Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

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アメリカ編突入です。
前半、残酷な描写があります。


世界の危機(ワールドクライシス)〈19〉【業火へと導く】

_UTC(世界標準時)3月23日午前5時51分・MST(山岳部時間)3月22日午後10時57分_

アメリカ合衆国コロラド州バーリントン

 

 日本から希望の一報(ウロボロスの撃破報告)が届く約30分前。

 コロラド州州都デンバーを壊滅させた後も、『ダークヒンデリア』は引き続き東進を続けていた。

 

「壊滅したとはいえ、それは中心部の話だ。デンバー広域都市圏外縁の民間人は今も生き残り避難を続けている。我々の役目は東部へと逃れてきた民間人をさらに遠くへと逃す為に、その時間を稼ぐのだ」

 

 空を駆けるのは、対地ミサイルを『ダークヒンデリア』の黒に染まり赤いラインが走る特異な装甲へと投げつけるF-16戦闘機の中隊だった。

 装甲表面にてその威力が発揮されるが、爆炎の後にその行為を無駄だと言い表すかのように元通りに修復していく。

 しかし、その些細な攻撃でさえ逃がさないとばかりに胴体中央部を一周するようにして走る赤いラインから複数の赤い奔流が放たれる。

 その火線に絡めとられ一機が塵となって墜とされ、他の中隊機はその死を惜しみながらも自己の生存を優先して空の彼方へと退いていく。

 地上の兵士にとっては幾度も見た光景であり、その年齢が若い兵士ほど空軍機が撃破できない悔しさに腑が煮えくり返る。

 

 空の出来事を横目に、中隊規模の装甲車両が陸を這っていた。

 中隊規模と言っても彼らの車両が本来いるべき正式な所属は異なり、同型であるM1A2C”エイブラムス”主力戦車に至ってもそれぞれ別の戦車小隊の所属であった。

 さらにこの混成中隊の司令官には、この部隊に所属している戦車小隊が属していた戦車大隊の幹部将校が任じられ、指揮を執っていた。

 

 核攻撃後のアメリカ軍はデンバー壊滅の影響を受けて、過去例を見ない程に混乱状態に陥っており、緻密な作戦計画がまともに取れる状況では無かった。

 アッシャー国防長官が敏腕を振るって国防総省スタッフを総動員して作られた作戦計画も緻密な物とは言えない出来だったが、その体裁は取れており各地の部隊は離散と集合を繰り返しながら、陸空軍の州兵を巻き込んで必死に()()()()を繰り返した。

 

「全車停止。我々が射撃地点に移動するまでに空軍機が幾らか時間を稼いでくれたようだが……ここまでだ。これほど絶望的な戦いは過去には無いし、未来にもあっては欲しくない。二人はやれるか?」

 

 臨時中隊長の視線が別の装甲車に同乗する二人の少女に移る。

 プログレスが時間稼ぎに動員する命令があったわけではなく、彼女達は自分の意志で覚悟を決めていた。

 藍髪ショートボブの少女が声をかけられた事に気づいて、隣にいる先ほどまでの自分と同じように空に視線を向けている赤髪ロングツインテールの少女に声をかける。

 

「やれるかって?……いい、かな?」

「……うん。あなたも決めてるんでしょ、私だって怖いけど、憎いからっ……!……」

 

 傍目から見ても距離感が非常に近く濃密な関係に見える二人の目には恐怖心から涙を浮かべていた。

 だが、その目の奥深くにはそれよりも非常に根深い暗い心が根付いていた。

 二人の意志は”互いの親を殺された復讐”だった。

 デンバー中心部に住んでいた二人は親より先に避難して離れていた時、奔流で住んでいた街が消し飛ぶ様を目にし、復讐の為にたまたま遭遇した混成中隊に戦うことを志願した。

 

「……了解した。全車、射撃用意」

 

 戦車の砲身が空へと向けられると共に、対戦車ミサイルの照準が設定される。

 二人の少女は車両から降り、自分のエクシードを発動させて魔法の用意を行う。

 全ての射撃準備が完了したと臨時中隊長のインカムが受信すると、彼は一言命令を出す。

 

「総員、砲撃開始(オープンファイア)!!」

 

 120㎜滑腔砲が火を吹き、M3A3”ブラッドレー”騎兵戦闘車の対戦車ミサイルが装填されてる全弾頭を斉射する。

 藍髪の少女が前に突き出した両手にを作り出すと、そのまま音速の速度で『ダークヒンデリア』の装甲に突き刺さると、超低温の氷が装甲にへばり付く。

 彼女と気の通じ合う赤髪の少女がそれを見て突き出した右手から炎を作り出すと、氷が突き刺さった部分へ超高温の炎を投げつける。

 極低温の物に高温の物を当てるとどうなるかは明白であり、その急激な温度変化によって脆くなったその装甲は文字通りたった1発の砲弾によって()()し、装甲に穴が空くと共にそれを修復しようとする動きも、その周りを氷漬けにされることで無理やり押しとどめ、さらなる攻撃を叩きこんでいく。

 

 一見善戦しているように見えるが、二人の少女は年齢的にも精神的にも10代半ばと幼く、エクシードに目覚めたものの今まで平和な生活を送ってきた故に魔法の制御もまだまだ未熟だった。

 ずっと戦い続ければ人は疲労する。それが大人ではなく幼い少女であれば尚更であり、赤髪の少女が疲れ切り手を下ろす。

 藍髪の少女も疲労が限界を迎えており、魔法の制御を誤ってしまう。

 

「はあ、はあっ……あ、ごめんっ……!」

 

 気づいた時には狙おうとしていた場所とは見当違いの部位に着弾しており、元々幼いためにマナの総量も少なく1発で凍らせる範囲も狭かった。

 修復の動きを妨げるものが無い事を良いことに、装甲の穴は縮んでいく。

 赤髪の少女がわずかな炎を投げつけ、着弾した部位の装甲が小さく破裂するが、それだけでは修復の手は止められない。

 

「私も……ごめんなさいっ……」

 

 混成中隊はひたすらに戦車砲や対戦車ミサイルによる攻撃を続けていたが、ウロボロスのエネルギーに対するマナの抑制力すら持たない通常攻撃は修復を数秒だけ妨げられる程度でしか無く、遂には完全修復を果たす。

 光線を振り下ろしてくると予想されたが、『ダークヒンデリア』は自身の周囲に数十以上の『バッド級』を出現させ、それらを勢いよく降下させていく。

 

「全車、対空戦闘!!」

 

 臨時中隊長が指示を出すと共に、空へと戦車砲の巨弾が放たれ砲塔上部の遠隔銃塔から12.7㎜銃弾がばら撒かれる。

 M2A3”ブラッドレー”歩兵戦闘車からは携帯式対空ミサイルが放たれていき、25㎜機関砲から甲高い発射音と共に殺意の籠った銃弾が撃たれる。

 赤髪の少女が炎弾を放ち、藍髪の少女は氷の鋭い塊を『バッド級』へと放っていき、『ダークヒンデリア』に比べて小さく脆い装甲しか持たないそれらは必死の対空迎撃で容易に撃墜されていく。

 

 だが、『ダークヒンデリア』はそれ以上の数倍以上に上る数の『バッド級』を出現させ、それらも全て降下させていく。

 既にレーザーの射程圏内に入ってるはずの『バッド級』はある一定高度に到達した途端、胴体中央部を前後から開き真っ赤に輝く結晶体を露出させながら全速で降下してくる。

 

「なんでわざわざ弱点を露出する……まさかな」

 

 臨時中隊長は敵が起こした突然の挙動に、悪い予感がしたのか脳裏に浮かんだ旧日本軍の特攻兵器「桜花」を重ねる。

 そして、それは現実のものとなる。

 

「くそっ、迎撃しきれないっ。総員、衝撃に備えろ!」

 

 1体の『バッド級』が一両のM2A3歩兵戦闘車(ブラッドレー)の至近まで落ちてくると、その露出していたコアが突然自壊をはじめ、それが完全に砕けた瞬間に膨大なエネルギーが解放され、その爆発に飲み込まれたブラッドレーはその爆炎の光が収まった時には真っ赤に燃え盛っていた。

 

「……Darn it!(くそっ!)やはりオウカと一緒ではないか!まさにBurning bud(燃えるつぼみ)かっ……!」

 

 軽んじていたその自爆攻撃の威力に衝撃を受け、今まで以上に苛烈な対空迎撃を行い、『バッド級』の群れに砲弾や銃弾をばら撒いていく。

 しかし、『バッド級』は際限なくその数を増やしていき、一両ずつ爆発によって砲塔が吹き飛び、兵士の体が四散していき、車両内部及び外の地面が赤色に染まっていく。

 遂には混成中隊の支柱である臨時中隊長車であるM1A3戦車の装甲をメダルジェットの貫通力すら凌駕するエネルギーで吹き飛ばして、臨時中隊長含めた乗員をあっという間に焼き焦がし、重々しい砲塔が弾薬の誘爆によって吹き飛び、車両の隣に倒れていた兵士の体を落下時に押しつぶす。

 

「あ、ああ……っ」

 

 自爆型の『バッド級』によってわずかな時間で起こされた惨劇によって、赤髪の少女は精神的なショックでエクシードを使う事ができなくなっていた。

 隣にいる藍髪の少女は1体でも多く処理しようと未だに魔法を放っていたが、状況が改善しないと分かって諦めの境地に入り、ゆっくりと手を下ろす。

 

「ぁ……い、言わせてっ、あなたのことが大好きっ!……ぅ、死にたく……ない……」

 

 赤髪の少女は残された気力を振り絞り、隣にいる少女の肩を掴み、大粒の涙を流しながら自身の思いを伝える。

 一瞬あっけにとられた藍髪の少女であったが、咄嗟に自分の肩を掴んでいる彼女の両手をがっしりと掴んで下におろすと、右手は掴んだまま自分の左手を赤髪の少女の腰に回し身体を近づける。

 

「私も、大好きっ。私も、死にたくないっ……だけどさ、もう無理なら……天国でも一緒にいよう、よ」

 

 目を潤わせながら涙だけは流さないと必死に堪えながら満面の笑みを浮かべる。

 赤髪の少女が泣きながら頷いて必死に笑顔を作ると、藍髪の少女は自分の唇を相手の唇に当てる。

 

「んんむ……ん……」

 

 ”愛してる”という互いの気持ちが唇を通じて混ざり合い、その気持ちが頬を赤く染める。

 最期の瞬間まで接吻を続け、空より近づく『バッド級』の禍々しい真っ赤な輝きが二人を照らし赤いコアが自壊する直前、藍髪の少女は堪えきれずに大粒の涙を流す。

 その直後、高温の爆発による白い光が彼女達を飲み込み、消え去った。

 

 爆発が収まった直後、動く車両や人影がない中で地べたにて若い兵士の目が覚める。

 

「うぐ……いっ……ぁあ……」

 

 乗っていた戦車から吹き飛ばされ、左腕が無く右足に鉄板が突き刺さった状態ながらヨロヨロと歩き出す。

 頭からも血を流し視界もおぼろげになる中で生きている者を探す。

 そして、彼は()()()()()()()()

 その瞬間だけ不幸にも視界が明瞭になり、地面に2人の少女のものと思われる身体から断ち切られた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 よく見れば、その周囲には大量に流れ出して広がった赤い血溜まりに沈む千切れた少女の片足や、藍髪の少女が髪につけていたヘアピンが砕けてバラバラになったもの、赤髪の少女が身に着けていた黒く汚れ破れている小さなポーチ、そして大小様々な肉片等が散らばっていた。

 

「こんな……こんなのって、ありかよっ……!!」

 

 傷ついた身体を気遣うことも無く、声枯れんばかりに彼は叫ぶ。

 それを見下ろすのは、この惨劇を生んだ『ダークヒンデリア』のみであり、『バッド級』はこの惨劇を生み出すために全て使い果たしたのか一体も確認できなかった。

 ()()()()()()()として若い兵士を捉えた『ダークヒンデリア』は容赦無く赤い奔流を振り下ろす。

 若い兵士がそれを認識することは無く、その体は塵となって消し飛ばされた。

 

_UTC(世界標準時)3月23日午前7時5分・EST(東部時間)3月23日午前2時5分_

アメリカ合衆国バージニア州アーリントン郡

国防総省(ペンタゴン) 作戦指揮センター

 

「大統領、良かったのですか?国家の緊急事態として、”ナイトウォッチ”から空中指揮を執っても良かったのですが」

「……核攻撃を行った癖にこの状況下で地面から足を離すのはな……それに奴の高精度砲撃を考えると、空中指揮する方が危険だ」

 

 アッシャーは大統領の身を案じて、国家空中作戦センターとしての役目を果たすE-4B”ナイトウォッチ”への搭乗を提案する。

 しかし、ギレットは国民を置いて空に逃げることを嫌うと共に、逃げる場所の無い空より頑強な地下に籠っている方が良いとしてその提案を退ける。

 

 そんなやり取りをしている間もオペレーターや士官らが慌ただしく動いていく。

 コロラド州バーリントンで混成中隊が音沙汰も無く通信が途絶したのを契機に、展開する一部の部隊が対策も出来ず壊滅寸前の状況で自爆型『バッド級』の存在を通信で知らせに来ていた。

 それによりアメリカ北方空軍及びコロラド・カンザス州空軍州兵の配置転換及び機動展開の指示が幾度も飛び、それに伴い北方陸軍及び陸軍州兵の編成も変えられ、国防総省の作戦指揮センターがその指示を集約していた。

 

 落ち着いた頃に作戦参謀を交えて作戦計画を話し合う。

 作戦名は『オペレーション・トールハンマー』。

 トールハンマーは、北欧神話最強の戦神トールの持つあらゆるものを粉砕することができると言われる雷鎚ミョルニルの英訳名。

 ウロボロスが地球の総意であろうと、神話を生み出した人の文明を守るためにその企てを粉砕し尽くすという意味がこの作戦名に込められていた。

 

「新たな作戦計画とはいえ、今までとやることは変わりません。

『ダークヒンデリア』の移動速度と部隊の展開を計算し、カンザス州セイリーン郡サライナ市、この場所を我々にとっての決戦場とします。

カリフォルニア州防衛統合任務部隊(CDJTF)を解散させ、新たに多目的統合任務部隊(MTF)として再編成を行い、再配置を完了しています。

爆撃航空団についても一部再編成を行いつつ、出撃準備は完了してるとのことです」

 

 作戦参謀の報告にアッシャーは事前に話を突き合わせていたためか、無言で頷く。

 それが終わると、アッシャーがタブレット端末を片手に話始める。

 

「この作戦では、持てるもの全てを出し尽くします。当然、核兵器を除きますが──それはその威力で大地を人の住めない地にしてしまう放射能をもたらすためであり、それを及ぼさない兵器であれば幾らでも使用する覚悟はあります。また、持てるもの全てと言ってるのでお分かりだと思いますが、正式就役前、認可前の先行量産機、試作機であろうと作戦に用います」

 

「そして、作戦の重心であるプログレスについて。日本ではプログレスのみで攻撃を行い、撃破に成功しています。とはいえ、軍隊が行動不能な状況に陥ったとしても、プログレスだけで作戦を遂行させるのはあまりにも無謀すぎます。その為、そのような状況に至る前に作戦を遂行させる必要があります。

 バース少佐、続きを──」

『はっ、このような形で申し訳ありません。大統領』

 

 会議室のモニターに映るのは、ラングレー空軍基地にいるオーブリー・バース空軍少佐だった。

 彼は特殊能力統合人材管理局(SAHRMB)より名を変えた特殊能力統合人事局(SIP)の作戦運用部が指令室を置く部屋にいた。

 

『作戦運用部長は数日間急用の為、私が臨時で指揮を取っています。

説明の前に、まずプログレス、彼女達が作戦にどれ程参加する意思を見せたのか、それをお話ししたいと思います。

結果から言えば、SIP(シップ)作戦運用部および軍事分析部に属する全てのプログレスが作戦への参加を容認、いえ()()する意志を見せています。

その全てが帰るべき家を、居場所を守りたいから、誇りをもって名乗れるように国を護りたいから、と言っています』

「そう、か……核兵器を使って無意味に国土を燃やしたのにも関わらず、まだそう思ってくれているとはな」

 

 バースからの話を聞き、ギレットはわずかな感傷に浸る。

 彼が続きを促すと、バースは話を続ける。

 

『続けます。

プログレスの作戦行動ですが、基本方針として第一攻勢となる海空軍及び戦略軍による飽和攻撃の後、第二攻勢として各戦車部隊及び戦闘航空団の攻撃に随伴させる形をとります。

戦力の逐次投入という愚行を行わず、その火力を一度に集中させてぶつけます。

とはいえ、今までの前例から『ダークヒンデリア』が想定外の行動を取らないという可能性は低く、その場合は各部隊の対応に委任することになります』

「説明ご苦労。……勝てる可能性はまだ低いだろうが、これは我々が勝利するために取れる最善な策、ということだな?」

 

 バースの説明に対して考察を行った大統領の問いに、アッシャーや作戦参謀、バースは頷く。

 

「……分かった。作戦の発動について、委細全て任せる」

 

 眉を顰め気疲れした様子のギレットはそう話す。

 その後続いた会議に口を挟むことは無かった。

 

_UTC(世界標準時)3月23日午前8時25分・CST(中部時間)3月23日午前2時25分_

太平洋サンフランシスコ沖

アメリカ海軍第3艦隊

 

 その艦影達は動きを止めていた。

 艦隊旗艦であり、インド太平洋軍の臨時司令部を構える「ジェラルド・R・フォード」も錨を降ろし、海上に停泊を続ける。

 3隻の空母には1機の戦闘機も載っておらず、その全てを陸での戦闘に派遣している。

 空母戦闘指揮所(CDC)ではイーストンが険しい表情を崩さず黙り込み、静けさに包まれたまま他の海兵同様にその時を待ち続けた。

 

「中将!国防総省より命令を受信!」

「内容は何と?」

「はっ……作戦、発動とのことです!」

 

 その言葉を聞いて一回目を瞬きさせた後、立ち上がり声を上げる。

 

「全艦に伝達!全VLS開放、トマホークミサイル一斉射開始!次弾装填後に再度斉射だ!」

 

 18隻の空母打撃群構成艦であるアーレイバーク級ミサイル駆逐艦及びタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦のVLSが開かれ、その中から1発ずつ猛烈な白煙を吹き出しながらRGM-109Eトマホーク巡航ミサイルが放たれていく。

 随伴する第7・第11潜水戦隊の浮上しているロサンゼルス級・バージニア級攻撃型原子力潜水艦からも艦体上部の潜水艦用VLSが開かれ、多数のミサイルが放たれていく。

 発射されるいずれもがトマホークシリーズのブロックVではあるが、新造艦であるモンタナ級戦艦「モンタナ」及び「オハイオ」については将来的に重装甲目標との戦闘が予測されているため、防護目標をより貫徹しやすいブロックVbが搭載されており、10基ものVLSから解き放たれていく。

 

アメリカ合衆国バージニア州

ニューポートニューズ造船所沖合

 

「タグポートに退避要請を出せ。電力設備の再確認を実行せよ。基盤もだ!」

 

 アメリカ海軍の原子力航空母艦を唯一建造可能な民間造船所では、全長300m近い大きさの艦が引っ張り出されていた。

 造船設備に影響が出ない一定位置に曳航された後、タグボードが離れていく。

 

「電力設備に問題なし!VLS開閉の動作確認完了!試作兵装への電力伝達確認!」

「よし、総員攻撃準備!」

 

 声を上げて指示を出す海軍帽を被る男こそ海軍の士官に違い無かったが、周りを見渡すと艦橋内には正式な海兵ではない造船所関係の作業員が多く入り込んでいた。

 艦の至る所で電力配線らしきコードが通路に露出しており、完全に艤装が整っていない事が分かる。

 大きさからその艦が戦艦であることは明白であり、艤装中であることから正式就役前の艦であった。

 

 その艦の名はモンタナ級仮称3番艦。まだ艦名さえ付けてもらえていない艦であり、その試作兵装をもって駆り出された艦でもあった。

 

「”メイン”、お前の力を奴に見せてやれ。長距離射撃砲の準備は!」

『こちら主砲制御担当、問題ありません!』

 

 ただトマホークミサイルを撃つだけであれば、カンザス州から2000km近く離れたこの地でわざわざ艤装中の艦を引っ張り出すことは無い。

 「メイン」、そう呼ばれた戦艦の真価は射程1900kmを誇る長距離電磁射撃砲を主砲に搭載していることだった。

 青白く光り輝く砲身を仰角最大にまで引き上げ、視界には捉えることができない遠距離の敵を補足する。

 

「主砲、ミサイル。全兵装攻撃開始!」

 

 指示が飛んだ後、轟音を上げて射撃を開始する。

 砲弾を用いずエネルギーを作り出し、それを電磁力で加速させて飛ばす仕組みとなっている主砲は、モンタナ級に搭載されている電磁加速砲(レールガン)よりも速い装填速度を叩きだし、攻撃を送り込む。

 その攻撃はミサイルの残弾を使い果たし、主砲の送電コードが焼き切れるまで続いた。

 

 使えるものは全て使い果たす。

 それが何物であろうと。




※次回

世界の危機(ワールドクライシス)(20)【反抗の大火】

持てる全てを出し尽くすアメリカ軍の大反抗。
兵士たちも少女達もそれぞれの思いを胸に、懸命に立ち向かう。
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