Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
あと前話最後を分割して最初に挟みました……
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ロシア連邦首都モスクワ ロシア連邦共産党本部庁舎
ソ連崩壊後の混乱期より矮小政党の成り上がりを阻止し続け、ロシア連邦議会にて最大野党の座を保持し続け、それは連邦が分裂する事態になっても変わり無かった。
1912年に成立し再結成を間に挟みつつもその存在を維持した歴史ある政党、ロシア連邦共産党はこの時予想外の事態によって共産党指導部には動揺がもたらされていた。
「これは……我々の存在すら危ぶまれる事態だぞ!!」
「情報が入るのがもっと早ければと思いたいが、我々はたかが政党。かつてのKGBから継承した諜報機関を有する政府に比べれば、三手後を行くレベルだ」
彼らの懸念事項はロシア連邦の東にある隣国アルタイを挟んださらに東に存在する国、俗称はクラスノヤルスク。
正式名称「クラスノヤルスク中央社会主義共和国」であった。
ロシア連邦政府に敵対的な社会主義国家の誕生。
党綱領に「社会主義体制の復活」を掲げている為、連邦政府からの疑いの目は避けようが無く、対外情報庁及び連邦保安庁によるロシア連邦の権力が及ぶ地域にある共産党本部・全支部庁舎及び共産党関連施設への大規模合同監査が予定されていた。
「連邦政府の動きはどうも出来ないだろう。大人しく合同監査は受け入れよう、そこで我々の潔白を証明しようでは無いか」
党首たる中央執行委員長の男がそう宣言する。
「だが、身の潔白程度ではマイナスからゼロになるだけでは無いか?」
「そこで、だ。連邦政府に手土産となる情報はあるか?」
中央執行委員長の提案に会議出席者にどよめきが生まれる。
そんな中、1人の出席者から手が上がる。
「クラスノヤルスクの書記長に見覚えがあるかと……恐らく上層部にとっても記憶の片隅には残ってると思われます」
クラスノヤルスクの一方的な建国宣言時に初代書記長として名乗りを上げた人物。
スヴァトスラフ・ニコラエヴィチ・ブルスニツィン。
「かつて連邦共産党の有力幹部として、そして今は亡きある派閥の旗頭として色々と我が党を乱しまくった人物だったかと思います」
「……っ!……あの男かっ」
出席者の発言から記憶を辿り、一部の幹部はその男のことを思い出す。
「4年前か……」
思い出した者の中には中央執行委員長もいて、懐かしむかのように独りごちる。
「一体……その男は何なんでしょうか?」
4年前以後に入党した若手幹部の数名はその疑問を他の幹部らに問う。
「……今のニコルシチャフ大統領が大統領になる以前から活動していた党員だ。その頃は連邦経済も不安定で、故に強きロシア、かつてのスターリン体制を夢見るものもいてそうした者の支持を受けて急速に人気を伸ばしていったのだ」
「支持を伸ばしてモスクワ中央にいる幹部勢の1人となった頃に、同じくスターリン体制の復活を目指す者の同志とともに復古スターリニズムという派閥を形成して派閥の筆頭格になることでより精力的に活動するようになった」
「されど、勢いはあっても冷酷すぎる面があり、何より協調性が無く、奴の意思はせいぜい頭の弱い党員ぐらいしか届かなかったから、派閥はそれほど大きくなら無かった。故に党の上級幹部にもなれなかった」
「その焦りからか次第に過激な発言が目立つようになり機関紙にスクープされることも増えたが……既に奴の時代では無かった。議会選挙も今の与党勝利に終わり、ニコルシチャフ大統領へと政権が移譲された後、強きロシアへの復活を公約に掲げていた上、前大統領の経済政策も功を奏し経済は回復し大国として歩むには充分な状態となり、我々連邦共産党は与党と対決姿勢を見せる必要も無くなり、奴を矢面に立たせる必要も無くむしろ与党との融和への妨げになると懸念する者もいた」
「そうやって多くの上級幹部から”輪を乱す愚か者”として忌み嫌われたため、我々上層部としてはあくまで異動という形をとって、モスクワ中央からクラスノヤルスクの共産党地方支部への左遷を行ったのだ。少し前から議員職も落選が続いていたから制度上問題は無かった」
中央執行委員長の説明にスヴァトスラフという”狂人”を若手幹部はある程度理解する。
復古スターリニズムを掲げ、強硬発言を繰り返していた連邦共産党の異端的存在である彼は、与党と協調していた連邦共産党上層部にとって邪魔者でしか無かった。
「ですが、何故彼が建国まで出来たのですか?」
「……個人的な付き合いのある者を言葉巧みに使い惑わす事には長けてるからな。そして、非人道的手段を使う事に躊躇も無い人間だったと記憶している。
それで同志を増やしていき、いつの間にかクラスノヤルスク政庁を制圧していたと考えるべきだろう……他の州や自治共和国については分からん」
壁によって分断された地域は連邦政府の統制が効きにくい事はあるものの、クラスノヤルスク中央社会主義共和国の領土は左遷された復古スターリニズム派だけでは掌握するには困難な広さであることが伺える。
「とにかく、連邦政府に与える情報としては十分だろう。あとはこの情報をどれくらい有効活用してくれるかだ。加えて、本部及び全支部の党員には復古スターリニズム派との接触を禁じる、”プラウダ”の職員にも同様の告示を出せ。解散」
会議が終わり出席者は速やかに退席していく。己の職務には勤勉であれの精神の元、急いで職務に戻っていく。
_UTC3月31日午前3時2分・MSK3月31日午前6時2分_
ロシア連邦首都モスクワ モスクワ軍大学中央病院
「ん……んぅ……ここは、病室かな……?」
蒼髪の少女が目を覚ます。
患者用の病院服の下に包帯が巻かれているが、治癒魔法のお陰もあって完治していた。
顔にも患部を覆うパッドが幾つも貼られ、少女の特徴的な2つのサイドテールは解かれて頭部にも包帯が巻かれていた。
少女の名前はルルーナ・ゼンディア。
盾のリンケージである『シュッツ・リッタ』を用いてロシア軍を敗北の危機から救ったという偉業を成し遂げた少女。
彼女が仰向けの状態から周りを見渡すと、自分にとって最も身近で、相棒でもある特徴的な赤髪が視界に映る。
リーリヤ・ザクシード、たった一人で多数の小型ウロボロス『ムラヴェイ型』に立ち向かい、戦車並みの装甲を持つ相手を自身の槍『ヴィヒター・リッタ』で縦横無尽に突き倒してきた少女。
「すー、んぅ……すー」
ルルーナはゆっくりと上半身を起こし左手を伸ばして、ベッドの隅で自分の腕を枕にして寝るリーリヤの髪を撫でるが、熟睡しているのか起きる様子は無い。
なお光線で幾度も貫かれて血だらけで激痛が走った左手は、包帯こそ巻いているが痛みはなかった。
「今がいつか分からないけど、待っててくれたんだ」
勝利した後、ルルーナは膨大な出血と激痛で意識が朦朧とし、意識を失う前に感じたのは自分を支えてくれた相棒の暖かい腕だった。
「私が盾として守るはずだったのに、もう2回も守られちゃったな」
ルルーナの脳内に浮かぶのはかつての懐かしい記憶。
統合軍入隊したばかり、まだ青色の専用服すら与えられる前の統合軍一般制服を着ていた頃。
「私があなたの槍になります!ルルーナは盾として、私と自分の身を守って下さい」
「私が……盾?」
「はい!私が最強の槍となります!だから、ルルーナも最強の盾を目指すんです。最強の槍と盾なら、怖いものなんてありませんっ」
「でも……私が最強の盾なんて、なれる訳……」
「私も手伝います!だから、一緒に強くなりましょう!」
ルルーナが訓練でも大した成果を出せず叱られて泣いてばかりだった頃。
そんなルルーナにリーリヤは手を差し伸べてくれて、訓練を手伝ってくれたり、ルルーナをいじめる上級生、教官から守ってくれた。
「……ゼンディアさん?」
過去を回想していたルルーナは突然女性に声をかけられる。
「え……は、はい」
「!!───ゼンディアさんが目を覚ましました!!先生、早く来てください!!」
看護師らしき女性にルルーナが返事を返すと、女性は血相を変えて飛び出していく。
直ぐに女性の医師が来て、血圧と心拍数の測定を行い、更に頭部や顔、腕、身体に巻いていた包帯を次々に外して傷の確認を行った。
女性とはいえ身体の包帯を自分以外の他人に外されるのは恥ずかしいのか、ルルーナの頬が紅くなっていた。
「血圧、心拍数に問題無し。傷の方も元通り……だね。とはいえ私達は元の体の状態を詳しく知らないから確認してくれる?」
ずっと体を動かして無かった為か、ルルーナはぎこち無く腕を動かして体の各所に触れ、傷が残っているか確認する。
「はい……元通り、です」
「そう、良かった。治癒魔法で完全に治っているとはいえ、ほんとに元通りか心配だったからね。あとは健康状態の確認も行って、早くて明後日には退院出来るわ」
医師が報告書に手書きしていると、ルルーナが質問を投げかける。
「あの、今って何日ですか……?」
「あー……31日。つまり、ここに運び込まれた時から1週間は経ってるわ」
「1週間も……寝てたんだ、私」
ルルーナが驚く中、医師は報告書を書き終えて検査を終えた看護師と共に速やかに退出する。
入れ替わりで入ってきたのは、ランとモニカのグリューネ姉妹だった。
「看護師さんが血相変えて走ってると思ったら……ルルーナ、具合はどう?」
「体は大丈夫、明後日には退院できるって」
モニカとランはその答えを聞いて安心した表情を浮かべ、モニカは目尻に涙を浮かべさえする。
「良かった……っ。聞いたと思うけど、1週間前からずっと目を覚まさなかったの……気を失ってから治癒魔法で傷を治しても意識が戻らないから、何度検査しても異常がなくて、お医者さん達も何か原因があるんじゃないかと心配してたみたい」
「でも、少し考えてみたら、ルルーナには人一倍頑張らせてしまったと思う。リンケージスキルさえマナの残量が無くなるぐらい使い過ぎたみたいだし……」
ランから直接褒められる事が無かったルルーナはこれ以上無いぐらいに照れ、謙遜する。
「そ、そんな事は……元々は私が望んだ事だから」
「そうやってあなたが盾として頑張ったから、多くの子が救われた。ありがとうね」
「───!?」
感謝の言葉なんて、しかもグリューネシルト王族から言われた事が無かったルルーナは心底驚いた。
「……あの、それで聞きたいことがあって。私が眠ってる間に何か起きていませんでしたか?」
モニカとランは互いに顔を見合せて、少し悩んだ末にモニカが口を開く。
「まずはハッピーニュース、私とランお姉様なんだけど、明日一緒に退院が決まってる。あと、リーリヤについては体が丈夫で治りも早くて昨日退院済み」
「次にハッピーニュースの2つ目。統合軍司令部からの連絡で、治療を完了した部隊についてはグリューネシルト本国への帰還指示が出されたよ。でも帰還した後は1ヶ月ぐらいの休暇が貰えるみたいで、つまり自由に地球へ行ってもいいってこと。あと、残留希望者についてはいつでも申請を受理次第許可していくってのも言われたね」
モニカは話を一旦止めて一息つくと、次の話について不快感を露わにする。
「これでハッピーニュースは以上、かな。それで……バッドニュースなんだけど……かなり多いんだよね」
ため息を吐きつつ話を続ける。
「どこから話せばいいか分からないけど……まず壁が残っている現状からか、ロシアが4カ国に分裂してこの国は壁の西側しか支配できていなくて、他の3カ国には渡航禁止措置を出してる。他にも経済悪化で色んな国が分裂したり、統廃合を繰り返しててかなり地図が塗り変わると思う」
「今のが1つ目、と言ってもかなりまとめすぎたかも。それで、2つ目なんだけど……」
モニカは言い淀み、あまり言いたくない事なのか歯噛みする。
表情には僅かしか現れていなかったが内心怒りで1杯だった。
姉のランが心配そうに声を掛け、──私が言おうか、と気遣うが口を震わしながらキッパリと跳ね除ける。
「……私が、言うね。北アフリカにカルジャレン朝という国が現れてて勢力を拡大しているんだけど、アメリカからのリーク情報で、私達も昨日知ったんだけど……何の罪も無い、プログレスがっ……罪人みたいに……みんな殺されてるの……っ」
モニカは言うのが辛くなって泣き崩れてしまう。
ランも悲しそうな表情でモニカの頭を撫でる、ランだけが気づいていたがモニカの目が赤く腫れていたのは昨晩泣いてばかりだったからだ。
「それって……チェチェン以上じゃん……」
やっと口を開いたルルーナも心苦しそうに言う。
盾として多くの人を守りたいと思っているルルーナにとって、外国のプログレスの仲間を守れていない事に悔しさを露わにした。
「チェチェンと違って、この国には未知なる大きな動きが関わっているのは明らかね。統合軍は彼らを警戒対象としたけど、プログレスの抹殺すら考えてる国に送り込むなんて死にに行くようなものだから調査も進展してない。かといって諜報部の軍人を送り込んでもアメリカ以上に得られる物なんて無くて、最悪無駄死になるだけ……」
寝ているリーリヤ以外が怒りと悲しみ、不快感を露わにした表情を浮かべている中、大きな足音と共に部屋へと駆け込んでくる少女がいた。
「妹がどこにいるか知りませんかっ」
緑髪のストレートに伸びたロングヘア―の大人びた少女、フェリシア・ファロ統合軍大尉だった。
いつもの落ち着いた表情とは違って、憔悴した表情を浮かべており急いで走ってきたのか、肌には汗すら張り付いていた。
「フェリシアっ!?ティナのこと?ここには来てないよ」
「っ……そうですか、今朝あのニュースを受けた時から姿を見てなくて……どこにいったのか……」
フェリシアは明らかに落胆した表情を浮かべる。
もしかしたらと思って病院に望みをかけたが、宛が外れてしまったようだった。
「ティナなら……多分ニコルシチャフ大統領のところに行ってるんじゃないかなぁ」
唐突に、ルルーナが呟くように答えを出す。
「大統領の所に?」
「うん。ティナとは話もした事あって、大統領とはあの時から話し合う仲だって言ってたから、今回もそうなんじゃないかなぁって」
ルルーナの言葉に、フェリシアはハッとしたような表情を浮かべる。
「───かもしれません、大統領はあの子の頼れる良き相談役でもありますから。大統領府に問い合わせてみます」
フェリシアはそう言い残すと早々と病室から出ていく。
「───っと、それじゃあそろそろ私達も戻らないと。まだ退院したわけじゃないから、自由時間にも限りがあるし」
「そうね。ルルーナ、ちょっと話に付き合ってくれてありがとう。しっかりと体を休ませてね」
「───あっ、そうだ。リーリヤってば、昨日退院してからずっとルルーナが目覚めるの待って夜遅くまで起きてたからね。起きたら労うぐらいやってね」
2人が病室を出ようとして、モニカだけは途中思い出したのか、伝えたかった事を言った後、姉を追って病室から出ていく。
2人に手を振った後、ルルーナは視線をリーリヤの赤髪に向ける。
「ありがとうね。リーリヤ」
頼れる相棒には感謝の言葉を忘れない。
目が覚めた時にはまた"ありがとう"を告げよう、と誓う。