Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
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アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス地下
シチュエーションルーム
アメリカ合衆国連邦政府閣僚のほとんどが席に連なり、あと一人の到着を待つ。
ドアが開かれ、このホワイトハウスの主たる一人の男が現れる。
ギレットよりも横幅が大きな体をしていたが、軍人時代に鍛え上げられた筋肉で屈強な体を構成しており余分な脂肪は無い。
「済まない、所用があったため遅れてしまったのだ。それでは、始めよう」
アンガス・D・ギレット前大統領よりその職を引き継いだ、ウィリアム・B・モーガン大統領が口を開き、会議は始められた。
ギレット政権よりその運営メンバーの陣容はほとんど変わっていない。わずかにギレット前大統領を慕うスタッフが数名辞めたのみだった。
これには政権の安定運営を優先したモーガンの思惑も含まれていたが、押しが強く横柄かつ胆力あるというギレットとは異なる性格という噂と比べ実際にはそこまで強引な持ち主では無かったことにより、閣僚らの期待が高まったことも挙げられる。
「まずは世界の現状……と言いたいところだが、緊急性の高い件があったな」
モーガンに合図を出され、要職に努める男性二人が口を開く。
「
ウロボロスに勝利はしましたが、それでも大きな被害が出ているのは明白であり、円を含む比較的被害の少ない国々の通貨買いドル売りの動きが加速しています。
連日の市場介入によってその動きは鈍化しつつありますが……一度各国と対話をした方がよろしいと思われます」
FRB議長の発言が終わると、財務長官が口を開く。
「財務省からもバッドニュースをお伝えしなければいけないかと……既に実行されてる人道政策を続けるには更なる巨額の資金が必要です。
連邦予備資金を投じる考えも必要になるでしょう。
さらに、復興政策も合わせると、公共事業どころの話ではない程資金が枯渇します……!
諸外国からの支援も、我々が災害支援を投じてないことを考えれば……あてにはできないでしょう」
財務長官は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
ウロボロスから突出して最も被害を受けたのはアメリカではあるが、最も国力が大きいのもアメリカだった。
諸外国の中には一見すると被害の規模が小さく見えても、国家予算と比べた被害額の割合が大きい国も存在しており、代表的な例としては首都が半壊したイギリス、ウロボロスによる被害に加えて後述する要因により国力が大きく減じたロシア、中国と言った国々だった。
そのような国々にアメリカが災害支援を投じていないのに、彼らから災害支援を受け取るのは言語道断だった。
「……なかなか深刻だな。されど足を止めるわけにはいかんだろう、復興は優先課題だ。
幸い我が国のドルには信用がある、最悪の事態は避けられるだろう」
「資金が無くなる恐れがあるのにそれを見逃すのはあまりにも……!
諸外国と連携して、金利政策会合でドル買いの動きにっ。
またこの際、等価交換として我が国が諸外国に支援して、彼らから───」
遮るようにモーガンが拳で強くテーブルを叩き、その轟音が響き渡る。
「───諸外国との対話、諸外国との交渉、諸外国との連携は大変結構だ。
だが……!優先すべきものが何たるかを考えろ。
まだ復興は進んでいない、そんな中で他国への支援をするなど、国民の怒りを買うだろう。
『アメリカファースト』とのたまう気はないさ、されど我が国の復興と経済の再活性化は優先的に進めるべき命題だ!
これは嫌でも進めてもらう、私が愛国者だろうとそれは関係ないっ。
しなかった未来を考えればわかる、私への支持が対立候補へと流れるのはまだ良い。
最悪の場合、国家への支持が失われ、混沌へと進むことになるぞっ」
怒涛の勢いで言葉を吐き出したモーガンは豪快に息を吐く。
募っていた怒りを冷ますと、次の話題を促す。
モーガンから現状の情勢について名指しされた、グレン国務長官は口を開く。
「はっきり言えば……複雑怪奇と言うしかありません……」
グレンは疲れを滲ませた表情を浮かべながら話す。
彼がスタッフに指示すると、モニターには見慣れた地球のメルカトル図法の地図が表示された。
しかし、特定の地域にある特異な国境線は数週間前まで存在すらしていなかったものだった。
「まずは面積的にも大きく、最近の出来事に対して大きく影響力を行使しているロシアでしょう。
既存のロシア領土に跨る三つの壁を挟んだ形で、アルタイ、クラスノヤルスク、東シベリアの3か国が樹立。
国名の呼称については彼らが声明にて公表したものを、呼びやすくつけたものですので特に意味はありません。
彼らの動きについて詳しくはありませんが、当然ロシア連邦外務省はこの3か国を一切認めておらず、譲歩する姿勢も見せていないとのことです。
ですが、アルタイ、クラスノヤルスクはともかく、東シベリアについて昨日我々がウラジオストクに設けてる総領事館に接触がありました。
”我々はロシア連邦の東シベリア領土における委任統治を行っている”と……」
閣僚らに走った感情はどれも困惑だった。
モーガンから事情を尋ねられるグレンだったが、彼もその報告を受け取った時と同様に困惑した表情を浮かべるしかなかった。
「……これについて真意は不明ですが、ロシア連邦の公式発表ではありませんが、在アメリカ大使のブレコフ氏からそのような報告は貰っていないとの言葉を頂きました」
「意味が分からないな」
「東シベリアの意図はともかく、ロシアが世界最大の核保有国”だった”ことも留意しておくべきかと思います」
アッシャー国防長官がモーガンの言葉に口を挟み、モーガンが次の言葉を促す。
「東シベリアが我々に友好的な政府になるとしても、ロシア連邦とは異なる指揮系統で動くのは明白です。
さらに言えば多くの情報が不明なままのアルタイ、クラスノヤルスクの想定領域内には核ミサイル発射基地、戦略弾道ミサイル潜水艦基地があると予測されていることから、警戒を怠ってはならないでしょう。
北極海及び太平洋への重点配備は必要です」
閣僚の数人はアッシャーの言葉に苦い顔を浮かべる。
最悪の事態である核戦争は誰だろうと想像したくないのだ。
「では次に中華人民共和国及び南中国です。
我が国が北の中国を国家承認している以上、南中国と呼んでいます。
これについて中国政府が重慶にて核攻撃を実施した件、ウロボロス撃破後の治安悪化によって混乱していたこともあって壁に遮られた南側に関与できなかった間に樹立されたものと思われます。
現在この国家について情報が錯綜していますが、中国政府の発表及びASEAN各国との対話から判断すると、我々が組んでも得られる利は非常に少ないと思われます」
グレンが一息つく間にアッシャー国防長官が手を上げる。
「南中国についてもう一つ。ロシアと同様に、同盟国日本の近海であったため衛星で監視していましたが、人民解放軍が対ウロボロスの作戦に動員していなかったと思われる空母〈遼寧〉が南中国軍に奪われた可能性があります。
装備、性能面で空母を保有している日本にとっては既に脅威ではありませんが……核ミサイルを保有している可能性含めて考えれば、脅威度は大変高いです」
アッシャーの報告にモーガンは眉をつまんで不快感を表す。
「極東にどうしてここまで脅威度の高い国々が現れる……戦力増強は考えよう」
モーガンの話が終わるや否や、グレンは話を続ける。
「続いて南アジア諸国についてです。
ウロボロス戦役の後、パキスタン、アフガニスタン、バングラデシュは元々経済不況から立ち直りきっていなかったこともあり、財政が破綻。
3か国ともインド政府に助けを求める形となり、インドは支援に応じると共に彼らを【
更には中国軍が介入できなくなったのを背景にチベットを占領、加えて後述する東イランも組み入れており、南アジアの覇者と言っても過言ではないでしょう」
「そのお隣である西アジア・中東地域について、壁の出現とウロボロスにより、イラク、シリア、レバノン、ヨルダンの4か国は内戦の影響から回復できていなかったことも合わさり、治安の急速悪化によって政府機構が瓦解寸前の状態に陥りました。
これに対し、当地域のウロボロスに対し軍事的に対処可能だったトルコ・サウジアラビア両国は財政及び治安回復の支援を約束した上で、上記4か国及びイスラエル、クウェート、アラブ首長国連邦と共に【
「例の地域は最後として……その他地域について。
まずオセアニア州ではオーストラリアが主導力を発揮してオセアニアの立ち位置を確立しようとしていますが、ニュージーランドとの足並みが揃わず、平行線を辿っている状況です」
「次に、東南アジア諸国連合、通称ASEANについて。
北にある南中国の存在と、世界情勢悪化の懸念により国家間の繋がりが更に強固なものとなる国家連合へと昇華させようと試みている段階です。
しかし、やはりと言うべきか各国間の足並みは完全には揃っておらず、インドとの繋がりを重視したい国、オーストラリアとの関係を維持したい国など、次の段階へと進むには時間がかかると思われます」
「中央アジアの5か国でもカザフスタンを盟主とした陣営結成の動きが見られています……無論、その要因は北の正体不明国家アルタイ、クラスノヤルスクと南の巨大陣営である南アジア経済機構の存在であり、巨大なイデオロギーの波に飲まれないよう画策していると思われます。
とはいえ境遇が同じ筈の彼らでも5か国それぞれで温度差が浮き彫りになっており、その動きは遅いです」
「そして……最後に、最大の焦点となるアフリカについて説明致します」
モニターに映る世界地図がアフリカ大陸とその周辺のみに拡大される。
アフリカ大陸を東西南北に跨り縦横無尽に分断する赤く表記された壁が強く印象付けられる。
この大陸にもウロボロスは出現しており、アメリカ程の強力な個体は出ていないが、一つの戦域に複数体の中型ウロボロスが確認された地域もある。
軍事大国であるアメリカ、ロシアと違ってこの大陸に存在する国家はそれより1歩、2歩も劣る軍事力を持つ国がほとんどであり、その結末は想像に難くない。
そして、その国々の一部は既に存在していなかった。
「国連総会にて警告された通り、史上最大の紛争という地獄……いえ紛争だけで済むのであればまだマシと言わざるを得ない程の地獄が出来上がっているのが現状です。
経済崩壊、国内の治安悪化……言葉にするのも躊躇するレベルで現地の混乱は逼迫しており、各政府は独力で事態を解決することが出来ず、政府が崩壊していきました」
「順序立てて説明していきます。
北アフリカではウロボロス戦役後、早々にしてリビア、続いてモルドバ、スーダンの政府機能停止が確認され、それに呼応する形でカルジャレン朝イスラーム帝国が成立し、その版図を拡大し続けています。
エジプトは抵抗を続けていますが、領土を削られ続けておりエジプト政府は政府機能を中東連合へと移しています。
対してアルジェリアは経済混乱と治安悪化、カルジャレン朝からの侵攻という悪条件により不運なことに首都陥落した時に政府機能が停止し、国家元首以下政権メンバーのほとんどが行方不明となっています。現在は他国にいた閣僚の一人が後述する西アフリカ諸国評議会にて亡命政府を打ち立てています」
「東アフリカではスーダンの余波を受けて、エリトリア、エチオピア、ソマリア、南スーダンの四か国が経済崩壊の混乱を収拾することが出来ず政府が崩壊しました。
しかし、旧国軍勢力が強引な手法で治安回復を行った事により歪であるものの秩序が維持された上にジブチ政府軍が旧国軍と手を結んだことで、安全とは言えませんが生活できる程度の治安秩序を回復し、現在は【
「西アフリカ及び南アフリカについて。
両地域の陣営である【
まず、西アフリカ諸国評議会については既に設立済みの
次に南部アフリカ共同体は、
当然、安全保障分野での統合もあると思いますが、カルジャレン朝の脅威を前面に受けているわけでもなく後方支援に徹しており、盟主国である南アフリカ共和国以外の軍隊が壊滅に等しい状態となっていることを鑑みれば、盟主国の軍隊以外をわざわざ強化して敵を生む可能性は作らないと思われます」
「最後に……中央アフリカ一帯。
マリ、ニジェール南部、チュニジア、ナイジェリア、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、ザンビア。
国務省が無政府地域としている条件は二つ。その地域の統治機関が存在するか、もしくは他地域の統治機関が支配しているか、です。
今回明示した地域の各政府は既に崩壊しており、国家元首及び政権メンバーのいずれも行方が分かっておりません。
そして……カルジャレン朝はともかく、COWAN及びSACは政府崩壊後の厄介事には巻き込まれないとして介入を拒んでおり、特にCOWANはアルジェリア亡命政府の訴えにも関わらず、前線地域以外への進出はしていません。
とはいえ……
グレンの報告は終わる。
想像を絶する事態に場は重々しい空気が沈殿する。
モーガンでさえ無言で眉をつまんで苦い顔を浮かべるのみだった。
その空気の中でアッシャーが先手を打つ。
「軍としてはアフリカ情勢をウロボロス戦役直後から注視しており、アフリカの政情不安が報じられた時よりアメリカ・アフリカ軍に欧州軍、中央軍より部隊を参画させていました。
無政府地域となった国々には国民の救出、治安回復用の部隊を送っています。
カルジャレン朝に対しては国務省を通しており、各国民間人の脱出は認められませんでしたが、我が国の国民及び政府要員については救出を行っております
更にCOWAN及びEAFTに対して装甲車両等の軍事支援を検討している段階です」
カルジャレン朝はアメリカ合衆国国務省の外交官に外部との交流一切が認められない極端なまでの閉鎖国家という印象を与えた。
軍関係者の間では、彼らが建国を宣言してから北アフリカの大部分を制圧するスピードが早すぎる、という話が出ておりCOWANとの本格衝突でも拮抗状態にすら持ち込んでいる事に驚きの声があり、プログレスを運用しているのでは?という声もあったが、それは衝撃の事実により否定されることになる。
「皆さんが懸念されている通り、カルジャレン朝の認識は侵略的な閉鎖国家と言ったところでしょうが、我々も情報収集は怠ってはいません」
アッシャーの後に話すのは、アメリカ合衆国内の情報機関を束ねる
しかし、その言葉とは裏腹に歯を嚙み締めたような表情を浮かべていた。
「カルジャレン朝イスラーム帝国、皇帝はハダート・カルジャレン。
かつて滅亡したオスマン帝国皇帝で途絶えたカリフを自称しておりますが、皆さんが知るようにイスラーム諸国から抗議と反発を受けています。
その支配体制に謎は多いものの、国民生活はその一切に制限がかけられ現代に生きる者の生活とは思えないほど厳格であり、反逆者はすぐに斬首されるなど人権は無いも同然です。……しかし、分かっているのはこれぐらいです。当然ながら諜報員は深くまで探ろうとしていましたが……いずれも当然が途絶えています。その末路は容易く予想できるでしょう……」
閣僚らは驚く顔に染まる。
リッジウェイの表情は明らかに悔しさを露わにしていた、犠牲が出ている諜報活動の成果が表面的に分かることだけ、というのは
「そして……カルジャレン朝の詳細とは異なりますが、大変重大な情報があります。
───奴らはプログレスを国土の隅々まで探し出し、───惨い方法で集団虐殺を繰り返しています。……年齢関係なく、例え泣き叫ぼうとも」
「───また、その処刑場にいた民衆は、自身の命をプログレスに救われた身もいたはずなのに、───少女が凶器に突き刺され苦しんだ時、息絶えた時───
少女の家族以外の誰もがなぜか───歓喜の声を上げていました。───虚ろな、狂気に染まった目を向けて───です」
机に拳を強く叩きつける音がする───。
「それは……本当か?」
「ええ……死ぬ前の諜報員が正気な声で伝えてきた最後の情報ですから……少なくとも、私は信用しています」
モーガンは怒りと困惑が入り混じった表情を浮かべていた。
それは当然だった、プログレスを皆殺しするという得体の知れない行動は正気ならば、想像つかない事であるのだ。
「……ロシアはどう出る?あの男は……チェチェンの時でも怒りを見せたのだ」
閣僚らの誰もがハッとした表情を浮かべる。
北カフカース紛争は誰もが記憶に新しく、ニコルシチャフが少女達を救うために何をしたのか、はっきりと憶えていた。
「ロシアの動きにも注視せよ。例え国力が落ち込んでも、あの男は変わらん」
どこか遠い宇宙の彼方
そこには真っ赤に宇宙を照らす寿命を迎えようとしている赤色超巨星と、まだ永い時を経て照らし続けるであろう太陽型恒星が存在し、太陽型恒星が引っ張られる形で互いの重力で惹かれ合い、連星となっている。
太陽型恒星には巨星からの灼熱は届かず、それが影響して7個もの惑星を作り出していた。
「ラズワーユ連星系」として星間地図にその名を刻む星系の第4惑星は───激しい戦火に見舞われていた。
荒廃した市街地……だった場所。
瓦礫だらけのそこは、元が何だったのか分かる者は長い戦争の中で多くが息絶えていた。
そもそも、それには意味が無い。
生きている者はただ生きるのに必死であり、そんなことに構っている余裕などなかった。
瓦礫の中を走る人々に、空から赤色の光線が幾度も降り注がれ、体を穿たれこの星の人々が通わせる血の色で地面を染める。
抵抗する者も、逃げ惑う者も等しく貫かれ、そこは死屍累々の惨劇と化す。
「くそっ!さっさと倒れやがれっ!」
兵士と思われる者が持つ銃から放たれるのは、白く輝くプラズマ弾の雨。
しかし、漆黒に包まれた形容し難い人型の存在は、それを易々と弾く。
返されたのは真っ赤な光弾であり、その兵士の体に大穴を開けて致命傷を与える。
「ゴホッ……なんとか───」
兵士の言葉を遮り、近くから光線が放たれて漆黒の存在に傷を与える。
兵士がその方向を見ると、少女が手を伸ばして光線を放っていた。
だが、その反撃は強烈であり、少女は片腕をもがれて体は吹き飛ばされて数十mは寝転がる。
尋常じゃない痛みに喘ぎ、大量の血を流して死の恐怖に怯える、年端もいかない幼い少女。
それはかつて、この星の希望だった。
正規軍と異なり易々と”敵”を打ち破る様に、人々はその勝利を祈っていた。
だが、その”敵”がより強大になり、少女達の力が及び足りないと知った時、希望は絶望に変わった。
(もう……役立たずの連中か……だが、一つ託してみるのもありか……)
兵士は少女の姿を見て一つの決心をする。
少女の元に急ぎ、それを抱えてある一つの場所へと走る。
当然”敵”は追ってくるが、目的の場所へと着くのは兵士の方が早かった。
「おじさん……私なんか、あいつらに食われてもいいから。……おじさんだけ、逃げてよ……」
「もう、この星に逃げるところなんてないだろう。馬鹿野郎っ……弱いんだから、俺の願いぐらい聞けっ」
兵士は少女を大人一人が十分入れるカプセルに入れる。
傷口は塞がれていなかったが、治療する時間は無い。
だが、カプセルには自動治癒機能があり、それで治ることを祈った。
「あとは───っ」
”敵”が上方の岸壁を砲撃で崩し、複数の巨大な岩が落ちてくる。
兵士は身を呈してカプセルを守るが、その代償として背中に鋭く長い岩石が突き刺さる。
腹まで貫通したそれは、確実に命を奪うであろう物と化し、兵士の意識も朦朧としてくる。
「……おじさんっ……!」
透明なカプセル内から少女が涙目で心配してくる中、兵士の準備は整った。
「───後はこれだけだっ……!墓参りぐらい、頼む……」
眼前にあるスイッチを強く押すと同時に、カプセルは地下深く潜っていく。
見えなくなるほど、爆風も届かない地下深くへと進んでいく。
それを見届けた後、兵士は背後に立つ漆黒の存在に至近距離から背中を撃たれる。
既に致命傷であり、短い命ながら長くもった方だった。
(もう……俺の役目は終わった……あとは)
兵士は死ぬまでの間際で”敵”の姿を凝視する。
それは人の形をしていたが、岩石模様のパーツだったり顔も一つ目のモノアイとなっており、生きた人の血が通ってるとは思えない存在だった。
”敵”は兵士が自分の姿を”偵察”していると認識すると、手に持つ銃を受けてエネルギーを充填する。
「
兵士の命が燃え尽きる其の間際、兵士は声を枯らさんばかりに大きく叫ぶ。
直後高出力の光線が放たれ、兵士の姿は粉微塵に砕け散る。
「……生命反応、消失。……当該文明の殲滅を完了。報告を終わる……」
機械のような言葉が発せられた後、モノアイのある顔部分が上げられ、人間のような顔が露出する。
「……間もなくか。惑星に防御スクリーンを」
彼の指示で惑星に防御用の薄い膜が張られた後、宇宙の遥か彼方から赤い光線が飛来する。
それは赤色超巨星へと直撃し、尋常じゃないエネルギーが送り込まれる。
その許容が限界を迎えた時、赤色超巨星は真っ赤に光り輝いた巨大な爆発を起こし、太陽型恒星やその恒星系を洗い流す。
その莫大なエネルギー放射が終わると、太陽型恒星は連鎖的に超新星爆発に引き起こされ、恒星ガスのほとんどを吹き飛ばされた赤色矮星となり、暗い輝きしか残さない。
惑星達の傷は酷く、宇宙からもはっきり見えるほど表面が焼け焦げ、公転軌道はぐちゃぐちゃになり、文字通り死んだ恒星系と化す。