Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

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旧第8話【怪僧の結末】後半部分の描写が粗い部分がいくつもあったので、
文字数増加を懸念して、分割して投稿しました。


第9話【怪僧の結末】

_UTC(世界標準時)4月7日午前3時23分・ALMT(アルマトイ時間)4月7日午前9時23分_

ロシア連邦沿ヴォルガ連邦管区ペルミ地方・ウラル連邦管区スヴェルドロフスク州境界

【ロシア連邦・アルタイ正統帝国政府国境地帯】

 

 ロシア連邦及びアルタイ正統帝国政府が壁によって分断されているとはいえ、複数箇所の抜け穴が存在することは周知の事実だった。

 既存インフラとは関係なく、ロシア連邦政府は限られた国力で領土奪還を意図したインフラの構築を実施していた。

 

『大統領令が発令されました。作戦全部隊は反逆者に奪われた領土の奪還を開始してください』

 

 そして、カザフスタン領でのアルタイ軍の大敗と同時刻、ロシア軍は抜け穴を利用して、アルタイ国内に侵入。

 反逆者に奪われた領土奪還を目指し、アルタイ首都スルグトへと進軍を開始した。

 

 とはいえ、カザフスタン侵攻に全戦力を注ぎ込んだアルタイに、新たに現れた敵戦力を迎撃する余力は無く───

 空挺ヘリ部隊も活用した電撃的侵攻によって、奪還地域が次々に増えていった。

 

「作戦コード”プレヴォッチチナ”を開始せよ。

神の奇跡を地上へと顕現させるのだ」

 

 確実に近づく勝利の最中で、異常が起こり始めていたことを知らずに───。

 

ロシア連邦モスクワ 大統領府庁舎執務室

 

 アルタイ侵攻作戦の最中、ニコルシチャフは電話を受ける。

 

『エネルギー省です……国防省には伝えましたが、緊急事態です』

 

 彼らが伝えてきたのは、アルタイ国内に存在する6箇所の原子力発電所についてだった。

 ロシア統治の手を離れても尚、運用を停止して遠隔操作でメンテナンスを続けてきていたが───。

 

『冷却装置が反応していません……いえ、正確には遠隔起動は行えるはずなのですが、もしかしたら冷却設備そのものが損壊している可能性があります───6箇所の原発全てで───』

「!?……どうなる?」

 

 ニコルシチャフの脳裏には人為的な破壊工作の線が浮上した───。

 

『原発が動いていなければ、冷却していなくても問題はありませんが……誰かが原発を動かした場合……炉心融解(メルトダウン)が起きるでしょう」

 

 ロシアにとって、旧ソ連末期に起きたチェルノブイリ原発事故の記憶は浅くない。

 周辺地域が未だ居住禁止区域である以上、その爪痕も深く刻まれていた。

 

「っ、チェルノブイリの二の舞か……」

 

 起きてほしくない事程、起きるのは必然だった───その予兆自体、意図的に引き起こされたのなら、尚更。

 ニコルシチャフが受話器を耳に当てたまま、電話先が慌ただしくなるのが聞こえてくる。

 

『───部長!ノヤブリスクの原子炉が起動!!───あ、電話中でしたか……』

「……悪夢が現実となったか」

 

 電話先の相手が一切無言のまま、数秒が流れる。

 彼らエネルギー省はチェルノブイリの再来を回避するべく奔走していたが、その事実が全て無駄となり悔しさで一杯だった。

 

『……申し訳ありません。実のところ、ノヤブリスクだけではありません。

タリンカ、ヴァホフスクといった先の冷却システムが機能していない計6箇所の原発が手動にて起動されました』

 

『───メルトダウンは時間の問題です』

 

 ダンッ!と机を強く拳で叩く音が鳴り響く。

 それが鳴ったのは、ニコルシチャフの執務机であり、叩いたのはニコルシチャフ本人だった。

 

_午前9時40分_

 

 冷却システムが機能しない6箇所の原発が稼働したことは直ちに国防省にも伝えられる。

 複数の作戦部隊で攻勢される侵攻計画の中でスルグト方面で主翼となる第188親衛自動車化狙撃大隊は、原発の半径100km圏内を接近禁止領域と定められたため、より慎重な部隊運用を余儀なくされる。

 

 わずか10分後───。

 溜まっていた冷却水も蒸発しきって高温となった炉心内で燃料棒の融解が始まり、放水も予備冷却も行えず放置された原発は炉心融解を引き起こして、大きな爆炎を上げて発電施設全域を吹き飛ばし、高濃度の放射性物質をまき散らした。

 

 一瞬にしてチェルノブイリを上回る惨劇を生み出したが、アルタイ政府からの反応は無い。

 ロシア・カザフスタン両国も戦争中な為、碌な救助活動すら困難であり、初期対応すらままならなかった。

 

 これで終わりと思えた悪夢だったが───悪夢の終わりを告げる報せは無かった───。

 

「”プレヴォッチチナ”は完遂致しました。

”イルヴォロノッカフ”へと移行します」

 

スルグト郊外 上空

 

 原発による事実上の焦土作戦という術に、ロシアの領土奪還計画は当初の予定を崩される。

 ロシアとしてはスルグトへと直接侵攻を行い、首謀者であるラスプーチン二世を捕縛するか殺害して、アルタイの息の根を止める算段だったが、侵攻に時間をかけていると怪僧が二回目、三回目の搦め手を使う恐れがあったため、予定を大きく変更。

 

 ロシア国防省はカザフスタン軍の空挺部隊が練度高い事に目を付けてカザフスタン国防省に協力を打診する。

 ロシアとしては得体の知れない人物に敵地で接触するという行為がリスクの大きいものに見え、カザフスタン軍に無理強いする気は無く無理であれば自国の空挺部隊で実施するつもりであった。

 しかし、カザフスタン軍として戦争を早期に終わらせられる事は願っても無い事であり協力を承諾する。

 

 ロシア航空宇宙軍とカザフスタン防空軍によって航空優勢が確保された空を、戦闘機の護衛を受けた複数の輸送機が往く。

 搭乗するのは空中機動軍の第351空中襲撃大隊、及び国境庁所属第2021前哨降下部隊”アク・バルィス(白豹)”が複数機に分乗していた。

 

 しかし、間もなく空中降下地点というところで、空挺兵の彼らに異変が生じていた。

 

「……すまないが、機長。降下時刻を遅くしてくれないか?」

「……一体、どういうことだ?作戦は既に遂行されているのだぞ」

 

 空挺兵の1個中隊長である彼は申し訳なさそうな表情を浮かべつつ、訳を話す。

 

「部隊全員、寒気がするみたいだ。敵地へと乗り込む前の緊張と勘違いしたかと思ったが、俺らは実戦での降下経験は幾らでもある。

緊張するわけは無いんだ。……だからこそ、何かが起きる前触れかもしれねぇ」

 

 機長は中隊長の目をジッと見つめて真意を図るが、嘘を言ってるようには思えず数回頭を掻いた上で返答する。

 

「他の機にも聞いてみよう。同様の状況だったら、一時撤退も視野に入れるべきだな」

 

 通信にて状況を尋ねた結果───。

 同様の状況だった為に輸送機群は護衛機にも連絡を入れて、進路を離陸してきた飛行場へと取り、スルグトからは離れていく───。

 

 その時───

 凄まじい輝きの閃光がスルグト中心部から放たれ、輸送機を明るく照らす。

 窓から見えた太陽よりも眩しい輝きに全員が目を塞ぐが、ある程度収まって捉えた光景には目を疑った。

 

 カザフスタン人にとってはセミパラチンスク核実験後の光景が脳裏に思い出せる、非常に巨大なキノコ雲が立ち上る様子がそこにはあった。

 

「……直ちに作戦司令部へ連絡しろ……急げっ!!」

 

 機長は珍しく声を荒上げて、副機長に命じた。

 

 カザフスタンの作戦司令部に伝わった内容は、空挺部隊の護衛機からロシアの前線司令部を経てロシア国防省へと同様の内容が届いていた。

 

_午前10時49分_

ロシア連邦モスクワ 大統領府庁舎執務室

 

 ニコルシチャフ大統領は、額に汗を浮かべて慌ただしく入室してきていたロスチヤ国防大臣を出迎えた。

 

「……その様子だけで分かる、アルタイが原発を特大の時限爆弾として使った……それ以上の事が起きたのだろう」

「え……」

 

 ニコルシチャフは表情を変える事無く尋ね、ロスチヤは頷く。

 その光景に肩を震わせたのは、同室にいたティナだけだった。

 

「先ほど、空挺作戦を実施していた部隊から連絡がありました───」

 

「アルタイ首都スルグトにて核爆発が発生したと」

 

「空挺降下前だったため部隊に死傷者はいません……ですが───」

 

「この要因は、戦争前スルグトに運び込まれた核弾頭と思われます」

 

 沈黙が続く。

 口火を切ったのはニコルシチャフからだった。

 

「……ロスチヤ国防大臣。これは()()だと思うか?」

「っ……残念ながら、原発を爆弾として扱う彼らが、核弾頭を爆弾として扱わないわけはないでしょう」

 

 ロスチヤが言い終わるのが早いかその僅かな間でニコルシチャフの右手拳が右側の壁に酷く力強く叩きつけられ、衝撃音が鳴り響く。

 

「ひっ……」

 

 ティナが怯えるように驚くのにも見向きもせず、ニコルシチャフは怪僧を罵った。

 

「自分の思想や崇拝する者の為に犠牲を出すか……そこまで堕ちるか、快楽主義者が!!」

 

 これがニコルシチャフが最大限言葉を繕って表現した怒りだった。

 職務に支障が無いように怒りを収めた彼は、残る未汚染地域のアルタイ領土の奪還を指示した。

 

 一方で命令に従わずスルグトに足を進めた部隊も存在した。

 それが先の降下作戦を中断した空挺部隊だった。

 

 最大限の防疫装備に身を包んだ彼らは、スルグト郊外に降下した後中心部へと移動した。

 スルグトのロシア連邦統治下で栄えた街並みは既に見る影も無く───

 ほとんどの建物が崩れ去り、瓦礫と化した姿を晒していた。

 

 実のところこれは核弾頭1発で出来た被害ではなく、運び込まれた水爆も含めた十数発の核弾頭が起爆して出来上がった醜悪な光景だった。

 こんな事の為にと思うと、怒りが込み上げてくるが、まずはその光景に呆然とするしかない。

 

「くそっ……たれが……」

「……奴の宮殿も無いか……いやむしろ宮殿で……?」

 

 ただそこに住んでいただけの市民もいたはずだが、今や瓦礫以外の物は一つも見当たらなかった。

 いや、一つだけ”光”は見えた───。

 

「おい、あれは!?」

 

 そこには家屋の一部分が残っているのがはっきりと見え、そこに座る一人の少女が透明なシールドを展開していた。

 

「……プログレスか?」

「お父さん……お母さんが……」

 

 兵士が疑問を投げかけ、それに応えるかのように少女が辛うじて聞こえる小さな声で呟く。

 

「……くそっ……これがあいつらのしたかったことなのか……」

 

 瞳に光が灯らない少女がうわ言を言い続け、その傍に半身が爛れた両親が倒れている光景だけで、その胸糞悪い状況が伺えた。

 おそらくは───

 核爆発の光から守ろうと少女がシールドを作り、しかし未熟な彼女の作ったシールドでは守り切れなかった……。

 そんな彼女の無念を察した女性空挺兵が彼女を抱きしめると、その温かみに触れた彼女は瞳から枯らしたはずの水滴をポツリポツリと垂らした。

 

 ───その後も捜索活動を続けたが、少女一人以外に生存者を見つけることはできず、少女を連れて離脱した彼らは処罰覚悟で帰還の途につく。

 

_午後0時28分_

シベリア連邦管区トムスク州

 

 アルタイ首都スルグトの壊滅と、アルタイ政府の消滅が確認された後───

 

 戦闘らしい戦闘はほとんど生起せず、接近禁止領域を避けながら進軍し、アルタイに奪われた領土を奪還していく。

 その最中にクラスノヤルスク中央社会主義共和国がアルタイ領簒奪する目的で途中参戦を行い───

 ロシア連邦軍とクラスノヤルスク赤軍はトムスクにて合流を果たす。

 

 対話さえ黙殺してきた閉鎖国家との会談には、駐カザフスタン共和国大使が駆り出され、クラスノヤルスク側からは全権代表が訪れ、旧ロシア連邦領であるはずのアルタイ領の処遇が話し合われる。

 その前にアルタイによる原発を爆弾として利用した事、自国首都にて核爆発で自決した事といった蛮行には、クラスノヤルスク側も表情から嫌悪感を露わにしており、アルタイよりは人間としての感性を持ち合わせていた。

 

 領土の処遇については、クラスノヤルスク側から強欲な要求がされるよりも早く、ロシア側大使より提案がなされる。

 ロシア側提案は非常にシンプルであり、同盟国と接する領土と沿岸領土を大きく確保する形となる。

前者はクラスノヤルスクと領土を接することに警戒心を覚えるカザフスタン側の考えも踏まえたもので、後者は活動領域を広げるための基地建設という海軍北方艦隊の思惑を反映したものとなっている。

 対して内陸部は大きくクラスノヤルスク側に譲歩した形となっており、内陸部には比較的豊富な資源があるものの、資源を活用する輸送インフラを建築するコストを考え、手を出さなかった。

 しかし、一方で内陸部を譲歩するということは、被爆したスルグト及び最低でも3か所の原発をクラスノヤルスク側が管理するという事を意味していた。

 

「っ……なんだこの提案は!?貴国の提案が優先されるのは理解している……しかし、スルグトや原発を我々に押し付けるのか!!」

「……勝手に参戦して、その言い分は無いでしょう……とはいえその意見は理解できます……それ故、スルグトと6個の原発については、我が国と貴国の共同管理と致しませんか?」

「……わざわざ引き受けるか……ふむ……共同研究なり、除染技術の実験場など使えるものは大いにありそうだが……そして、その都市と施設以外は我々の好きなようにしていいと……」

 

 クラスノヤルスク全権代表は言葉に詰まり、一旦意見を保留とする。

 その後、第二回会談にてクラスノヤルスクはロシア側提案を承認した。

 アルタイ領はロシア・クラスノヤルスク両国による分割も両国によって承認される。

 

【挿絵表示】

 

 

 UTC(世界標準時)2023年4月7日午前8時44分

 ALMT(アルマトイ時間)同日午後2時44分

 

 この会談の終了をもって、カザフスタン・アルタイ戦争の終結も宣言された。




───ちなみに、戦争は()()終わりません。
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