Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
更新が止まっていた10月頃に星8評価頂き、ありがとうございます。
毎回楽しみに読んでいる、非常に参考なるなど、コメント頂けて嬉しいです。
応援コメントもありがとうございます!
今回はだいぶ高カロリーかと思います……
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1/24 第8話タイトル変更及び後半部分削除しました。
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北カザフスタン州ペドロバブル上空
カザフスタン防空軍航空プログレス部隊”スキリート”は、戦場であるペトロバブル上空へと到着。
そこでは、飛行隊再編の為に戦線を下げたカザフスタン防空軍とそれに追い縋るアルタイ空軍との間で激戦となっていた。
『こちら第610航空師団第1飛行隊。空対空ミサイルをフル装備した音速機の相手はそちらでは荷が重いだろう、フランカーとフォックスハウンドの相手はこちらでする。その後方から接近する攻撃機部隊の相手を頼む』
「っ……了解しました!」
同時に到着した防空軍部隊から通信が送られる。
一瞬不満に感じることはあったが、そもそも自機のシールドが対空ミサイルに対して何発も耐えれるものではない為、ホッと安心した部分が多かった。
戦闘機よりも遥かに小さい小柄を生かしてアルタイ戦闘機部隊の目を逃れて、攻撃機部隊へと向かう。
「さて……こちらも同機種勝負か……同じ手は通用しないぞ」
プログレス達が向かうのを見届けたMiG-31迎撃戦闘機で編成される彼ら第610師団第1飛行隊は、カザフスタン防空軍の要という誇りを胸に、超音速へと加速させる。
始まったのは、対空ミサイルの応酬だった。
一方でスキリート隊はアルタイ戦闘機部隊をすり抜けた後、装着したスマートグラスで前方から発せられる赤外線を探知し、攻撃機部隊を遥か射程圏外で補足した。
「Su-24”チェマダーン”がいっぱい……いや、Su-25”グラーチェ”もいるっ……攻撃機の大編隊だね」
「カーシャ、あんたのなら届かない?」
カーシャと呼ばれた深緑ポニーテールの少女───カーシャ・レナートヴナ・イルクーフ少尉───は「ん、届く」と小さく頷くと、スマートグラスに映る照準ディスプレイで最も先頭にいる機体に狙いを定めたまま、補助デバイスを活用して大型の対物ライフルを構える。
「エクシード『災いの夢景』発動」
それを口ずさむと同時に左目が赤くなる。
想像した夢景を現実のものとするエクシードであり、想像した分だけ魔法を放てるため理論的には無制限に魔法を発動させることができた。
「
Su-24が搭載する護身用の短射程空対空ミサイルの射程約30kmを遥かに上回る50kmの距離。
その距離からトリガーを引き、対物ライフルの銃口から通常の弾丸を発射して間もなく、戦闘機全幅の数倍以上に巨大化した事実上の
無制限の魔法発動は理想的なエクシードだったが、誰かを対象に危害を与える夢景でしか発動しない、という致命的な制約が存在した。
破壊に特化したエクシードは、日常生活を送るうえで最も不要なのは明白だった。
「次……
カートリッジから装填し直した弾丸を矢継ぎ早に撃ちだし、飛翔途中で赤く燃えだした弾頭は敵編隊の中心でクラスター花火のように拡散して、十数機を燃やし尽くす。
「こんなのキリがないよっ、カーシャにばっかり負担かけてられない!」
そう言い放つ白髪ショートの少女───アポリナ・ルキーニチナ・コスチェーロ少尉───は、エクシード『太陽の恩恵』を用いて屈折レンズで太陽の光を自分の手の平に集める。
「放て───」
集約された光に指向性を持たせ、放たれたそれは文字通り敵編隊を薙ぎ払う。
役目を任された少女達は、エクシードを生かして20分もしない内に大半の敵機を撃破する。
しかし───
_午前8時10分_
「距離50kmに反応複数っ……また増援!?」
「どれだけいるの……カーシャ、大丈夫?」
アポリナはカーシャを気に掛ける。
その理由はカーシャのエクシードが魔法を発動させる為に常時発動していなければならず、少なからずマナと体力を消費し続ける為だった。
「……ん、大丈夫っ」
相当な疲れが溜まっているはずだが、カーシャは心配させまいと普段通り答える。
戦いにしか使えないエクシードを持つ彼女にとって、こんな所で降りたら自分がプログレスである意味が無いと思い込んでいた。
だが、アポリナはカーシャの疲れに感づいており、敵機との彼我の距離もだいぶ近づいてることから、支援役のプログレスも所持している銃火器からマナによる強化銃弾の連射を浴びせていく。
しかし、銃弾が届くということは、相手も同じ手法が使える事を意味しており───
第610師団第1飛行隊が前衛の戦闘機群を撃破して到着していたが、短射程の空対空ミサイルや機関砲弾が飛び交う戦場となり、苦境であるのは否めない。
カーシャが近づく敵機に対して、狙いを定めた時───
───意識すらしていなかった方向から、凶弾が迫った。
「…えっ!?」
凶弾───放たれた対空ミサイルは”スキリート”の保護シールドに着弾して防がれるが、そのシールドは一瞬で砕け散り、マナをエクシードに集中していたカーシャは無防備な状態となってしまう。
反応する暇も無く前方からSu-25”グラーチェ”が30㎜機関砲を乱射しながら迫り───
魔法を発射して翼を叩き折るが、避けられず容赦無く身体に弾痕が刻まれ───
挙句敵機と衝突してバランスを崩し、被弾したショックで気を失った彼女は地上へと真っ逆さまに墜落する。
「カーシャっっ!?」
『……2時方向に微弱な反応っ……もしやドローン……?』
『!?……馬鹿野郎!こんな高空に小さいドローンがいるわけないだろうっ!これは……ステルス機だ!!』
旧ロシア中央軍管区所属のSu-57ステルス戦闘機を擁する航空部隊の存在。
それは実在していたが、ウロボロス戦役後の混乱でロシア軍
戦場を塗り替えうる
「全機、敵ステルス機を優先的に撃ち落とせ!!近づけば…決して無敵では無い!」
しかし目視で見えない距離では、レーダー反射面積の小さいステルス機を捉えきれず、迫る敵ミサイルをフレアで避けつつ接近を試みるも叶わず、相手が積極的攻撃を仕掛けない為、膠着状態に陥る。
_午前8時36分_
一方、眼下のペトロバブル市街では既に市街戦が始まっていた。
軍量差は大きくないが、アルタイ機甲部隊の犠牲を顧みない強攻によりカザフスタン陸軍の損害が増え続けており、防衛側に有利な市街まで後退を決断。
それが航空支援を行えないカザフスタン軍の次善策だった。
「敵車両撃破!第24戦車小隊、前進する!」
カザフスタン陸軍の保有する主力戦車T-72B”ALM”の125㎜滑腔砲から放たれた砲弾が直撃したのは、旧ソ連構成国として共通コンポーネントを搭載するT-72B2”ロガートカ”だった。
車両性能に大きな差は無く、加えてアルタイとカザフスタンは旧ソ連及びロシアから継承した軍備を同じくする為、戦局を左右するのは戦略や練度という点のみだった。
路地アパートの4階から街路を進むT-72B3に対してRPG-7から放たれた対戦車擲弾が襲い掛かり、1発は爆発反応装甲で防ぐも2発目の起爆で打ちあがり撃破される。
しかし、破壊を厭わないアルタイ軍の反撃は苛烈であり、民間人が残っているか確認も行わずアパートの外壁を砕いて倒壊させていく。
「くっ……援護を頼む」
『了解したっ、背を低くして待ってろ!』
苦境の中で通信に応えて駆けつけてきたのは、マンションの高さスレスレを風をはためかせて這い寄る攻撃ヘリの集団だった。
戦車砲からも狙いやすい高度にいる彼らは反撃をギリギリで避けつつ、対戦車ロケット弾を戦車の集団に対して叩き込み、何両かが大きな爆発を起こして沈黙する。
しかし、生き残った車両から反撃を受けて撃ち墜とされた機体も少なからず存在し、カザフスタン陸軍は今も苦境に立たされていた。
そんな街の様子さえ伺える郊外に、カーシャは砂だらけの地面が絨毯となり墜ちていた。
燃焼途中の30㎜機関砲弾を喰らった銃創はあまりの威力の大きさに皮膚が離れた位置に千切れて飛び散っており、傷口も周囲が黒く焦げ抉れた裂創となっていた。
何より銃創からは大量の出血が今も流れ出しており、留まる事を知らず、彼女の意識も朦朧としていた。
「申し訳ありません……これは、私には手の施しようが……」
駆けつけた陸軍の軍医が申し訳無さそうに謝る。
治癒魔法を持つプログレスは世界中見ても割合が少なく、応急対応には通常の医者が担うしか無かった。
常人なら既にショック死、もしくは失血死しているような状態で輸血用人工血液製剤も少ない状況で、治す術があるわけなかった。
空を見上げながらプログレスが持つタフさで意識を保っていたカーシャは、視界が暗くなる寸前で空を駆ける少女の影を見た気がした。
そして、その空では───。
銃弾が空を切り裂いて、攻撃機の翼を墜とし───。
集約された太陽の光が空を裂こうとし……途中で途切れ───。
「もう弾薬が無いよっ!……きつい……」
たった数人で数倍の敵に立ち向かう重荷、それは長く続き過ぎた。
「ふぅ……まだ───きゃぁぁぁぁ!!」
迫りくる対地ミサイルがアポリナの至近で砕かれて爆発し、シールドはボロボロになり、複数の破片が頬を切る。
「ごめん、アポ!───がっ!?」
「っ、大丈夫……え───!?」
アポリナの隣にいた少女が接近してきた敵機の翼で腹を打ち付けられ、それに気が向いた矢先───。
上から数発の対空ミサイルが自分目掛けて振り下ろされていた。
しかし───空を駆ける少女───
───それは幻ではなく、希望の現実だった。
_午前8時58分_
アポリナに着弾する寸前だった対空ミサイルが突然爆発し、雲海の中にいたSu-57の機体が爆発四散し、その残骸が気流の流れに沿いながら墜ちていく。
さらに、───カザフスタン防空軍のものではない───複数の空対空ミサイルがアルタイの航空部隊に着弾していき、火球が次々に出来上がる。
「一体……これは?」
その時、雲の影からスケートボードの形をした飛行デバイスとそれに乗った少女の姿が遠目で見え───
そのデバイスにはオレンジ、白、緑の円形章の国籍マークが描かれていた。
遡る事、10分前───
大統領、国防大臣、外務大臣が集っていた国防省庁舎へと、インド共和国大使が駐在武官を伴って急な訪問を行い、
南アジア経済機構───インド共和国を盟主とする事実上の軍事同盟───の参戦を告げる。
侵攻のカウントダウンが迫っていた際、カザフスタンは周辺諸国へと支援を求めていた。
ロシアは即諾し、クラスノヤルスクは黙殺。
中華人民共和国は国内情勢を理由に支援出来ない旨を伝えていたが、インド共和国だけは保留という形をとっていた。
これの理由について議会の説得が遅れていたと大使は謝罪するが、カザフスタン側にとって軍隊による直接支援は何物にも代え難い事だった。
「インド……空軍───?」
「うん、そうだよ!!」
国籍マークを見たアポリナが呟くと、その飛行デバイスに乗った少女が声を掛けてきた。
金髪ロングテールの少女は、強風に髪を煽られながら近づく。
「っ……政治はよく分からないけど、私たちはあなたたちを助けに来た。
負傷者はいる?」
「!……墜とされた仲間が地上にっ……」
アポリナは思わず青ざめる。
忘れていたわけではなかった、だが苛烈な戦闘で気を向ける余裕さえ無かった。
「……その様子だとかなり重傷っぽそうだね…でも大丈夫、治癒魔法使える子も連れてきたから。
あと、ぶつけられたのか腹を抱えてた子もいたから、その子も見ておくよ」
「っ、ありがとうございます……あの───」
「ノー!私たちは別に階級に差があるわけじゃない、敬語はいらないよ。
───あっ、そろそろ行くね!!」
その少女は命令を受けているのか、台風のように慌ただしく飛び去っていく。
その後ろ姿を眺めながらも、アポリナ達は休息を兼ねて仲間を介抱するべく地上へと降りていく。
インド空軍プログレス航空部隊のスケートボード型飛行デバイス───ガルダMk1。
防御能力が無い代わりに、ジェット戦闘機を上回る機動性能を持つその名前はインド神話に登場する乗り物に由来する。
軍内でプログレスを女神と称する場面もあり、最適な名前を与えられたそのデバイスはその神話通り───マナの噴射炎で炎のように光り輝きながら進み───、その後ろをSu-30MKIやミラージュ2000、テジャスMK1といったインド空軍の戦闘機群が異国の寒空を勇ましく進む。
彼らは空中給油を経由しているとはいえ、その作戦行動範囲はカザフスタン国境部が限界だった。
しかし、それはカザフスタン軍に反撃という名の余力を与えることとなった。
先の苦戦とは一転して圧倒的な航空優勢を確保したカザフスタン軍は各所で反撃を開始。
緒戦の弾道ミサイル攻撃で前線司令部各所や補給施設に大きな被害を受けていたアルタイ軍は、侵攻の勢いを完全に潰されてしまったことで一気に潰走した。