Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

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イギリス編最終話です。


世界の危機(ワールドクライシス)〈18〉【お互いを信じた勝利】

_UTC(世界標準時)GMT(グリニッジ標準時)3月23日午前10時4分_

ルイシャム・ロンドン自治区デトフォード

 

「クラ……リッサっ」

 

 瓦礫だらけの市街にて仰向けで横たわるクラリッサに寄り添い、アビーは友達が死んじゃうのが怖くて、自分が役に立たないのが悔しくて、泣きそうになりながらひたすら『ヒール』を当てる。

 しかし、出血は止まらず、クラリッサの腹部に穿たれた大きな裂創も塞がらず───、

 広がっていく血に手が触れ、赤く濡れた手を見てアビーはクラリッサの死を予感した。

 

「ぐっ……い‟……アビー……?」

 

 しかし、出血の勢いは弱まり、痛みも和らいで足や腕を動かすぐらいはできるようになっていた。

 それをクラリッサは苦悶の表情を浮かべながら、近くの瓦礫に埋もれていた折れた鉄骨を引きずり出して、鉄骨を支えに無理して立ち上がろうとする。

 

「クラ……!それじゃ、戦えないよ……!休んでてよ……」

 

 傷の具合から安静にしているべきと理解していたアビーは、涙ながらに止めようとする。

 

「でも、誰が……あれを、止めるの……?」

 

 クラリッサの視線が『ヴォークワイバーン』に向き、悔しそうに歯ぎしりする。

 しかし、その手を見れば小さく震えていた。

 ───例え強気に答えても、怖いのは誰も同じだった。

 

「……アビー、治療ありがとう。動けるなら……まだ戦えるから……っ」

 

 アビーに対して笑みを浮かべかけるが、重傷の体では辛そうな表情がうかがえた。

 

「ぐ……っアビー、『スーパーメテオ』って、打てる……?」

「!……ママからは教わったから、多分使える……よ」

 

 痛みに悶えながら聞くクラリッサに、アビーは自信無さげに答える。

 『スーパーメテオ』、それはアビーの生家であるフェニット家に伝わる直伝の大魔法。

 決して分かりあうことができない巨悪にしか使ってはいけないと信条に定められたものだった。

 

「……使って。私が引き付けるから、その間に撃って。

アイツを倒すには……それしかないっ……」

「……クラはどうするの、どうやって戦うの……!」

 

 クラリッサはそれに答えることなく、"見たら分かるから"と言い残して、飛び去っていく。

 その直前、闘志のように燃え上がる竜の炎を幻視したアビーは、クラリッサの覚悟を知って、止められなかった悔いを残しつつ、泣きながら叫んだ。

 

「く、クラは我儘なんだから!!アビーを信じてくれるなら……アビーもクラを信じるしか無いじゃん……!アビーだって、誰も死なせたくないから!!」

 

 クラリッサの思いに応えようと、アビーは決意を込めた。

 

「ママ、力を貸して。アビーは使うよっ、みんなを助けるためにっ!」

 

 手に持つ白い杖を『ヴォークワイバーン』へと向け、魔力を込め始める。

 

 一方、クラリッサは瓦礫の少ない場所に降り立つと、右手で傷を抑えながら左手を口元に持っていき、人差し指を歯で噛み切る。

 皮膚の切れた部分から少量の血が垂れ、そこを親指で抑えながら魔力を込める。

 

「竜血の盟約に……従いっ、炎の竜よっ。わが身に……っ顕現せよっ!!」

 

 言葉を言い放った瞬間、別空間からの膨大な魔力が彼女に流れてくる。

 途端に人間種として赤色の瞳を持つ左目が、右目と同様に竜の血を継いだ証たる金色の瞳へと変化する。

 彼女が口ずさんだそれは、竜の血を継ぐ彼女の一族に伝わる盟約の一つ。

 その血を媒体として幻想種である竜をその身に宿すものだった。

 当然デメリットも存在していたが、それ以上に竜は強力な存在だった。

 

『お嬢……酷く傷ついておられるが、治さなくていいのか』

 

 クラリッサの脳内に語りかける声、それはクラリッサと盟約を結んだ竜”ガロウ”の声だった。

 

「……ガロウ、もったいないからやめて。それよりもっ、……私の魔力が切れる前にあいつを何とかしないと」

『……承知した』

 

 ガロウという竜は渋々承諾する。

 しかし、クラリッサの気が付かない内に、竜として持つ魔力を使って出血だけは止めていた。

 クラリッサの左手を起点に、竜の形を纏った巨大な炎の幻影が現れたかと思うと、金色の両目を持つ炎の竜がそこには現れた。

 

「竜よ、喰らえっ」

 

 突然眼前に現れた竜に『ヴォークワイバーン』は対応することができず、先手を打ったガロウによって胴体に噛みつかれ、高熱の炎に焼かれる。

 それをもって敵と認識した『ヴォークワイバーン』は口腔及び腕から赤い光線を放つが、そこに存在しないかのように光線は吸い込まれ消滅する。

 

 実体があるように見えて無い、それがこの状態で姿を現した竜の強み。

 決して霊的存在ではなく、身に受けたエネルギーは別空間へと吸収していた。

 しかし、無敵の存在では決して無く、全て盟約を結んだ宿主に依存しておりエネルギーを吐き出す時も防御する時も宿主の魔力を必要としており、それが切れた瞬間には竜の存在を維持できなくなる弱点を持っていた。

 

「竜よ、敵を焼け」

 

 ガロウはクラリッサの命令に従い、口から火炎を吐いて『ヴォークワイバーン』の体に浴びせていく。

 自身を構成する物質が焼き壊されていくことに耐えかね、『ヴォークワイバーン』はうめき声をあげる。

 腕を壊し、尻尾を引きちぎる。

 修復されながらも、ガロウは『ヴォークワイバーン』という存在を壊すべく、攻撃を続ける。

 

 クラリッサの魔力が切れるのが先か、アビーの魔法が準備終えるのが先か、一進一退の攻防が続く。

 

_UTC・GMT3月23日午前10時15分_

タワー・ハムレッツ・ロンドン自治区カナリー・ワーフ

 

「炎の竜かぁ……かっこいいけど、そう簡単に褒められないよね」

 

 デトフォードにいる『ヴォークワイバーン』を見下ろすことができるカナリー・ワーフの高層ビル屋上に立ち、首にかける双眼鏡で覗き見る薄橙色セミショートの少女、マリル・ルガネットは見える光景をそう評する。

 

「クラリッサ、ですわね。あの子があの力を使うのは強敵の時だけ、あんまり喜べない状況ですわ」

 

 その隣で話すのは、頭部にヘッドドレスを着けた紫に白のメッシュがかかったツインテールの少女、機械人形のアイリーンだった。

 

「それよりも、そう雑談してて大丈夫ですの、使えなかったじゃ、話になりませんよ。……また、()()()みたいに」

 

 一番最後の言葉に、マリルはその体を震わせる。

 そして、平静を装いながら言葉を返した。

 

「う、うん。それは大丈夫……。敵がもしかしたらマナを探知できるかと思ってこっそり細工してたのも功を奏したね」

 

 ポーツマス沖の戦闘で『ヴォークワイバーン』を魔導砲で撃破しきれなかった後、司令官マクル―ア中将は戦闘中行方不明(MIA)となっていた。

 彼女は彼と機械改造等で意気投合してたこともあって、心に大きな穴が開いた気分になり深く……深く後悔していた。

 二度も起こさせない為、その対策に全力を尽くした結果が、後ろで多数のコードが砲身部分に繋がれているBL5.5インチカノン砲だった。

 マナの変換効率を改善するため、砲身形状を変えようと考えたマリルがイギリス陸軍から提供してもらった旧型の榴弾砲だった。

 

 マリルは双眼鏡を見るのをやめ、砲身に取り付けた測定器に触れる。

 

「うん……うん、順調に上がってる。やっぱり正解だったみたい。そろそろ撃てる、じゃあ連絡するよ」

 

 マリルは腰のポケットから通信機器を取り出し、イギリス軍司令部へと伝える。

 

「もうすぐ撃てます、発射のタイミングを」

『タイミングは我々でも掴めていない……そちらで決めてくれ。……それよりも、()()()()()()()()のか?』

「それは……」

 

 ウィンストン国防参謀長の真剣な問いに、マリルは押し黙る。

 

『まあ、分からないのが適切だろう。統合軍とはいえ、この敵は想定外だからな。

彼女らも準備はしているだろうが、保険は掛けておきたい。

発射許可は繰り上げる。好きなタイミング、でな』

 

 忙しいのか、そこで通信が切られる。

 

「好きなタイミングかぁ……見極めるしか、無いよね」

 

_UTC・GMT3月23日午前10時26分_

ルイシャム・ロンドン自治区デトフォード

 

「クラリッサさんもアビーさんも自分の世界じゃないのに、頑張ってくれてるっ!私にはあれを倒せる力は無いけど、それを支えることならできるはず!」

 

 ガロウと『ヴォークワイバーン』の攻防を邪魔にならないようにイギリス軍プログレス達はそれを地上や建物の各所から眺めることしかできなかった。

 その中にはミーシャの姿もあり、何もしない自分に腹を立てていた。

 

「私の思い、届いて!『フェアリーウイングス(妖精の翼)』」

 

 目を閉じ両手を合わせ祈るような姿勢で念じる彼女の背から、神秘的な光に包まれた翼が現れる。

 それは彼女の魔法名にもある妖精の翼だった。

 

「全ての能力を最大限引き上げます。全力を出さないとっ」

 

 その凄まじいバフ効果は神秘的な光の波に乗って広がっていく。

 それは彼女達に確かに届いた。

 

「ぐぅぅ……!あと少しぃぃ……アビーはっ、まだ頑張れるっ」

 

 前に突き出した白い杖の頭頂部に白く光り輝く光球が作り出され、魔力を急激に圧縮し続ける。

 大魔法『スーパーメテオ』は今まで使った魔法とはくらべものにならないぐらいの魔力を使う。

 それ故に疲労も違った。

 だけど、アビーは逃げ出すことは無かった。

 ノヴァは動けず、クラリッサはアビーに託した。

 

「アビーがやるしか、無いじゃん!……これって!?」

 

 決意を込めていると、アビーの魔力が予想以上に増大する感触を彼女が憶える。

 驚きも一瞬で与えられた魔力すらもこの一撃に込める。

 杖に更なる魔力が込められ、白く光り輝く光球は大きくなったり小さくなったりと状態が不安定になっていく。

 やがて数ミリ単位まで大きさが縮み、次の瞬間には黄色く輝いた光球が生まれていた。

 

「ミーシャさん、だっけ。ありがとうっ……詠唱、おわり。ふぅー……、行けるよクラリッサ!!」

 

 一方で竜のガロウが『ヴォークワイバーン』と戦う中で、クラリッサは『ヴォークワイバーン』がアビーの急激な魔力上昇に感づいていることに気づき、必死に守ろうとガロウに命じていた。

 その結果、魔力残量が少なくなっており、度重なる戦闘による疲労も合わさり、限界は近づいていた。

 ちょうどその時にアビーからの準備が完了したことが告げられると、ほっと一息つくと共に、ガロウに命じる。

 

「じゃあ……これが最後の攻撃、かなっ。準備出来たといっても……発射の直前までは、無防備だからっ……タイミング見て、切り上げるよっ」

『承知した、我も最後の全力を見せつけよう』

 

 脳内に響くガロウの言葉に、ふらつきながらもクラリッサは頷く。

 その次の瞬間、二人にもミーシャからのバフ効果がもたらされる。

 

「これは……あの子?」

『力が漲ってくる……だと?』

 

 クラリッサの魔力残量が回復していき、ガロウは竜としての全能力が引き上げられる。

 驚きもわずかにクラリッサはニカっと笑みを浮かべる。

 

「ありがとう。これだったら、尚更遠慮する必要は無いよねっ!!竜よ、敵を狩れ

 

 それはミーシャのバフ効果によってブーストされた魔力すらも温存する事を考えて無い全力攻撃だった。

 口からは炎を吐くと共に、両手のかぎ爪で『ヴォークワイバーン』の装甲を焼き切り、更には首筋に歯を立てて丸焼きにする覚悟で焼き焦がし、修復の暇を今回こそは与えない。

 口や腕、さらには尻尾を使ってダメージを与えつつ全力でその動きを拘束する。

 魔力切れ寸前の数十秒間拘束し続けた後、魔力切れる前にその盟約を解放して炎の竜は幻影として消える。

 

 次の瞬間──。

 

「『スーパーメテオ』!!、いっけぇぇ!!」

 

 魔法杖から黄金色の光球がその制御から解き放たれた途端、その光球は超音速で上空へと急上昇する。

 雲すらも突き抜けた高空へと上り詰めたと思うと、地上へと光が差し込むレベルの発光現象の後、数十もの流星となって物凄い速度で『ヴォークワイバーン』目掛けて墜ちてくる。

 わずか数十秒足らずの出来事であり、スーパーメテオ(超流星群)は『ヴォークワイバーン』へと直撃した後、その爆発はそれを軽々しく飲み込んでいった。

 その光景を見てようやく終わったと多くの者が安堵する。

 確かに、スーパーメテオによって『ヴォークワイバーン』の胴体が消し飛ばされたのは事実であった。

 しかし──。

 

 大規模な形状変化を起こした時にバグでも発生していたのか、消し飛ばされた胴体部にあったメインのコアとは別に、頭部と尻尾のそれぞれに分けてコアを隠し持っていた。

 それ故に、『ヴォークワイバーン』は元通りの姿となって文字通りの復活を果たす。

 人々はもう一度戦わないといけなのかと、絶望感を露わにする──。

 

「ドラゴンリーダーより各機、畜生が復活したようだ。これは冥土の土産が欲しいらしい」

 

 ロンドン上空を駆けるF-35の大編隊。

 それは空母プリンス・オブ・ウェールズより発艦した全ての艦載機だった。

 ”攻撃開始”の合図と共に、中央にいる編隊を除き対艦ミサイルを次々にウェポンベイ及びハードポイントから切り離していく。

 威力自体は高いが効果的な攻撃にはならないと判断したドラゴンリーダーによって、本命を隠すための欺瞞としての役割を担った。

 

 中央の編隊。それは機体の形こそF-35Bではあるが、外見は他の機と大きく異なっていた。

 彼らは露軍迷彩に身を包んでおり、空母航空団アグレッサー部隊という肩書を持っている。

 今でこそロシアは友好国の一つではあるが、仮想敵機役として相応しい国にロシア以外の案が少なく、大使館も黙認しているため迷彩も続けられていた。

 当然、仮想敵機役らしく空母航空団の中で最精鋭の練度を誇っており、スコット中将は彼らに相応しい任務を命じていた。

 

「ドラゴンリーダーより精鋭たる紳士どもへ、さて諸君らはイギリス人として当然ではあるが、紳士としての作法には通じているだろう。では、訪問客へのもてなしに必要な物は何か?」

『ドラゴン2よりドラゴンリーダー。当然、プレゼントでありましょう』

「正解だ。我らは奴にとっておきのプレゼントを上げるのだ」

 

 露軍迷彩に身を包んだF-35Bの編隊が一斉にウェポンベイを開放する。

 そこから現れたのは一見何の変哲も無い誘導爆弾だった。

 

「全機投下。冥土の土産にしてやれ!」

 

 照準が合わせられ、一斉に投下される。

 現代兵器にとって回避すらしない物体を捉えるのは容易く、その威力が発揮される。

 爆裂術式魔法が組み込まれたそれらは物体の小ささに反して、通常の対艦ミサイルとは比にならない威力を発揮した。

 『スーパーメテオ』を撃ち放ったアビーを狙い撃とうとしていた『ヴォークワイバーン』は、その予想もしない攻撃に動揺して空ばかりに関心を向けて、ジェット戦闘機にとっては掠りもしない低速の光線を乱発する。

 だが、『ヴォークワイバーン』にとって致命的だったのは、周囲への注意を怠った事だった。

 

「もう繰り返させないよ。みんなの後悔を無駄にしないからっ。魔導砲、発射ぁ!!!!」

 

 マリルはデトフォードまで届きそうな勢いの大声で叫びながら、お手製の発射レバーを引く。

 その瞬間、マナを凝縮した紫色に輝くエネルギーが砲口一杯まで広がり、元のカノン砲としての役目通りにマナを凝縮したエネルギー弾がカナリー・ワーフから山なりの弾道を描き、空ばかりに注意を向けていた『ヴォークワイバーン』へと直撃する。

 直後、臨界状態となったマナの連鎖融合による巨大な爆発が『ヴォークワイバーン』を飲み込む。

 半径約4km程度離れた高層ビルの窓ガラスが全損するなどの原爆に匹敵する弊害こそもたらしたが、その膨大なエネルギーは奴の復活を許さず、完全に消滅させた。

 

 その巨大な爆炎が収まりきらない中、その光景を横目にアビーはクラリッサの元へと赴く。

 魔力切れを起こしたクラリッサは力を使い果たしたかのように地面に横たわり、『ヴォークワイバーン』が消える様をその目に収めていた。

 アビーが支えつつクラリッサは微小に残された魔力でノヴァの元にたどり着く。

 

「見てたよ……ノヴァは……少しは落ち着いてきた、まだ痛いし動けないっすけど……生きてて良かった……す」

 

 大怪我を負って自分一人だけ惨めに生き残る事を未来視していたノヴァは、二人が生き残ってくれて良かったという溢れんばかりの感情を抑えきれず、大粒の涙を流す。

 

「でも、『スーパーメテオ』でも倒せなかった……アビーは、もっと強くなりたいっ」

「あれは普通じゃあり得ない……でも、あたしもアビーと同じ。けど、今は……勝った事を喜ばないと」

 

 クラリッサの言葉に二人が頷き、三人で抱きしめあう。

 戦いに疲れ果てた三人は、涙を流しながら無事を確かめ合う。

 

「『委ねよ、癒しの聖幻(ホーリィヒーリー)』」

 

 その時、空からそのような少女の言葉が放たれると共に、三人は視界に捉える光景に変化が無いのに、全てを預けられる暖かい光に包まれたような感覚に陥る。

 

「……出来たっ……!……いや、そんなことよりっ!」

 

 浮遊魔法が付与された傘をさしながらゆっくりと降下してきて、地面に降り立つ少女。

 穴が空きボロボロになったミニシルクハットを被るあどけなさが残る黄色髪ウェービーヘアの幼い少女、──魔女見習い──ロザリー・ルインベルクは道端に傘を投げ捨てて、涙を流しながら駆け寄ってくる。

 

「っ……必ず迎えに行くって言ったけど……本当に倒しちゃうなんて……でもっ……今はそんなことより、生きててよかったよっ……!」

 

 太陽に照らされた彼女の格好に焦点を移すと、服の一部が焼かれた後のように破れ、腕や足には擦り傷がいくつか付いていた。

 彼女こそクラリッサに後続部隊の状況を伝えた少女であり、増援部隊に一部を任せてクラリッサの元に駆けつけていた。

 

「クラリッサっ……どうかな、ワタシの魔法はっ」

「ロザリー……あったかいな」

「……やった」

 

 魔女見習いは基礎として初級治癒魔法を習得しなければならないが、ロザリーにはそれに加えて幻術使いの素質があった。

 初級治癒魔法『ヒール』と幻術を組み合わせたのが、師匠から教わったこの魔法である。

 

「ワタシの魔法だったら力を抜いても大丈夫だよ。幻術で痛みを紛らわすから苦しい思いをしなくていいし、死ぬことも無い。……でも、出来ない事もあったから間に合ってよかったっ……」

 

 後続部隊の一人として住民たちの治療を行ってた彼女は、息絶える寸前の人を助けようとした。

 だが、魔法が間に合わずに目の前にいるのに助けられず、幼い彼女の精神に小さくない傷を刻んでいた。

 彼女の魔法を受けてクラリッサ達三人の体は治癒速度が遅くとも確実に傷を塞ぎ、治していく。

 さらにその三人の周りにも彼女の魔法を受けてる者達がいて、その効果は広範囲に及んでいた。

 

_UTC・GMT3月23日午前10時48分_

ペッカム区孤児院

 

 孤児院の建物は『リトルヴォーク』の攻撃を受けて炎上していたものの、全壊を免れていた。

 それも機能が復旧しかけていた消防及び軍の協力により鎮火し終えている。

 

 今ここでは建物周囲に簡易テントを張り、中に簡易ベッドを置いて孤児院の子供たちを寝かせていた。

 戦い、逃げ、泣き疲れた少年少女達が身体を休めるために、静かに寝ていた。

 

 孤児院の周りでは軍部隊が残存する『リトルヴォーク』がいないか警戒に当たっているが、時折見回りも兼ねて入ってくる。

 兵士たちの中には、幼い子供達の静かな寝顔を見ることで、戦って本当に良かったと安堵する者が少なくない。

 

「お……ここにいたか」

 

 同じように1人の戦車兵が見回りに訪れ、ある姉妹を見つける。

 長い時間戦い続け無精ひげを生やす彼は、若い20代前半の兵士であり、戦う前は臆病な性格だった。

 しかし、幼すぎる姉妹の戦いを偶然であったものの見せつけられてしまい、こんな子達が戦うならとやる気を出して戦い続けた。

 ここに来たのは、やる気を出してくれたお礼も兼ねたものだった。

 

「怖かっただろうに……よく頑張ったな」

 

 最後に髪型を崩さないように優しくなでる。

 金色の強く優しい輝きに包まれた髪を持つ少女と、青色の透き通った優しくとも正義感溢れる髪を持つ少女。

 二人の姉妹は戦車兵に撫でられた後、楽しい夢を見ているのか、にこやかに笑いながら静かに寝続けた。

 未来の希望(プログレス)の手はまだ無垢のままであり、今後もそうでありたいと願い続ける。

 

 

 

 

 

 イギリスに遅れること数時間、ロシアに続きフランス共和国の『アヴァンミラン』、中華人民共和国の『鐘楼型』全個体の撃破が各国報道官によって速報で伝えられる。

 これにより、脅威となる大型ウロボロスは、アメリカ合衆国コロラド州州都デンバーを壊滅させた超大型ウロボロス『ダークヒンデリア』を残すのみとなった。




○ちょっとした余談。
クラリッサの「竜血の盟約」によって炎の竜を出現させてそれを操って『ヴォークワイバーン』と戦ったシーンについて。
当然「竜血の盟約」はオリジナル設定ですが、アンジュ・ヴィエルジュ内設定だと能力も少し異なります。
今回の話だと、炎の竜を出現させて代わりに戦ってもらってましたが、アンジュ・ヴィエルジュ設定だと彼女は体を竜に変えて戦うことができます。
あるキャラカードにも描かれていますが、例えば腕を竜の硬い鱗に覆われた鋭いかぎ爪をもった腕へと変化させることができます。
そして、最終的には彼女自身も竜へと変身することができます、この状態で戦うシーンも見てみたいという方がいるのであれば、今後書いてみようかなとも思ったり。

伏線については……何も言うまい。


※次回

世界の危機(ワールドクライシス)(19)【業火へと導く】

超大型ウロボロス『ダークヒンデリア』に敗走を重ねるアメリカ軍。
日本の報せを聞き、少女達が志願していく。
あらゆる軍備を保有する世界最強のアメリカ軍として、人類滅亡をもたらす力を除いた持てる力その全てを使い果たす勢いで反抗を開始する。
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