Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
とはいえ、そうしないと彼らの苦境が理解しにくいので……
PS.表紙完成して掲載済みですので、見ていただけると嬉しいです。
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イギリス ロンドン
タワー・ハムレッツ・ロンドン自治区スピタルフィールズ
「
人々は被害を被った街の復興に向けて取り組み始めていた。
重機が大きな駆動音を上げながら忙しなく動き、作業員は慌ただしく動く。
道端では兵士が近づこうとする歩行者や車に声を掛け迂回を促すなど、交通規制を張っていた。
イギリス政府は国家の復興を第一目標として上げており、軍と警察、工事関係者を総動員していた。
この日、ブレイス首相が作業の視察に訪れた。
「やはり酷いな……」
彼が見上げるビルには壁面を大きく抉った光線の痕跡が遺されており、それが『ヴォークワイバーン』による仕業であることは明らかだった。
スピタルフィールズ、そこは黒の世界【ダークネス・エンブレイス】が送り込んだ『ヴォークワイバーン』討伐隊の後続部隊が”いた”だけで砲撃を受けた場所だった。
避難命令を出されていたものの、やはり最前線地区より優先度は低く残っていた多くの住民がその砲撃に巻き込まれていた。
「奴らは無情にも無関係の市民すら巻き添えにしていく。憤りを感じますな」
傍にいたウィンストンが市民を守れなかった悔しさを表情に表しながら言葉にする。
瓦礫の撤去、行方不明者の捜索活動を眺めている中、一人の作業者が声を上げる。
「いたぞ!生存者二名発見!
……女の子だ、もう大丈夫だぞ!」
「引っ張り上げろ!総員、生存者の救助を優先!」
救助隊員がぞろぞろと駆け寄り、崩壊した建物の隙間に降り立ち、女の子を抱えてロープで引っ張り上げる。
助け出された女の子はわずかに衰弱した様子ではあるが、大きな外傷も無く命に別条は無かった。
「少し後悔していることがある───」
突然傍にいるウィンストンにしか聞こえない程の小声でブレイスは話し出す。
「ロンドンに『ヴォークワイバーン』が迫った時、アメリカが戦略原潜を用意していたように、我が国もまた戦略原潜〈ヴィジラント〉が戦略核ミサイルの臨戦態勢を維持していた。
どちらも未曾有の被害が出たのは間違いない、だが……奴が近づく前に放てばもう少し被害を抑えられたのでは無いか、と。
過去は変えられないが……後悔は絶えないのだ」
アメリカ大統領が核のボタンを押す権利があるように、イギリスも核ミサイルの発射には軍の最高指揮官たる首相の裁可が必要だった。
そんな首相だからこそ、もう一つの選択肢の方が正しかったのではないか、と悩むのは当然だった。
「首相───、全て結果論です。
それを承知で言わせてもらいますが、アメリカが核で敵を葬りきれなかったように、『ヴォークワイバーン』が一時復活したように、核が最善の選択肢では無かったかと。
加えて、これ以上の災禍になるのは目に見えています。
私は貴方の選択を支持しているからこそ言わせていただきますが、今の結果こそ最善だったと思います」
ウィンストンは声色は小さくとも強い口調で語る。
「そうだな……聞かなかったことにしてくれ、冗談だ」
「ええ、聞かなかったことにしましょう。悪い冗談でしたな」
後押しするウィンストンの言葉にブレイスの後悔は吹っ切れ、冗談だと後追いで嘘をつく。
その言葉にウィンストンも皮肉を込めつつ肯定する。
_UTC・GMT3月26日午前10時36分_
ロンドン
シティ・オブ・ウェストミンスター特別区 ダウニング街10番地
「国防大臣は?」
「首相、彼は海軍との会合の方に行っています」
視察から戻ってきた後、ブレイスは会議に臨んでいた。
補佐官の言葉で、国防大臣不在の理由を思い出したブレイスはそのまま会議を始めた。
「まず我が国の金融状況から申し上げます。
現在我が国が使用している通貨たるポンドですが、政策金利の引き下げを実施していないのにも関わらず、ポンド売りの動きが止まらない状況が続いています」
イギリスの中央銀行たるイングランド銀行の担当者が悲痛な表情で報告を行う。
通常、政策金利が高い通貨の方に資金が流れやすいため、ポンドが買われていき、通貨価値が高まっていくというのが通常の流れだった。
しかしイギリスは現在首都ロンドンを中心に国力の集中する地域に甚大な被害を蒙っており、それが影響してポンドの未来が不安視されているのか、買われやすいはずの通貨が売られ、ポンドの通貨価値が下落する逆転現象が引き起こされていた。
「利下げは……無理だな、その動きを勢いづかせることになる。
最悪、経済が終わる……」
「どこが1番多く買われているんだ?アメリカドルも現状だと売るしかないぞ」
銀行担当者はタブレット端末のデータを見返し、その質問に答える。
「隣国……いえ、隣接地域の
確かにフランスの被害は大きいですが、中心国家たるドイツ含めた欧州諸国の大半はほとんど被害を受けることなく健在であり、かの投資家らはポンド売りユーロ買いへと動いてるとの事です」
ブレイスは眉をひそめ不快感を示す。
しかし、それは他国への嫌悪感ではなく、この状況に対する憂いの気持ちが大半だった。
「唯一ポンドを続けていたのが仇になるとは……最悪、ユーロへの乗り換えも検討すべきだな……。ドイツと話をしてこよう、かの国がどのような意志を示すかだ」
イギリス政府の経済担当者の憂いは収まる気配が無く、彼らの奮闘も止まることは無い。
_同時刻_
ポーツマス市
イギリス海軍 ポーツマス海軍基地
戦火の音は聞こえなくなり海鳥が鳴く。
近隣のポーツマス市が復興へと進む中、目前のドーバー海峡に壁があるという事実から背けず英国の防人達は忙しなく動き緊張感を保ち続ける。
この日、政府閣僚と海軍関係者の間でイギリス軍全体方針に伴う海軍の将来方針について
「スポール国防大臣、個人の感想として私はこの案に納得致しかねます!」
会議中怒号を上げたのはニューフォレスト近海における戦闘で『リトルヴォーク』の大群と戦い抜き、『ヴォークワイバーン』の撃破へと助力を行った〈プリンス・オブ・ウェールズ〉空母打撃群の指揮官たるスコット海軍中将だった。
スポール国防大臣が提示していたのは、『ヴォークワイバーン』によって大打撃を受けていたイギリス海軍の再建計画であり英国海軍軍人”のみ”の視点で考えるならば喜ばしい事であったため、他の将官から驚きの声があった。
「確かに稼働可能な空母が1隻だけというのは、我が国が掲げる安全保障政策の面で不安でしょう。
ですが、新造すればいい話です。
加えてヴァンガード型再設計案……ほぼほぼライオン級戦艦の再現でしょう、それも2隻建造するというのは、あまりにコストがかかり過ぎるのでは無いでしょうか?
さらに言えば、これは今の政権が掲げる国民優先の復興を行う意志に相反する事としか思えませんが」
今のイギリスの財政・経済状況は被害の大きさと復興地域の規模からも悪いとしか言えず、直ぐに回復が見込める事も無いため、この状況下で軍予算を増額させるのはあまりにも非常識に思えた。
「……しかしスコット中将、かの〈クイーン・エリザベス〉が戦力復帰させることが出来ればその価値は十分にあると思いますが。
しかも、あなたにとっても思い入れのある───」
「───戦力復帰する価値はありますが、大破状態の船を再就役させるのにどれほどのコストがかかるか、これは一般将兵ならともかく我々将官ならば容易に想像出来ることかと思いますが」
スコットの返しに、意見した将官はしまったと後悔したような表情を浮かべ黙り込む。
「スコット海軍中将、これの真意は私どもが決めたことですので。私からお話しましょう」
スコットの睨みに萎縮した将官らへ標的が向かないように、スポールは発言して気を引かせる。
「……実の所、この再建計画は政府内でも問題視されました。
ですが、計画にかかる総コストは高くとも年度内予算に掛かる軍予算割合を小さくすることで予算の多くを復興へと割り振る事が出来ています」
「そして、クイーン・エリザベス級1番艦の修復、及び3番艦の建造について。
計画内で最もコストのかかる部分ですが、担当する複数の軍需企業に担保する事で多額の資金を支出してもらっています。
これが年度予算を抑えられた理由でもあります。
そして、今回空母及び戦艦、戦闘艦含めて設計から建造を彼らに委任することにしました」
スポールの話した内容にスコットはある点に疑問を抱く。
「委任……?空母及びフリゲート艦はともかく、戦艦はほぼ70年ぶりになりますが……」
「我々国防省とあなたがた海軍の方で方針や意見等は述べていくつもりですが、余計な介入はしません。そして……これは一種の賭けとなるでしょう」
「我が国の軍需産業は衰退気味と言っても過言では無いでしょう。
大型艦艇たるクイーン・エリザベス級の建造ですら既に6年前、駆逐艦の建造計画の目途は立たず、フリゲート艦の建造はわずかながら進めていますが、建造日程が伸びる傾向にあります。
隣国を含めた諸外国の支援が期待できない今だからこそ、多額の資金をドブに捨てるリスクを甘んじてもなお、イギリス軍需産業は復活させなばならないのです」
スコットは目を閉じて考える素振りを見せ、その数秒後に目を見開きもう一度スポールへと尋ねる。
「その問題は耳にしているが……そんな彼らに託すのは少しリスクが大きすぎるのでは?」
「承知の上です、もしもの場合は我々が後を引き継ぎます」
「……ならば我々が口を挟む事ではありませんな。私としても彼らの復活は望むことですので」
スコットが納得する意志を示した事で議論は終結を見せ、その後の会議は定例報告等の日常的な光景に移り滞りなく進んだ。
会議が終わると、スポール国防大臣以下補佐官らは次の予定があるのか足早に退出していき、会議の進行役が解散を言い渡すと出席した将官や左官らも順次退出していく。
スコット自身も会議室を出て自分の執務室へと戻る最中、一人の士官に呼び止められる。
「スコット中将!!」
「……何か」
しかしスコットの顔はやや不機嫌気味だった。
彼は会議後に弾道ミサイル原潜艦隊と、水上艦隊第二群隷下の哨戒部隊との会議をそれぞれ控えており、あまり時間に余裕は無かった。
「はっ、スコット中将へと直接連絡が届いておりますっ、中将のお名前を指名しています」
「……それは私にとってどのような意味を持つ連絡だ?家族からなら別にいい、無事なのは分かっている───」
断ろうとするスコットだったが、呼び止めた士官がその言葉を遮り強く言い放つ。
「───大変重要な連絡ですっ、内容はご自身で見てもらえれば、その意味が分かると思います」
「分かった……執務室へと戻ろうとしていたんだ。そこで確認する」
執務室に戻ると、机の上に一枚の手紙が置かれていた。
スコットはそれを手に取って見ると、わずか数秒後に目をわずかに大きく見開く。
「マクル―アが……生きているだとっ。
だが、軍では捜索しても発見できず、軍病院にも運ばれていなかった……この病院はどこだ」
手紙に記載されてる病院は軍の病院とも関わりが無かったため、医療関係者でもないスコットは全く知らなかった。
「調べたところポーツマス市近郊の病院です、規模もそれほど大きくなく『ヴォークワイバーン』の侵攻を奇跡的に避けられたと思われます。詳細な場所はこちらです」
「この近くではないか……!車で行ける場所だな……」
会議か友人か、スコットはどちらを選ぶか思い悩んだが、十数秒経つ頃にはようやく決断し終えていた。
軍用携帯端末を手に取ると、彼は直近で会う予定になっている原潜艦隊の幹部にキャンセルの連絡を入れる。
「構わん……意見交換するだけで特に重要でもない、時間をずらしてもらった」
副官の心配を一言で片づけると、足早に執務室を出ていく。
とある民間病院
その病院は軍の中央病院と比べると大規模な医療を行える豪華な設備も、遠隔医療が出来る高級な設備も無く、言い繕うことも難しい至って普通の病院だった。
その病院廊下をゆっくりと歩くスコットは、教えられた病室に辿り着くとドアを開ける。
「……ふっ、やはり……生きていたか」
その言葉とは裏腹に安堵した表情となったスコットの視線の先には、病院着を着込みベッドに腰かけている顔が痩せた壮年の男性がいた。
それはイギリス海軍水上戦闘艦隊司令兼〈クイーン・エリザベス〉空母打撃群指揮官、そして彼の同期でもあるイアン・マクル―ア海軍中将だった。
「……スコットか。やっと来たな、待ちくたびれてしまったよ」
「それはこっちのセリフだ。もっと早く連絡を入れてくれれば、すっ飛んで来たものだが」
再開して早々に彼らは泣くことも無く皮肉を言い合う、これこそ彼らなりの親友仕草だった。
「とはいえ、今はお客さんがいる。身内の話は後にしよう」
マクル―アの言葉にスコットは先ほどまで意識の外に置いていた、ベッドの端に顔を埋める少女に視線を移す。
声は聞こえていたのか、少女はゆっくりと顔を上げる。その少女の目には泣き腫らした跡が見受けられた。
「あ……グリューネシルト統合軍、マリル・ルガネット曹長です……話してただけだから、私たちはこれで」
敬礼して立ち去ろうとするも、その表情にはもっと話足りないという思いがはっきりと現れており、その足取りは重かった。
「彼女か……確か魔導砲の件で関わりがあったな。
あの一撃を放ったのも……」
「それだけではない、彼女とは機械弄りの話で馬が合った。
だからこそ、私が生きていることを聞きつけた彼女は、お前よりも早く私の元に辿り着いた」
そう言って一息つくと、マクル―アは憂鬱な表情を浮かべる。
「例え生きていた喜びが勝っていたとしても、彼女を悲しませてしまうとは……私の不覚だ。
ウロボロスには叶わない、避けられない運命などは関係ない」
拳を力強く握りしめて悔しさを露わにする。
数秒間そのままでいた後、力を抜いてスコットの方を振り向く。
「……話があるのだろう?」
「ああ、お前が無事であるという連絡は既に入れた。それで、これからどうする?今日、明日の予定ではない、今後の軍務についてだ」
マクルーアは予想していたと思わせるような表情で無言で次の言葉を待つ。
「上はクイーン・エリザベス級1番艦の戦力復帰を目指している他、3番艦の建造も計画している。さらに、アメリカ、ロシアと同じようにライオン級クラスの戦艦建造にも手を付けようとしている。お前のポストはまだ残っている、どうだ?戻ってくる気はあるのか?」
黙って話を聞いていたマクル―アは、「はっ」とせせら笑う。
「確かに戻る気はあったのだが、それは体が無事でいられたらの話だな。
残念ながら、体は五体満足ではない。
両足とも以前のように動かすことは難しいと言われてしまってね、元のポストに戻ることは難しいだろう」
「……話せば事情は汲んでくれると思うが……」
「ふんっ、世話されてまで残りたいとは思わんな。
とはいえ……退役するには早すぎる身だ。
士官学校の教官が適度なポジションだろう」
マクル―アは鼻で笑うとスコットの発言を一蹴する。
しかし、流石に退役するには早すぎる年齢の為、今の自分が適するであろうポジションを口にする。
「ふっ……お前の事だ、予想はしていたさ。その答えが確かなものであるなら、さっさと話をつけてこよう」
スコットは反対するでも無く口の端を上げて笑みを浮かべると、親友なりにその決断の助けとなる行動を口にする。
「まあ、話はここまでにしようか。
あんまり大事を口にする場でも無いからな」
スコットはそのまま病室から出ていく。
その廊下で帰ったと思われたマリルが椅子に座っているのを見たスコットは、彼女の傍を通り過ぎるタイミングで独り言のように話しかける。
「帰っていない事はあの時の表情から分かってた。
もう話は終わった、友同士の時間を邪魔するわけにはいかないからな。
私はこれで失礼する」
「……!」
マリルがお礼を言う暇も無く、スコットは足早に廊下を歩き去っていく。
「───マクルーアさんっ、まだまだ話し足りないから戻ってきた……あの話の続き、あの時から空いた時間の分だけたっぷり話してもらうよっ」
「……おいおい、勘弁してくれ。
これでもまだ怪我人だぞ?」
マリルの宣言にマクルーアはたじろいでいたものの、その表情には笑みが戻っていた。
その後マクル―アの病室では、看護師が来た事にすら気づかない程に2人の間で楽し気な会話が交わされていた。