Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
敵も味方も大盤振る舞いです。
_
アメリカ合衆国カンザス州 サライナ市戦域
後方の戦域支援戦力からミサイルが飛び、その遥か上空からは戦略原潜及びミサイル航空団の空軍基地から発射された通常弾頭型の弾道ミサイルが位置エネルギーを伴って急速に落下していく。
爆撃航空団は地上部隊を巻き込む可能性を考えて対艦ミサイル及び精密誘導爆弾による攻撃に切り替え、戦闘航空団は度々出現する『バッド級』の対処を地上の防空ストライカーと連携しつつ実行。
自走砲含む砲兵戦力は適度に位置を変えながら砲撃を続け、5個機甲グループの相互接近戦術による攻撃は功を奏し始めていた。
原因不明ではあるが、プログレスの攻撃におけるウロボロスの修復能力へ阻害する効果は依然として発揮されており、損害が蓄積し始めた『ダークヒンデリア』は損害を全て賄いきれない程度まで修復能力が落ち込んでいた。
とはいえ、中核とも言えるコアが未発見であり、その大きさに比例した耐久力は未だ健在である以上、油断はできず慎重に事を進めるアメリカ軍だった。
しかし前兆も無く『ダークヒンデリア』は強烈な一撃を、絶望を叩きこむ。
あの時と同じように。
何度かの攻撃の後、突然『ダークヒンデリア』への損害効果が増したと同時に、下部砲身が展開され想像以上の速度で膨大なエネルギーが充填されていく。
そして、砲口が真っ赤に輝いた途端、空が赤く切り裂かれていると思える真っ赤な巨大奔流を吐き出していく。
その膨大なエネルギーが着弾した場所は何もかもが洗い流された地獄と化した───。
「まさか───くそっ、やられたっ───!!」
「第1、第3砲兵グループ、第2戦域支援グループとの通信途絶!!一部空軍基地より広域に広がった電磁波の影響で、弾道ミサイルの発射ができないとの報告が……」
勝利への兆候は一瞬にして絶望に洗い流された。
攻撃が止まった瞬間に、『ダークヒンデリア』は全てのエネルギーを修復へと回して急速に元の状態へと戻していく。
『ダークヒンデリア』より東方向はレーダー等あらゆるものが掻き乱され、長距離支援戦力の攻撃に支障が出ていた。
あまりに不透明過ぎる『ダークヒンデリア』の実力に対して躊躇していられないとして、残る空軍プログレス部隊の投入、MOAB及びMOPⅡの全弾投入を決定した。
_UTC3月23日午前12時41分・CST3月23日午前6時41分_
当然、最初の標的となるのは眼下にいた5個機甲グループであった。
先の砲撃と同様に、
それでも、カンザス州作戦行動グループの機甲集団に属する車両の数は膨大と言ってもよく、十数回の攻撃程度では殲滅は出来ない。
数の利点を生かして集中砲撃を行い、少しでも次の砲撃までの時間を稼ごうとする。
しかし、その程度で挽回できる訳も無く、奔流に晒されていく。
プログレスもこの惨状で無傷でいられるわけが無く、傷つき倒れていく。
「……くっ、なんで……」
リサが手を添える先、放たれたレーザーによって腹が切り裂かれた少女が激痛に悶え苦しんでいた。
その少女の顔はリサも知る学校の友達であり、上半身と下半身がギリギリ繋がってる状態の彼女を救おうと必死になった。
「なんでっ……治せないのっ!!」
リサは涙を流しながら叫ぶ。
流れ出る血とその血に触れて赤く染まった自分の手を見て、さらに無力感に苛まれる。
これがリサのエクシード、最大の弱点。
手術で治せる物であればどんな傷も治せるが、失った物を元に戻すことはできない。
目の前の少女であれば、腹部の大部分が消し飛ばされて生きていくのに必要な臓器が足りず、失った血の量も合わせてプログレス特有のタフさでなんとか命を保てている状態だった。
「な、ん、で……私はっ。こんな役立たずなのっ……ごめん、ごめんね……」
涙を止められず、目から大量に溢れてくる。
そんな彼女を友達の少女は優しく、その頭を撫でた。
「ありがとう……もう、いいよ」
そして、小声で感謝の言葉を口にした。
その時、通信が飛び込んでくる。
『こちら!ジャケット2!撃墜される寸前でMOABを投下したが、投下地点が大幅にずれてこのままではっ……誰か!聞こえているならなんとかしてくれ!我々は……。誰かっ……アメリカを頼む!!』
その通信元は第6航空機動航空団所属の輸送機からだった。
地上部隊への攻撃を分散させるべく、アメリカ空軍も攻撃を開始した。
しかし、先の砲撃によって高空からの投下では精度が低下するため、比較的中高度からの攻撃を余儀なくされていた。
その為、ステルス性が皆無な事により、『ダークヒンデリア』からの攻撃に晒され撃墜機が出始めていた。
「どう、すれば……」
「わたし、いくよ」
リサが振り返ると、友達の少女はふらつきながらもゆっくりと立つ。
息も絶え絶えに、口を開く。
「ごほっ……今から行っても、距離が近すぎて爆発から逃れられない。なら、どうせ死んじゃう命だし……やらせて」
「……、……いい、よ」
リサは泣きながら少女に近寄り、最期だからと思いっきり抱きしめる。
自分が死ぬ時まで、彼女がいたことを憶えておく為に。
息苦しそうな表情と共に少女は飛び立つ。
『ダークヒンデリア』からの砲撃をすんでのところで躱し続け、やがて目視で弾頭を視認する。
その横に近づくと、わずかな力でそっと弾頭に手を添えて抱きしめ、身を投げる。
間もなく至近に迫った『ダークヒンデリア』の胴体上部を前に目を瞑り、その時を待つ。
そして、少女を焼いた爆発は少女のマナと融合反応を起こし、一時的なものではあるが探知機能を低下させる大爆発となった。
カンザス州上空
赤く染められた空を幾多の戦闘機が駆ける。
それは決して比喩ではなく、『ダークヒンデリア』のエネルギー放射によって大地が燃え、空が赤く変質していた。
プログレスは陸だけでなく、空をも駆ける。
その中心戦力には、第117戦闘飛行隊の存在もあり3機のF-35と12機のF-15が最大巡航速度で整然と並びながら飛び続けていた。
「……、今のは……?」
「マナ探知に反応……、マナが……拡散していく……」
第117戦闘飛行隊”ラティス”の1番機前席に座るリラは、目の前に灯った光について疑問を浮かべる。
隊長を務める彼女は、橙色の特徴的な長いストレートロングを後頭部に結いヘルメットで覆い隠しており、その姿で操縦桿を握る。
その問いに半ば答えた形で後席のモニターに映った情報を報告するのは、緑髪ストレートヘアをそのままにヘルメットを被るチェルシー。
未だウロボロスのマナを探知できるシステムが構築出来ていない弊害が出ており、人間のマナは死んでしまうと身体から飛び去ってしまう。
それを理解していたリラは今の報告を聞いて、救えなかった悔しさのあまり操縦桿を握る手に更なる力を込める。
『
今の爆発直後より敵の対空攻撃が低減した。恐らく探知能力が低下したと思われる。
ただし近距離であれば、敵の迎撃は苛烈となる。
『バッド級』含めて警戒を怠るな。以上だ』
管制からの通信を聞き終わり、戦場となる前方を見つめる。
『リラ隊長、バッド級来ます!!』
わずかな静寂の後、3番機後席のマーシャ・シェルベリ少尉が通信越しに声を上げる。
彼女のエクシード『
今回は『
金色ポニーテールの髪にヘルメットを被る少女は目を瞑ってイメージを動かし、リラの脳内に接近してくる『バッド級』のイメージが投影されていく。
「撃ち墜とすよ。ラティス4から15、ミサイル発射」
ナイトのように1機のF-35に4機ずつの編隊で追従していたF-15は人が操縦しているとは思えない制御された動きでF-35の前へと出る。
その正体は、最新モデルをベースとした自律AI搭載の無人機、F-15EXAI”アンマンド・イーグル”であった。
そして、4機ずつに分けて制御しているのは後席の少女、ラティス1に乗るチェルシー、ラティス2に乗るアイリーン、ラティス3に乗るマーシャがそれぞれ担当する。
ミサイル発射の音声指示を各AIが認識した後、事前設定された目標に対し空対空ミサイルを発射する。
視界外の距離から離れたミサイルは寸分狂わずに命中していき、『バッド級』を決して近づけさせずアウトレンジによる対処が正しい事を意味していた。
しかし、『バッド級』の脅威は潰してもなお再生成してくる物量にあり、彼我の距離は段々と狭まっていく。
それを放置するはずが無く、他の戦闘飛行隊も次々とミサイルを発射してその数を減らす。
だが、8体程度が残ってしまい、その数だけでも自爆型であれば十分に脅威に成りえた。
「『
リラのエクシード『
条件を全て見通したリラはチェルシーに声を掛ける。
「チェルシー、十二秒後に13時8度の方向にレーザー射出。その8秒後に4時方向に屈折、13秒後に17時マイナス3度方向に同じく屈折。行ける?」
「行けるよ、リラ。……発射」
頭の中で秒数を数え、チェルシーは両手をキャノピーの前にかざし、機外よりレーザーが射出される。
リラが指示した通りの場所を寸分狂うことなくレーザーが通過すると、結晶体を露出していた自爆型『バッド級』が巻き込まれたのか連鎖的な爆発が起きる。
通過したレーザーが予定地点で屈折した先でも『バッド級』が墜とされ、やがて全個体撃墜というファンタズムで見えた最良の結果へと至った。
近づくにつれて『バッド級』の数は際限なく増えていく。
「『
『バッド級』の集結した編隊に対して、重力を操作できるエクシードを持つアイリーンが魔法を発動する。
編隊の中心で起爆したそれは、大編隊をその中心点へと引きずり込み無数の『バッド級』同士がぶつかり合い、一体が誤爆したことでその大編隊を構成していた全てが消し飛ぶ。
時経たず、『ダークヒンデリア』の溜め込んでいたエネルギーが斉射される、そうファンタズムによって予測されリラは他の機にも伝えた。
「オッケー。じゃあ私の魔法で全て受け返すよ」
それを聞いたマリオンが自分の機体を編隊の前に出しながら、自信満々に答えた。
「『
編隊の前方を薄鈍色に光る膜で覆い尽くすと、斉射から回避することなくぶつかりにいった。
膜にぶつかった全ての奔流はそのまま同じ方向へと弾き返され、『ダークヒンデリア』の胴体へとダメージを与える。
「マーシャ!どっちから狙えばいいっ……?」
「14時方向の敵から撃って!そうすれば、全部巻き込める!」
3番機の前席に乗るサラ・カールソン少尉は後ろに乗るマーシャに聞く。
サラのウルフカットにしていた薄橙髪は伸ばしていくにつれてかつての艶を取り戻し、今はヘルメットで隠しているもののマーシャと同じポニーテールに結っていた。
「わかった……!『
彼女は大きく頷くと、手を機外に向けて大きく伸ばす。
その指先からキャノピーを挟んだ機外に水の球体が現れると、勢いよく水の奔流となって飛び出していく。
射線上にいた『バッド級』の群れを薙ぎ払いつつ、『ダークヒンデリア』の胴体に叩きつける。
サラのエクシード『
レーザー、超重力、水流、受け返された光線、その他飛び交うミサイルによって、『ダークヒンデリア』の胴体は弾痕で抉られ、装甲が引き剝がされていく。
修復は───明らかに間に合っていない。
しかし、『ダークヒンデリア』自体は一斉射をリフレクションフィールドによって反射された後は散発的な攻撃しか繰り返さず、何かをしようとしている予感だけはあった。
そして、その予感は現実のものとなる。
「……!?砲撃が来るっ!よけてっ!!!」
リラが随時展開していたファンタズムに、『ダークヒンデリア』が砲撃を行うイメージが投影される。
それを免れる最善の選択は、やはり射線から避ける事だった。
下部の主砲に真っ赤な輝きが集まり、エネルギーが収縮されると共にその輝きは一段と増していく。
ミリ単位まで凝縮された後、膨大なエネルギー放射となって放たれた。
超至近距離の砲撃だったが、幸いにして巻き込まれた機体はおらず、遠く彼方の地上へと着弾する。
膨大なエネルギーを使い切った今こそ反撃のチャンスではあったが、そのエネルギー放射による弊害はそれを可能とはしなかった。
流石にあまりの至近距離での砲撃の為、レーダーが機能しなくなり通信がお互いに不通状態となって、連携は不可能に近かった。
さらに───、操縦桿を握るリラの手が小さく震えていた。
避けられたとしても至近距離過ぎるエネルギー放射に対する恐怖は凄まじく、本人が意識しなくとも身体が感じていた。
また、避ける前の射線は自分を中心に捉えており、明確な凄まじい殺意を感じ取り心臓の心拍数は通常よりも早くなっていた。
「……!くっ……」
そんな彼女の前に、無情にも『ダークヒンデリア』からの赤い光線が幾つも放たれる。
ファンタズムを発動していた彼女の機体は火線を掠めることなく避けていく。
しかし、その近くを飛んでいた別のプログレスが乗るF-35は危なげに攻撃を避けようとし、光線が機体を掠めて硝煙が尾を引く。
十秒も経たず、再び光線が襲い掛かりコクピットの側面を容赦無くレーザーが貫き、キャノピーの一面を少女の物だった赤い血と肉片で染める。
操縦者を失ったその機体は次々に被弾し、乗っていた少女の身体ごと火達磨になって燃え墜ちていく。
「……、……!」
同じ戦闘機に乗るプログレスパイロットとして、リラは言葉を失うほどのショックを受ける。
ショックのあまり周りへの警戒を怠ってしまった彼女は自分に向かって飛んでくる光線を見て、遅れてファンタズムを発動。
その見えた未来は、発動が遅かったことを暗に示していた。
「……、私だけが……」
「……リラ?」
チェルシーの心配をよそに、リラは苦々しく言葉を零す。
ファンタズムで見えたのは、二人とも光線で貫かれる選択とチェルシーだけが傷つく選択、そして、
一切仲間を傷つけたくない彼女は、その一心で操縦桿を左に傾け、正面に『ダークヒンデリア』を捉える。
そして、左寄りの正面コクピットガラスを貫いた赤い光線は、その打撃力を維持したまま容赦無くリラの右肩を貫く。
「───がっ」
その瞬間、肩から吹き飛ばされた赤い肉片とフライトスーツの破片がキャノピーに貼り付き、たらーっと血を垂らしながらゆっくりと滑り落ちていく。
さらに、右肩から噴き出した血飛沫がキャノピー右側面のガラスを濡らし、チェルシーの頬にも飛ぶ。
「……え───」
チェルシーにはあたらなかった、ただそれだけだった。
一瞬にして出来上がった惨い光景に、チェルシーは反応すらできず呆然とする。
「ぎ……、あ”……っ!?」
光線の焼けるような熱さが通り過ぎた瞬間、文字通り神経が千切れるような激しい痛みがリラを襲う。
右腕が完全に脱力してスーツの内外で大量の血を垂らし、その痛みに耐える中で左腕も震え、視界は白く霞み朧気になり、顔中が汗ばんでいく。
この状態で操縦桿を握れる筈も無く、背を座席の背もたれに押し付け、遂には放す。
「っ!?……操縦代わるよっ!」
咄嗟にチェルシーが後部座席の操縦装置で、追撃の光線から逃れるべく回避機動を行う。
途中、右主翼が光線で撃ち抜かれ、その衝撃でリラが痛がるのを聞き、チェルシーは憔悴した表情を浮かべる。
「───誰かっ……誰か返事をしてっ!!リラが……リラが肩を撃たれて……血だらけ、だから……」
叫ぶように呼び掛けるが、通信障害の影響もあって返答は一切無かった。
仕方なく録音したメッセージが自動送信されるように設定し、オートパイロットを起動して、リラの応急処置へと動く。
極短時間であったが、右肩から流れ出した血はフライトスーツ内側のシャツを赤く染め、更にズボンや座席のシートも赤く浸食しており、その出血量から貧血になることは想像に難くなく、リラの表情は青ざめていた。
傷口も酷く、赤く色のついた骨が露出して吹き飛ばされなかった肉片が辛うじて繋がっている程度で大きく抉れた裂創からは血が溢れ出ていた。
この状態から止血するには、心臓から流れてくる血流そのものを止める必要があり、当然教育で習ったチェルシーも理解していた。
「……かなり痛いと思うけど、我慢してね。リラ……大丈夫、私ならできるっ……」
バディであり親友でもある仲間が瀕死の重傷を負ったことで、自分が助けないといけない焦りから、チェルシーの手は震えていた。
無理やり自分を勇気づけると、傷口にタオルとガーゼを当てて血を吸い取りながら止血を始める。
「……ここだよね」
リラの服を捲って心臓から送られる血管の場所を肌に触れて確認し、腕の付け根を止血帯で圧迫する。
その間、苦しむリラの呻く声が聞こえて心を痛めるも、やらないといけないという事を認識してそのまま圧迫し続け、血の流出が少しずつ止まり始める。
最後にガーゼを当てたまま所持している限りの包帯を傷口に巻き付けて、一通りの応急処置を終える。
『───ラ、……リラっ!!チェルシーっ、聞こえるなら返事してっ!!』
「───リオン……」
「……こちら、ラティス1チェルシー……応急処置はした……でも」
その直後、レーダーと通信が回復したことで、メッセージを受け取ったラティス2のマリオンから通信が届くと共に、機体が急接近する。
リラは失血気味によりまともに返答できず、チェルシーがマリオンからの通信に応える。
『……リラっ……すぐにでも撤退させて、それぐらいはっ』
『構わん、すぐに治療が必要そうだからな』
リラの反応にマリオンはショックを受けつつも、二人の撤退をバースに迫る。
当然、助けられる命があるならば、とバースはその行動を容認する。
『撤退か……チェルシー、無人機全部預けて……リラは任せた』
マリオンとバースの通信を聞き、アイリーンはチェルシーに指示を出す。
リラの応急処置で手が回っていなかったチェルシーは、タッチパネル上で無人型F-15四機の制御権をラティス2へと移譲する。
『っ……隊長機は私が引き継ぐ。チェルシー、リラを救ってあげて』
「うん、退く「───待って」───え」
チェルシーは操縦桿を動かそうとするも、リラの遮る声と共に動かせなくなってしまう。
その正体はほぼ満身創痍のリラがわずかに動かせる左手で操縦桿をロックしていた為だった。
「……私はまだ、退けない……っ、退きたくないっ……!」
「───なんでっ……私は、リラが死んじゃうのを、見たくないのに……なんでよっ!!───っ」
リラは
対してチェルシーは涙を浮かべ珍しく怒気を露わにしながら、尋ねる───が、その時に見た表情は
「言え……無いっ……ごめんなさい。でも……このままは、負けたままは……や、だよ……」
リラは罪悪感を抱きつつ、理由も明かすことなく必死に拒む。
「……私、どうしたら……」
焦りから何も思いつかず、チェルシーは通信が繋がっている相手に助けを求めた。
『……どうして、リラがそんなに嫌がるのなんて、見た事も無いから……わっかんないよ』
長く一緒に過ごしてきたはずのマリオン。
リラの知らない一面を見て、どうするべきか分からずに泣き出してしまう。
『……何も言わずこっそり退くのはだめなの?』
「それは……私も考えました……でも、あの表情見たら……できないっ」
アイリーンが内緒で撤退させる案を思いつくも、チェルシーにはあの表情の先に何が見えているのか、恐ろしくてできなかった。
『負けたら全てが終い……勝つまで、戦場から離脱させない、ということか……。
すぐに運ばせたいが……仕方ない。
ウェイン少尉、彼女を見ていてくれ』
尋ねられたバースが少し思案した上で、チェルシーに指示を出す。
「っ……リラのわがままぁっ!……生きたいなら、私の言葉ぐらい聞いてよっ!
リラが勝つまで、退かないと決めたんだからねっ。決着が着くまで本当に帰らせないから!
あと……話せるときが来たら、本当に仲間を信じられる時が来たら、退かなかった理由を教えてね。もちろん、全員に」
思っていることを全部吐き出すと、チェルシーは後席の操縦桿を力強く握って操作を始める。
疲弊したリラはファンタズムを使えず、その体では激しい戦闘機動に耐えられない。
それを理解しているチェルシーは機体を編隊後方に退かせ、代わりにマリオンとサラの機体が前に出て、無人型F-15がそれに続く。
チェルシーの役目は支援機としての作戦行動。
命の危険こそ残るが、戦場から退くことができないという制約がある以上、それしか無かった。
※次回
絶望的な状況。
その状況下で一筋の光が差す。
可能性という奇跡を信じて、少女達は動き出す。