Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる   作:空社長

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チェチェンの真実《4》【告白】

_モスクワ標準時(MSK)西暦2021年5月29日午前6時22分_

ダゲスタン共和国ババユルト

第45独立親衛特殊任務連隊仮設駐屯地

 

 サンダークは、参謀本部からの命令文に目を通していた。

 

「ふむ……事情聴取か、やりすぎとは言わないが……そろそろ来る頃だな」

 

 その時、噂した通り、ドアをノックする音が鳴り、「入ります」と声も聞こえる。

 その声は女性でしかも、10代でないとでない高音らしき声である。

 

「第186分隊長、イエヴァ・マカーロヴナ・ロスチヤ軍曹です」

 

 その容姿は他人から見ても10代の少女であるが、服装は10代らしからぬ迷彩服であった。

 

「来たか、存じているとは思うが、連隊長のサンダークだ。やはり、ロスチヤ国防大臣の娘なんだな」

 

 その言葉を聞いた彼女は不快そうな表情を浮かべる。

 

「その話はもう聞き飽きました。それより本題を、連隊長」

「ああ。参謀本部の指令は、第186分隊で、2人の少女への事情聴取。見てきているか?」

 

 訊ねられ、イエヴァは表情を暗くする。

 

「見てきました。恐らく私と同じくらいの年齢だと思うんですけど、あんなに怯えてるのが可哀想に思ってきます」

「そうか……ロスチヤ軍曹。2人に対しての事情聴取、頼めるか?」

 

 サンダークに指名され、彼女はハッとする。

 

「……私がですか?」

「ああ、年齢も近いと思われるし、分隊長なら情報伝達が速やかに出来るだろう。彼女達の状態から暗い事情を聞くことになる、心苦しいがやって欲しい」

「分かりました。やります」

 

 その後、イエヴァは分隊の女性更衣室に移動し、着替えに入る。

 迷彩戦闘服を脱ぎ、軽装の服に着替えていく

 

「イエヴァ」

「ん……?」

 

 イエヴァは名前を呼びかけられて、右を向く。

 

「本当にあの子達と話する気?」

「リリーヤ……」

 

 リリーヤ・ダニーロヴナ・エーリン伍長は顔を暗くして俯く。

 

「あの子達、絶対暗い事情があるに決まってる……そんな事をイエヴァちゃんが聞くなんて」

「……私が決めた事だから。なら一緒に行く?」

「うん……行く」

「ありがと……実はさ、記録要員が必要だったからリリーヤが行くって言ってくれて用が省けた」

 

 2人は着替え終わり、2人の少女の元へ向かう。

 

「ところでさ、あの子達ってどこにいるの?」

 

 リリーヤが尋ねてくるのをイエヴァは視線を僅かにリリーヤの方へ向ける。

 

「仮設駐屯地内の接収したホテル、そこに連れて行くのが大変だったらしいけどね」

 

 イエヴァとリリーヤは2人組の少女がいる部屋の前に着き、イエヴァは入る前に、部屋のドアの覗き窓を覗く。

 そこにはスラヴ人系に多い白髪の二人の少女が床に座っていて、二人の髪はボサボサであまり、手入れがされてないように見える。さらに、心底怯えていながらも、一人の少女は右腕を欠損した少女の左腕を必死に掴んでいた。

 

「リリーヤ、入るよ」

 

 イエヴァはリリーヤに告げる。

 

「う、うん」

 

 イエヴァはドアに手の甲で打ち鳴らし、ドアノブを握りしめてゆっくりと引き、ドアを開ける。

 

「来ないで!!」

 

 叫んだ少女はイエヴァを睨みつける。だが、少女の目がイエヴァの体をはっきりと捉えると、少女の反応は一変する。

 

「ねえ…!私たちをここから…逃がして…!白い服の大人が私にさわろうとしてくる…もういやだよぉ……いや、みんな逃げよ…みんな乱暴される…!逃げたからもっとひどい目に合う…!」

 

 少女の目はイエヴァとリリーヤに必死に訴えかけているように見えた。だが、その目は二人にとって同情を誘うものでしかなかった。

 

「どうするの?イエヴァ……」

「安心させるしかない……ここが安全な場所と」

 

 イエヴァは再び少女の方に振り向く。

 

「お願い!ここから一緒に逃げ「ここは安全な場所です!」……」

 

 イエヴァは少女の声を遮って言葉を言い放つ。

 

「嘘……嘘だ……嘘だ……私たちは……」

 

 しかし、少女はそれを必死に否定し始める。

 イエヴァはそれを見て、悔しくなり拳を握りしめる。

だから、少女に言い聞かせるために、少女の体を引き寄せて抱きしめる。

 

「え?」

 

 少女は一瞬呆然とする。

 

「私たちが……あなた達を守るから…!信じてください…!」

 

 それはイエヴァの悲痛な本音の叫びであり、少女は僅かだか心を開く。

 

「…信じる…けど、お願い……もうあんなことは嫌…私とお姉ちゃんを守って…!」

 

 イエヴァは体を放し、口を開く。

 

「うん……わかったよ。名前とさ、何歳か聞いてもいい?」

「……私はニーナ・ユスチノヴナ・ネレンコブ……お姉ちゃんの名前はポリーナ。私は13歳でお姉ちゃんは15歳」

「イエヴァ・マカーロヴナ・ロスチヤ、ロシア連邦軍軍曹で15歳、あの子はリリーヤ・ダニーロヴナ・エーリン伍長で私の一つ下。階級とかはわからないと思うけど、これだけは言わせて。二人は私たちロシア軍が保護してる、ここに二人を傷つけようとしてる人はいない。みんな、ニーナちゃんとポリーナさんを救おうとしてる。ここは安全な場所だよ

 

 その言葉に二人は涙ぐみ、瞬く間に泣き出した。

 イエヴァは咄嗟にハンカチを出し、二人はハンカチで涙を拭く。

 二人が落ち着いたのを見て、イエヴァはニーナに尋ねる。

 

「ニーナちゃん…って呼んでもいい?実はさ、二人に尋ねたいことがあるんだけど、どうして裸のまま川で流されてたの?辛いなら話さなくてもいい。でも、できる限り話してほしい」

 

 二人は俯く。イエヴァはやっぱり無理かなとあきらめかけていた時。

 

「話す。でも、長くなるんだけどいい?」

「うん、いいよ」

 

イエヴァが頷くと、”私"はゆっくりと話し始める。

 

「私とお姉ちゃんは……チェチェンの南の方でお父さんとお母さん含めた四人家族で住んでた。今年の一月ぐらいに私は不思議な力が実って、私に家族の為にできることがあるってうれしかった」

 

 イエヴァとリリーヤは顔を見合わせる。その力はエクシードという特殊能力であることを知識として知っていたからである。

 

「でも…!ある時、私たちはいつも通り過ごしてたら…突然銃をもった男達が家にはいってきて、お父さんとお母さんは撃ち殺されて…!お姉ちゃんと私は……っ」

 

 胸が締め付けられる思いがする。私は自分でも気づかない内に涙を流し、呻く。

 

「……犯されたっ……物のように扱われて……体を汚された……」

 

 泣き叫びたくなる衝動を抑えて、言葉を引きずり出した。

 

「私とお姉ちゃん以外に、幼馴染のカティちゃんも男たちに乱暴されてて、泣き叫んでた……」

「そのあとは汚されたまま、トラックに物のように乗せられて、どこかに連れてこられた」

「みんな首輪みたいものをつけられて……私と同じくらいの子も犬のように遊ばれたっ……。私は気が強かったからなんとか耐えれた。でも…!お姉ちゃんは気が弱いから……男達に乱暴されて……生きる気力さえ失いかけてた……心が壊れる寸前だった!」

 

 私はいつの間にか、大粒の涙を流していた。そんな私をイエヴァさんは抱きしめてくれた。

 

「男達はニーナちゃんに何をしたの……辛いなら言わなくてもいい。でも、ため込んでるなら、全部吐き出して…!」

 

 イエヴァさんはそう訴えかける。

 

「みんな……玩具って呼ばれて、男達は私達の気も知らずに乱暴に犯されてっ……抵抗したら腹を殴られたり、ある子は腕を切り落とされた。酷いときには残虐な方法で痛めつけられたり殺された……そんな子たちを犯す男達の目は面白がってた…!それに、カティちゃんは私よりも大勢の男に乱暴されてっ……生きる気力が見えなかった……一緒に逃げたかった…!」

 

 最後の言葉でイエヴァは確信する、ニーナの幼馴染は男達に囚われてると。

 

「私達は自分の持つ力も使わされた。男達にとって私達は単なる道具だった…!体がどうなろうとっ……私達のこの力でさえ使えれば十分だって言われたっ……私は『電気を生み出せる』力があったから、お父さんとお母さんの助けになれたっ、みんなだってそうだったはず…私はお父さんとお母さんの笑顔が見れるだけで幸せだった…なのにっ……どうして。どうして……こんな目にあわなくちゃいけないのっ!」

 

 私はとうとう耐え切れずに泣き叫んだ。イエヴァさんは足が崩れそうになる私を支えてくれた。

 

「辛いこと思い出させてごめん。でも、最後の質問だけさせて。どうやって逃げてきたの?」

「逃げる前にね、私達は……基地の攻撃に利用されて……イエヴァさんと同じ軍人さん達を……殺したっ……。私たちを助けてくれるはずの兵士さん達をいっぱい殺して、嫌だった。だから、私はお姉ちゃんを連れて逃げ出した。カティちゃんも連れてきたかったけど、できなかったっ…!走って逃げてたけど、その途中で撃たれて、お姉ちゃんの腕が……無くなってて……お姉ちゃんは歩けなかった。でもっ、もうあんなことをされるは嫌だったから……川にお姉ちゃんを抱えて飛び込んだ。その後は、気づいたらここにいた」

 

 涙を流しながら話し終えた私は、イエヴァさんに抱きしめられた。

 

「話してくれてありがとう。そして、よく頑張ったね」

 

 イエヴァはリリーヤの方に振り向く。

 

「リリーヤ、記録できた?」

「ばっちり、でも……」

「でも?」

「こんな子が乱暴されるなんて…想像できないよっ…それにまだ苦しんでる子がいっぱいいるなんて……」

 

 リリーヤは涙ぐみ、いつの間にか泣き出していた。イエヴァはそっとリリーヤの背中に手を回し、自分に体を預けさせた。

 

「リリーヤ。私は報告に行く。リリーヤはこの子達を見ていて」

「大丈夫…?」

「大丈夫。それに上官の前で動揺するわけに行かない」

「だね、わかった。ここは私に任せて」

 

 イエヴァは部屋から出て、リリーヤはその方向を向く。

 

「あの、イエヴァさんはどこに?」

 

 ニーナはリリーヤに尋ねる。

 

「私達は一応軍人だからさ、報告に行くの。実はさ、ニーナちゃんの事を聞くのを私達に言ったのは一番上の人なんだよね」

「どうしてです?」

「私にも理由はわからない。でも、チェチェン解放戦線とニーナちゃんを乱暴した男達が同じ可能性が高いし、それが事実なら私達には戦う理由が増える。私達スペツナズが救出しに行くことになるかもしれない」

「あの……私にも、参加させてくださいっ…!私はみんなを見捨てて逃げた……だから、私が助けに行って、連れて帰りたい……みんなを救えるなら、救いたいんです…!

 

 リリーヤはニーナの言葉に啞然としかける。そして、ゆっくりとニーナを抱きしめる。

 

「……イエヴァちゃんに言っておくよ……でも、本当に行けるかは分らないからね」

 

 イエヴァはサンダークの仮設執務室前に来ていた。一回経験していても、連隊長の執務室に入るのは緊張すると彼女は思った。

 

「入ります」

 

 一言に反応は無いが、それがサンダークが入ってもいいと言ってる無言の合図である。

 イエヴァはドアを開け、サンダークと対面する。

 

「想定より、長くかかったようだな……やはりただの難民でもなさそうか」

 

 イエヴァはその一言がひっかかり、時計をちらりと見る。

その時計は既に10時を過ぎていて、彼女も驚く。

その後、サンダークはイエヴァからニーナの発言を要点をまとめつつ記録した電子端末(タブレット)を渡され、10分ほど注視する。その間、イエヴァはサンダークから椅子に座るように言われ、座っていた。

 

「ロスチヤ軍曹、報告書は読ませてもらった。……非人道的すぎる行いであるな……」

 

 10分経過して、サンダークは深刻な表情をしながら呟き、イエヴァはそれに頷く。

 

「要約すると……CLFはエクシード・リグラの少女達を拉致し、性処理に使いつつ、我々への攻撃に利用した、ということだな」

「彼女たちを拉致したのが、CLFなのか、もしくはCLFに協力する現地武装組織なのかは不明ですが……正直吐きそうになります」

「その辺はどちらでもいいだろう。はっきり言って光線(レーザー)や光弾、雷撃等の攻撃の正体は、類似する魔法を使用するエクシード・リグラの一人で間違いないだろう。だが、奴らの本拠地も掴めない以上、我々の様な特殊任務連隊の派遣は必要と見るべきだな。上次第だが、初実戦も経験していないお前たちも派遣される可能性がある……緊張するか?」

 

 サンダークの問いにイエヴァは俯く。

 

「それは……緊張するにきまってます……いくら訓練しようが、私たちはまだ新人ですから……死にたくないですっ」

 

 イエヴァのその言葉はどんな兵士でも共通する思いだったが、15歳の彼女には精神的な幼さもあって明確な死の恐怖があった。

 

「そう、か。まあ。戦場では臆病なくらいがちょうどいいと言うが、緊張で萎縮し過ぎないような」

「わかってます、それは」

「まあいい。私は彼女が話してくれたことをGRUを介し参謀本部へと送信する。信憑性は90%以上だが、これが事実なら我々は非人道的な行いに対する正当な軍事行動として、動くことができそうだ。無論、政府の動き次第だが」

「では、私はこれで失礼します」

 

 イエヴァはサンダークの部屋を出ると、ニーナ達の部屋へと向かう。その途中で、リリーヤに合う。

 

「イエヴァちゃん、ニーナちゃん達が眠そうにしてたから、寝かせたよ。しっかり鍵も閉めてきた。はい、これ」

「ありがとう、リリーヤ……何か隠してる?」

 

 イエヴァはリリーヤに返事するが、リリーヤが何か隠してるように見え、訝しむ。

リリーヤはため息を吐き、観念したかのような表情を浮かべる。

 

「やっぱり……イエヴァちゃんにはばれちゃうか……実はさ、ニーナちゃんがね」

 

 リリーヤはニーナの言ったことをそのまま伝える。

 

「みんなを救いたい……ね」

「私には何も言えなかった……連れて帰りたいという気持ちはわかる。でも…死んじゃうかもしれないから……どうすれば……」

 

 リリーヤは悔しそうな表情を浮かべる。

 

「いいと思う」

 

 イエヴァの言葉にリリーヤは驚く。

 

「でも、撃たれたら死んじゃうかもしれないんだよ!そんな光景─「だから、私達が守ろう」

 

 イエヴァはリリーヤの言葉を遮ってそう伝えた。

 

「私達が……でも、怖い……」

 

 そう呟くリリーヤをイエヴァはそっと抱きしめる。

 

「リリーヤは私が守るから」

「私をイエヴァが……、まるでニーナちゃんとポリーナさんの関係みたいだね」

 

_5月29日午前11時2分_

モスクワ ロシア連邦軍参謀本部

 

「サンダーク大佐より、事情聴取の報告書が届きましたので、ご覧ください」

 

 会議の進行役のノーソフが淡々と話すが、報告書を垣間見た彼の口調には明らかに動揺が走っていた。

 そして、将官らは驚きを隠せずにいて、ウリンソンのみが冷静に報告書を眺めていた。

 

「エクシード・リグラを利用する為とは言え、こんなやり方があるかっ!奴らは性根が腐ってる!」

「アポロフのような男が指導者故にか……。しかし、このような事は許されることではない」

 

 その最中、ウリンソンに一人の将官が声をかける。

 

「ウリンソン参謀総長、あなたの予想通りでしたな」

 

 その言葉を聞き、ウリンソンの表情が一変し、眉を顰める。

 

「発言を訂正していただこう、こんなもの予想通りであって欲しくなかった」

「申し訳ございません」

「……ただ言えるのは、CLFの行いが非人道的過ぎるということだけだ」

 

 ウリンソンはそう言い、ロスチヤに視線を向ける。

 

「国防大臣、速やかにこの報告書を政府閣議にまわしてください。これほどの非人道的行為ならば、国連人権理事会が目をつけるレベルです。我々は政府の決定に従うまでですが、少女が伝えてくれたこの事を生かさなければなりません。後は連邦政府の命令を待ちます」




※次回予告

チェチェンの真実《5》【嚆矢】

判明した真実。ロシア政府は解決するべく動き出す。

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