Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
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アメリカ合衆国カンザス州セイリーン郡サライナ市上空
まだ持てるもの全てを出し終えてはいない。
小国を滅ぼすことさえ容易いその戦力は、その使命へと殉ずるように攻撃を繰り返す。
アメリカ空軍地球規模攻撃軍団の各ミサイル航空団による
それらが着弾する合間にアメリカ海軍第3艦隊及び第2艦隊によるトマホークミサイルの攻撃と、戦艦「メイン」からの砲撃が着弾していき、大小様々な爆発がその発光で空を赤く照らし、『ダークヒンデリア』の胴体には巨大な穴を幾つも作り出す。
その修復するまでの時間で指を加えて見ている訳ではなく、アメリカ空軍が作戦用に臨時編成した
”EBTG”は地球規模攻撃軍団第8空軍隷下の5個爆撃航空団と先進爆撃任務隊及び航空機動軍団第18空軍隷下の第6航空機動航空団によって共同編成されている。
その先陣を切るのは、全翼型のステルス戦略爆撃機B-2”スピリット”で構成される第509爆撃航空団であり、その高いステルス性を生かして『ダークヒンデリア』に気づかれずに上空侵入を果たしたB-2は修復を試みる傷口に多数の誘導爆弾をもって追撃を加える。
それに続く形でB-52”ストラトスフォートレス”で構成される第2・第5爆撃航空団、B-1”ランサー”で構成される第7・第28爆撃航空団が豊富な爆弾搭載能力を生かして絨毯爆撃による強襲を実行。
2個爆撃航空団ずつのローテーション形式で行った爆撃は『ダークヒンデリア』の上部装甲を爆炎の嵐で埋め尽くし、業火をもたらした。
時折、直接のレーザー砲撃や『バッド級』の突撃が行われ、数機が絡めとられ墜とされていくが、散発的なものに過ぎず空への迎撃能力を失わせていく。
そして、EBTGの最後尾には先進爆撃任務隊と、C-17”グローブマスターⅢ”大型輸送機の大群を含んだ第6航空機動航空団が展開する。
先進爆撃任務隊を編成するのはB-2に似た全翼機、B-21ステルス戦略爆撃機先行量産型であった。
”レイダー”の愛称を持ち、本来であれば敵の領空へと秘密裏に長駆侵攻を行い、成果を持ち帰る役割を担う機体ではある。
その役割とは異なるが、
B-21の爆弾倉が開くと共に、C-17の積み下ろし口が空中でありながら開く。
「ブラックキャットより
B-21のパイロットがそう言い放つと、爆弾倉から数本の筒状物体が落下していく。
C-17の開け放たれた積み下ろし口からはずり落ちるようにして1本の巨大な筒が落ちていく。
前者は高速で落下していき、『ダークヒンデリア』の装甲を貫き深く沈み込んだ後に爆発を起こして、一部装甲を内部から引きはがしていく。
そして後者は、パラシュートを開いて着弾した途端に核兵器かと見間違う程の大爆発を起こし、その爆煙は『ダークヒンデリア』を飲み込んでいく。
前者はGBU-57大型貫通爆弾”MOPⅡ”、後者はGBU-43/B大型爆風爆弾”MOAB”。
核兵器を除いた持てるもの全てを出し尽くすと言ったアッシャーの言葉通り、アメリカは敵に業火を植え付けていく。
_UTC3月23日午前9時15分・CST3月23日午前3時15分_
約20分間で行われた攻撃は、MOPⅡ及びMOABの搭載弾数を全て使い切ったことで終わる。
しかし、『ダークヒンデリア』の焼け爛れた上部装甲への追撃に暇を与えるはずが無かった。
”成層圏の要塞”と呼ばれたB-52”ストラトスフォートレス”は、その愛称通り成層圏に近い高度で大柄な機体相応の大きな爆弾倉を次々に開く。
B-21”レイダー”で構成される先進爆撃任務隊及びC-17”グローブマスターⅢ”含む第6航空機動航空団が第一次爆撃を完遂した後、後方の空軍基地へと後退。
その間の空白を埋めるべく第2・第5爆撃航空団が急行。
投下されるのは無数と思える程に大量な誘導爆弾であり、遥か下方にいた『ダークヒンデリア』の上部装甲には大量の爆炎が花開いた。
「ダラス1より各機、警戒せよ。とはいえ、これを聞いてる機の大半は機械か」
この戦域にいるのは爆撃機だけでは無かった。
『ダークヒンデリア』の同高度にて正面からそれを睨みつけるが如く接近するのは、中隊規模のF-35”ライトニングⅡ”ステルス戦闘機、及びその2倍の数に上る少し小柄な機体の大群だった。
「話を聞く程度では実感が湧かなかったが、やはりデカい……か。ふっ、怖いとでも思ったか?全機、攻撃準備」
敵の大きさに思わず震えていた自分の腕を馬鹿馬鹿しいと嘲笑い、その腕に渇を入れ冷静に指示を出す。
その指示を聞いた編隊各機は飛びながら陣形移動を行い、攻撃態勢に移る。
『MQ各機、兵装展開確認。無人戦闘システムに問題ありません』
1機のF-35に対して2機ずつ従えるその小柄な機体はアメリカ空軍のステルス無人戦闘機、MQ-52”ヴァルキリー”であった。
アクロバティックな戦闘機動こそ困難ではあるものの、視界外空対空ミサイル戦闘を的確にこなせるレベルには問題なく、ミサイルの手数が欲しいアメリカ空軍は本土航空戦への投入をカリフォルニア州での阻止失敗時点で即決した。
まもなく攻撃というところで、事態は変化を迎えた。
絶えず爆撃を受け続けていた『ダークヒンデリア』の修復速度はその爆撃威力とほぼ拮抗していたものの、この段階で一気に減退。
修復速度が追いつかなくなっても、降り注ぐ爆弾の威力は核攻撃やMOABの直撃に比べれば大きく劣っているのは明白であった。
修復に使うエネルギーは一体どこにいったのか、その答えは明白でありすぐに答え合わせも行われた。
表面を幾十もの赤い輝きを走らせるラインから放たれるのは複数の赤い光線であり、
「ほう……?わざと
『ダラス1、爆撃隊が』
「狼狽えるな、元より彼らも覚悟している。それよりも厄介なのは奴らだ」
部下の悲痛な声を抑えつつ、先ほどまで何もいなかった前方を睨みつける。
奴らと呼ばれた存在、『バッド級』は光線攻撃の合間に虚空から出現していきその数を増やす。
それらの目標は明白、だからこそその行為を許すわけにはいかない。
「各機、
その言葉と共にMQ-52が急加速して距離を詰め、”FOX3”の指示を合図に空対空ミサイルを一斉に発射する。
高い誘導性能を誇るミサイルは正確無比に『バッド級』の群れへと着弾し、さらに赤い結晶体を早くも露出していた個体は誘爆を招いて周囲の個体を巻き添えに火球に包まれていく。
「喰らえっ、飛行船モドキが!」
『ダークヒンデリア』の周囲に真っ赤な爆炎が広がる中、驚異的なステルス性能を活かして
翼内ハードポイントより2発の対地ミサイルが姿を見せると、F-35全機はその全てを叩きつけていく。
真っ赤な奔流が空を切るも、弾体しか捉えられていない『ダークヒンデリア』が母機を補足することは難しく、F-35全機が容易に避けていく。
一方、高空では損害が出たために一時後退を余儀無くされ、ゆっくりと旋回していくB-52を横目に、補給を終え作戦地域に再展開した黒き翼を纏う怒れる
_UTC3月23日午前10時3分・CST3月23日午前4時3分_
アメリカ国防総省 作戦指揮センター
「奴の耐爆性能が上がっているだと!」
作戦の途中経過について話し合う会議にて、多くの将官が黙り込む中で誰かが声を上げ、全員が同じ感情を持ち合わせていたことを確信する。
『ええ、確かです』
その声を受けて、モニターに映る人物であるスターン陸軍中将が答える。
『カリフォルニア州サンフランシスコからネバダ州オースティンまでの戦闘を戦い続けた私だからこそ言える事です』
誰もが知るその戦歴を持つ彼の発した言葉の意味は重く、彼はその経験から
彼自身は”押し付けられた”とマイナスな心情を持っていたが、アメリカ陸軍からしてみれば勝利へと導く方法が分からない以上、経験者にその役目を託すしかないと、期待する気持ちで命じていた。
その気持ちに応じるように、ここまで作戦を引っ張ってきていた。
『ソルトレークシティにおける核攻撃作戦に私自身は参加しておりませんでしたが、戦略軍へ地上からの観測データ等の情報提供は欠かさず行っておりました。
核攻撃時、直後の修復を目の当たりにしたことにより明確な攻撃データは集計されていませんでしたが、直撃した4発の核弾道ミサイルによって最終的に70%の胴体を消滅させる損害を与えたことが確認されました。
しかし、今回の第一攻勢では幾ら核弾頭に威力が劣るとしても、十数発のMOABや数十発のMOPⅡ、そして今次戦争の過去最大規模に及ぶ爆弾の雨、さらに巡航ミサイルや弾道ミサイルによる攻撃を加えた結果───』
『───胴体の40%にも満たない程度の被害しか確認されませんでした』
その報告内容は衝撃をもたらした。
核兵器を用いない、されど持てるもの全てを出し尽くす攻撃はそれなりの効果をもたらすと思われていた。
しかし、現実は違った。
『確かに、今までの戦闘よりは並み以上に効果的な損害を与えられているでしょう。
ですが、このままでは我が国の弾薬備蓄が尽きる方が先です。
はっきりと言えるのは、奴らは通常火力に耐性を持ち始めている、という事だけです』
誰も通常火力だけで完封できるとは思っていない。
核攻撃すら修復されたことは、それを現実的ではないと証明していた。
しかし、これほどまでに絶望的な状況があるかと、誰もが嘆いた。
「……既に第二攻勢も、各戦闘航空団及び機甲師団が出撃しています。……大統領のご命令さえあれば、プログレス達を出撃させる準備は整っています」
アッシャーが心苦しくも、現状の出撃状況をモニターへと明示する。
「……情けで国を滅ぼすことは許されない、どのくらいの犠牲が出るかなど想像つかないが……、勝利の為に出撃させろ」
ギレットは寸前まで躊躇していたが、その躊躇を全て拭い去り、国を滅ぼした愚か者と後ろ指を刺されぬために、命令を下す。
_UTC3月23日午前10時55分・CST3月23日午前4時55分_
アメリカ合衆国カンザス州
司令部からの命令を受信した各部隊は一斉に行動を開始する。
最前線より東に75km、アメリカ陸軍の駐屯地たるフォート・ライリーにはM270
12発を収容可能な箱型の旋回発射機を西へと向けると、単弾頭型のロケットを次々に撃ちだしていく。
その相棒とも言えるM142
それより少し手前、サライナ市より東に約20kmから30kmの各地点には、M777牽引式155㎜榴弾砲及びM109A6”パラディン”152㎜自走榴弾砲が砲兵陣地を築き、『バッド級』の対策としてLAV-AD対空装甲車及びMIM-104”ペトリオット”地対空ミサイルシステムが配置された。
150㎜を超える巨砲の砲身が仰角を上げて照準を合わせ、正確無比な砲弾の雨をお見舞いする。
『ダークヒンデリア』の迎撃も激しく、ミサイルはともかく速度の遅いロケットは光線によって薙ぎ払われてしまう。
しかし、ほぼ全方位からの攻撃に対応できる程の迎撃性能は持ち合わせておらず、迎撃が間に合わなかったロケット等が胴体へと着弾していく。
爆撃航空団からの全力爆撃も合わせ、アメリカ全軍が最大限実現しうる飽和攻撃を投射していく。
『ダークヒンデリア』の焦点が迎撃へと向けられている隙に、アメリカ陸軍は次なる一手を繰り出していく。
【カンザス州作戦行動グループ】。
アメリカ陸軍が
その前衛、アメリカ陸軍総軍の第3軍団隷下にある第1機甲師団は数多の戦車を従え、前進を開始する。
その陣容は常設編成と比べて大きく変化を遂げており、ウロボロスに無力な歩兵を輸送する兵員輸送車が除かれている他、戦車にもプログレスにも脅威である『バッド級』の対策として、ストライカーMSL及びストライカーDE-SHORADと言った防空ストライカー装甲車シリーズを編成に加えていた。
そして───、希望たりえる
有効射程距離に入った時点で戦車集団は行進間射撃を開始した。
アメリカ陸軍の最新鋭戦車であるM1A3”エイブラムス”戦車であろうとも難度の高い芸当ではあるが、それは敵が戦車であるならばの話であって全長400mの飛行船モドキに当てられない愚か者はいなかった。
第1機甲師団の他にも各歩兵師団から抽出した機甲旅団戦闘団の戦車部隊もこのグループに含まれており、120㎜滑腔砲による数多の砲弾が胴体表面に夥しい数の弾痕をつけていく。
攻撃に気が付いた『ダークヒンデリア』が取った行動は、
光線を振り下ろすことすらしない舐めた行動に対し、戦車部隊は砲撃を継続しつつ12.7㎜遠隔銃塔による対空迎撃を試みる。
さらに、ストライカーDE-SHORAD装甲車の一群は車体上部にある筒状の物体を上空へと向けると、大容量のディーゼルエンジンから発電された50kw出力のレーザー砲を撃ち放つ。
音を超える速度で弾着し、タイミング良く弱点を露出していた『バッド級』一体が大爆発を起こし、それに巻き込まれた複数体の『バッド級』によって、空はたちまち爆炎に包まれる。
『ダークヒンデリア』との間に阻む者がいなくなった時、『ダークヒンデリア』の胴体表面に六角形状の光輪が現れハニカム構造を作り出し広がっていく。
およそ10枚に広がったところで一瞬の内に中心の一枚に全ての六角形が重なり、眩いばかりの閃光が覆った直後に戦車砲では実現できない大爆発が胴体表面を抉る。
地上にいる他のプログレスからもレーザーを放つなどして胴体を削り、一方で実体を持たない光の矢を作り出すプログレスは矢継ぎ早に数多の矢を繰り出して、大量の穴を胴体に穿つ。
そこでやっと反撃らしい反撃を実感した『ダークヒンデリア』は、胴体に走る赤いラインにエネルギーを充填させ、赤い奔流を振り下ろす。
しかし、『ダークヒンデリア』がまともに照準してなかったことも含め、多くの車両が間隔を空けて走行していたために、損害は最小限に抑えられる。
降り注ぐレーザーの合間を潜り抜け、次々と攻撃を叩きこむ。
_UTC3月23日午前11時57分・CST3月23日午前5時57分_
カンザス州作戦行動グループ 第3機甲グループ
カンザス州作戦行動グループに含まれる機甲集団は主に5個の機甲グループによって編成されており、データリンクの連携によって互いに歩調を合わせ接近と後退を繰り返し、攻撃目標を分散させることで損害の低減に繋がっていた。
しかし、それでも損害は蓄積しており、サライナ市南東に後退した第3機甲グループの中心戦力、第1機甲師団から引き抜かれた第3機甲旅団戦闘団では騎兵大隊が砲撃を受け、M2”ブラッドレー”含めた数両が大破しており、負傷者が引っ張り出されていた。
野戦病院でも治療できる傷は軍医に任せられる一方で、瀕死の重傷を負った兵士の治療は一人の少女が担った。
「ぐっ……すまねぇ、…嬢ちゃん」
「大丈夫ですから……喋らないで」
少女は指を兵士の傷口に添える。
すると、その部分が淡い光に包まれていき、その中で瞬く間に皮膚が縫合され、光が収まった頃には傷口がしっかり閉じられており、元通りとまでいかないものの違和感無い程度に痕跡は見当たらなかった。
「……どうですか?……痛みは残ってるかもですけど」
「なぁに、この程度の痛みは少し休めば問題ない。……流石だな」
エクシード『
人や物の全てを治す事ができ、天才外科医、又は熟練修理工並みの技術をわずかな時間で発揮することが出来る。
それが、アメリカ軍需産業の名門、軍に対する力を持つブリッジス家の次女、リサ・ブリッジスが持つエクシードだった。
「私に出来るのは、これぐらいしか無いから……」
ブロンドヘアの少女はそう呟きながら、今の戦場に出る前を思い出す。
『リサ!お前は俺の母さんと一緒に避難するんだ!』
2時間ほど前、ブリッジス家内では父親から避難の方針が示された。
しかし、リサはそれに断固反対の意志を示す。
『嫌だよ!、お父さんは軍人だし、お母さんもお医者さんとして戦ってる。ミラお姉ちゃんだって、研究者の卵として頑張ってる!私だけ何もしないのはいやなの!』
『だが、幼いお前を戦場に出すのは……!』
『私だって、お父さんが死んじゃうのは嫌だよっ……。それに、私の友達もプログレスとして志願した子もいる、私だって役に立つエクシードを持ってるんだからっ!』
父親との口論は激しさを増す。そこに姉のミラも妹に言い聞かせるように話す。
『リサ!いい加減にして!……例え、プログレスでも逃げることが必要な時が出てくるの……だからっ』
『私は……ミラお姉ちゃんみたいに頭が良いわけじゃない。何の研究してるかなんて見ても分からない……だけどっ、今は戦うべきな時なのはわかるっ!私の力が少しでも役に立つなら……私は……。ブリッジスの家だからとか、そんなの関係ない。……もう、いい。私一人で戦うからっ』
リサは戦場に行くために荷造りしてたバッグを抱え、玄関から飛び出していってしまう。
『リサ!!……お父さん、追いかけてよっ』
『……無理やり捕まえても、あんな頑固になったリサの思いを変えることなんてできん……。大丈夫だ、あの子は少しの傷ではへっちゃらな頑丈な子だ。必ず、戻ってくるさ』
結果的にブリッジス家はリサのプログレスとしての参加を追認することになったが、リサの心には「喧嘩別れしてしまった」という禍根を残すこととなった。
しかし、彼女の思いとは裏腹にその能力を必要する者は多く、それに忙しなく駆り出され、後悔について考える暇など無かった。
※次回
その抗いようがない赤い暴力の津波は絶望を生んだ。
少女達は傷つき、苦しみ、それでも抗っていく。