Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

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とうとう(()()()()()()の)最終話を迎えました。
当初の予定からおそらく1.5倍か2倍ぐらいに話数・文字数共に膨らんでるのでは?と推測しております。

……何かアンケートしてみたくなってきたな……。


世界の危機(ワールドクライシス)〈22〉【奇跡の一撃】

_UTC(世界標準時)3月23日午前13時15分・CST(中部時間)3月23日午前7時15分_

アメリカ合衆国カンザス州 サライナ市上空

 

 仲間が傷ついたショックは大きい。

 少女達はその不安を打ち消すため、何も喋らず目の前の敵に集中する。

 口を開けば、戦場での不安ばかりが出てくるかもしれないから。

 

「あの……決着が決まるまで戦場から逃げられないなら、早くあいつを倒せたらその分リラさんは助かりますよね?」

 

 戦場の喧騒のみが支配した場。

 上官であるバースすらも口を開くのを憚られる程の空気だった。

 リラが帰れるタイミングも、勝利への道も見えぬ中、サラが唐突に疑問を投げかける。

 

『……そう、だな。それが何か……?』

 

 やっと言葉が発されたとバースが安心するのも束の間。

 サラの意図が分からない疑問に対して、バースは不安がりながらも肯定すると共に、その意図を尋ねる。

 

「ならっ……私はっ……リラさんを死なせたくないっ!だから……私が倒しますっ」

 

 サラはそう言うと、機体を加速させて敵へと突っ込んでいき、彼女の機体に付き従うF-15四機も追従する。

 

『ちょっと!?無謀すぎるでしょ……っ』

『このままじゃっ、チェルシーも支援してっ』

 

 遅れてマリオンもサラを連れ戻すべく、機体を駆ける。

 

「『アクア・レプリケーター(水の複製者)』、発動」

 

 先行するサラはもう一つのエクシードが持つ能力を存分に発揮させる。

 通常の水とは異なる、彼女が作り出す水分子を無人型F-15や搭載するミサイル等、様々な場所に染み込ませていた。

 そのエクシードを発動させた途端、その水分子が活性化し無人型F-15が3倍の数に複製される。

 彼女が道具として非人道的に扱われた北カフカース紛争、その際に使われた能力は未だ健在だった。

 

「サラっ!なんで、無理に倒そうとするの!」

 

 サラの後席に座るマーシャが理由を尋ねる。

 訓練生の頃から一緒に過ごしていたマーシャは、この行動を少しは察していたが、当然自分の命を危険にさらす行動に賛同していなかった。

 

「私はっ、リラさんに救われたからっ」

「ずっと話してたからそれはわかるよっ……でも、自分の命は大事にしてっ。私も協力するからっ」

 

 マーシャは涙目になりながら言葉を返し、『ワイドセンシング』によってサラと共有する。

 見つけた目標に対し照準が設定され、サラからの発射指示によって無人F-15の大群は一挙にミサイルを放つ。

 放った直後、サラの能力によって即座にミサイルを複製し、再び一斉に放たれる。

 そのミサイルの弾幕を目くらましに利用し、サラは機体を『ダークヒンデリア』へと近づける。

 

「『レギオン・ショット(多重激流)』!!」

 

 ミサイルが直撃していき果てていく『バッド級』の爆炎を背景に、下方より近づいたサラは幾本もの激流を『ダークヒンデリア』に向けて伸ばす。

 破壊力のある激流が直撃していき、深く装甲を抉っていく。

 しかし、より深層に到達することはかなわず、『ダークヒンデリア』の怒りを買う。

 

「サラ、正面に敵!ミサイルで撃ち墜とすよっ」

 

 二人とも正面から生成されて近づく『バッド級』が自爆型と思って、ウェポンベイから切り離したミサイルを差し向ける。

 しかし、その『バッド級』は変形することなく、ミサイルが目前に迫った瞬間、機首からレーザーを放つ。

 

「嘘っ!?」

 

 レーザーに撃たれたミサイルが爆炎に包まれ、避ける暇も無く間髪無く放たれたレーザーが機体を直撃し左側のエンジン部が被弾、脱落する。

 サラもマーシャもパイロット経験で言えば新人パイロットに過ぎず、片側のエンジンを失った機体を立て直す術を持ち合わせていない。

 機体から煙の尾を引きながら急速に高度を下げて、雲海へと突っ込み見えなくなる。

 

「サラ、マーシャ!!」

「『グラヴィティ・ボム(超重力弾)』!!」

 

 それを見ていたマリオンは何も出来ない無力感に膝を叩き、アイリーンは悔しさに涙を浮かべつつ、重力を込めた砲弾を射出する。

 撃ちだされた砲弾は『ダークヒンデリア』の至近で炸裂し、周囲の物体を引きずり込むと共にその影響範囲を広げ、一気に圧縮される。

 超重力の影響範囲に『ダークヒンデリア』の一部が入ってしまったことにより、重力偏差によって構成する物質の一部が損壊する。

 

_UTC3月23日午後1時27分・CST3月23日午前7時27分_

カンザス州サライナ市住宅地

 

 けたたましい轟音を上げながら、1機のF-35が墜落し、住宅に突っ込んで止まる。

 奇跡的に爆発を起こさず、機体後部が炎上するに留まった。

 

「いったぁ……ここは」

 

 軽く投げ出されたサラが起き上がり、周囲を見渡す。

 そこは戦闘、そして破壊の痕跡が多く見受けられる静けさに包まれた住宅地だった。

 そして、上空ではその破壊をもたらした『ダークヒンデリア』の姿があった。

 

「サラ……引っ張って」

 

 マーシャの声が聞こえ、サラは近くを捜索する。

 彼女はサラよりも大きく投げ飛ばされて、足が瓦礫の下敷きになっていた。

 サラは瓦礫を鉄の杭で持ち上げると、マーシャの腕を掴み引っ張り出した。

 

「マーシャ、ごめん」

「いいよ……二人とも生きてるんだし。足は……なんとかなるでしょ」

 

 立つことができないマーシャはサラの手で降ろされ、その隣で足を延ばして座る。

 わずかな会話を終えると、サラは静かに溢れた感情を抑えられず涙を流す。

 

「私っ、リラさんを助けたかったよぉっ……!」

「……サラっ───あ……え、通信」

 

 サラの涙にマーシャは伝える言葉に悩み、やっと言葉を掛けようとした途端、通信が入る。

 

『マーシャ、サラ!無事?!今どこにいるの!』

「はいっ……えっと、現在地データ送るので、それを」

 

 マリオンからの通信にマーシャは手に持っていた端末で情報を送る。

 それを見たマリオンとアイリーンは思わず絶句して返答に苦しんだ。

 

『そこって……』

『奴の眼下っ……近寄れば撃たれるし……』

 

 マリオンとアイリーンが選択に窮する中、涙を拭いたサラが通信に入ってくる。

 

「……あの……進言がありますっ……」

『……何か?』

 

 先ほどは勝手に突っ込んだ申し訳なさで一杯の中、サラは上官であるバースに進言する。

 

「私の魔法であいつを撃たせてください。私のマナを全て使って、撃ちます」

『許可できる訳が無いだろう。そもそも一人のマナでは───』

「だから、進言してるんです!プログレスの力を結集して、足りなければ私のマナ全てを使い切って、なんなら力尽きてもいい。私はっ、リラさんを救いたいっ!」

 

 その声色から分かるのは、本当に命を捨てる思いで恩人を救いたいと思っている少女の覚悟だった。

 それを耳にしたバースは返答に窮する。

 

『少し待て。勝手な行動は控えるように』

 

 バースの方から切られ、通信が終わる。

 直後、羽織っていたジャージの袖が強く引っ張られ、振り向いた瞬間に胸倉を掴まれる。

 胸倉を掴んだのは、足の痛みに耐えふらつきながらも怒りの表情でサラを睨むマーシャだった。

 

「……自分の命をっ、捨てるような真似はしないでって……言ったじゃん!」

「でもっ……私はっ、リラさんに救われたっ。いなかったら、私はここにはいなかったからっ!」

 

 マーシャの怒りに、サラは涙を流しながら訴えかける。

 サラの思いも理解していたマーシャは、どうすればいいのか分からなくなって、怒りも収まって手を降ろす。

 

「エクシード『アクア・ルーラー』、充填っ」

 

 手を伸ばし空へと掲げる。

 目は『ダークヒンデリア』をしっかりと捉え、手に水分子のエネルギーが集まっていく。

 

_UTC3月23日午後1時45分・CST3月23日午前7時45分_

アメリカ国防総省 作戦指揮センター

 

『……大統領、国防長官。ご相談があります』

 

 モニターを注視し作戦状況を見守るギレットとアッシャーの元に、バースからの通信が届く。

 深刻そうな表情をしながら話す彼の言葉に、二人は意識して聞き届ける。

 

「プログレス複数人のマナを集めて、一人の魔法に全て込める……威力はともかく彼女一人が耐えられますか?」

『……分からないと答えるしかありません……そもそも前身のSAHRMB、現在のSIP含めて研究開発部でそのような方法が検証されたことがありません。……もしくは、電源コードが過電流に耐えられないのと同様、()()()()()()から検証していないかもしれませんが……』

 

 バースの言葉にアッシャーは顔をしかめ、片手で頭を抱える。

 

「少なくとも……私は反対です。……危険な状況にわざと追い込むのは……」

「バース少佐、これ以外にあのデカブツを倒す方法はあるか?」

 

 アッシャーが反対意見を述べる中、ギレットはバースに質問を返す。

 

『……いえ、残念ながらありません』

「なら、賭けてみようじゃないか……他国を見れば、ロシアではプログレス自身が選んだ作戦で勝利へと進んだと聞いている……我々も同じことをしようじゃないかね。わざわざ愚かな道に進む必要は無い」

 

 ギレットの目はわずかに活力を取り戻し、アッシャーは大統領の言葉に頷いた。

 

「では、現戦域にいる全プログレスに協力を呼びかけます。また、第3艦隊には例のホワイト・エグマから来たプログレスもおります。そちらに助勢を頼みます。バース少佐、提案通りに事を進めてください」

『……分かりました』

 

 バースが通信を切ると、アッシャーは第3艦隊旗艦の「ジェラルド・R・フォード」へと通信を繋げるよう命じる。

 十数秒経って艦隊司令のイーストンとの間に通信が繋がる。

 

『アッシャー長官、何の御用でしょうか?』

「イーストン海軍中将、貴官は自身の任務に取り組んでくれ。我々は彼女に用がある」

 

 イーストンはその言葉を聞き、後ろを一瞥する。

 視線を戻した後、敬礼して答える。

 

『……分かりました。では、引き続き西()()()()を行っていきます』

『コードΩ(オメガ)46セニアです。アッシャー国防長官、貴方は私に御用があるということで、よろしいですか?』

 

 イーストンが横にずれると、すぐにセニアが通信画面の前に映り、アンドロイドらしいたどたどしくも礼儀正しい言葉を話す。

 

「そうだ。貴女にご協力をお願いしたい、詳細を今から話す」

 

 アッシャーはバースからの話をそのまま伝える。

 

『なるほど、一人の魔法に複数人のマナを預けるのですね。確かに、私たち白の世界では経験したことはありません、他の世界ではあるかもしれませんが……私のデータベースには入っておりませんので』

 

 その聡明な知能を使って、未経験な事項であっても瞬時に理解するセニア。

 

「これで『ダークヒンデリア』を撃破できると、思うか?意見を聞きたい」

『……データが無いので、分かりません。威力、貫通力、マナの残量、この全てが丁度よく嚙み合わさなければ、失敗に終わるでしょう。ですが───』

 

『私なら()()()()()という可能性をゼロから上げることは出来ます』

「何……?本当にできるのか」

 

 ギレットは思わず驚いた表情で言葉を返す。

 

『はい。可能性は成長の源。私はこの目で見た事、聞いた事、感じた事、そして自身の行動の結果を経て、成長する機体です。だから、私もより一歩前に進むために、この可能性に賭けてみたいと、思います。私の力ならば、そのエネルギーを増幅させることができます。一人のマナでなく、複数人のマナならば増幅の効果も大きく、可能性は格段に上がります』

「感謝する……!」

 

 ギレットとアッシャーが礼を述べて通信が閉じられる寸前、セニアはわずかに笑みを浮かべた。

 

カンザス州 サライナ市戦域

 

 上空から振り下ろされる光線に晒されつつも、戦車は砲撃を繰り返す。

 決して射程外ではないという恐怖に怯えつつ、戦域支援戦力が数多のミサイルを繰り出す。

 打ち上げられる光線に当たらないことを祈りつつ、爆撃機が対艦ミサイルを放つ。

 

 この様相は決してプログレスが人類の主力では無いことを証明していた。

 されど、今はそのプログレスに希望を託し、ただ攻撃を引き付ける為に戦っていた。

 

「『グラヴィティ・ポイント』!!」

「『リフレクションフィールド』っ!」

 

 その渦中にあって『ダークヒンデリア』の眼前で戦闘機を駆り、戦っていたプログレスもいた。

 『バッド級』の群れを放った2つの重力の網に捕らえて引きずり込んで撃破し、『バッド級』と『ダークヒンデリア』からの光線攻撃を反射する領域を展開して受け返す。

 既に機体のミサイル残弾はゼロとなり、機関砲弾も残り少なく、ほとんどエクシードの力で戦っている状況だった。

 無人型F-15の制御もたった1機で戦っている状況では追いつかず、光線に絡め取られ墜とされていき、今ではたった2機が付き従っている状況だった。

 

「ぐっ……」

 

 その中でアイリーンが頭に痛みを感じ前の背もたれに頭をつけ、口から血を零す。

 既に数回以上も連続して魔法を発動しており、先ほど2つも重複して発動させた無理も祟り、身体は限界を迎えかけていた。

 

「言ったじゃん……もう───かはっ」

 

 背もたれの振動を感じアイリーンを心配するマリオンも、同じ状況だった。

 防御において完璧なリフレクションフィールドであるが、連続して発動させた身体への負荷は大きく、本当なら身体を休めなければいけなかった。

 しかし、それは無数の攻撃が襲い掛かる今の状況が許さず、痛がりつつも再びリフレクションフィールドを展開しようとする。

 

「サラ……早く、してね。じゃないと、私たちが……ね」

 

 マリオンは顎に付着した血を手で拭い去ると、自信無さげに弱弱しく祈るように呟いた。

 

サライナ市住宅地

 

 『ダークヒンデリア』の眼下で、唯一光るものがあった。

 サラの伸ばした手には、青く光り輝く水の激流が球状に渦巻いていた。

 既に臨界状態を迎えていた水球だったが、サラはそれ以上にマナを込めようと力を入れる。

 

「ぐぅぅ……!」

「サラっ……!無理、しないでよっ!」

 

 痛みに苦悩の表情を浮かべるサラに、座り込むマーシャが心配そうに声を掛ける。

 

「今が無理する時だよっ……私はリラさんに人生を救われたの!……あの時助けられなかったら、私は多分心が壊れていたと思うっ。……っ、命を救ってくれた恩人なのっ!私は……それを返したい!例え、これで命を使い果たしても、リラさんを救えればっ、私に後悔は無いからっ!」

 

 自身の溜め込んでいた思いを、大粒の涙を流しながら彼女は吐露した。

 当時中東に家族旅行へと出かけていた彼女はCLFの外部組織に捕まり、家族を殺された。

 そこから無理やり彼らを満足させるという最悪の環境で過ごし、そこから救い出してくれたリラは彼女にとって恩人以上の人だった。

 彼女の必死さ、その軽く命を捨てる覚悟さえ持っていることを感じ取ったマーシャは、訓練生時代からの親友として掛ける言葉を選ぶ。

 ゆっくりと立ち上がり、自身も涙を流しながら、言葉を掛ける。

 

「サラっ!!命を捨てるなんて、絶対にダメっ!一度きりの人生なんだから……簡単に捨てないで……っ。自分一人で死にに行くような事をするんだったら、勝手に────」

 

「───死なせるわけ無いじゃんっ!!」

 

 その言葉と共に傍にいたマーシャはサラの身体に飛び込むようにして、左手を強く握りマナをサラに供給していく。

 

「───マーシャ?」

 

 自分を見限ったと思ったサラは、マーシャの行動に驚きを隠せず呆然とする。

 親友の暖かいマナを感じ、マーシャの手を握り返す。

 

「……サラは少し無理をし過ぎだよっ……プログレスとなって配属された日、サラの目は光が灯ってなくてみんなが避けてたけど、私は友達になろうって決めたの!

失敗の連続だったけど、元気が無かったサラを励まそうとしたし……髪型も整えたり、お洒落だってさせた。

徐々に元気になって、周りにいる子と話せるようになって、私は嬉しかったよっ。

サラの事は、サラと同じくらい私も知ってるっ。

だから、私を頼ってよっ!……私はサラの一番の親友だからっ」

 

 大粒の涙で顔が濡れていく中、マーシャは抱え込んでいたサラへ向けた思いを吐き出した。

 

「マーシャっ……うん、マーシャの分も込めるよ」

 

 しかし、サラを信じているのはマーシャだけでは無かった。

 サラの腕と、マーシャの空いてる右手を二人のプログレスが手を掴み、その二人に続いて複数のプログレス達が数珠つなぎで手を掴む合う。

 彼女達は陸と空それぞれで戦っており、そのほとんどが傷を負っていた。

 その中にはリサの姿もあり、声を張り上げる。

 

「サラさん!私たちのマナを全て込めるからっ。

信じてるからっ、もう……この地獄を終わらせてっ!!

仲間が死ぬ光景はもう見たくないっ!!」

 

 治療に携わっていた身として、その発言は非常に重い意味を持った。

 他の少女もその思いは共通しており、仲間の死を思い出して目尻に涙を浮かべる子も、手はしっかりと離さずに崩れ落ちる子もいた。

 

「───到着。これより準備に入ります、『接続増幅機構(リンク・バースト・ケース)』」

 

 西の彼方からアンドロイドの少女が浮遊しながら飛んでくる。

 彼女、セニアは飛行(フライト)モードを展開して超音速で到着した。

 わずかに無理をし過ぎたため、脚部がショート気味になっているが、これから行う()()には差し支えなかった。

 

「あなたは……?」

「私はコードΩ(オメガ)46セニア、白の世界のアンドロイドです。あなたの可能性を最大限上げて見せます」

「私の、可能性……。セニアさん、私が望む物の可能性が上がるなら、私はどこまでも耐えるから」

 

 サラの手を伸ばした先に筒状の物体が設置、展開されると、手に込めるエネルギーが強く大きくなっていく。

 その時点で通常の数十倍の威力にまで増大していたが、それは『ダークヒンデリア』に察知される事態をもたらした。

 赤いラインから走る光線の雨は、攻撃を引き付ける陽動部隊へと放たれていたが、あの悪夢をもたらした主砲だけは違った。

 重厚な稼働音を上げながら主砲が旋回し、()()へと照準を向け、禍々しい赤き奔流が充填されていく。

 

「『ダークヒンデリア』、エネルギー充填開始っ!!サラ!!」

 

 マーシャが自分の魔法で感知したそれを悲鳴じみた声色で伝える。

 サラの手に流し込んだ膨大なエネルギーが臨界状態となって一点に圧縮される。

 

 リラは何も出来ない悔しさの中で祈りを込め、チェルシーは『バッド級』との戦闘に忙殺される中で奇跡を信じた。

 

「行くよ───」

 

「『アクア・カノン(水神の一撃)』!!」

 

「───届けっ!!」

 

 臨界まで凝縮された光は手の平から蒼色の奔流となって放たれた。

 筒を通過した途端、50倍以上にまで増幅された後、遠く彼方からも見える程大きな希望の光となって、上空へと打ち上げられる。

 同時に『ダークヒンデリア』からも赤い奔流が放たれ、両者は空中で激突する。

 

 蒼色の奔流はその程度で勢いを落とすこと無く飲み込むと、『ダークヒンデリア』の胴体前部へと直撃。

 瞬く間に前部を消し飛ばすと、サラは手を振り下げて『ダークヒンデリア』を縦一線に両断。

『ダークヒンデリア』のコアはその攻撃を免れる事もできずに一瞬で破壊され、巨大な爆炎が大空に広がる中で、その胴体は光の塵となって消滅する。

 

「───え?……サラ?」

 

 その光景を少女達が呆然と見ている中、サラがゆっくりと力無く後ろ向きに倒れる。

 咄嗟にマーシャが支えるも、サラには意識が無かった。

 

「サラ!?……どうしたの、どこか怪我したの!?」

 

 憔悴したマーシャが彼女に声を掛けるも、返事は無い。

 その傍にいたセニアは手をゆっくりとサラの胸に当てて目を閉じる。

 

「……心拍は正常、大丈夫です、生きてます。

マナを全て使い切ったその反動で襲った疲労感によるものと思います。

それに、元々疲れていましたから」

 

 その言葉を聞いたマーシャは安心するあまり涙腺が緩み、大粒の涙を流しサラの体を抱きしめる。

 

「……心配したじゃんっ……サラのばかぁっ……良かった、良かったよぉっ!」

 

 マーシャとサラの親友であるこその光景に他の少女達が微笑ましく見つめる。

 

 『ダークヒンデリア』及び『バッド級』の全消滅が確認された事により、戦闘終了時点で出撃していた全部隊に帰還命令が下される。

 最も、すぐに原隊へと戻せる用意が出来ているわけでもないため、近隣の基地へと移動が指示された。

 第117戦闘飛行隊も同様に移動が指示され、近隣のマコーネル空軍基地へと着陸する。

 着陸するのは、2機のF-35のみで無人型F-15は激戦の末に全て喪失していた。

 

「……終わったよ、リラ。立てる?」

 

 前部キャノピーのガラスに穴が開き右主翼には貫かれた被弾痕もあって、痛々しい姿をしているラティス1のF-35が若干ふらつきながらも着陸し、基地施設の近くで停止する。

 キャノピーが開く中、涙目のチェルシーはそうリラに聞いた。

 

「……無理、かな」

 

 『ダークヒンデリア』が撃破されたと聞いた瞬間、リラは”やっと……帰れるんだ”と嬉しさの余り涙を流し、その波は収まる気配を見せなかった。

 加えて致命傷となる攻撃を受けた身体であり、幾ら応急処置を施したとしても失った血は多く長時間の貧血状態で腕はまともに動かせず、立ち上がる事も困難だった。

 

 合流を果たしたラティス2も光線に擦られて塗装が焼け、爆発の粉塵すら残っており、機体後部から黒煙を噴きながら危なげに着陸し、ラティス1の傍で停止する。

 マリオンとアイリーンの二人は過度にエクシードを使用した反動で、本来なら安静にしないといけない状態だった。

 しかし、リラを助けるために、アイリーンは人の身体を浮かす程度の浮力を働かせてリラを浮かし、それを地上に降りた3人で抱きかかえる。

 それを救助班が持ってきたストレッチャーへと寝かす。

 

「……あとは、お願いしますっ……助けて、くださいっ」

「……分かりました、我々にお任せを。必ず助けます」

 

 チェルシーは目尻に涙を浮かべながら、真剣な表情で目の前の軍医に告げる。

 軍医はその想いへと答えるべく、嘘偽り無く誠意ある言葉を返す。

 

『……苦難に満ちた戦いだったが、感謝する、ありがとう。

軍病院にて検査を受けてもらう、既に送迎の車を送っているから、それに乗ってくれ』

 

 戦いは終わり、少女達は傷を癒そうとする。

 

_UTC3月23日午後2時15分・CST3月23日午前8時15分_

アメリカ国防総省 作戦指揮センター

 

 職員らが大きな歓声を上げる。

 正規の軍人やスタッフ、上司や部下、男性や女性関係無く、誰もが絶望へと真剣に抗ってきたことへ、互いに祝福し喜びのあまり抱きしめあう。

 その光景を眺めながら、ギレットとアッシャーは話をする。

 

「終わったか……」

「ええ、終わりました……。しかし、我々の仕事はまだまだありますよ」

 

 非常事態が終われば、人々は日常へと回帰しようと動き始める。

 それを証明するように、グレン国務長官は他国との予め決められた交渉へと動き、財務省、司法省、保健福祉省、住宅都市開発省は戦後の問題を解決するべく、長官自ら動いて進めようとしていた。

 

「ですが……完全に元の日常へと戻ることは叶わないでしょう。国際(グローバル)経済は崩壊しかけ、明日からの情勢もどうなるか分かりません」

「……難題だな」

 

 ウロボロスによって壊された世界、それを元に戻るには途方もない努力と時間が必要に思えた。

 ギレットはこの場において、今まで悩んでいた言葉を告げる。

 

「……アッシャー国防長官、私は日常へと回帰する為の法案や大統領令の体裁を整えた後、近日中に大統領の職を辞めようと思う」

「……どういうことですか」

 

 ギレットの言葉にアッシャーは怪訝な表情で質問を返す。

 

「……確かに今後のことを考えれば、全ての責任を放り投げた大統領と、後ろ指を指されることは間違いないだろう。だが───」

 

「───疲れてしまったのだ……。世界接続(ワールドコネクト)から激動な事が続き過ぎた。さらに自国での核攻撃だ、過去の指導者は軽んじていただろうが、実際にやってしまった今、精神的な負担はあまりに大きすぎた……。今後何が起こるか分からない情勢で大統領としてやっていくには───」

 

「───私の精神はあまりにも弱すぎる」

 

 そこにいるのは威厳のある大統領としてのギレットではなく、重圧に押しつぶされそうになっている男としてのギレットだった。 

 

「そこまで固い意志ならば、止めはしません。後任は決まっていますか?」

「ウィリアム・B・モーガン副大統領。私とは大統領としての思想も異なるが、母国を想う気持ちは私と同じだ。さらには、図太い精神の持ち主でもある」

 

 ギレットにとって、その名前はかつて大統領候補の地位を同じ党内で争った者であり、懐かしさの余り笑みを浮かべる。

 

「彼ですか……まあ、彼ならばやり遂げられるでしょう。……大統領、少し早いですが───」

 

「───お疲れさまでした」

 

 

 赤かった空はその星が作る世界の名前通り、蒼い空を取り戻していた。

 

 

 UTC(世界標準時)西暦2023年3月23日

 

 人類にとって、この日は確実に歴史に残る日となった。

  

 アメリカ軍の『ダークヒンデリア』の撃破によって世界各地の中型ウロボロス及び統制する個体のいない小型個体群が全て消滅。

 7日間の奮闘は、遂に終わりを告げた。

 

 ───この事態を引き起こした、元凶たる忌まわしき壁を残して。

 

 壁出現に際した直接的な被害では、死者数約2000人

 ウロボロスとの戦闘も加えた間接的な被害を含め、7日間で約2500万~3000万人の犠牲者数に上ると思われた。

 遺体の確認が出来ていない以上、その正確な統計は現在も未来においても出来ていない。

 

 後に歴史に残る名称として、当初この戦いをウロボロス事変と呼ぶ者がいたが、前例の無いあまりに膨大な犠牲者数に”事変”という単語が相応しく無く、議論を呼んだ。

 多くの人類国家が総力を上げた事態は”戦争”に他ならないとした意見が多く、

 結果的に議論の末、第1次異種戦争(First Diff-Seed Warfare)、通称ウロボロス戦役として呼称された。

 

 何も得られなかった悲惨の戦いの末路。

 確実に元通りにならないと確定しても、人々は日常を取り戻そうと動いていく。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次章

 

 

最終編

【■つの■命に■■られる■■点】

 

 

開幕




第0章(前) ワールドコネクト・(後) ワールドクライシス 完結です。

ここまで読んで頂いた読者の方々、ありがとうございました。
マブラヴ二次創作作品としては異色の、しかもBETAのBの字すら出ていない前日譚にも関わらず、読んで頂けて嬉しく思います。

第0章(前)・(後)では4つの世界との接続、そして世界共通の敵「ウロボロス」という存在との戦いを通じて変わろうとしていく世界を描きました。
その道は、少女達、そして国家としても楽なものではなく、酷く荒れた道のりです。

最後に記しましたが、次章からは第0章ではなく第零章として、大きく変わった世界、あのキャラのあれこれ、そして間違いなく近づいている"脅威"について描いていければと思っています。

章の完結を記念して、お気に入りや、高評価、感想等を頂ければ幸いです。

あと、アンジュ・リリンクはいいぞ。
アンジュ・ヴィエルジュの後継アプリで、ストーリーは変わってるけど、やっぱりキャラが可愛いので……ね。
私の推しは「日向美海」と「ルルーナ」です。
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