Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる 作:空社長
なんとか更新の道筋は立てられているので、大丈夫だと思います。
相変わらず遅筆ではありますけど
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日本国東京都文京区某所・日比野本家宅
諸外国に比べいち早く戦闘終結を宣言し、復興作業に取り掛かることが出来た日本。
しかし、壁の存在による燃料費の高騰、世界経済の低迷による影響から、円買いで安定しかけているとはいえ日本経済の先行きを不安視する声は大きい。
更にウロボロス戦役から月日も経たぬうちに人類同士で戦争が起きる事態も、その不安を後押しする結果となっていた。
その不安の中、ウロボロス戦役から4ヶ月が過ぎようとしていた───
「また、なの……?」
日本を救ったプログレスの一人、日比野陽菜。
彼女は祖父母に引き取られた後、生活の拠点を祖母宅である日比野本家へと身を移し、元の家は掃除の為に2週間に一度帰ってくるのみだった。
そんな彼女は朝の日課として、プログレスの力を引き出せるようになり祖母から正式に受け継いだ日本刀のメンテナンスを済ませた後、
祖母に話があると呼び出される。
「ああ……嫌な予感がするね」
既に定年を迎えて幾ばくか経ち高齢の身でありながら、彼女の祖母は活力を持ち続け和服に身を包んで毎日家の清掃を続けるという、年齢からは信じきれない運動量を維持していた。
その祖母にはもう一つ日々の嗜みとして、ある占い師から教えてもらった占いを行っている。
しかし、祖母からの言葉を聞いた陽菜は胸を抑えて体を震わせた。
約2年前、祖母の占いは以前から当たる事が多いものの親族間ではあまり広まっていないことが災いし、祖母が”嫌な予感”を感じて電話するも既に遅かった。
両親は殺され、陽菜自身も家畜のようにひたすら暴行される地獄に墜ち、辛うじて苦境を共にする友を得たが、PTSD一歩手前の精神状態に追い込まれており、その記憶はトラウマとなった。
「陽菜ちゃん、大丈夫よ。……大きな赤色は示してないから、近しい人が犠牲になるわけじゃない」
祖母は優しい声色で語りかけ、陽菜はその言葉に安心したのか大きく息を吐いて深呼吸する。
「……でもね、これは……日本人の誰かが酷く傷つけられるのは間違いない色だと思うね」
「……防ぐことができたら……。思ってたんだけど、その占いの力は誰から貰ったものなの?」
北カフカース紛争で、ウロボロスとの戦闘で亡くなった命を見てきた陽菜は悔しそうに言葉を紡ぐと、
祖母にその力の由来を尋ねる。
「……陽菜ちゃんには分からないかもしれないけど、五摂家の方から教えてもらったものなの。
世間一般には知られていないみたいだけど、天皇陛下の元には将軍様がいてね、陛下の摂政みたいな役回りをするの。
五摂家というのはその将軍職を交代しあう5つの武家みたいなもの、武家と言っても刀をいつも帯刀してるわけじゃないから、一般人と変わらないけどね」
「五摂家……、将軍……武家……わかんなくなってきた……」
祖母の口から語られる、突然知らなかった世界の事が一気に流れ込んできて、その情報量に陽菜の頭はパンクする。
「あとね、この家も昔は譜代武家の家系だったの。今は没落して一般武家になっちゃったけど、その縁で五摂家とも繋がりがあるんだよ」
「……お父さん、お母さんはそんなこと教えてくれなかったけど……私が使ってる刀って本当に
継いできた伝統よりも自分達が生きていく現実に重きを置き、両親は武家としての諸事を祖母を任せ、そこそこの裕福と共に大企業の役員となり、安定した生活を送っていた。
しかし、それはプログレスという存在が生まれた事をきっかけに崩壊した。
……将来、教えられたかもしれない。だが、陽菜には教えてくれなかった事に恨みは一切無い。
あの出来事が無ければ、無縁の生活を送っていたから。
「それじゃ、セラを起こしてくるね」
そして、もう一人の少女。
陽菜と違って残された家族も無く、母国を捨て見知らぬ新天地で暮らし始めた少女。
彼女にとって、2年という時間はまだ短かった。
_UTC7月28日午前2時32分・
中華人民共和国北京市朝陽区 外交部庁舎
「───、どうかお帰りください」
「……期待した回答は頂けてませんが、仕方ありませんね……」
不満そうに言葉を零しながら男が退室すると、部屋の主は憂鬱な表情を浮かべつつ、ため息をつく。
中華人民共和国外交部のトップにいる
「今日も既に3か国か、後は……かの国か」
最近は毎日のように入れ替わりで3か国の大使からの訪問を受けており、今日も日本、フィリピン、タイの大使との面会を終えていてかなり多忙な身だった。
しかし、今日は例外的に4か国目の面会が予定されており、ウロボロス戦役前では最大の貿易相手国だったアメリカ合衆国の大使が訪問予定だった。
「くっそ、好き好んでこの事態に陥ったわけではないのだが」
準備をすること数分、時刻通りにとある人物が訪れる。
駐中華人民共和国アメリカ大使、ケヴィン・ウォーケン。
元アメリカ陸軍軍人でイラク戦争、アフガニスタン紛争に従軍した経歴を持つ彼は、右目を負傷した事を契機に軍人から外交官へと転じていた。
高圧な態度こそ無いが臆病でも無く凄んだ表情を崩さない彼は元軍人の風格も相まって、多くの若手外交官から恐れられていた。
「朱外相、単刀直入に申し上げます。
東・南シナ海航路の治安が急速に悪化しております、ウロボロス戦役直後より増加傾向にある事から、南中国政権が確たる原因であることは明らかです。
既に4か月も放置している事に懸念を表明します」
「っ……」
朱が予期していた通り、ウォーケンの口から放たれた言葉は刃となって喉元に突きつけられた。
「……恐らく他国からも同じ内容を言われたのでしょう、そして我が国は貴国の現状に理解はしています」
ウロボロス戦役後、戦前まで続いた好景気に止めを刺された中華人民共和国の情勢は急速に悪化していた。
上海・重慶等の大都市は壊滅し、国土の半分を奪われた状態では国家の躍進すら望めず、中国経済を見限った投資家によって大量の”人民元”が売られていき、人民元の価値は急落。
国家政策に多くの資金を提供していた資産家達は全ての財産を失って自殺者が急増。
突然の不景気に多くの企業が倒産、多くの者が職を失い、暗黒時代とも称される情勢を迎えていた。
職を求めて人々がデモを起こすも、中国政府の懐事情も厳しく、内憂へと力を尽くした故に余裕は無く、主要航路の治安維持がやっとであった。
「……しかし、貴国は治安維持行動を行う程度と境遇に甘んじている。
せめて、彼らへの介入を行うポーズを見せて頂かないと」
しかし、告げられたのは厳しい言葉だった。
軍関係者の臆病な態度を聞き及んでいる朱としては、あまり強く出れなかった。
「……全てお見通しか……もちろん、主席には話を通す。……しかし、何度も言うが我が国は軍事費削減すら厭わない程に厳しいのだ……努力はするが……」
「穴をすぐに埋められない事は満足できる結果ではありませんが、意志を見れただけでもよしとしましょう」
ウォーケンからはわずかに失望した声色が見られていたが、事情を理解しているのもあり苦言を告げることは無かった。
彼の去り際、朱は一言も口を開くことなく、申し訳なさから不動のまま頭を下げ続けていた。
_UTC7月30日午後22時21分・JST8月1日午前7時21分_
日本国沖縄県石垣市 石垣島
南中国政権の増大する脅威に対して、日本政府が1年以上前倒しで進めた特定利用港湾への指定が行われた石垣港。
海自艦船や海保船舶、更には在日米海軍の補給艦が停泊する埠頭には、政府公認プログレス専用に仕立てられた服装を着た2人の少女が海を眺めていた。
「……鈴ちゃん、出港前だけど緊張してる?」
不安げな表情を浮かべながら尋ねるのは、橙色ツインテールの少女、
鈴と呼ばれた茶髪ミディアムショートの少女、
「少しは……。でも大丈夫です!何回も地上訓練はしてますし、船員の人たちはみんな優しくて何でも教えてくれるので!……それに、この訓練航海が終われば、後は夏休みですからっ」
鈴の返答に、夏乃は苦々しくも微笑んで肯定する。
また、身に着けている腕時計を確認して時間を指摘すると、敬礼を送る。
「そうだねっ……っと、そろそろ時間じゃないかな。それじゃ、安全な航海を!」
「あっやば……少し話足りないですが、行ってきます!!」
時間を確認するのを忘れていた鈴は焦りの表情を浮かべて、早足気味にその場を去る。
微笑みながら見送っていた夏乃は彼女の姿が見えなくなると共に、憂鬱そうな表情へと戻り、
隣に立った黒髪ポニーテールの少女、
「……かの、やっぱり心配なの?」
「はるちゃん……そう、だね……鈴ちゃんもずっと一緒に過ごしてきた家族だったから……っ」
彼女の脳裏に浮かぶのは沈みゆく客船内部の燃え盛る室内で炎を浴びた自分の姿。
本来は痛まない、背中の火傷痕が痛む気がした。
(……なんでこんなに心配になるんだろう……何も無いといいけど)
誰にも聞こえない小声で夏乃は一人言葉を零す。
彼女達のように、海保・海自といった海洋組織にプログレスが所属している背景として、ウロボロス戦役後の各国軍・警察組織へのプログレスの採用が上げられる。
日本政府もそれに乗っかる形で採用を行い、形だけだった特殊戦技統合運用局の運用制度を再整備し、運用局の所属とした上で学校教育が未達な彼女達に教育部から軍事教育と並行して義務教育を学ばせる形を取った。
運用局から陸上・海上・航空自衛隊及び海上保安庁へと派遣される為、義務教育重視の本校と軍事教育多めの分校で教育を受けた後、1年に1度長期演習を行う形となっている。
鈴は今回が初の長期演習であり海上保安庁の候補生に過ぎず、一方で夏乃と紅春は既に演習を終えており、海自艦船の船員としてこの夏配備されていた。
_UTC8月1日午前2時19分・CST8月1日午前10時19分_
中華人民共和国北京市海淀区 国防部庁舎
午前中から国防部の職員らは忙しなく動いていた。
南中国政権との対立の最前線を担う人民解放軍の指揮は中央軍事委員会が担うものの、島嶼部の陸上部隊と東・南シナ海航路の海上治安維持部隊の編制を担うのは、国防部の役目であった。
加えて、海を隔てた隣国の治安維持部隊との衝突を防ぐ為に各国軍部と交渉を行う事も役割の一つである。
「……朝から疲れたな。今となってはいつもの事となってしまったか」
ウロボロス戦役後、国防部長へと昇格した崔は、寝ていないのか目の周りに酷いクマを作りながらそう吐き出す。
周りを見渡してみても、他の職員も深夜まで仕事してほとんど寝ずに出勤しているのか酷いクマを作っている者ばかりだった。
「殆ど眠れず……ほんと酷い職場だ。しかし……食う物にさえ困る事に比べれば、か……」
この酷い職場にあって、辞めるものが殆どいないのは、やはり中国経済の悪化が理由となっていた。
この情勢下で辞めさせられる事が無いのは、唯一幸運であった。
しかし、それでも一人だけ辞める者はいた。
「……前任は引継ぎも無く辞めていった……察していたが、やはり無理だったか」
崔は人事異動の紙を見て、無感情に呟く。
重慶への核攻撃後に失踪気味に姿を消していた前任部長は、顔面蒼白で再び顔を見せそのまま退職していったのだ。
彼は過去の回想を頭から振り払い、重そうに席を立ち一人の職員の元へと向かう。
「作業の進捗はどうだろうか?」
「はい、部長。各種兵器配備数の集計は60%程度ですが、既に海軍艦艇は終わっています。
今は集計作業を各支局の担当員に分担しつつ、海軍艦艇は優先的にIFFの振り直しを行っています」
そして、国防部が担当する重要な作業として、南中国政権軍兵器のIFFを修正することだった。
突然国家が分断されてしまった影響により、自軍艦艇が友軍艦艇より攻撃を受ける、他国の艦艇が人民解放軍の艦艇と油断して接近した際に攻撃される、といった事例が相次いで起きたため、現場将兵及び他国軍より強い非難を受けており、外交関係に関わる為外交部より急かされるレベルで重要な作業となっていた。
「部長、これは……」
「なんだ、見せてみろ」
職員に呼び止められ、彼はテーブル上にあるマップデータを見る。
この作業唯一の利点としては、全艦艇のGPS情報を集約しているため南中国軍の艦艇でさえGPS機器を破壊しない限り位置情報を把握できることにあった。
指先が示した先、台湾とフィリピンの境界にある一つのマーカーはゆっくりと東へと進んでいた。
「この艦のデータは?」
「待ってください……潜水艦です、039B型潜水艦長城235号です……!」
その名前を聞いた瞬間、彼は目を見開いて驚き心臓の鼓動すら高くなっていく。
潜水艦は空からは目視できない海のハンターであり、その脅威度は技術が進歩するほど高くなっていくことは、彼自身も認識していた。
「どこへと……向かっている?」
「速度がゆっくりなので大まかな方角しか……ですが、間違いなく日本の領海です!」
その言葉を聞くと、彼は矢継ぎ早に指示を出す。
「すぐに朱外交部長を呼び出せ!日本政府へと連絡させるんだ!急げ……!」
この不気味な潜水艦が間違いなく最悪な事態を引き起こすと予感したからだった。