼやきつつ、スポール国防大臣へと言葉をかける。
「国防大臣、日本はどのような国だと考える?」
「……は、日本ですか。……普段は凡庸ですが、時と場合によっては底力を発揮する国かと。かつて敗戦のどん底から立ち上がり、我が国を超えて世界有数の経済大国へと上り詰めたことからも伺えると思います」
ブレイスからの突然の問いに、スポールは若干困惑するも答えを導き出す。
「私もその通りだと思う。対して我が国、いや我らにはかつて大英帝国として名をはせた時代に持っていた世界を導く力も、狡猾に謀る悪辣さも失われて久しい。しかし、日本と同じような底力だけはまだある信じている。そして、今こそ証明して見せるべきだ」
「国防参謀長。全軍に通達、反抗作戦の実施を現在時刻へと繰り上げる、全部隊の準備が整い次第、直ちに発動する」
「はっ……直ちに全部隊へと通達します」
ウィンストンは首相の指示を聞き遂げて敬礼をすると、その場を急いで離れていく。
ブレイスはそれを見届けると、会見が終わった後もモニターを凝視し続けて唖然とするクラリッサに視線を向ける。
「お嬢さん方、出番ですよ」
クラリッサはその言葉を聞いてハッとした表情を浮かべたのち、ブレイスの方を振り向いて無言でうなずく。
_UTC・GMT3月23日午前7時34分_
サウス・ウェスト・イングランド地方ドーセット州ボーンマス近海
イギリス海軍水上戦闘艦隊第二群 「プリンス・オブ・ウェールズ」空母打撃群
「駆逐艦アンセル、応急処置を完了!」
『こちらフリゲート艦”テンペート”。全ての応急修理作業を終わらせました!』
ポーツマス沖での戦闘から撤退してきた空母「プリンス・オブ・ウェールズ」率いる空母打撃群は激しく黒煙と炎を吐き陣形を大きく乱した光景から一変して、数を減らしつつも整然と陣形を整えていた。
その中で戦闘可能な艦艇は乗員を総動員して応急修理を行っていた。
旗艦である「プリンス・オブ・ウェールズ」も艦載機の弾薬補給も合わせ、滑走路及び艦体各種設備の復旧を急いでいた。
そして、その全てがようやく完了しようとしていた。
「これから赴く戦いの目的は、マクルーアの敵討ちだ。と言っても、死んでいるのか生きているのか不明ではあるが、士気が上がるのであれば多少の偽りなど問題は無い」
「だが、忘れるな。言葉にする必要は無いが、女王陛下と戦火に見舞われるロンドン市民を守るのは当然の義務だ。今回はその義務に加えた目的の為に戦うまでだ」
「プリンス・オブ・ウェールズ」のCICにてそう話すのは、空母打撃群司令のデイヴ・スコット海軍中将であった。
「……さて、前置きはここまでだ。命令はたった一つ、全艦戦闘準備!全ての作業が完了次第、直ちに出撃する!」
その言葉を発した直後、艦内は慌ただしさに包まれた。
CICにいた士官らも各所へと命令を伝えていく。
その折、隣にいた艦長が話しかけてくる。
「とはいえ、空母の直轄艦だけでも2分の1となり、隷下の戦隊群に至っては更にその数を減らしております」
艦長から伝えられたのは、勝てるのかという懸念だった。
スコットはその懸念を振り払うべく答える。
「主戦場はロンドンであり、既に我ら海軍は支援戦力へと成り下がったのだ。表立って戦うことは無く、被害も少なく見積もられるが……それ故に我らは支援としての役割をやれるだけ全力で果たす……!」
「……はっ!」
スコットの意志に、艦長は勢いよく敬礼を返す。
_UTC・GMT3月23日午前8時6分_
ロンドン地区ルイシャム・ロンドン自治区デトフォード
作戦開始の合図と共に、デトフォードにて小康状態を保つ『ヴォークワイバーン』へと攻撃が加えられる。
スコットが言っていた通り、海軍は支援戦力として最初の攻撃を加えるべく、ストームシャドウ巡航ミサイルを一斉に放つ。
文字通り探知能力の
邪竜は眼光を朱く光らせ、鎖状の触手を周囲に張り巡らせて爆発から身を守るような動きを見せた後、攻撃を受けた方角を認識して複数の『リトルヴォーク』を生成して差し向ける。
しかし、イギリス軍はその意識外の方角からも攻撃を仕掛ける。
空からはテンペストが
『リトルヴォーク』、『ヴォークワイバーン』それぞれに目標を問わず行われる砲撃の最中で、一部の戦車隊とプログレス部隊が隣接するペッカム区への進撃を開始する。
そこへ至る目的は件の少女達の救出に他ならず、作戦司令部の予想通り群がる『リトルヴォーク』の数は多かった。
「エクシード、『永劫なる妖精の祈り』。フェアリーショット!!」
一体の『リトルヴォーク』が神秘的な光に包まれた半透明な矢に貫かれ、爆散して塵へと消える。
その矢を打ち出した銀髪ハーフツインテールの少女は、前に伸ばしていた左手を下すと、両手で祈る姿勢を作る。
「
その言葉を口にした瞬間、周りにいるプログレス達のあらゆる能力が向上する。
彼女、ミーシャ・スコットのエクシードから繰り出される魔法には全能力支援系が多く、そのバフ効果の恩恵を受けたプログレス達が魔法を放ち奇襲に気づいた『リトルヴォーク』を倒していく。
共に戦うチャレンジャー1戦車とスコーピオン偵察戦闘車も砲撃を行って間接支援に徹する。
やがて孤児院の敷地内へと突入すると、少女達の安全確保へと動く。
「嘘……うぅ、うわぁぁぁぁぁ……」
「くそっ、遅かったか」
だが、その言葉通り、全員を助けることはできなかった。
疲れ果てこの世の地獄と思える光景を見て目が虚ろになってる少女が保護される一方で、地面に倒れ血を流し既に息絶えた幼い少女の姿もあった。
「……ここの処理は我々がやる。お前たちは本命に動け」
しかし、その後悔も残る中、プログレス達は『ヴォークワイバーン』へと戦いを挑むため、その場を去った。
「射抜けっす」
『ヴォークワイバーン』に対し、クラリッサ達が先陣を切る。
主を守るかのように複数いる『リトルヴォーク』の周りを一瞬の内に小さな影が通り過ぎ、気の抜けた声と共に魔力から生成された短剣が一体ごとに突き刺して仕留めていく。
2分も経たない短時間の内にビルの屋上にいる彼女たちと『ヴォークワイバーン』との間に空白が生まれ、クラリッサはこの機を逃さず指示を出す。
「露払い、ありがとう。アビーは魔法で『ヴォークワイバーン』だけを撃ってて。近づく『リトルヴォーク』は私とノヴァで蹴散らすから」
「うん、りょーかいっ!」
アビーは元気な声で返事をすると、頭頂部に金色の飾りを付けた白い魔法杖を掲げる。
「『ノイン・ヴェイン』!!行けーっ!!」
九つの白く光り輝く球が杖の周囲に浮かび、その全てが指向性をもって『ヴォークワイバーン』へと撃ちだされていく。
同時に、アビーが『ヴォークワイバーン』から狙い撃ちされないように、クラリッサとノヴァも攻撃を仕掛けていく。
「『
アビーの魔法が着弾し『ヴォークワイバーン』がうめき声を上げる中、クラリッサは自身の槍を振るい、穂先に現れた大きな赤き炎の爪が『ヴォークワイバーン』の肌をえぐり焦がす。
「行くっす」
ノヴァはそう一言だけ話すと、多数の短剣を生み出して装甲の各所へと突き刺していき、自身は焦点も定まらない高速移動で『ヴォークワイバーン』を翻弄しつつ刺し貫ける場所を見定めていく。
「ここっすよっ!」
短剣の刺し加減で見定めたノヴァは、ひと際長い長剣を作り出して装甲の薄い箇所へと突き刺して内側からダメージを与えていく。
イギリス軍プログレスも攻撃へと加わり、クラリッサ、ノヴァ、アビーの3人は攻撃を重ねていくが、『ヴォークワイバーン』からも激しい反撃を貰う。
クラリッサは寸前のところで避けるも、レーザーが右頬を切り傷口から赤い液体が垂れる。
「くっ……」
『お嬢さん、俺たちの上に乗れ。敵のド頭まで届けてやる』
痛みに悶え、空中での姿勢が崩れかけるクラリッサに、イギリス空軍のテンペスト戦闘機部隊のパイロットが話しかける。
クラリッサは、”ありがとう”と小さく返事を返すとともに、機体の上部へと飛び乗った。
突然の衝撃に軽くぐらつくが、少女一人が乗った程度ではものともせず、僚機にはノヴァも飛び移る。
『よし、今だ!』
テンペストが注意を向けさせるために
「『
赤い魔力の炎が穂先を覆ったのを見て、その槍で『ヴォークワイバーン』の首筋を殴りつける。
ノヴァも同じタイミングで飛び、数本の長剣を首筋に突き刺す。
アビーからの支援攻撃も加わった激しい猛攻に『ヴォークワイバーン』の装甲が深く削れていくが、その都度修復されていきクラリッサ達は溜まった疲労によって動きを鈍らせる。
その鈍った隙に、『ヴォークワイバーン』は自らの敵とは違う方角へと高威力のエネルギー弾を放つ。
視界の端に着弾する光景を見たクラリッサの中で悪い予感がすると同時に、それを証明するように魔力通信が3人の元へと届く。
『う……ぐ、ごめん……』
それはクラリッサ達の後に送られるはずだった後続部隊に属する魔女の一人からだった。
苦しむ声と共に、爆発音と何かが崩れ落ちる音、そして泣き叫ぶ声がはっきりと聞こえていた。
※次回