Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
更新をお待ちいただいた読者の皆様、大変遅れて申し訳ありません。
この話をしっかりと収束させるのに色々調べものをする必要がありまして、結構難産でした……。
前日譚、まだカロリー高めな話が多いのに……結構使い切ってしまった感が……。
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カザフスタン共和国首都アスタナ 大統領府庁舎執務室
「彼らからのコンタクトはあったか?」
「いえ、全く……」
窓を向いたまま外務大臣からの報告を受けた共和国大統領は、そのまま背を向けた状態で舌打ちをつく。
アルタイからの侵攻予兆が観測されて1週間が経過し……侵攻開始が予測された日となった。
彼にはアルタイ政府の沈黙が”カザフスタンの保有する全資産を略奪する”という意思に感じられた。
「まもなく、1週間……」
その日数は最も長くカザフスタンに与えられた猶予だったが、アルタイが非戦闘員の安全を保証しない可能性が高いことを考えれば───
「あまりにも足りない……」
アルタイと接する国境の総距離約2900km、避難が必要な地域には統計が取れているだけでも約100万人以上の国民が暮らしている。
それを1週間以内に避難させるなど、高度な社会インフラも高い輸送能力も無いカザフスタン軍では到底不可能だった。
同市 カザフスタン国防省
「これは共和国軍参謀長委員会が策定した防衛計画になります」
深刻な表情を浮かべた国防大臣が来室した大統領に対してそう言い放つ。
「まず結論から申し上げると、1週間で避難できたのは10%にも満たないです。それ故、ある程度退いた場所で防衛戦を行う、という筋書きは不可能です」
モニターにはカザフスタン領内の各都市人口統計及び、図式による部隊の配置状況が明示される。
「ほぼ一歩も後退できないのか……ああ、ペドロバブル市の存在か」
「ええ、難民や亡命者の受け入れ先でもあった人口約21万人のペトロバブル市が皮肉にも、我々の行動を阻害する要因となってしまいました。
軍では国境付近の人口100人を数える村落の疎開を早々に完了させ、3日目にてペトロバブル市民の避難へと全力を投入しています。
しかし、避難できたのはわずか数万人に留まっており、ペトロバブル以南での防衛を断念し、国境から数km後退したラインで防衛線を構築しました」
防ぎ切れるか分からないが、敵が国民を前にして何をするか分からない状態では守る意志を見せなければならないと、誰もが苦しい表情を浮かべる。
だが、ペトロバブルの完全避難に成功しても、すぐ南には人口約12万人のコクシェタウがあり、避難を早々に諦めて防衛戦力の充実化に務めるしか選択肢はほぼ無かった。
「……続いて防衛線の詳細───「まずはこちらを」───の前に、敵国である【アルタイ正統帝国政府】について」
「これは我が国の国家保安委員会
ロシア連邦から一部強奪する形で軍備を保有するアルタイ政府の侵攻、そしてたった1週間という期限。
国家存亡の事態に国防省含めた共和国軍上層部は、省庁間の軛すら引きちぎり───。
元々協力関係にいたロシアはともかく、アメリカ、イギリス、フランス、イスラエル、トルコと言った国々にはウロボロス戦役後の国際秩序の維持と、国際資源開発を人質にして強かな交渉を行って───、合同の諜報作戦を実施した。
「まず、アルタイの軍編成について────。
アルタイ全土に及んだ広域偵察を行った結果───侵攻部隊に長距離ロケット及びミサイル車両など弾道ミサイル部隊は確認されておらず、その所在すら不明です」
「まさか……間接支援戦力がいない……?」
「───そのまさかです、侵攻部隊には間接戦力がおらず、戦車中心の中・近距離打撃部隊で編成されています。
さらに、こちらも意図は不明ながら、国境から約60km離れた地点にて展開を確認しています」
「次に核兵器について────。
先に言った通り、侵攻部隊には弾道ミサイル車両は確認されておりません。
ですが、旧ロシア中央軍管区の持つそれらは短射程のものばかりだけでなく、奥地から発射可能な長距離戦略弾道ミサイルも含まれます。
───しかし、情報収集で分かった結果から、使用される可能性は低いと考えます」
「その理由として、ラスプーチン二世に近い官僚への尋問を行った結果、かの人物は核兵器というものを神聖なものと考えているようで、他国に落とす事はその神性を汚すものと主張しています。
それを証明するように、核弾頭が国境より約670km離れた───指導者ラスプーチン2世の所在地である───アルタイ領ハンティ・マンシ自治管区スルグトへと運び出されているのが確認されています。
───念のため確認しましたが、その場所に弾道ミサイル部隊及び爆撃機は配置されていませんでした」
敵への同情も含んだ困惑が室内を包み込む。
「これに対して、カザフスタン軍は間接支援戦力を全力で活用する腹積もりでいます」
再びモニターの表示が変わり、そこにはカザフスタンの全軍に相当すると思われる動員戦力が表示されていた。
「アルタイが三方面に各旅団を振り分けてはいますが、首都に近い中央へ集中してくるのは明白なため、近接戦力については最も火力の高い重部隊を中央へと固めています。
敵が国境を越えて進軍してきた直後、第7独立親衛戦車旅団と第28自動車化狙撃旅団には『ティムレ』弾道ミサイル群を差し向けます。
他方、第21親衛自動車化狙撃旅団には、先の戦役もあって消極的ながらも協力を確約してきたロシア連邦軍より、カスピ小艦隊からの長距離援護が行われる予定です。
更に、第7独立親衛戦車旅団が最も打撃力の高い重戦力であるのが予想されることから、イスカンデル、もしくはSLBMによる攻撃も計画されています」
「この攻撃の結果、アルタイの弱体化した地上戦力の攻勢を受け止めた各師団は、経過はともかくこれを撃滅することになります。
そして、これはその次の段階です」
防衛だけが戦争の終わりではない、と主張するばかりにモニターの表示は移り変わる。
「受けた損害にもよりますが、大規模な反攻作戦を実施するのは確定事項です。
とはいえ、我々が行うのは作戦司令部の制圧、作戦施設の破壊を行い、侵攻の芽を完全に摘むことに他なりません」
「そして、同時にアルタイとの国境沿いに展開していたロシア軍もかの国内へと侵攻作戦を実施します。
反逆者に奪われた領土の奪還と、無法者クラスノヤルスクへの防壁を試みる目的から、電撃的に制圧できるのはこのタイミングでしょう。
展開能力に乏しい我々は彼らを支援するに留まります」
皆が反抗作戦の説明を聞く中でただ一人……カザフスタン大統領だけは、その険しい表情を変えようとはしなかった。
「……懸念事項は?」
「っ……敵航空戦力について、規模と編成が一切不明であり、場合によっては最悪の可能性もあります」
楽観的な予想で進められていた為か懸念を予想する者もいたが、やはり分かっていても暗雲に対しては憂鬱な感情が広まる他なかった。
「……その為のプログレスか?」
大統領が口ずんだその言葉にどよめきが走る。
「ええ。飛行兵装を装着した航空プログレス部隊が出撃待機中です」
「とはいえ、空戦の主力は我々誇り高きカザフスタン防空軍であることをお忘れなく。
敵戦力が不透明なのも承知の上、全力で戦わせていただきます」
国防大臣の言葉に続き、防空軍司令官が口を挟む。
その言葉には、プログレスの本質が10代の少女であり、空戦という一つのミスが死へと繋がる戦場へと引き出したくない意図があった。
「そうか、頼んだぞ」
大統領はその意図を感じ取り、声を掛ける。
そうして、会議が終わりに近づいていた頃、警報がけたたましく鳴り響く。
「国境庁
ドローンによる監視中、アルタイの戦車部隊が突如として前進を開始。まもなく国境を超えるとのこと!
また、空中襲撃機動群ボランは国境侵犯後、直ちに破壊工作を開始するとのことです!」
慌ただしく入ってきた職員が、予期していた事実を告げた。
「来たか……全部隊に防衛作戦の布告を宣言。作戦行動を開始せよ」
国防大臣は額に汗を浮かべるも慌てることなく静かに告げた。
「彼らに外交は通じない。大統領、ここからは我々の仕事です」
_ALMT4月7日午前6時57分_
カザフスタン共和国北東部
アバイ州セメイ 第607空軍基地
ソ連統治時代の遺産としてセミパラチンスク核実験場が残るセメイ市には、北東部空域防衛の要衝たる第607空軍基地が存在する。
その滑走路からはSu-30SM、旧東側陣営に幅広く浸透した第4世代戦闘機が離陸しようとしていた。
『第607師団第1飛行隊、離陸せよ。
我ら栄光あるカザフ人の生存を、幸運を祈る。
二度とこの地をロシア人の手で汚させてはならない』
彼らは勝利を求めない、優先されるべきは自身の生存だと強く訴える。
かつてソ連による核実験にて汚された地だからこそ、アルタイという非合法国家の侵略には強い抵抗意志を示していた。
肯定するように翼を掲げて飛び立った機体は、他の航空部隊同様に戦場となる国境空域へと向かう。
_午前7時頃_
ペドロバブル以北 国境空域
いくら陸の王者が前進開始するのが早くとも、当然航空部隊が侵入するのが最も早かった。
「前方に機影補足!反応からして、第84戦闘機航空連隊先行部隊と思われます!」
旧ロシア第14航空軍にて最も数を揃えたSu-27戦闘機で構成される部隊。
対するは同機種で編成される第604航空師団第2飛行隊であり、ほとんど性能差が無く、技量での勝負となると思われた。
翼下ハードポイントより長距離対空ミサイルが次々に切り離され、真っ直ぐにアルタイの航空部隊へと向かっていく。
レーダーによって補足した目標目掛けて突っ込んだそれらは、文字通り複数の機体を切り裂いた。
しかし、その直後。
パイロットの1人が違和感…否、異常に気づく。
「反撃して……いや、回避すらしていない!?」
その言葉を証明するように、被弾した彼らの機体が煙を激しく吹きつつも速度を落とさずに直進していた。
全機回避、と指示が飛ぶも遅く、編隊同士が真正面から衝突することになった。
正面から衝突して爆発四散し、前方の機体が衝突したのに巻き込まれて翼が破損し、衝突を回避しようとした味方機に近づきすぎて翼同士が接触し合う等、損失機が増え続け、第604師団第2飛行隊は半壊という被害を受け、撤退を余儀なくされた。
「敵が突っ込んできて……これが戦術であってたまるか!?」
これは常識内の戦術では無いが───
アルタイ空軍はこの攻勢を全戦域にて仕掛けており、自滅してでも作戦機を減らそうとする狂気の戦法に、カザフスタン防空軍は醜態を晒していた。
それ故にカザフスタン防空軍が助勢と考えていたプログレス部隊に白羽の矢が立った。
_同時刻_
アスタナ市 ヌルスルタン空軍基地
「了解っ……”スキリート”全機出撃しますっ」
出撃命令を受け取ったプログレスの少女は、初実戦に声を震わせながらも答える。
カザフスタン防空軍の軍服に身を包んだ少女達は、既存の兵器とは異なる異質の機械を装備する。
アメリカ新興軍需企業、Sonic/Robotomy社の開発したプログレス専用飛行兵装SR-01。
脚部には飛行及びバランス制御を担う反重力デバイスを装備し、腕部には重火器も運用可能な補助デバイスを装着する。
また、動力源をプログレスのマナに委ねており、装着者保護機能として20㎜機関砲弾を完全防御できるシールドを展開でき、マナを増幅させる補助機能も相まって、尽きない限りは無制限に運用可能だった。
当初S/R社は母国であるアメリカ空軍に売り込みをかけていたが、『ダークヒンデリア』との戦いを経験したアメリカ空軍は、爆撃機並の速度と耐弾性のある新装備を、「
社運を賭けた製品で各地に売り込みをかけていたところ、軍拡を急いでいたカザフスタンの目に留まったのだ。
反重力デバイスが起動し、ブースターを吹かして高高度まで一気に飛び立つ。
カザフスタンにて陽の目を見た新兵装、SR-01”フロートギア”、またの名を”スキリート1”は、母国を守るために戦いへと赴く。
_午前7時20分_
カザフスタン共和国北カザフスタン州
第84親衛戦闘機航空連隊に遅れること20分余り、第7独立親衛戦車旅団を先鋒とするアルタイ陸軍がカザフスタン領内への侵入を果たす。
これは国境付近に潜伏していた国境庁ソルトゥスチクより作戦司令部に直ちに通報される。
「敵部隊、国境を越えます!」
「ロケット・砲兵軍に順次発射するよう伝えろ!ロシア軍にも連絡急げ!」
直後、第7独立親衛戦車旅団と第28自動車化狙撃旅団には
他方、ロシア南部軍管区からは戦域弾道ミサイル『イスカンデル』が第7独立親衛戦車旅団へと鉄槌を振り下ろし、ロシア単独の攻撃目標である最も西側の侵攻部隊である第21親衛自動車化狙撃旅団にはカスピ小艦隊から試製対地巡航誘導弾『ベネスト』、北方艦隊の955型戦略任務ミサイル潜水巡洋艦より『ブラヴァー』潜水艦発射弾道ミサイルが放たれ、鉄塵の豪雨を降らせる。
「ミサイル着弾を確認!ですが……着弾率が当初の予想を下回っています!」
「何っ……まさか、未確認の航空部隊がいる……?」
航空優勢すら確保できていない現状、アルタイ陸軍の地上戦力に対して地上戦力のみで相手にしなければならず、航空部隊の惨状や弾道弾の一部を撃墜した未確認部隊の存在も考えると、その不安は大きくも……そして決して退くわけにはいかなかった。
「第7諸兵科作戦旅団隷下第121戦車大隊、第7独立親衛戦車旅団先鋒とまもなく接敵、戦端開きます!」
懸命に防御陣地を構築したカザフスタン軍とアルタイ陸軍はペトロバブル近郊にて戦端を開いた。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さて、今回作戦会議回にて複数枚GIF含めた挿絵を使わせていただきましたが、
これについて、ALPHONSE様のTacticalMapToolという物を使わせていただきました!
元々マブラヴの作戦図を再現可能なツールで、使いこなせばGIFも作れてしまう結構便利なツールなので、いいですよ!(褒め)
『TacticalMapTool』
https://alphonse-av98.github.io/TacticalMapTool2/
使わせていただきましたツールはこちらからどうぞ。